事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

黒岩たかひろ衆議院議員が新潟県知事選投票当日に「電話かけ」は公職選挙法129条違反?

黒岩たかひろの投票当日の電話かけ公職選挙法違反疑惑

プルルルル、プルルルル

国民「はい、◎◎です。」

K「お忙しいところ失礼いたします。私、「投票率を向上させる市民の会」のKと申します。」

国民「はいぃ…(なにそれ?)」

K「本日は〇〇県知事選の投票日ですが、投票はお済でしょうか?」

国民「いえ、まだですぅ(そういえばTVでIさん、だっけ?女性の候補がいたような。あとは知らないわ)」

K「そうですか!投票のご予定はおありでしょうか?」

国民「いいえーあまり考えてなかったですねぇ。まぁ、私1人が投票しても結果に影響ないでしょうからねぇ(なんの電話なんだろう?)」

K「そう思われるのももっともだと思います。そこで、私どもがお伝えしているのは、投票率が上がることで、市民の皆様の意見が政治に反映されやすくなる、ということなんです」

国民「…(最近トークバラエティとかで聞く意識高い系かな?)」

K「◎◎さまのお住まいの地域ですと、投票所は△△にございますので、是非とも足を運んでいただければと思います」

国民「そうなんですか、はい、わかりました(さっさと切りたい。でも、投票所ってそんなところにあったんだ、知らなかった、選挙の紙が郵便受けにあったけど中身見てないし)」

K「お忙しいところありがとうございましたー。」

ガチャン

国民「ホントに何の電話だったんだろう?そういえば投票日って今日だったのか。私は今65歳だけど、この歳まであんまり政治には興味ないから投票したりしなかったりしてたなぁ。ちょっとどんな候補がいるかTVでやってないかしら?」

 

15分後

 

国民「なんか女性の候補者Iさんとおじさんが一騎打ちっぽい雰囲気。おじさんは政府側の固い役職を経験してたみたいだけど、女性候補のIさんは県民と一緒の場面が多くてなんかいい感じっぽいから、この人に投票しようかな。朝日新聞の記事をみても、なんか良さそうだし」

************************************

以上は架空の物語です。

これが公職選挙法で禁止されている投票日当日の「選挙運動」に該当するでしょうか?

ということが黒岩たかひろ衆議院議員の行為を考える上で重要です。

黒岩たかひろ衆議院議員のツイート

魚拓:http://archive.is/LtmQM

「本日は新潟県知事選投票日」

「投票箱の閉まる最後の最後まで電話かけをいたしました」

少し知識のある方は、これは公職選挙法上で禁止されている投票日当日の「選挙運動」に該当し、違法な行為なのでは?と考える人も出てくるのではないかと思います。

でも、本当にそうでしょうか?

公職選挙法上の「選挙運動」の定義

総務省によると、判例・実例によれば、選挙運動とは、「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為」とされています。

また、各選挙区の選挙管理委員会においてQAが掲載されています。

例えば電話に関して言及している四万十市のHPはこちらです。魚拓:http://archive.is/TqhUP

仮に、単に投票率の向上を呼び掛けるだけであれば、「選挙運動」にはあたりません。しかし、Q5に注意です。

投票日当日の投票率向上の呼びかけや啓発は、選挙管理委員会で行いますので、候補者等が行うことはありません。

これを特定の候補者の支持をしている人等がすると選挙違反のおそれがあります

「特定の候補者の支持をしている人」であることが電話口での名乗りで判断できるかを基準にするのか、それとも客観的にそういう者であれば「支持をしている人」とするのか。そうだとしても違反になるのかどうか。

この判断は検察判断でしょうね。通報は警察が受け取りますが、警察はこのような法的にグレーな事案を判断できません。

黒岩たかひろ衆議院議員の「電話かけ」の内容は?

黒岩議員がどのような内容の電話かけをしたのかは現時点で定かではありませんが、理論上は様々なものが考えられます。

冒頭の寸劇で示したような、単なる投票行動の呼びかけであれば、どうでしょうか?

しかし、そうすると、そもそも何の得があって投票行動の呼びかけをするのでしょうか?

新潟県の人口分布

新潟県はごらんの通り、高齢者の割合が全国平均よりも高い地域です。

高齢者の状況

そして、おそらく18~20代前半の学生は東京の大学に行っており、住民票の異動をしてなくて新潟県の選挙権は持っていても、実際には投票行動をしない者が多いと思われます。

では、高齢者が多いことがどう影響するのでしょうか?

電話と高齢者

上念さんによると、電話による世論調査をすると、電話に出るのは多くは高齢者であって、単なる高齢者ホイホイになるという指摘がなされています。

高齢者とメディア利用率、投票行動の関係は?

不破雷蔵さんの記事によれば、高齢者であればあるほど、マスメディアの利用時間は多いということがわかります。

そして、高齢者であるほど政権側ではない勢力への投票行動が高いということがわかります。

f:id:Nathannate:20180611121512j:plain

地方選挙の一例として仙台市長選挙や名護市長選挙の世代別投票行動の図

f:id:Nathannate:20180611121438j:plain

f:id:Nathannate:20180611121450j:plain

 

黒岩たかひろの「電話かけ」は公職選挙法違反か?

仮に、黒岩議員が上記のような効果を意図して投票行動を促していたとしても、公職選挙法違反で罪に問うのは厳しいのではないでしょうか?

ただ、そうであっても少なくともこのような行為は外形的に国民からの反感を買うと思われるので、これを公言するのはあまり良い行いとは言えないでしょう。

そして、黒岩氏が実際に電話した内容は、投票呼びかけに留まらない可能性もあり、この事実によっては公職選挙法違反かどうかが決まるので、検察・警察の捜査が行われるのか注意していきたいと思います。

※追記:黒岩たかひろ議員は問題のツイートを削除しました

公職選挙法違反ではないと確信していたのであれば、弁明すればいいものを、ツイートを削除するという対応を取ったということは…

新潟県警察ホームページ - ご意見・ご要望【選挙違反に関する情報提供のお願い】

以上 

【2018新潟県知事選】花角英世、池田千賀子らに対するデマ情報等のまとめ

池田千賀子(池田ちかこ)花角英世(はなずみ英世)
2018年新潟県知事選の候補者である花角英世(はなずみ英世)、池田千賀子(池田ちかこ)らに対するデマが多く流れました。また、デマ以外にも問題視された行為についてまとめます。

公職選挙法では投票日当日の選挙運動は違法となりますが、この記事は特定の候補者の応援をするものではなく、各候補者に対する情報の検証を行うだけなので問題はありません。

花角英世候補に対するデマ

かなり悪質なデマがありました。言葉の用法の問題(定義の問題でもある)と事実関係の問題があります。

落下傘候補・森友関係者という印象操作とデマ

「落下傘候補」という言葉は「地元出身ではない・地元に根差さない候補」「地縁や血縁の無い候補」という用法で使われてきました。花角氏は新潟県生まれで高校まで県内の高校に通い、大学や入省後は関係が離れたかもしれませんが、2013年には新潟県副知事に就任しています。

落下傘候補という形容は「生涯のうち大学入学後、就職して相当期間地元に居なかった者」を指して言うような用語法ではなかったのは明らかです。

「池田氏のようにずっと地元に根差している者と比べれば縁が薄い」と評価するのならばわかりますが、落下傘候補という言葉の定義が固まったものではないことをいいことに印象操作をするのは何でもかんでも「ヘイトの問題」と主張する輩と同じ思考形態ですね。

「大阪航空局長をしていたから」森友学園と関係があるという言説も、時系列的に無理があります。

詳しくは上記の以下略ちゃん(@ikaryakuchan)の記事をどうぞ。

花角氏が「女性知事は不要」と言ったというデマ

ネット上ではなぜか花角氏が「女性の知事は必要ない」と発言したという情報が一時期拡散されましたが、まずはそれはデマです。

  1. 「女性の知事は必要ない」は応援弁士の商工会長が発言
  2. 花角氏は当該発言の趣旨を「女性とか男性とかは関係がない。能力がある人こそ大切だ」とおっしゃったのではないかと解釈。

2番目は横田一氏の取材に基づきます。
魚拓:https://web.archive.org/web/20180610032240/https://hbol.jp/167469

私は、「花角氏本人の発言ではないから問題がない」というのは違うと思います。

応援弁士の発言は本人のものではないにしろ、本人の意見も同様だと思われる可能性はあり、適切に対応するべきだったと思います。特に、動画や記事の切り貼りで報道されるご時世ですから発言の文脈や意図を適切に伝えるべきでしょう。

ただ、「謝罪をするべきだった」というのも違いますね。

魚拓:http://archive.is/7ATA9

『「女性の知事は必要ない」は、それだけでは誤解を与える表現だったが、これは池田ちかこ候補自身が「女性知事を誕生させましょう」と、女性性を利用していることに対するアンチテーゼであったのであり、そのような趣旨で発言していた』と花角氏は説明するべきだったでしょう。
(商工会長が真実としてどのような意図だったかはどうであれ)

もちろん、商工会長の演説は誤解を与え、切り取り報道の危険を花角氏に与えるもので、甚だ不適切であったことは間違いありません。

なお、この一連の話の中では「畠山理仁氏がデマを流した」という言説がネットで騒がれましたが、それこそデマです。畠山氏は最初から商工会長が発言したとツイートしており、上記の動画も畠山氏がUPしたものです。

畠山氏についての誤解の詳細はKSLさんの記事で指摘されています。

選挙にかこつけて悪質なデマを流す輩

新潟県は柏崎刈羽原発が存在しています。なので原発の廃止も争点となっていました。

そのような中で原発や放射能についての非科学的な見解を流す輩が出ており、福島県に対する風評被害をまき散らす形になっていました。

魚拓:http://archive.is/dwIFI

結局このように謝罪しているのであげつらう事はしませんが、これに至るまでの顛末もいろいろと酷かったので、気になる人はKSLさんの記事を見てください。

保育士が園児に池田氏の応援横断幕を書かせた行為について

新潟県柏崎市保育士が池田氏応援の横断幕を園児に書かせる
柏崎市長が職員の不祥事について(おわび)(平成30年6月7日報道発表)|柏崎市にて報道発表をしています。公立の幼稚園なので、地方公務員法違反の行為であると指摘されています。園長も容認していたということです。魚拓:http://archive.is/oWyKB

この記者会見内容についても、柏崎市長が特定候補者の名前を出したかのようにフェイスブック上で投稿する市議がいたため削除するよう申し入れしたという後日談もあります。

ただし、注意したいのは、池田ちかこ氏が何か働きかけをした結果、このような事態になったということは何らの情報もないということです。

勝手に応援された結果について責任を取らなければならないというのは意味不明です。

※当確情報後追記

写真にある園児が描いた応援絵の下部には「自治労新潟県本部保育部会」という文字があるのがわかります。自治労は社民党を支持しているので、社民党候補である池田ちかこ氏との関係性が疑われるのは当然です。

ただ、繰り返しますが池田氏本人が公選法違反に問われるかどうかは、自治労等の支援組織が保育士に働きかけたということがわかった上で自治労等の支援組織と池田氏との間に共謀があることが必要です。もしくは、池田氏本人が直接保育士に働きかけたという事実が必要です。

池田ちかこ公選法違反疑惑保育士幼稚園児

たとえばこの写真をもって「池田氏が子供に公選法違反をさせた」と言う人が居ますが、かなり慎重に検討しなければそのように言うことは控えるべきです。

池田氏が「さぁ、子どもたちも一緒に!」などと呼びかけをしていたならともかく、子供を連れてきた親が自発的に行ったという場合には池田氏の公選法違反の行為そのものがなかったことになりますし、「みなさんプラカードを揚げましょう」と言ったとしても子供に向けられた言辞かどうかというと、少なくとも故意が否定されるでしょう。 

 

ただでさえ、不当な懲戒請求が横行した後ですから、この件についても通報するのであれば明確な根拠をもって行うべきですね。

池田千賀子候補に対するデマ

池田氏に対するデマも発生していました。 

「池田候補の下半身ネタを文春が報じる」は虚偽情報か

ハーバービジネスオンラインでは「選挙期間中に報道しなければ意味がない」「文春が今週になっても該当記事を掲載しなかった」から虚偽情報であると断じています。しかし、よくもまぁこのような浅い状況証拠だけで虚偽情報と断定するなぁと思います。

もちろん、現時点でこの情報は信憑性が極めて低いものであることは間違いありません。しかし、この記事の不思議なところは、週刊文春に対しては取材した痕跡がないということと、上記の状況証拠以外に認定する材料がないこと。他の媒体の情報を虚偽と認定するなら、もっと詳細を詰めて論じないと危険だと思いますね。 

「池田ちかこは一貫して拉致問題は無いと主張していた」はデマか

前提として、社民党自体が「拉致問題は創作されたものである」という立場を採っていた時期があるということです。そのため、池田氏もそのような立場だったはずだ、という憶測がなされていました。しかし

  1. KSL-Live!が噂の元となるツイートは誤解を生むと指摘
  2. 月刊社会民主1997年7月号には池田ちかこ氏の記事は存在しないことが判明
    国立国会図書館の保存データ(←リンク)で確認可能。1997~2002年の月刊社会民主には池田ちかこ氏の記事はなし。
  3. 噂の源となるツイートをした者はツイートを削除して誤解の無いよう再投稿
  4. 蓮池透氏が当該事実を否定する動画をUP
  5. それを池田ちかこ氏を応援するアカウントがUP(←リンク)
  6. 池田ちかこ氏本人のアカウントが、応援アカウントの上記ツイートをリツイート
  7. 別の時と媒体で池田氏の同様の主張を指摘する言論や証拠は現時点で不存在
  8. KSLの指摘後に噂を追認する画像が流通したが拡散者が謝罪、ツイート削除

一つだけ気になるのは、何故か池田氏本人のアカウントのツイートでしっかりと説明していないということですね。なぜ本人アカウントで明確に否定しないのでしょうか?

現時点で否定されているのは『月刊社会民主1997年7月号で池田氏がそのような発言をしていた』ということに過ぎませんから、別の時と場所でそのような発言をしていた可能性は理論上は残っているわけです。しかし、そのような主張をする者は居ません。

そして、「同様の発言が別のところであった」と主張する者に立証責任があり、現時点では信憑性が極めて低いウワサに過ぎないと言えます。「発言がなかったこと」の証明を求めるのは悪魔の証明なので、現時点ではデマと言ってしまってよいでしょう。

「拉致は無い」のデマ画像の発生源はどこか?

「拉致問題は創作された事件」という捏造

「拉致問題は創作だと言った」という情報の発生源である元ツイートについてはKSLさんが指摘しましたが、KSLの指摘後もなお池田氏が「拉致は無いと主張している」という画像が出回りました。

これは松林利一氏という者のFacebookで投稿されたものが発端のようです。

松林利一による池田氏「拉致は創作」デマ

コメント欄の反応から、こちらの投稿が初出だということがわかります。

ツイッター上ではこれ以降、上記画像が出回ることになります。

投稿時間は6月4日の23時04分です。KSL-Live!がデマの検証記事を書いた後であり、その後も訂正がないため擁護のしようがありません。

また、「偏向報道から国民を守る会」のクレジットがついていますが、これは会の意思とは無関係に松林氏個人が独断で作成したものです。現に、偏向報道から国民を守る会のHP上には存在しない画像が松林氏によって多数つくられています。松林氏は度々上記のような体裁の画像を作成して投稿しているため、他の者が作成した可能性は非常に低いです。

松林氏は「偏向報道から国民を守る会」の管理者であるため、これが会の公式見解であると考える者は多いでしょう。

偏向報道から国民を守る会の管理者

会の名前を使って信憑性を高めようとしていたのか知りませんが、迷惑極まりない行為ですね。

「池田候補の『応援のために』ニュース23膳場貴子が街宣に駆け付けた」はデマか

きっかけは社民党新潟県連代表の小山芳元県議のツイートですが、表現が「応援のために」という意味に捉えかねないものであったという事をKSLさんが検証しています。

実際は単なる取材に過ぎない(小山氏の言うことが本当であれば、取材にかこつけて応援の言辞を送ったことになる)が、ネット上ではこのツイートを元に「応援のために駆け付けた」という認識を持つ者もいます。信憑性の低い危険な断定なので気を付けるべきでしょう。 

ただ、これを捏造とまで言い切ってしまっていいかというと、逃げ道はあるので危険だと思います。

まとめ:外野による泥仕合

ここで取り上げた事案は、花角英世氏や池田千賀子氏らが関与したものではないものがほとんどという事がわかります。外野がかってに騒いでデマを生成・拡散することは、候補者にとって迷惑ですし、新潟県の評判にも響きます。

応援者や情報拡散をする者は、一度冷静になって情報を検証するべきでしょう。

ただ、今回は松林氏を除いて、誤った情報を拡散した者が謝罪をしっかりとしており、一定の希望を見出せるものとなっていると思います。

以上

【余命大量不当懲戒請求】弁護士への懲戒請求の手続と弁護士自治1

余命大量不当懲戒請求弁護士自治

余命ブログに乗せられた一般人が無実の弁護士に対して不当な懲戒請求を行い、結果として大量の懲戒請求事案として発展しました。

では弁護士の懲戒請求の手続はどのように進行するのでしょうか?

弁護士の自律的懲戒制度はなぜ認められているのでしょうか?

この記事では手続の概要と具体的な負担、弁護士自治について整理します。

これは、弁護士に生じた損害、つまり弁護士が懲戒請求者に請求している賠償額が妥当かどうかを考えるにあたっても重要です。 佐々木・北弁護士の事案については、弁護士1人に対する損害を単純に960人に請求すると2億5000万円を超えます。

予め言っておきますが、 懲戒請求者を「悪意の塊」のように表現する方も見られますが、それは一部に留まるでしょう。大半の方の性格は懲戒請求をくらった当事者の弁護士の方が言っている通りなんだろうと思います。

事案の全体像・総論にあたる記事はこちら。本記事は各論の一部です。

弁護士に対する懲戒請求の手続の流れ

弁護士の懲戒請求の手続の流れ

出典: 日弁連HP

弁護士法

第五十八条 何人も、弁護士又は弁護士法人について懲戒の事由があると思料するときは、その事由の説明を添えて、その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会にこれを懲戒することを求めることができる。
2 弁護士会は、所属の弁護士又は弁護士法人について、懲戒の事由があると思料するとき又は前項の請求があつたときは、懲戒の手続に付し、綱紀委員会に事案の調査をさせなければならない。
以下略

懲戒審査が行われるまでの流れは以下のようになります。  

  1. 誰かが懲戒請求を各弁護士会=単位弁護士会に対して申出る、或いは弁護士会が懲戒事由があると思料する
  2. 単位弁護士会の綱紀委員会が調査を開始する
  3. 単位弁護士会の綱紀委員会が懲戒審査に付するかを判断する

まずはここまででひとくくり。単位弁護士会の綱紀委員会で却下された場合、今度は日弁連の組織で懲戒審査に付するべきかを判断させることができます。

  1. 懲戒請求者が異議申立をする
  2. 日弁連の綱紀委員会が懲戒審査に付するべきかを判断する
  3. 2で却下・棄却された場合、懲戒請求者が綱紀審査の申出をする
  4. 日弁連の綱紀審査会が懲戒審査に付するべきかを判断する

マクロのレベルではこのような手続きの流れになります。

特に日弁連の綱紀「審査会」は、日弁連内部に組織されていますが、構成員は法曹ではない者が担当しています。

では、弁護士個人にかかる具体的な負担はどのようなものでしょうか? 

弁護士にかかる事務負担や精神的苦痛等

抽象的、類型的な負担については最高裁判例の補足意見で言及されています。

最高裁の裁判官が指摘する懲戒請求における弁護士の負担 

最高裁判所第3小法廷 平成17年(受)第2126号 損害賠償請求事件 平成19年4月24日における裁判官田原睦夫の補足意見、最高裁判所第2小法廷 平成21年(受)第1905号、平成21年(受)第1906号 損害賠償請求事件 平成23年7月15日における須藤裁判官の補足意見をまとめると以下です

  1. 綱紀委員会の調査に対する反論や反証にエネルギーを割かれる
  2. 根拠のない懲戒請求でも懲戒請求された事実が外部に知られたら誤解を解くエネルギーが投じざるを得ない
    ※事実上,懲戒請求がなされたということが第三者に知られるだけで,対象弁護士自身の社会的名誉や業務上の信用の低下を生じさせるおそれを生じさせ得る
  3. 綱紀委員会の調査に付されると弁護士は手続終了まで他の弁護士会への登録替えや登録取消しの請求ができない
  4. その結果、他の地方での弁護士業務、他の領域での弁護士業務ができなくなる
  5. 公務員への転職もできなくなる

上記1の負担については今回の懲戒請求を受けた弁護士が具体的に言及しています。

懲戒請求を受けた弁護士による具体的な負担の紹介 

 

  • 960件の懲戒請求書を一つ一つ読んで内容を確認する
  • ファイリング・保管
  • 答弁書の作成・提出

ざっくりまとめるとこのような負担でしょうか。

これに対しては、同じく大量の懲戒請求を受けた弁護士からは疑問視されています。

 

要するに、佐々木・北弁護士らの場合は、弁護士会が不要な作業を増やしたために弁護士個人が負担を強いられていると言えるのではないでしょうか?

弁護士会によるマッチポンプであると評価することもできると思います。

過去の判例にみる具体的負担

東京地方裁判所平成28年(ワ)第1665号 損害賠償請求事件 平成28年11月15日は、とても面白い記載があります。

f:id:Nathannate:20181129104716j:plain

東京地方裁判所 平成28年(ワ)第1665号

この事案では、懲戒請求が3次にわたって行われました(図中の第〇次申立というのがそれ)。判示から伺えるのは、懲戒請求1,2は一連のものとされ、懲戒請求3には時間的な隔たりがあるとして別項で検討されているということです。また、この事件では懲戒請求以外には紛議調停申立も不法行為を構成するとされましたが、判示の仕方からみて、損害額の大半を占めるのは懲戒請求の方です。

認定された損害額は、140万円。

単純に時間で割ることはできませんが、このような時間負担の割合の事案でこの損害額というのは一定の参考になるでしょう。

3件で多く見積もって20時間の事務負担で140万円に対して、960件とはいえ同じ内容の懲戒請求にかかる事務負担で2億5000万円の損害と評価してよいのでしょうか?請求額や和解額の妥当性については、同種の懲戒請求を受けた裁判例などの紹介も含めて別記事を書く予定です。

 追記:請求額、和解額の妥当性について

弁護士自治について

 

弁護士には弁護士自治が認められています。

他の士業との違い

他の「士業」は監督庁が存在してその監督に服しています。そうすることで、その資格の社会的信頼の維持や資格者の技能・能力を一定のレベルに保っています。

弁護士だけは異なり、自分たちで弁護士資格の信頼性を保つよう自律的に行動しなければなりません。そのために弁護士会は強制加入となっており(弁護士法8条、9条)、弁護士の監督は弁護士会が行うこと(31条)、懲戒処分も弁護士会が行うことになっています(56条)。

なぜ弁護士自治が認められているのか

江戸時代までは訴訟代理は認められていませんでした。

明治時代にはじめて訴訟代理人として「代言人」=現在の弁護士が始まりました。

しかし、当初は担当裁判官の監督に服し、後に検事の監督、検事正の監督に服するようになっており、不当な業務停止や除名の懲戒処分を受けることが多々ありました。

昭和に入って司法大臣の監督に服するように弁護士法が改正されましたが、今日にいう弁護士自治は実現されていませんでした。

不当な懲戒事例は以下です。

  1. 「長ったらしい御談義は聞かずとも宜し」と検事に対して発言した弁護士が除名
  2. 被告人女性が陳述中、法廷詰の巡査が体に手をかけて姿勢を正そうとしたので弁護士が「訴訟法上、被告人は法廷で身体拘束を受けないことになっており、今の巡査の挙動は不穏当である」と言い、裁判官が「身体拘束ではない」と言うと弁護士が「野蛮の法廷なり」と発言。これに対して官吏侮辱罪にあたるとして弁護士が禁錮刑と罰金刑を受けた
  3. 「本件は無罪なること疑うべからず若し有罪とならば太陽は西より出でん」と発言した弁護士が官吏侮辱罪で禁錮刑と罰金刑、業務停止3か月の処分を受けた

訴訟で意見を争う相手方等から懲戒処分を受けるという立場では、弁護士は萎縮してしまい依頼者の権利を十分に守ることができません。その結果、潜在的な依頼者である国民全体の利益が害される事になっていたと言えます。

こうした弊害をなくすために戦前からの弁護士会による自治の要求があり、その後、戦後のGHQの方針、衆議院法制局の主張等があいまって、現在の弁護士自治の形が出来上がりました。

今日の自律的懲戒制度が設けられたのは、このような歴史的背景、反省から弁護士自治と社会正義の実現のために設けられた弁護士自治制度の要請なのです。そして、弁護士が自分たちで懲戒手続を行うことは国民から負託されたものでもあります。

懲戒請求の扱い

弁護士法の規定を再掲します。

弁護士法

第五十八条 何人も、弁護士又は弁護士法人について懲戒の事由があると思料するときは、その事由の説明を添えて、その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会にこれを懲戒することを求めることができる。
2 弁護士会は、所属の弁護士又は弁護士法人について、懲戒の事由があると思料するとき又は前項の請求があつたときは、懲戒の手続に付し、綱紀委員会に事案の調査をさせなければならない。
以下略

要するに懲戒手続が進行するルートは2つあります。

  1. 誰かからの懲戒請求があった場合
  2. 弁護士会が懲戒の事由があると思料する場合

今回は1番の場合であるとされています。

綱紀委員会の役割・機能

先に説明したように、懲戒委員会の前に綱紀委員会の調査があります。

これは、懲戒請求の濫用による弊害を防止するために行われているとされます。

前掲最高裁平成19年判決裁判官田原睦夫の補足意見

弁護士法の定める弁護士懲戒制度は,弁護士自治を支える重要な機能を有しているのであって,その懲戒権は,適宜に適正な行使が求められるのであり,その行使の懈怠は,弁護士活動に対する国民の信頼を損ないかねず,他方,その濫用は,弁護士に求められている社会正義の実現を図る活動を抑圧することとなり,弁護士会による自縄自縛的な事態を招きかねないのである。

 

前掲最高裁平成23年判決裁判官須藤正彦の補足意見

弁護士自治やその中核的内容ともいうべき自律的懲戒制度も,国家権力や多数勢力の不当な圧力を排して被疑者,被告人についての自由な弁護活動を弁護人に保障することに重大な意義がある。それなのに,多数の懲戒請求でそれが脅威にさらされてしまうのであっては,自律的懲戒制度の正しい目的が失われてしまうことにもなりかねない

なお、弁護士会への懲戒請求権や異議申立権の性質について種々の解釈がありえますが、最高裁は個人の利益保護のためのものではないとしています。

最高裁判所第2小法廷 昭和49年(行ツ)第52号 日本弁護士連合会懲戒委員会の棄却決定及び同決定に対する異議申立に対する却下決定に対する取消請求事件 昭和49年11月8日

弁護士の懲戒制度は、弁護士会又は日本弁護士連合会(以下日弁連という。)の自主的な判断に基づいて、弁護士の網紀、信用、品位等の保持をはかることを目的とするものであるが、弁護士法五八条所定の懲戒請求権及び同法六一条所定の異議申立権は、懲戒制度の右目的の適正な達成という公益的見地から特に認められたものであり、懲戒請求者個人の利益保護のためのものではない

そのため、懲戒請求者が懲戒の取下げをしても、手続は止まらず進行することの根拠として言われることもあります。

小括

  1. 弁護士自治は人権擁護と社会正義の実現のために認められた
  2. 自律的懲戒制度は弁護士自治の根幹を占める
  3. 綱紀委員会は懲戒請求の濫訴の防止のために存在する機関
  4. 懲戒請求権や異議申立権は個人の利益保護のためのものではない

この項の内容は、法曹の倫理[第2.1版]森際康友 編 名古屋大学出版会を参考にしました。 

展望:綱紀委員会のスクリーニングは機能していると言えるのか?

余命大量不当懲戒請求と弁護士自治

佐々木弁護士への懲戒請求書の一例

図のような内容の書面。はっきり言って「怪文書」です。

佐々木弁護士への懲戒請求書の全てがこのようなものではありませんが、こうしたものまで一律に「懲戒請求があった」として扱い、弁護士に対して負担を強いている。

これは弁護士会の落ち度ではないでしょうか?

このような手続は、綱紀委員会が濫訴防止機能を持つとされたことに反しています。

 

「懲戒請求があれば必ず綱紀委員会の調査に付すと弁護士法で決められているから仕方ないではないか」

 

という意見がありますが、本当にそうでしょうか?

今回の大量不当懲戒請求事案では、弁護士会に所属する弁護士全員の懲戒請求と、弁護士個人の懲戒請求の2種類があります。しかし、前者については異例の対応ということで、通常の綱紀委員会の調査を走らせていません。ということは、今回のような事案の場合は、弁護士法によって強制されているということではないと解釈できる対応をしているということです。

また、札幌弁護士会は弁護士個人の懲戒請求については併合処理がなされており、反論のための答弁書も1通で済んでいます。大量のファイルを逐一弁護士に確認させている対応が弁護士会として正しいのか、検証が必要です。

次回の記事において、綱紀委員会の手続がいかにおかしいか、解釈の仕方や事案の処理としてどのようなものが望ましいのかについて述べていきます。

以上

※追記:綱紀委員会の手続の評価について

「二度目の人生を異世界で」まいん氏著作が出荷停止:出版社のホビージャパンと表現の自由

 「二度目の人生を異世界で」のアニメが制作中止となったことに加え、原作者のまいん氏の著作について出版社が自主的発禁措置を取ったことが物議を醸しています。

この件も事実関係が誤解され、混同されているのでまずはそれを整理します。

その上で、表現の自由が護られなくなるという危惧があるのでそれについても言及します。

なお、アマゾン上ではKindleUnlimitedに登録していれば1巻は無料で見られるようになっていますし、Kindle版のダウンロードできるような画面表示になっています。
(動作検証はしていません)

※追記:二度目の人生を異世界で1 (HJ NOVELS)単行本もアマゾン上で購入できるかのような表記になっています(動作検証はしていません)

また、二度目の人生を異世界で 1 (MFC)という安房さとる氏が著者(原作者はまいん氏)の漫画版がKADOKAWA/メディアファクトリーから出版されており、こちらについては未だなんらの影響がないように見えます。 

時系列

  1. 4月中旬「二度目の人生を異世界で」のアニメ放送決定
  2. 5月末頃、原作者まいん氏のツイッターアカウントのツイートが騒がれる
  3. 6月5日、まいん氏の問題とされるツイートが削除され、謝罪ツイートとアカウント停止の意向が示される(←リンク)
  4. 6月6日午前10時、出演予定だった声優4名の降板が一斉に表明される(←リンク)
  5. 同日、アニメ制作側が放送と制作の中止を発表(←リンク)
  6. 同日、出版社のホビージャパンが作品の出荷停止を表明(←リンク)

なお、まいん氏がツイッターを削除し、謝罪をしていることに鑑みて、ここではスクショを晒すことは控えます。

アニメの制作中止について

アニメで配役があった声優数名が相次いで降板を表明しました。

声優の降板の理由は現時点で不明です。

アニメ自体は制作委員会が制作しており、ホビージャパンとは別主体であるため、小説の出荷停止措置との関連性は不明です。出荷停止措置の理由とは異なる理由で制作中止をした可能性もありますが、現時点で情報がないので踏み込みません(声優が4人も降板を表明したことが理由だとは思いますが)。

「二度目の人生を異世界で」の出荷停止措置の理由

出版社のホビージャパン(HJ)が原作ライトノベルを出荷停止をしたと報道されています。

ホビージャパンの見解の表明

同社HPの「HJノベルス『二度目の人生を異世界で』に関しまして」においては、以下の認識が表明されています。

  1. HJノベルス『二度目の人生を異世界で』に関して作品中の一部の表現が多くの方々の心情を害している実情を重く受け止めた
  2. 作品の内容とは切り分けるべき事項だが、別だが著者が過去に発信したツイートは不適切な内容であったと認識

これらは出荷停止の理由として明示されたものではないですが、1番目は出荷停止の理由の一つであるとしか思えません。

ただ、2番目は出荷停止の理由と関係があるのかどうなのか、不明です。単に認識を表明したに過ぎない可能性もあると思われます。現時点では断定できません。

まいん氏の問題とされるツイートは、「姦国の猿はほんとにシツケが悪いなぁ」「虫国のBBA」「蟲国の侵略行為は正当防衛とかぬかしてるぞ」などです。

HJは「ヘイト」だったから出荷停止をしたのか?

ここで、日本のメディア(特に朝日新聞)は「ヘイトや差別があったから」出荷停止したと断じています。

しかし、ホビージャパンの担当者はツイートに対する認識を問うた朝日新聞の取材に「差別を助長する意図はなかったが、表現的に無視ができない内容だった。多くの人の心情を害したと認識している」と述べています。

したがって、HJとしては、少なくとも著者のまいん氏のツイートが「差別やヘイトにあたるから」という認識ではないということが伺えます。

では、作品の表現はどのようなものだったのか?

これは中国メディアの記事等からうかがえます。

中国メディアが報じた「在异世界开拓第二人生」

「二度目の人生を異世界で」が中国で炎上している様子を詳細に論じているメディアがあります。

【环球网国际新闻(http://world.huanqiu.com)】

こちらのサイトでの言及のされ方は以下です。

  1. 主人公が殺害したのは中国人であると言える
  2. 中国人兵士の大量殺害を賞賛するとは反人間小説だ
  3. 当該作品は中国で多く流通していたが問題視されて読者が離れた
  4. フィクションだとしても手塚治虫基準に照らして許されない

それぞれについて突っ込みどころはありますが、記事全体を通して分かるように、どこにも「人種差別だ」とか「ヘイトだ」という論調はありません。「第二次世界大戦を美化するな」「南京虐殺や100人切りを想起させるもので不快である」という論調です。

つまり、日本のメディアが報じるような「ヘイトや人種差別だから出荷停止した」というのは、中国の反応をもってしても言えないということになります。

(仮にそう言えるとして)戦争を美化することや(戦闘行為とはいえ)大量の殺害を誇る行為を美化することと、ヘイトとは結びつきません。

ちなみにこのサイト、グーグル翻訳の中国語(簡体)で翻訳すると驚くほどきれいな日本語に訳されます。

全文載せるのは著作権的にアウトなので、ぜひとも各人が翻訳して読んでみてほしいです。

中国メディアで問題であるとされた表現

そして、具体的に問題であると指摘された表現は、主人公に関する以下のような文章です。

「二度目の人生を異世界で」の出荷停止

15歳で武者修行のために中国大陸に渡った。殺害人数は912人

その後、世界大戦に従軍、従軍期間中の殺害数は3712名

それを賞賛するようなコードネームがつけられる

生涯殺害数5730名

「中国大陸」に渡った後に「世界大戦」に従軍したという点、そして、漫画では主人公が来ていた服が旧日本軍のものであったことや主人公の年齢などから、中国での戦闘行為で中国人を大量に殺害したことを賞賛している内容である、けしからん、というわけです。

ファンタジーに対して何を言っているのか?と思うのですが、これを「中国での殺害を言っているのではない、デマだ!」と言うのは馬鹿バカしいですね。そう捉えることも十分可能。その上で、そう捉えた上での評価がおかしいという話です。

ヘイト・ヘイトスピーチ、人種差別の定義について

人種差別撤廃条約上の「人種差別」については上記にまとめてあります。

ヘイト規制法上の「ヘイトスピーチ=本邦外出身者に対する不当な差別的言動」は、デフォルメして言えば「一定の特定された個人や集団に対して地域社会から排除することを煽動する権利侵害行為」です。

これに対して、一般用語としてのヘイトスピーチはもっと広い概念であり、法務省も「明確な定義はない」としています。「差別」とも違います。ただ、差別とヘイトはしばしば同義として使用されている面があります。

公約数的な意味としては、特定の集団に対してその集団の属性を理由として何らかの危害を加える旨を告知したり、差別意識を助長したり、地域社会から排除する言動であると言えます。日本語の表記の通り、「憎悪表現」というものから離れた表現は、ヘイトではないと言えるでしょう。

「ヘイト」という言葉に明確な定義がないため、フェイクメディアは何かが起こると「ヘイトであるという評価」を加えて論じることが多いです。「ヘイト利権」と作るために躍起になっているのが伺えます。

今回の作品中の言及は、現実の中国人に対する憎悪を助長するような表現であるとは言えません。よって、法的な意味においても、一般的な意味においても「ヘイトスピーチ」が作中に含まれているとは言えません。

なお、まいん氏の問題とされるツイートは、法的な意味での人種差別やヘイトスピーチではありません。ただ、一般的な意味におけるヘイトスピーチと捉えることは可能であり、日本人の私が見てもこのような論評の仕方はいかがなものかと思うものでした。特に全世界に顧客を抱え得る日本のアニメの原作者の言動としてはいささか不注意であると言えるでしょう。

ソンミ氏について

ツイッター界隈では、なぜかソンミ氏(@SonmiChina)がツイッターで拡散した結果、支那人の怒りに火をつけたという因果関係が論じられていますが、時系列的に無理であり、事実と異なります。

今は削除されていますが、ソンミ氏がこの件を最初に取り上げたのは5月31日です。

再掲しますが、以下のサイトは5月30日にUPされています。他のサイトはそれ以前にUPされています。

この記事の中で既に中国のネチズンの間で騒がれていたということが記述されていますから「ソンミ氏が中国の世論を煽った」ということにはなりません。

ただ、こちらでは特定の文言で検索をかけたものをスクショに撮ったものをわざわざツイートしていることから、日本における議論の一定の方向付けはしていると言えるでしょう。

小括

  1. 「二度目の人生を異世界で」は小説版とマンガ版がある、出版社は別
  2. 今回出版停止となったのは現時点では小説版のみ
  3. 小説版の作品の内容が中国で問題視された
  4. 作者のツイートの内容が問題視された
  5. 小説版の出版社であるホビージャパンが出版停止した理由は現時点で不明確
  6. ホビージャパンも中国メディア・世論も、「ヘイト・人種差別だから」問題視したのではない
  7. 「ソンミ氏がデマを拡散した」「ソンミ氏が中国世論を焚き付けた」というのは無理がある

まずはこの事実関係の把握が基本です。

表現の自由の問題

さて、本件は「表現の自由を脅かす事案」であると言えます。

ただし、直接に憲法21条1項の表現の自由が問題になる事案ではありません。

憲法問題の適用範囲外

公権力側が国民の保護範囲にある権利利益を侵害する場合に憲法違反の話となります。

出版差し止めが可能となる基準について判示した判例で本件と近いのは、人格権に基づく請求によって流通していた小説の販売の差止決定をした「石に泳ぐ魚」事件の最高裁判決です。

しかし、今回は私人であるHJという当該作品の出版社たる企業が自主的に出荷停止をした事案であり、国家機関たる裁判所に対して差止めを求めたり裁判所が差止めをした事案ではありません。

本件の場合は、HJと著作権者のまいん氏との間の出版契約の問題です。

両者の間でどのような出版契約が交わされているのか?という点が不明確な以上、これより踏み込んで論じることはできません。

ただ、一般的には過去作品も含めた出版停止は異例であり、まいん氏側は何らかの請求ができそうな気がします。もっとも、まいん氏側は作品の修正による出版再開を目指していることをツイートしており、現時点では出版社側と争うことはしない方針のようです。

出荷停止の是非

従来、出版社は具体的個人の名誉毀損表現があるなど、よほどのことが無い限り表現の自由を守るために差止め要求には応じないという姿勢であるのが一般的でした。

更に、不適切な表現があったにしても、それは18巻にも渡るまいん氏の作品の一部のページの中の話です。その表現が不適切であるというならば、他の全ての巻の出荷停止をする必然性はありません。ここに、作品外のツイートを問題視していることの影響があるかもしれません。

しかも、今回出版社が問題視したのは5年前のツイートの発言内容です。過去の発言を取り上げて出荷停止判断において考慮したとすれば、おそらく初めての事例です。

なので、今回のホビージャパンの対応は異例のものとして受け止められています。

今回、作品やツイートによって誰か特定個人や団体の具体的な権利が侵害されたということは全くありません。それは既に示した作品の内容やツイートの内容からも明らかです。にもかかわらず、なぜHJはこのような対応をしたのでしょうか?

商売上の経営判断にかかわる話であると思われるので踏み込むのは避けますが、仮に「外国人や利権団体からの圧力に屈した」というのであれば、会社内部の判断の問題として片づけてよいものではないと言えます。

その場合は、昨年6月に一橋大学の学園祭で予定されていた百田尚樹氏の講演が中止になった事案と類似した事態と見ることが可能です。この件では、学園祭の主たる参加者ではない大学院生たる梁英聖の反対運動や、学外の者による圧力の影響がありました。

以下の記事では「苦情などの問い合わせは来ていない」とあります。

すると、「外部からの圧力」の可能性があるとすれば、一担当者レベルではなく経営陣レベルへのダイレクトな働きかけが考えられます。その場合は事実そのものを隠すでしょうね。ネット上では既にそのような情報もありますが、不確定です。

他にも中国ネットで大使館への通報呼びかけがあったようですが、今回の事に何か影響を与えたと直ちには言えません。

出版社の価値

本件は出版業界全体の存在意義が問われる事態に発展しかねない要素を含んでいます。

漫画家や絵師は出版社を通して出版した紙の本の印税収入が主な収入源であるのがこれまでの常識でした。

しかし、ポプテピピックで有名になったまんがライフWINなどのWEB漫画サービスがあり、さらにはnoteなどのWEBサービスを利用して個人が「出版」することが容易になっています。

このように、ニュースサイトやブログ掲載サービスを通さなくても、個人で簡単に記事を「販売」することが可能です。漫画も同じことができます。

もしも出版業界が作者の作品を簡単に出荷停止するという態度で、作者を守らない姿勢であるというなら、作者は自分で出版する方向に舵を切るでしょう。そのような世の中になれば、出版業界そのものが大打撃です。ホビージャパンの判断は、このような流れを誘発しかねないという危険性を孕んでいると言えます。

まとめ

  1. 本件は直接的には表現の自由という憲法上の権利の話というよりは、HJ社と著作権者まいん氏の間の出版契約の問題
  2. 当事者の出版契約の中身は分からないので、出版社の行為が違法かどうかは判断がつかないため、踏み込まない
  3. ただし、「二度目の人生を異世界で」の出荷停止の本当の理由が「圧力」であったなら表現の自由を揺るがす問題であるとともに、出版業界の存在意義が問われる話になる

本件で重要な動きがあればまた言及しようと思います。

以上

弁護士への「大量」不当懲戒請求:余命信者と佐々木・北弁護士の和解の論点

 

f:id:Nathannate:20180607003621j:plain

弁護士に対する「大量の」不当懲戒請求事案が発生し、一部の弁護士が懲戒請求者に対して訴訟予告をしたことで様々な議論がネット上で湧き上がっています。

しかし、未だに事実を把握しないで混乱したまま議論がなされている事に加え、法的素養や体系的知識の無い者がいいかげんな事を言っているので、状況は混乱してきたとも言えます。

この記事では不当懲戒請求事案の事実の概要と各所で論じられている論点について簡潔に紹介することを目的にします。

「大量の」懲戒請求事案の大枠

余命信者の弁護士への大量不当懲戒請求

弁護士への「大量の」懲戒請求事案の概要図

ある一つのブログによる懲戒請求の呼びかけがきっかけで、現時点で全国の弁護士会に約13万件もの懲戒請求がなされています。

ここでは全ての懲戒請求を網羅するのではなく、最も有名な佐々木・北弁護士の事案をはじめとして、ツイッター上で引き合いに出されることの多い弁護士の事案を紹介するにとどめます。

「余命三年時事日記」というブログが呼びかけた懲戒請求事由

「余命三年時事日記」(以下、余命ブログ)において、懲戒請求が呼びかけられたのが事の発端です。このブログは「余命三年」と謳っていますが、初代のブログ運営者の方が既にお亡くなりになられており、現在は二代目、三代目Aときて「三代目B」が運営しているとされています。氏名等は伏せられていますが、年齢は70歳くらいと言われています。

「憲法上認められない朝鮮学校への補助金支給を要求する声明を弁護士会が出したことに関与したこと」

これが一連の懲戒請求の発端となった懲戒事由です。事実経過の概要は以下です

  1. 日弁連をはじめ、各単位会(東京弁護士会や神奈川県弁護士会)が朝鮮学校への補助金停止に関する非難声明を出した
  2. 「余命ブログ」において上記声明が問題視され、懲戒請求の呼びかけがなされた
  3. 各弁護士会に対して①個別の弁護士に対する懲戒請求、及び②それとは別個に弁護士会に所属する弁護士全員の懲戒請求を求める申立が多数(別個の個人から960通)なされた
    ※佐々木弁護士に対しては3300件
  4. 懲戒請求の対象となった弁護士のうち、懲戒請求が不法行為であるとして懲戒請求者に対して訴訟提起、或いは訴訟予告と和解提案を行った

東京弁護士会に関しては余命ブログのこちらのページが確認できます。
魚拓:http://archive.is/8S3uc
ちなみに当該ブログでは検索窓がありますが、現時点で複数語での検索には対応していません。

今回の大量の不当懲戒請求事案の把握で注意すべきは以下の点です。

  1. 朝鮮学校への補助金支給声明を出した、或いはそれに関与した事が懲戒事由になるかどうかは現時点で不明
  2. 弁護士会の宣言に弁護士が関与したのかを検証していない者が多い
  3. 朝鮮学校への補助金支給声明を理由とした懲戒請求ではないものが多く含まれている

紹介する各弁護士に対する懲戒請求では、目を疑うような懲戒請求書が出てきます。

なお、弁護士会に所属する弁護士全員の懲戒請求については、各弁護士会が綱紀委員会による手続を進行させないということを決定しています。

日弁連大量懲戒請求への声明

https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2017/171225.html

朝鮮学校への補助金支給について

憲法89条において、公金は公の支配に属しない事業に支出等をしてはならないと定められており、朝鮮学校は「公の支配に属しない」ため、朝鮮学校への補助金支給は違憲ではないか?と言われています。

ただ、これまで朝鮮学校に補助金が支給されていたものを支給停止とする措置が取られたこと、補助金の支給権限は国ではなく自治体にあり、自治体が補助金を支給しないとするのは違憲ではないが、補助金を支給することが違憲・違法になるものではないのではないか?という反論がなされています。

実は、普通の私立大学への補助金支給についても同様の問題点が指摘されています。

要するに、現時点で朝鮮学校への補助金支給が違憲・違法かどうかは確定していないということです。

東京弁護士会の佐々木亮、北周士の2人の弁護士への不当懲戒請求

余命信者の佐々木亮弁護士への大量不当懲戒請求

余命信者の佐々木亮弁護士への大量不当懲戒請求

佐々木亮(ささき りょう)=ささきりょう@ssk_ryo

北周士(きた かねひと)=ノースライム@noooooooorth

2人とも東京弁護士会の朝鮮学校への補助金支給提案には関与していません。

「関与していないという証拠を出せ」という人は一度これを読んでください 

佐々木・北両弁護士への懲戒請求の顛末

こちらのツイートに連なるリプ欄で事情が紹介されています。

北弁護士に関しては、佐々木弁護士のツイートに賛意を示したことを理由として懲戒請求がなされています。それがこちら。

以上より、佐々木・北弁護士への懲戒請求事案の概要は以下です。

  1. 余命信者が、佐々木弁護士に対して、弁護士会が朝鮮学校への補助金支給要求声明を出したことに関与したとして懲戒請求書が送付された(事実は、佐々木弁護士は関与なし)
  2. 佐々木弁護士が懲戒請求について根拠がないとするツイートをした
  3. 北弁護士が上記ツイートに対して賛成のツイートをした
  4. 余命信者が、北弁護士に対して、佐々木弁護士のツイートに賛意を示したことを懲戒事由とする懲戒請求を為した
  5. その他、意味不明な内容の懲戒請求書が送られる

要するに両弁護士は「完全なる被害者」であるという事が大前提ということになります。

後述しますが、不当な懲戒請求に対して不法行為であるとして訴訟を提起するのは判例上も認められています。 

提訴予告

現時点(2018年6月7日)ではまだ提訴していません。

提訴は6月末を予定しており、和解をする場合には訴訟を提起しないということ。

和解条件は弁護士一人あたり5万円=10万円の慰謝料相当の金額を支払えというもの。

この二人の弁護士の言動については様々な議論が行われているので改めて後述します。

東京弁護士会の小倉弁護士への不当懲戒請求

余命信者の小倉秀夫弁護士への大量不当懲戒請求

上記画像で示した小倉弁護士への懲戒請求書の一例はこちらです。

小倉弁護士もまた、朝鮮学校への補助金支給要求声明とは全く無関係です。

彼も同様に不当懲戒請求者に対して訴訟予告をし、和解提案をしています。

小倉弁護士の提案する和解金額は一人10万円です。

細かい和解条件はこちらにUPされているひな形で確認できます。
魚拓はこちらこちらです。

この和解条件についても疑問点はありますが、ここでは触れません。

神奈川県弁護士会の神原元弁護士への懲戒請求

ブログ記事のタイトルと異なり、この見出しには「不当」という文字が入っていないことに注意していただきたいです。

弁護士神原元@kambara7。懲戒請求の内容は以下のような文言です。

「違法である朝鮮学校補助金支給要求声明に賛同し、その活動を推進する行為は、日弁連のみならず当会でも積極的に行われている二重、三重の確信的犯罪行為である」
魚拓:http://archive.is/DX4sS

これに対して神原弁護士は「少なくとも朝鮮学校補助金要求に関連して違法行為をした事実はまったくない」「存在しない事実について、あえて懲戒請求を申し立てていたことが明らかだ」としています。

現時点で、被告数や請求額などは明らかにされていません。

こちらは既に提訴済みです。弁護士会は綱紀委員会が懲戒不相当の決定をしています。 

こちらも訴訟前に和解提案をしていたようですが、条件は不明です。

このように、神原弁護士に関しては、彼は朝鮮学校への補助金支給に賛同していることから『懲戒事由が全くの事実無根』という事案ではないことがわかります。

朝鮮学校への補助金支給を求める言動が違法かというと、表現の自由があるので違法ではないです(断言)。それが弁護士として或いは一般的な話として適切な言動かどうかはともかく。

ただ、神原弁護士が言うような「存在しない事実について、あえて懲戒請求を申し立てていた」と言えるものかどうかは私は疑問です。「違法」は評価の問題ですからね。

ネット上で懲戒請求者に対して訴訟提起した弁護士が叩かれているのは、神原弁護士の事案と混同していることが往々にしてあるので注意すべきです。

その他の弁護士への懲戒請求

札幌弁護士会の猪野亨弁護士に対して懲戒事由として請求された事実は「言論の自由を逸脱しており、国策を害する発言である」というだけでのものであり、最高裁判例の基準に照らせば不法行為になります。

猪野弁護士は、懲戒請求者に対する訴訟提起はしない方針です。

全国13万件もある懲戒請求事案ですが、弁護士によって対応方針は様々なようです。

神奈川県弁護士会の嶋崎量弁護士も佐々木弁護士のツイートに賛意を示したことが懲戒理由として591件の請求を受けています。

懲戒請求者に対する訴訟宣言をしたことが懲戒事由だとして第二次懲戒請求も受けています。

大量懲戒請求を受けた弁護士の紹介についてはこの辺りに留めます。

懲戒請求が不法行為となる場合についての最高裁判例

最高裁は、弁護士への懲戒請求そのものが不法行為となる場合があることを認めています。不法行為となる要件についても判示しています。

最高裁判所第3小法廷 平成17年(受)第2126号 損害賠償請求事件 平成19年4月24日

「懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において,請求者が,そのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに,あえて懲戒を請求するなど,懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには,違法な懲戒請求として不法行為を構成すると解するのが相当である。」

今回、朝鮮学校への補助金支給要求声明に関与していない弁護士(佐々木・北・小倉、各弁護士)に対する懲戒請求は、この要件に当てはまります。

なお、この判例を「過失」について述べたものと捉えたり、佐々木・北・小倉、各弁護士に対する懲戒請求は故意が無いなどと言っている者は衒学者なので無視します。

ささきりょう・ノースライム両弁護士の事案について

両弁護士の発言・行動については各所から批判がなされました。

一般人の懲戒請求者相手の訴訟提起そのものについて

橋下さんはこう言ってますが、こういう場合はどうでしょうか?

【一般人たる反日外国人が、保守派の弁護士に対して大量に不当懲戒請求を行った】

「一般人だから許される」という論は、この結論を受け入れざるを得ないということになります。たとえば支那で日本人の個人情報が大量に売買されていますが、日本人の個人情報を悪用した大量の不当懲戒請求も可能になるということになります。

これはどう考えてもおかしいので、この論に乗っかっている人は橋下さんに甘えているだけです。橋下さんは自らも弁護士なので、弁護士に対して自律を促すための表現だったのかもしれません。

弁護士である以前に、一人の人間です。訴訟を提起する権利は何人にもあるのであり(憲法32条)、それを弁護士だからと言って制限することは無理があります。

また、橋下さんの意図・目的は弁護士会の仕組みの改善なので、上記の意見は単なる議論のきっかけに過ぎないものだと受け止めています。他の観点について橋下さんのこの件に関する批判は傾聴に値します。

橋下さんは、『弁護士の負担は弁護士会の手続によるものだから、弁護士は弁護士会を訴えるべきで、懲戒請求者を訴えるのは妥当ではない』という趣旨の主張もしています。

判例とは異なる見解ですが、制度論としては十分あり得るものです。

なお、「訴訟予告そのものが問題である」と言う者は、一度冷静になって頂きたい。

いきなり訴訟を起こされるのと、その前に和解条件を提示して心の準備をさせることのどちらが嫌なのか?

請求額や和解金額が過大であるという指摘

こちらについては弁護士の中でも見解が分かれています。

相反する視点が2つあります。

  1. 賠償額は弁護士が受けた損害(実損と慰謝料)を填補するための範囲にとどまるのではないか
  2. 損害の填補だけでは不法行為者=懲戒請求者の負担が低額になってしまい、将来の不法行為の抑止の観点からもよくないのではないか?

この論点は難解なので、別途記事を書く予定です。

私は、弁護士には弁護士自治が認められていることから綱紀委員会が濫訴の防止の機能を果たすはずなのに、それを怠っているのではないか?という点から請求額が妥当かどうかを考えていきます。

訴訟提起に当たってカンパを募った点

神原弁護士のツイートは自身の事案についてのものですが、彼をして、カンパを募るのは十分な検討が必要、という認識であるということです。

カンパが「品位を失うべき非行」という懲戒事由にあたるかは議論の余地があります。

弁護士会の懲戒手続の仕組みについての批判

弁護士会は懲戒請求があった場合、申立書の写しを対象弁護士に交付しています。

このようなフローが個人情報保護法や公益通報者保護法の理念・精神に反するのではないか?というのが小坪慎也さんの問題意識です。

個人情報保護法違反になるかというとかなり疑問ではありますが、このような制度が好ましいかどうかという議論はあってしかるべきだと思います。

まとめ

  1. 佐々木・北・小倉弁護士は朝鮮学校の補助金支給要求声明と全くの無関係
  2. 佐々木・北・小倉弁護士は「被害者」であることが大前提
  3. 弁護士各人の事案はそれぞれ微妙に異なるため、安易に論じてはいけない。特に神原弁護士の事案と混同しないように。
  4. 一般人たる懲戒請求者に対する訴訟は許されないという論は、反日外国人による保守派弁護士への攻撃を許容する暴論

事実が整理されないで誤解・混同されたままいいかげんな事を言っている者が居るので注意しましょう。

各弁護士の懲戒事由とされたものは何なのか?各弁護士は懲戒事由に掲げられた行為を行ったのか?この事実を認識した上で、建設的な議論をしていくべきです。

※追記:違法適法・弁護士の品位・当不当の問題

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懲戒請求の問題について論じる場合、上記画像の3つの次元の話を切り分けて考えると議論が整理できます。ある行為について「問題だ」と言うとき、それはどのレベルの話なのか?無自覚なまま論じると議論がかみ合わなくなることがあるので気を付けましょう。

違法か適法かの次元

1番目の「違法か適法か」の議論は弁護士、懲戒請求者、弁護士会の各主体において論じられる話です。端的に法律の規定に反する行いをしているかどうかの話です。

ただ、「その行為は違法だとしても妥当である」という議論をしたい場合にはそれなりの根拠が求められるということになります。

弁護士の品位を失うかの次元

2番目は弁護士個人に特有の話です。ある行為が違法として損害賠償をくらったり刑罰を受けたりするまでは行かないにしろ、弁護士法に定められる懲戒事由には該当するのではないか?という議論の話です。

「違法であれば弁護士の品位を失うと言える」と一応言えると思います。

「違法だが、弁護士の品位を失うとは言えない」「弁護士の品位を失うが妥当」という領域があるのかどうか、私は知りません。

ここの議論は必ず通過しなければならない、というわけではありません。無視して1番目から3番目の次元の議論に移っても問題ありません。

妥当か不当かの次元

3番目は、1番目と2番目のフィルターをクリアして、現行法の枠組みの中では問題ないということになったとしても、「あるべき理想」から考えた場合にどうか?という議論の枠組みです。「立法論」「制度論」の話とも言えます。

このレベルの話は現行法には無いルールを適用すべき、あるいは結論を変えるべきという話ですので、現行法では義務のない行為を求めたり、違法となる行為を適切であると言及したりすることができます。

この枠組みを提示した理由

ツイッターなどで往々にして議論のすれ違いが起こるのは、この議論の次元がずれている場合が多いからです。

このズレは誰かに問題がない場合が多く、お互いに立場を明示することで不毛な言い争いは減ると思います。

弁護士の懲戒請求についてはそれなりに多くの一般人も論じ始めているので、建設的な議論をするために上記枠組みを意識して頂ければと思います。

以上

『朝日新聞が「隠蔽目的で」首相動静記事を削除』は不合理:KSL-Live!の分析を補強する

f:id:Nathannate:20180524001112j:plain

朝日新聞の2015年2月25日の首相動静記事が削除されている事に関して。

削除されていることはその通りですが(別の場所に移動)、「隠蔽目的で」削除されているという可能性は非常に低いです。

ネット上で「隠蔽目的」では?との指摘があり、有名な媒体としてはnetgeekやShare News Japanがその結論を前提に記事を書いたため、それらをSNS上で各人が引用したことで更に拡散されました。

しかし、KSL-Live!の検証によって、隠蔽目的で削除されたという可能性は非常に低いということが明らかになりました。

更に、netgeek以外にもツイッター上で証拠のWEB魚拓なるデマが再拡散されており、こちらは完全に捏造デマだということがKSLの検証によって明確になりました。

なお、他にも「B」を頭文字にするネットメディアが「意図的隠蔽」はデマだとする記事を書いてますが、KSLに後れること半日以上であり、証拠を示しているようで全く説明になってないものでした。

この記事はKSLの検証の補強をする後追い記事ですが、今後私たちがネット上の情報の扱いについてどのように注意していけばよいのかを整理していきます。むしろこっちが本編。 

KSL-Live!の検証の概要

上記の記事の概要は以下です。

  1. 21日夕方に「愛媛県の新文書」報道がなされる。
  2. ネット上で首相動静との比較対照が行われるが、情報源は首相動静をまとめていた個人ブログ
  3. 各所が情報源としている個人ツイート主は朝日新聞の2015年2月26日の記事は22日朝まで見れたと主張
  4. しかし、今日に至るまで、他に有力な証言者が存在しない
  5. その後、情報源の個人ツイート主が「証拠のWEB魚拓」なるものを同志が保存していたとしてUP
  6. しかし、そのWEB魚拓が捏造であることをKSLが検証

この辺りは詳しくはKSLさんの記事を参照してください。

朝日新聞が「隠蔽目的で」削除したのはデマなのか? 

netgeek、ネットギークの首相動静デマ

出典:netgeek.biz/archives/118939:時事事件の報道のための利用

この判断は私はKSLさんとは若干異なりますが、「そのような目的で最近削除した可能性は非常に低い」とだけ言っておきます。その理由は以下です。

  1. 最近の魚拓が存在しない
  2. 5月22日まで見れたと言う者がツイート主のみ(他の証言者も居ることには居るが、ツイート主にリプライをつけるだけで質問に答えず信憑性なし)
  3. そのツイート主が証拠として挙げたWEB魚拓が捏造
  4. 動機の欠如:朝日新聞自体が、当日の首相動静には安倍総理と加計孝太郎理事長が面会したという情報は無いという趣旨の記事を書いているため、首相動静の記事を消す理由がない
  5. 効果の不存在:朝日新聞の紙媒体では首相動静は残っているため、わざわざWEB上の情報だけ消しても証拠隠滅の目的が達成できない
  6. 朝日新聞の過去記事は約1年で自動削除となるものがほとんどであり、一部は残っているとしてもそれは例外であって、最近の記事が削除されていないと言う理由にはならない

ただし、本当にツイート主は削除前の記事を見たかもしれず、最近になって朝日新聞の担当者が削除されていないことに気付いて手動で削除したかもしれません。この可能性は極々低いですが残ります。

Share-News-Japanの朝日首相動静記事

出典:https://snjpn.net/archives/52328:時事事件の報道のための利用

しかしながら、原則としては「隠蔽目的」で朝日新聞が削除したと言う者が証拠を提示するべき状態なので、現状ではデマと呼んでもよい情況であると言えます。

なお、特設ページに移された首相動静は過去のものでも閲覧可能であることが分かっていますが、今回とは無関係です。

「証拠のWEB魚拓」という捏造デマ

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こちらのarchive.todayが提供しているarchive.isの魚拓が「証拠のWEB魚拓」とされたものです(URL=http://archive.is/xYgkP)。

証拠のWEB魚拓はなぜデマなのか

右上の保存日時が2018年5月21日となっていることから、最近まで見れたのではないかと言われていますが、KSLさんが指摘するように完全なる捏造デマです。

まず、「原本」とあるhttps://www.asahi.com/articles/ASH2T677VH2TULFA02T.htmlこちらのURLが現在は削除されている朝日新聞の元のURLですが、右側を見ると2015年8月14日の保存となっています。注意してほしいのですが、こちらは上記の画像の魚拓元ではありません。

上記の画像の魚拓元は、赤枠の一番上のhttps://web.archive.org/web/20150814215204/https://www.asahi.com/articles/ASH2T677VH2TULFA02T.htmlというURLです。こちらのページは、Internet archiveが提供しているWaybackMachineというWEB魚拓です。

つまりはこういうことです。

  1. 2015年8月にWaybackMachineで魚拓が採られた
  2. 2018年5月にarchive.isでWaybackMachineのページが再度魚拓をとられた

要するに、「魚拓の魚拓」を見ているということになります。

そもそも、このページの上部にURLが3つも並んでいるのは異常です。

通常は1つの元URL(原本URL)しか表示されません。

なお「UTC」は「協定世界時」を指し、日本時間の「JST」より9時間遅い時間帯です(要するにイギリスのグリニッジ基準)。なので、上記の表示時間に9時間を足したのが日本時間での魚拓を取った時間です。

朝日新聞デジタルのサイトデザインが変更されている

そして、次の画像の緑枠を見ていただきたい。

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これは2018年5月23日に魚拓を取った別の記事(http://archive.is/jEFVV)のものです。

「新規登録」「ログイン」「メニュー」という表示が、最初に示した魚拓と異なっていることに気が付きます。この部分は記事にかかわらず朝日新聞デジタルのページで統一された表記になっています。

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こちらはまた別の記事https://archive.is/LU2sd:元URL=https://www.asahi.com/articles/ASL385T4VL38UTIL03N.html)ですが、2018年3月9日に魚拓をとったものです。森友文書の記事です。

5月23日にとった魚拓と同じ表示になっていますね。

つまり、5月21~23日の間にサイトデザインの変更があった可能性はゼロです。

よって、証拠のWEB魚拓とされたhttp://archive.is/xYgkPの魚拓と上記2つの魚拓には時間的な隔たりがあるということがこれで明確になりました。

したがって、証拠のWEB魚拓とされたhttp://archive.is/xYgkPは、22日朝まで2015年2月25日の首相動静が書いてある26日の記事が削除されていなかったことを示す証拠にはなり得ないということが分かります。

さらに、このような証拠は意図的に作られたということも明らかになりました。

ソーシャルランキングについて

朝日新聞の首相動静

これは先ほどの証拠とされたWEB魚拓http://archive.is/xYgkP)のページ下部ですが、ソーシャルランキングの欄を見ると、「万引き家族」の記事があります。これは今年春にパルムドールを受賞したドラマ映画ですから、最近になって保存されたものではないか?と思う人が出てきています。

しかし、注目すべきは、他のところです。アクセスランキングにはあの野々村氏の話題や安倍首相の戦後70年談話など、明らかに2015年の話題がランクインしています。

要するに、ソーシャルランキングが現在の話題だからと言って、魚拓が現在取られたと言うことはできないということです。

なぜソーシャルランキングの表示だけ異なっているのか?

朝日新聞の首相動静

こちらの魚拓は上記で示した森友文書の記事のページhttps://archive.is/LU2sd(元URL=https://www.asahi.com/articles/ASL385T4VL38UTIL03N.html)で、2018年3月9日(UTCでは8日)にとられたものです。アクセスランキングとソーシャルランキングは当時のものになっているのがわかります。

ここで疑問なのは、なぜ「証拠のWEB魚拓」とされたhttp://archive.is/xYgkPでは両者は異なっていたのか?ということ。

以下の森友文書の記事のページのWaybackMachine上のスクショ画像がヒントではないかと思います。

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森友文書の記事のページをWaybackMachineで魚拓を取ると(URL:https://web.archive.org/web/20180308203746/https://www.asahi.com/articles/ASL385T4VL38UTIL03N.html)、アクセスランキングとソーシャルランキングはこのような見え方になります。

元URLはhttps://www.asahi.com/articles/ASL385T4VL38UTIL03N.htmlで同じなのに、ソーシャルランキングの見え方は2018年5月23日に話題になっているものになっています(アクセスランキングも若干違っているのは、魚拓が取られた時点が若干異なるからです)。

要するに、archive.isとは異なり、WaybackMachineの魚拓では、ソーシャルランキングは現在のものを参照するということです。

なので、「証拠のWEB魚拓」とされたhttp://archive.is/xYgkPでは、このWaybackMachineの魚拓上のソーシャルランキングの表記を魚拓として保存されたということではないでしょうか?

このあたりの仕組みについては明確には言えませんが、事実からはこのような推測が十分に可能でしょう。

小括

  1. 朝日新聞が「隠蔽目的で」首相動静の記事を削除したというのは、現時点ではデマと言ってよいが、そうではない可能性は理論上は残っている
  2. 証拠のWEB魚拓とされたものは、100%捏造デマ

今回の件によって、ネット上で「証拠」とされているものの信憑性判断について教訓を得ました。

ネット上の情報の証拠の信憑性判断

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既に示しましたが、このような表記は明らかに異常です。

アーカイブ元のURLとして3つも表示されることは通常はありません。

このような魚拓が出された場合、信憑性は無いものとして扱うべきでしょう。

なお、WEB魚拓ではなく、通常の魚拓、いわゆるスクリーンショットについても、注意が必要です。

スクリーンショットも100%信用していいかというと、そうではないということです。おそらく改ざんの痕跡は残るのでしょうが、それを見抜ける人がどれだけいるかという話ですね。

このような可能性を考えながら、情報は精査していかなければなりません。

バイラルメディアについて

今回、バイラルメディアと呼ばれるサイトが安易な結論を元に報じていましたので触れざるを得ません。

バイラルメディアとは

バイラルメディアとは、普通のニュースサイトとは別の観点からの定義づけがなされているサイトを表す用語です。

通常のサイトは基本的に「検索流入」によるアクセスを主目的に記事を書きます。

しかし、バイラルメディアは「SNSからの流入」によるアクセスを主目的にする ものです。ここが違いであり、「このサイトはバイラルメディアだ」と言い切るのが難しい場合もあります。
※「まとめサイト」は基本的に検索流入を目指しているというのが一般的ですが、実態はよくわかりません。

SNS拡散による流入を目指すので(「バズ」を起こそうと意図的に行動している)、必然的にショッキングな映像、画像、キャッチーなタイトルや内容になる傾向があります。

ほぼ独自取材や分析がなく(一部あるが)、ネット上に「落ちている」情報を拾ってつなぎ合わせて記事を作成していることがほとんどです。

報道機関ではないバイラルメディア

もう一つの問題として、多くのバイラルメディアは、さも報道機関かのように錯覚するような体裁・デザインのものがあるということです。そのようなサイトであるにもかかわらず、住所氏名等が公開されていないサイトもあります。

バイラルメディアの社会的影響力がどれほどあるかは不明ですが、ツイッターで引用されている状況を見ると、ネット上ではかなりの知名度を誇るサイトがあるのも事実です。

上記の記事は、地方議員がそのようなバイラルメディアが無責任な報道を行っている例を元に、バイラルメディアを規制する必要性を国会議員に陳情しに行ったということを示すものです。

バイラルメディアとどうつきあっていくか

最初にバイラルメディアはショッキングな映像、画像、キャッチーなタイトルや内容になる傾向があると指摘しました。そのような煽動的なツイートや投稿を見たら、一度冷静になること、安易にシェアせず、時間を置いてからにするなど、個人が慎重な対応をするべきであるということになります。

たとえば、個人のツイートを「ネット上の声」として紹介することがあります。それはそれでいいのです。しかし、情報ソースとして、何らのソースを提示していない個人のツイートを用いている場合には、その記事は一旦は信用しないべきでしょう。今回もそのようなケースでした。

そして、そのような記事を著名人がツイート等で拡散していることもあるので注意です。

自分の記事をツイートしていて分かるのですが、リツイートされた数よりも記事に飛んで閲覧した人の数は少ないです。ですから、マスメディアはタイトル詐欺を行います。

拡散前に一度、記事を見ること。

これだけで、不用意にデマを拡散していくことは少なくなります。

私も記事を書いて発信していく以上、注意していきます。

以上