事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

ヘイトスピーチ規制法は、私たちの倫理観が問われている

重要なのは前提となる認識

いわゆるヘイトスピーチ規制法

いわゆるヘイトスピーチ規制法、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」

https://web.archive.org/web/20170911185341/https://www.moj.go.jp/content/001184402.pdf

この法律に基づくヘイトスピーチの該当例についての自治体に対する法務省の提示によって、ヘイトスピーチ規制法の典型例、具体例が報じられてから久しいです。

また、最近Web公開されたDHCシアター・ニュース女子の特番でこの法律の立案にかかわった西田昌司参議院議員の本法についての取材がありました。

今回は、この法律の持つ意味や、私たちはどう捉えるべきかについて、整理・検討していきます。

2017年11月18日追記

大阪市の条例に続き、川崎市も規制ガイドラインが策定されましたね。

川崎市:「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律に基づく「公の施設」利用許可に関するガイドライン(案)」に関する意見募集

https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11167720/www.city.kawasaki.jp/templates/pubcom/cmsfiles/contents/0000088/88441/gaidorainn.pdf

法律の性質:罰則はあるのか?について

何らかの行為を規制する法律の場合、「罰則規定」があるはずであり、条文の前にかっこ書きで(罰則)という書き方がされているはずなのですが、この法律にはそのような条文はありません。

つまり、罰則がない規制法ということになります。
この点について、この法律の成立に大きな役割を果たした西田昌司参議院議員は、「罰則がない理念法だから」と言っていましたが、法律の文言を読む限り、その通りだと言えます。

では、何を規定しているのかというと

①国民に対する努力義務(同法3条)
②国、地方公共団体に対するヘイト規制施策実施義務(同法4条1項、2項)

これらを規定しているだけです。

国と地方公共団体に課される義務は、ヘイトスピーチが起こらないように教育と啓発活動をすることと、相談を受けたときに適切に対応する体制を整備することです。

ただ、②の義務については新しい問題を生み出す内容を含んでいます。
これについては後述します。

ヘイトスピーチ規制法の適用対象範囲

法務省からの自治体に対する文書による例示が記事では紹介されています。

毎日新聞の記事では、かなり正確な表現がされており、この法律と法務省の解釈を正確に伝えていると言えます。

ただ、他の媒体などでは

「祖国に帰れ」

といった文言それ自体でヘイトスピーチにあたるかのように見える報道もあります。

どうも、言葉だけが独り歩きしている印象です。

同法1条2条では、不当な差別的言動の解消を目的とし、それは差別や地域社会からの排除を助長、煽動、誘発する言動の解消を意味するとされています。

今回の法務省の例示も、差別や地域社会からの排除を意図する言動である限りにおいて、適用されると言っているにすぎません。

法務省も、言葉単体でヘイトにあたるということは、言ってません。

(侮辱や脅迫にあたる表現については、また別の話であってここでは捨象します)。

ですので、「少なくともヘイト規制法の適用される言動の範囲としては」言葉狩りとはならないと言えそうです。

また、ニュース女子の取材に対する西田昌司議員の返答において、本法の適用対象の言動について触れていました。発言をまとめると以下です。

  • ヘイトスピーチ防止法は、在特会が行ったような暴言等に対処するため。
  • 基地反対派が言っているような、在日米軍に対して「ヤンキーゴーホーム」というのは、政治的発言であり、これはヘイトに含まれない。
  • 同様にニュース女子が、外国人が反対運動をしていることが問題であるという事に対してヘイトだということはお門違いである。
西田議員はこのように、明確に発言していました。
これは当たり前にしてそうであると言えそうですが、後述するように
「立法関与者の西田議員が言っていたからそうである」
とは言い切れないという問題があります。 

ヘイトスピーチ規制法の効果:規制条例の乱立?

ヘイトスピーチ規制法の直接間接の効果について考察していきます。

規制条例が作られる?

西田さんは過去に罰則のない理念法であるからこそ、「悪影響の心配はない」とおっしゃっていました。

しかし、そのように言い切ってしまえるでしょうか?

ここで、国、地方公共団体に対するヘイト規制施策実施義務(同法4条1項、2項)が規定されていることが重要になってきます。

本法ができたことによって、地方自治体の条例を作る根拠ができたことになります。

つまり

条例によって、より具体的で強力な表現の規制が行われる

本法は、そのような可能性を広げるものであるといえることになります。

また、デモの目的などから、デモの差止めが認められやすくなるという効果を『持たせることも可能になる』と予測されます。

つまり、ヘイトスピーチ禁止法は、間接的に私たち国民の表現を萎縮させる『効果を持つ可能性』を内在させているのです。

敷衍して言えば

行政の側の高い倫理観に委ねられた法律

でもあるという事が言えると思っています。

この法律が施行されたというだけでは、今後どのような展開になるかはわかりません。
予想としては、国や地方公共団体の不作為義務違反が問われやすくなるということでしょうか。

その他予想される間接的効果

また、犯罪統計について警察庁が「来日外国人の犯罪統計」を出していますが、

在日外国人の犯罪統計」を調査公表することは、本法によってハードルが高くなったのではないかと思います。

この点にかんして、平成27年に「在日外国人の犯罪統計が出された」という情報がありますが、少なくとも警察庁、警視庁のWeb上の公開資料には存在していませんし、その後の継続調査に基づく資料が出たという話も聞きません。
追記:元警視庁の坂東忠信さんが、国会議員の長尾敬さんが入手した警察内部の未公開資料を入手し、まとめたものがHPにUPされています。また、在日特権と犯罪【電子書籍】[ 坂東忠信 ]という著書も出版され、そこに来日外国人と在日外国人の犯罪統計が示されています。

いずれにしても、この法律が悪法となるかどうかは、国や地方公共団体による「運用」次第です。

イギリスの事例ではありますが、移民に「配慮」する結果、ある地域の犯罪が野放しにされていたことがあります。この法律やこれに基づいて規定されるであろう条例によって、そのような事態に陥らないよう、行政の職員達には頑張って頂きたいものです。 

残された問題:誰に対するヘイトが対象なのか

ヘイト規制法の「被害者」となり得るのは誰か?という問題です。

第一:純粋な日本人に対するヘイトも本法の適用対象なのか? 

同法で被害者となるのは「本邦外出身者」と規定されています。
(同法の定義規定の規定ぶりからは、純粋な日本人は被害者にならないかのようです)

これに関しても、西田昌二参議院議員がニュース女子の取材に対して見解を述べています。
「外国人だけを守るものだと誤解されているが、ヘイトスピーチ規制法は、日本人にも外国人にも適用される
これだけきくと、「純日本人が被害者となる排斥・憎悪表現」にも適用されそうです。
しかし、上記に示したように、法律の文言を見ると、客体としては純日本人は含まれないと取らざるを得ません。
たとえ西田さんが立案に関与したからといって、西田さんの見解の通りに法律が適用されるとは限りません。そもそも、立案にかかわったのは、議員だけでも有田ヨシフなど数名おり、また、実際に起案をしたのは官僚でしょうから、この者達の見解が西田議員と同じとは限りません。
これは法律においては良く起こることです。
民法などの代表的な法律においても、起草者と呼ばれる人の見解が、現行法で条文改正が行われていないのに採用されていないことがあります。
このような法律の解釈運用の実態からしても、西田議員の発言をそのまま信用することは、無邪気に過ぎるという事になります。
そうすると、「ヘイトスピーチ規制法は、日本人にも外国人にも適用される」という言葉の意味は、「ヘイトスピーチの主体(加害者)としては日本人も外国人も該当しうる
という意味と捉えざるを得ません。
法律の文言を越えて、ヘイトスピーチの客体(排斥・憎悪表現を受ける者)に純粋な日本人が含まれると考えることは、慎重になるべきなのです。
ただし、解釈によって、ヘイトスピーチの客体(被害者)に純日本人も含まれるという判断がなされるという余地もあり得ます。しかし、確定的なことは言えません。
要するに、この点について公式見解である法務省見解がない現時点では、純日本人がヘイトの被害者になるかどうかはわからないのです。
このことは、逆に言えば、将来日本人はヘイト禁止法の対象ではないという判断がされたとしても、「西田議員が嘘をついた」ということを直ちには意味しないということです。 

第二:不特定多数の者への排斥意見も対象となるのか?

これが「特定の保護法益の帰属主体(個人や学校、学校法人など)を対象に行われた場合に当てはまるのか、それとも「不特定多数の民族、外国人」に対するものも該当するのか、かどうかです。

(ちょっと専門的になってしまいますがすみません)。

名誉毀損罪や侮辱罪(刑法230条、231条)は、特定の保護法益の主体に対するものである場合に成立します。これとの均衡上、ヘイト規制法はどのように解釈されるのでしょうか。ヘイトスピーチ規制法が悪法となるかどうかは、この点が重要だと思いますし、私たちの認識を左右します。

こうした考えは法的素養のある者でないと思いつかない点だと思います。 

結論:ヘイト規制法は、私たち一般国民及び行政職員の倫理観にかかっている

仮に私たちの居住している自治体においてヘイト規制法を背景としたヘイト規制条例が制定されようとしたとき、住民である私たちがその地域の議員に働きかけて、不当な内容の規定が記述されないようにする必要があります。

それは、私たち日本国民の手にかかっています。

また、ヘイト規制法を背景に、外国人である町民、市民に対する苦情や犯罪の告発などに対して、はれ物に触るような対応をするような行政職員であってはなりません。

もちろん、全く非の無い外国人に対して排斥する言動等で威嚇してはならないというのは、ヘイト規制法がなくとも、当たり前のことです。

全ては私たちの高い倫理観にゆだねられています。

※追記:東京都の条例成立、誤謬の拡散の懸念など

その後、東京都がヘイトスピーチ規制を含む条例を成立させるなど、もはやこの流れは止まることをしりません。

もっとも、この流れは在特会による誹謗中傷が横行したことに原因があり、そうした相手を封殺する狙いというのは全否定されるものではないと思われます。

ただ、「在特会封じ」が狙いであってもやはり「日本属性者」のみへの排斥的言動が対象になるというのは、その議論内容も含めて極めて害悪を生んだと言えます。

それが「立法事実」という用語の誤謬の拡散です。

以上