事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

「安倍総理が小山佐市に選挙妨害依頼」というデマ:裁判所の判決文に見る火炎瓶を投げ付けた犯人の主張

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魚拓:http://archive.is/yZ1yC

安倍総理に対してまたもデマによる誹謗中傷が為されています。

発信源は過去に安倍総理宅へ火炎瓶を投げ入れて懲役刑を受けた小山佐市、彼に取材した山岡俊介、山岡の論を載せているリテラ、溝口敦などです。ツイッター上では"#ケチって火炎瓶"などというタグがつけられてトレンド入りまでしました。

これは刑事裁判で既に決着がついている話であり、事情も判決文からも読み取れますが、その判決文の理解を誤解させる言説がネット上に蔓延しているので、ここで改めて整理していきます。

「安倍総理が下関市長選の選挙妨害依頼」というデマ

デマの概要は以下のようにまとめられます。

  1. 平成11年、安倍総理陣営が下関市長選の対立候補の選挙妨害依頼をした
  2. 対立候補が怪文書を配布されるなどの選挙妨害を受けた
  3. 安倍総理の秘書が妨害依頼した小山佐市に対して報酬300万円を渡した

この件についてはネット上で「裁判記録でも認定されている」と言われていますが、そんなことはないので公開されている判決文を見ていきましょう。

安倍総理が火炎瓶を投げられた事件の判決文

平成19年3月9福岡地裁小倉支部判決に事件の概要があります。

これがネット上で「裁判記録」と言われているものですが単なる「判決文」です。

裁判記録と言うと起訴状や証拠の標目など事件の捜査から公判、判決に至るまでの審理経過が分かるものなので、そういうものを見ているわけではないということです。

刑事事件の事件記録を閲覧できる者は当事者など限られているので、ネット上で「裁判記録によると」と言っているのは、単に上記の判決文を指して言っているだけです。

小山佐市=被告人Bの行為

安倍火炎瓶選挙妨害依頼と言うデマ

被告人B=小山佐市は、指定暴力団の組長らに依頼して、安倍総理宅に火炎瓶を投げ付けさせたことが共謀共同正犯とされています。火炎瓶投げ付けは数回行われました。

では、なぜ被告人B=小山はこのような行為をしたのか?

その動機も含めて判決文には記載があります。

「ケチって火炎瓶」の「根拠」と誤解されている部分

安倍火炎瓶選挙妨害依頼と言うデマ

被告人B=小山は「自分が下関市長選挙でG議員=安倍晋三と対立するX候補を当選させないように活動した」と主張して、それを理由にG議員の秘書であるWに対して金員の支払いを要求し、実際に300万円の提供を受けたという事実があります。

しかし被告人B=小山は上記の行為が恐喝であるとして起訴猶予処分を受けています。
※起訴猶予とは「犯罪事実があるのは明らかであるが諸般の事情を考慮して起訴まではしないという検察の処分」です。前科はつきませんが、前歴はつきます。

要するに「安倍総理の秘書から300万円の金員が小山に渡された」というのは事実だが、それは恐喝によるものだったということです。被告人B=小山が本当にX議員の選挙妨害をしたかは分かりませんが、300万円が選挙妨害に対する報酬であるとの因果関係があるとは認定されていません。

恐喝で通報されたことに対する逆恨みで火炎瓶を投げつけたと言うことです。

これが山岡らによると「選挙妨害の依頼をしていて、その報酬として300万円を渡した」と歪めて伝えられているのです。

さらに、以下の文が「裁判所が認めた」と言われている「根拠」とされています。

裁判所が事実認定した内容「小山は信用できない」

安倍火炎瓶選挙妨害依頼と言うデマ

被告人Bは,…下関市長選でX候補をG議員側から頼まれて当選させないよう活動したのに,G議員の秘書にはめられて警察に逮捕された,決まっていた仕事も流れてしまった,その点の補償もさせる,許せんなどと恨み言を言っていた

これは「被告人Bがそのように言っていました」という事実認定をしているだけで、その言っている内容が事実であると事実認定したものではありません

この文章は、なぜ被告人B=小山がG議員=安倍晋三に対して怨恨を持つに至ったのかの経緯を示しているので、小山が言っている内容がどうであれ、何を言っていたかということは重要なので判決文で触れているというだけに過ぎません。

この後に被告人B=小山の発言の信用性を裁判所が評価を下している部分があります。

安倍火炎瓶選挙妨害依頼と言うデマ

被告人Bの供述は…その細部を子細に検討するまでもなく、信用性が認められない

裁判所がここまで言い切っています。

つまり、裁判所は被告人B=小山の供述内容は信用できないと認定しているのです。

山岡俊介はこのような被告人B=小山の発言を信用し、検証もせずそのまま垂れ流しているということです。

山本太郎が国会で小山の発言を事実として発言

第196回国会内閣委員会第28号平成三十年七月十七日において山本太郎議員が小山の「下関市長選でX候補をG議員側から頼まれて当選させないよう活動した」という発言部分について、判決文にあるから事実であるという前提で発言しています。

これに対して安倍総理は

私が関わりがあるということでは全くなくて、私は一切の関わりを断ってきた

と明確に否定しています。

この件で本当に安倍事務所側が依頼していたというなら、被告人B=小山が恐喝で逮捕されたときの捜査で贈収賄で秘書も起訴されていたでしょう。

山岡俊介が「新証拠」と主張する「確認書」

魚拓:http://archive.is/yaUKx

この【願書】と書かれたものは単なる面談依頼であり、それだけでは何らも意味しません。

魚拓:http://archive.is/KfD0S

「確認書」と題されている書面の日付は平成11年5月17日となっています。

下関市長選挙が行われたのは、同年の4月です。

仮に選挙妨害の依頼をしていたとすればその前にもろもろの「確認」をするはずなのに、後の段階の書類しかないということは疑問です。

また、当時警察や弁護士にもこの書類を出さずに今更出してきたのは意味不明ですし、内容もなぜわざわざ確認書という形式をとったのか首をかしげざるを得ないものです。

「竹田力」の署名と印影がありますが、これだけでは文書が本物かどうかは決まりませんし、仮に本物としても安倍総理が関与していたかどうかはまた更に遠い話です。

追記:竹田秘書が選挙妨害依頼の念書にサイン?

「竹田力秘書が選挙妨害依頼を匂わす文言がある念書にサインしたと認めている」という取材記事や、取材時の音声データが存在していると言われています。

ただ、取材したという記事中にあっても『竹田氏は「中身は見ずにサインした」と言っている』とあります。相手は恐喝で300万円を出させる者ですから、サインの経緯はどうだったのかは気になるところです。

「中身は見なかった」という説明には納得できないという主張がありますが、逆にそこまでの「証拠」がありながら今まで沈黙していたのはなぜか?告発できなかったのはなぜか?竹田氏へのインタビューは12年以上前の事柄について竹田氏が高齢になってからのものであり、取材結果自体の信憑性も問題になります。

まとめ:火炎瓶投擲犯を信用するのだろうか?

  1. 安倍総理の秘書が火炎瓶を投付けた被告人B=小山に300万円を渡したのは事実
  2. しかし、それは恐喝によるものだった
  3. 「裁判所が下関市長選で安倍総理側が被告人B=小山に選挙妨害依頼したことを認定した」というのはデマであり、被告人B=小山がそう発言しているだけに過ぎない。
  4. むしろ、裁判所は被告人B=小山の供述は信用性が無いと明言する部分がある
  5. 「安倍総理が選挙妨害を依頼した」と言っている発信源は、被告人B=小山
  6. 被告人B=小山自身が暴力団に報酬をもって安倍総理宅に火炎瓶投下を依頼していた

モリカケ冤罪キャンペーンであれだけ騒いだマスメディアがまったくこの件にノータッチなのは、このような人物の発言を信用するわけにはいかないという矜持(?)があるからでしょう。

以上