事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します

豊洲市場の地下水の安全性の構造:武田邦彦先生による安全性の観点

 

 

福島の放射線と豊洲の地下水の安全性について、私の過去日記で何度か取り上げました。

 

nathannate.hatenablog.com

nathannate.hatenablog.com

 

これに関連して、武田邦彦先生がDHC虎ノ門ニュース内で重要な指摘をしたのでここで紹介します。

 

正直、上記日記内で示した私の見解とは相反する部分が多いものです

 

しかし誠実な科学者の主張として紹介すべきだと思いました。

動画内では放射線についても述べていますが、ここでは地下水の安全性について焦点を当てます。

 

 

安全基準に対する「科学の側の」考え方

 

番組開始から50分過ぎあたりから発言した部分について、先生の発言は、概ね以下のものでした。

 

地下水の安全基準は、100種類近くある汚染物質がそれぞれ許容値ギリギリだとすると安全ではない、だから1つ1つの汚染物質の許容値を実際の運用上は100分の1ということにしようということになっている

近年の安全性基準の考え方は、科学的に発症するレベルよりも低く設定される基準の、更に大体100分の1の数値に設定している

 

なぜなら、科学的数値というのは成人を対象にした調査結果。子供に対する影響はどうなるのかは実験結果が無いためわからない。だから厳しくしようという考慮が働く。

 

 

こうした考え方は、安全性基準全般に通底する考え方であるとのことです。

このこと自体は重要な指摘だと思います。

 

科学と現実の運用との隔たり

武田先生はさらに概ね以下のように指摘します

 

『豊洲の地下水は市場で使われないから安全性とは関係ないというけれども、だったら今後、汚染された土地もその上にコンクリを敷けば関係ないということになり、その上に人が住むようになる。すると、実は大量の汚染物質があるのに住み続けて子供に影響が出てくる可能性がある。そういう意味を持つということ。』

 

地下水の安全基準は法律で決められたもの。科学が決めたものそのものではない。』

 

『科学で証明された発症レベルというものが基準になってはいけないから、現実の運用としてどのレベルにすべきかということは立法者、つまり国民から選ばれた政治家が決めること。』

 

 

これは重要な指摘ではあると思います。

 

 

 

しかしその上で、豊洲の問題については全てが当てはまらないという事を以下で指摘します。


ここからは武田先生の主張を踏まえた私による整理です。やっと本題に入ります。

 

武田先生はこの点について深入りしていません。(かつ、武田先生は土壌汚染対策法についてちょっと勘違いしてるところもあると思いました。)

 

豊洲の移転は、環境基準に適合することが「条件」なのか?

 

これは明確に異なります。

 

豊洲市場の移転決定や操業開始の条件と、地下水が環境基準に適合することは、本来無関係です。

 

なぜなら、歴代都知事の判断と都議会の判断がそうだからです。

 

 

……ちょっと引っかかる方もいるかもしれないので整理すると

 

 

  1. 地下水の汚染が地上の建物の中にいる人の健康に影響するというのは、そのような考え方を一応採るという慣行があるに過ぎない
  2. 豊洲移転のためには地下水がどうあるべきかというのは、科学でも法律でも決められていないということを意味する
  3. しかも、豊洲市場という特殊な土地について上記慣行をそのまま適用すべきかは別問題。
  4. そのため、移転判断は政治判断に依ることになる
  5. 事実、これまで都知事のみならず都議会も移転を是としており、地下水の安全性については目標値として環境基準以下を設定していたが、それを移転決定や操業開始の条件とはしてこなかった

 

以下では、2番目について根拠となる関連法規を指摘していきます。

 

関連法規に基づく事実の指摘

 

土壌汚染対策法と関係省令については以下のページと関連法規が参考になります。

環境省_土壌汚染対策法について(法律、政令、省令、告示、通知)

 

少なくとも土壌汚染対策法関連法規では

 

『基準を満たさなければ建造物建設や土地上での操業ができない』とは書いてません。

 

 

「基準」は「条件」ではありません。

 

 

これから順を追って説明しますが、情報量が多いです…

 

 

なので、面倒だと思ったら、「要するに」という小括の項に進んでくださいね。

 

 

さて、土壌汚染対策法を見てみましょう。 施行当時の平成14年5月29日法律第五十三号、のものを見てみましょう。

http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/15420020529053.htm

 

第四章
(措置命令)
第七条 都道府県知事は、土壌の特定有害物質による汚染により
人の健康に係る被害が生じ、又は生ずるおそれがあるものと
して政令で定める基準に該当する指定区域内の土地があると認
めるときは、政令で定めるところにより、その被害を防止する
ため必要な限度において、当該土地の所有者等に対し、相当の
期限を定めて、当該汚染の除去、当該汚染の拡散の防止その他
必要な措置(以下「汚染の除去等の措置」という。)を講ずべ
きことを命ずることができる

 

 

ちなみに、最終改正:平成二六年六月四日法律第五一号では若干文言が変わっています。

 

(汚染の除去等の措置)

第七条 都道府県知事は、前条第一項の指定をしたときは、環境省令で定めるところにより、当該汚染による人の健康に係る被害を防止するため必要な限度において、要措置区域内の土地の所有者等に対し、相当の期限を定めて、当該要措置区域内において汚染の除去等の措置を講ずべきことを指示するものとする

 

 

「命ずることができる」よりも「措置を講ずべきことを指示するものとする」の方が都道府県知事の裁量の幅が狭いですが、いずれにしても、「禁止する」ではないですね。

 

 

まぁ、事実上、基準を満たさなければ建築できないということになっていたのではないかとも言えますが、少なくとも都道府県知事の幅広い裁量にゆだねられているのであり、科学的基準を絶対視しなければならない法的根拠など存在しません。

 

 

さらに、豊洲市場は、『形質変更時要届出区域』に指定されていました。

土壌汚染対策法に基づく形質変更時要届出区域の状況|東京都中央卸売市場

要措置区域等の指定状況|東京都環境局 化学物質・土壌汚染対策

 

 

土壌汚染対策法(以下「法」という。)では、土壌汚染状況調査の結果、土壌の汚染状態が指定基準に適合しない土地については、要措置区域または形質変更時要届出区域(以下、「要措置区域等」という。)として指定する。

 

 

つまり、豊洲市場の土地は上記に示した土壌汚染対策法6条の指定区域になっていたということ

 

 

形質変更時要届出区域とは、土壌汚染の摂取経路がなく、健康被害の生じるおそれがないとされる区域で、土地の形質変更時に届出を要します。

工事の完了に伴い、6街区の護岸部は、順次、区域の指定解除を受けており、この度、残りの区域について指定が解除されました。(平成29年東京都告示第461号)

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また、これは横浜市のQAですが、土壌汚染対策法に関するもので、豊洲市場にも適用される考え方が載っています。

http://www.city.yokohama.lg.jp/kankyo/kaihatsu/kisei/dojo/hou-shitei/dojo-qa-todokede.pdf

 

 

汚染土壌の浄化義務はありませんが、汚染土壌が区域外に飛散等しないように維持管理することが必要です。汚染が拡散するおそれが生じた場合は、「要措置区域」に指定替えされることもあります。

 

 

豊洲の場合は地下水ですが、地下水も同様に考えて良いです
実は、土壌汚染対策法には、「地下水」の単語はありません。しかし、関係法令には「地下水」の語は存在し、土壌汚染対策法施行令や施行規則に規定があります。
そこでは地下水の場合も土壌と同じように考えるという趣旨の規定があります。

 

なんだか情報が多くて頭がこんがらがりますね。。。

 

 

要するに

 

 

  1. 豊洲市場の土地や地下水は、法律上、汚染された区域として指定されていた
  2. ただし、健康被害の生じるおそれがないとされる区域と指定されていた
  3. しかも、この区域では、法律上、汚染地下水の浄化義務はない
  4. したがって、地下水等が環境基準に適合することは、法律上、豊洲の移転決定や操業開始の条件ではない

 

 

ということが導かれます。

 

 

そして歴代都知事の判断や都議会の判断としても、地下水等が環境基準に適合することが豊洲市場の操業開始の条件ではなかったのです。

 

武田先生の指摘後もなお、私は豊洲移転を現時点においてもなお行わないという判断は愚かだなと思っています。

 

 

土壌汚染についての今後の課題についての所感

武田先生は、『今の豊洲の現状で移転してしまうと、今後、汚染された土地もその上にコンクリを敷けば関係ないということになり、その上に人が住むようになる。すると、実は大量の汚染物質があるのに住み続けて子供に影響が出てくる可能性がある』

 

このように主張していますが上記に示したように、少なくとも土壌汚染対策法関連法規においては、そのような関係にはならないということが推測されると思います。

 

※一般家屋とかマンションの場合にどうなるかはわかりませんが、豊洲と同列に論じるべき話ではないということも明らかでしょう。

 

結び:科学と法律の峻別の難しさ

 

今回、武田先生の誠実な指摘によって、何が科学の問題で、何が法律の領域の話なのかが、ある程度整理できました。

 

科学者は科学に基づいて発信するし、法律家は法律に基づいて発信する。だからこそ一般の視聴者はよくわからない状況になる。

 

ここまではいいんです。問題は

 

科学者も法律の領域の話と織り交ぜて発信することがあり、法律家も科学の話を織り交ぜて発信することもある。そのくせ、だれもこれらを峻別して整理する、あるいはごちゃまぜにならないように発信させるように促して報道する者がいない

 

これって本来はマスメディアがやるべき仕事だと思うのですが。。。。。

 

武田先生は、少なくとも科学者の側から両者を峻別しようとして発信なさっており、とても参考になる発言が多いです。ただ、科学の側からの発信は一般的な感覚からすると無味乾燥であったりドライな感覚を抱くこともあり、誤解されることもあります。それが悲しいところではあります。

 

この日記も、あまり整理できていないとは思いますが、とりあえず

 

豊洲市場の移転決定や操業開始の条件と、地下水が環境基準に適合することは、本来無関係である】

 

ということが見逃されている現状に一石を投じることはできたのではないかと思います。

 

 

以上