事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

高須クリニック院長が大西健介らに訴訟提起:勝訴の見込みは?

高須院長が訴訟のウォーミングUPを開始しました。

高須クリニック院長が大西健介らに訴訟提起

高須院長が大西健介議員に対して、名誉毀損で訴えたときのツイートです。

これは何が発端でしょうか?

大西健介議員の国会での高須クリニックに関すると思われる発言が問題とされています。

最新の動向はこちら。第一回口頭弁論期日まで行われています。

大西健介の名誉毀損?発言「大量の陳腐なテレビCM」

大西議員は厚労委でエステ店が系列の美容外科に顧客を引き渡す悪徳ビジネスが誇大広告で集客している実態について質問。その中で、「大量の陳腐な」テレビCMを流している美容外科があるとして、「皆さんよくご存じのイエス○○クリニックみたいに」と発言した

これが名誉毀損ではないかとして問題とされています。

これに対して高須院長はこのように指摘しています。

高須院長はその発言に激怒し、18日のブログで「高須クリニックはエステで集客しない。誇大広告のチラシもまかない。きちんと落とし前をつけてもらう」と記載した。

さて、この訴訟の行方、どうなるでしょうか?

まずは条文と名誉毀損の事例に関する過去の判例を振り返りましょう。

日本国憲法憲法51条:国会議員の免責特権

日本国憲法憲法51条に、本件で問題となる国会議員の発言の責任について規定があります。

憲法51条

両議院の議員は、議院で行った演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない

したがって、今回の件では、国会議員である大西健介個人は名誉毀損の法的責任を問われないということが原則となります。
学説で問われる場合もあるというのがありますが、後述の最高裁判例の射程であれば認められないでしょう。

先例となる最高裁判例:平成9年9月9日判決 平成6年(オ)第1287号

先例となる最高裁判例として、【最高裁判所第3小法廷 平成9年9月9日判決 平成6年(オ)第1287号】があります。

(判例の規範部分を抜粋)

国会議員が国会で行った質疑等において、個別の国民の名誉や信用を低下させる発言があったとしても、これによって当然に国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が生ずるものではなく、右責任が肯定されるためには、当該国会議員が、その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とする解するのが相当である。

つまり、名誉毀損について議員個人の責任は認められない

しかし、国家賠償請求は認められる余地がある

ただし、そのための要件は以下である

  • 国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があること
    (その例として)
    ・その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示
    ・虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示

民進党と同党の蓮舫代表は被告になっておらず

ちなみに上記事件の原告の請求は以下です。

札幌地方裁判所 平成元年(ワ)第813号

損害賠償請求事件 平成5年7月16日

本件は、衆議院議員であった被告Tの国会の委員会における発言により原告の夫がその名誉を棄損されたうえ自殺に追い込まれたとして、原告が被告T及び被告国に対しそれぞれその損害の賠償を求めた事案である。

つまり、党代表と党は被告になってません

したがって、高須クリニックの名誉毀損裁判において、どのように判断されるのかは、わからないということですね。

まとめ:高須クリニック名誉毀損裁判の展望と法律構成・監督責任

ただ、議員の発言による名誉毀損に対する党代表と党の責任を問うというのは、どういう法律構成をとっているのかが気になります。

おそらく、何らかの監督責任的なものを問うと思われますが、現時点では訴状を見てないのでわかりません。

なお、その後の下級審判例において、国会議員の発言が名誉毀損とした裁判例で、高須クリニックのように党代表や党を被告にしたものは、私の調査能力では見つけられませんでしたので、この点はやはり新しい争点を含んでいると思われます。

 その後の展開はこちら

以上