事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

RADWIMPSのHINOMARUに対する抗議デモ者が道交法違反で逮捕:喜久山弁護士の主張の是非

RADWIMPS-HINOMARU抗議デモ道交法違反

RADWIMPSの歌曲「HINOMARU」の歌詞に対して、「ヘイトである」「HINOMARUを廃盤にしろ」という主張をしていたグループの男が違法停車の道交法違反で逮捕されました。

被逮捕者の弁護人である喜久山大貴氏が以下のように神戸警察の行為はおかしいと反論しています。

 魚拓:http://archive.is/Saest

ここではこの主張の当否を予想したいと思います。

喜久山弁護士の主張の概要

  1. 被逮捕者の行為は道路交通法違反ではない
  2. よって、道交法違反行為を前提とする免許証提示義務は不発生
  3. 免許証提示義務がないのだから免許証不提示による逮捕も理由がない
  4. また、逮捕にあたっての警察の手続もおかしい
  5. したがって、神戸警察の逮捕は不当かつ違法である

喜久山弁護士の主張を大雑把にまとめるとこんな感じです。

1番目の道路交通法違反があったかどうか?という点がこの事案のキーポイントです。

ここが崩れると、喜久山弁護士の立論は成立しなくなります。

道路交通法違反による逮捕に対する反論

ツイートの画像にある2ページ目の「4:道交法違反の不成立」以下の主張は大きく2つに分けられます。

  1. そもそも事件当時は当該場所は法的には「交差点」にあたらず、停車禁止ではない。
  2. 車の周囲に警察官が居たことから車を発進できなかったのであり、警察官と押し問答していたこと等で時間経過したのであって、7分の停車を理由とする逮捕は不当である

さて、事件当時、道路の状況はどうなっていたでしょうか?

RADWIMPS会場前の道路は「交差点」にあたるか?

HINOMARU抗議デモ喜久山弁護士

道路交通法

2条 -省略ー

五 交差点 十字路、丁字路その他二以上の道路が交わる場合における当該二以上の道路(歩道と車道の区別のある道路においては、車道)の交わる部分をいう。

第四十四条 車両は、道路標識等により停車及び駐車が禁止されている道路の部分及び次に掲げるその他の道路の部分においては、法令の規定若しくは警察官の命令により、又は危険を防止するため一時停止する場合のほか、停車し、又は駐車してはならない。ただし、乗合自動車又はトロリーバスが、その属する運行系統に係る停留所又は停留場において、乗客の乗降のため停車するとき、又は運行時間を調整するため駐車するときは、この限りでない。
一 交差点、横断歩道、自転車横断帯、踏切、軌道敷内、坂の頂上付近、勾こう配の急な坂又はトンネル
二 交差点の側端又は道路のまがりかどから五メートル以内の部分

現地はT字路(丁字路)でした。

よって、普段は法的に交差点です。マップで確認できます。

喜久山弁護士は『普段はT字路であっても、交通規制で歩行者用道路になっている部分は車が通行できないのだから、その間はT字路ではなく「直進道路」と解すべき』と主張しています。

そのため、当該道路は当時は道交法上で停車禁止が求められる「交差点」ではなく、「道路のまがりかど」にも該当しないため、被逮捕者には道交法違反の事実はないという主張です。

さて、これはどう考えるべきでしょうか?

この点は正しい答え・解釈というものを見つけることができなかったので、一般的な妥当性の観点から私の考えを披歴することになります。

RADWIMPSのライブ会場に緊急車両が入る可能性

HINOMARU抗議デモ喜久山弁護士

道路交通法

第四十条 交差点又はその附近において、緊急自動車が接近してきたときは、路面電車は交差点を避けて、車両(緊急自動車を除く。以下この条において同じ。)は交差点を避け、かつ、道路の左側(一方通行となつている道路においてその左側に寄ることが緊急自動車の通行を妨げることとなる場合にあつては、道路の右側。次項において同じ。)に寄つて一時停止しなければならない。
2 前項以外の場所において、緊急自動車が接近してきたときは、車両は、道路の左側に寄つて、これに進路を譲らなければならない。

法的に「交差点」ではないというのであれば、緊急車両が来てもその場所からどく必要は無いということになります。

これは著しくおかしいですよね。裁判所がそんな解釈をするのでしょうか?

緊急車両だけでなく、ライブのために規制がかかっている歩行者用道路内に入る車は、他にも機材搬入車両や要人を乗せた車など、複数の可能性が考えられます。まったく歩行者用道路を通行しないということは考えられません。

規制がかかっている時間帯のみ「交差点」ではないと解釈すると、このように不都合が出てきます。

そもそも喜久山弁護士は、なぜ規制がかかると「交差点」ではなくなるのかという解釈を(ツイッター上では)行っていません。それはこれから行うのでしょうが、現時点での私の感想は以上の通りです。

被疑者の弁護人としての職務

喜久山弁護士の見解の当否はともかく、弁護士は被疑者の正当性を示すためならあり得る最大限の主張をするものです。確かに、道路交通法2条の「交差点」が規制中はその法的性質が変化するといえるかどうかは裁判例がなさそうなので、主張してみる価値は十分あるでしょう。

刑事弁護はスピードが命と言われますから、多少の詰めが荒くなっても主張を組み立てて正当化しなければならない場面は相当あると思われます。

そういった弁護人としての職務がある一方で彼を批判する者も居ますが、近時、大量の不当懲戒請求があったことを踏まえると、冷静になって頂きたいと思います。

「HINOMARUヘイト」事件の経過

 

身柄拘束は解かれたようです。

ただ、今後の在宅起訴の可能性はゼロではないということですね。

起訴されれば「交差点」の解釈を問題にするのでしょうが、起訴されなくても、それは「交差点」の解釈が正しいということにはならないので、注意です。

HINOMARU(日の丸)に対する「差別」の論評

ところで、喜久山弁護士のツイートでHINOMARUに対するスタンスが垣間見えるものがあったので参考にしていきます。

魚拓:http://archive.is/mTPMJ

魚拓:http://archive.is/8izC1

 魚拓:http://archive.is/5VtXn

 魚拓:http://archive.is/A3S4s 

魚拓:http://archive.is/mHNi5

被逮捕者のツイートキャスティングの動画では、「朝鮮学校の無償化反対に抗議する」とありました。RADWIMPS関係ないですよね。

喜久山大貴弁護士

喜久山大貴弁護士

喜久山大貴弁護士

弁護士にも表現の自由が保障されています。 

同時に、私たちにも表現の自由をはじめとする様々な権利が保障されています。

その権利を行使するかどうかは個人の自己判断であり、そこには責任が伴います。

弁護士としての言動に留まる限りにおいて、そこにおける表現であれば、それは尊重されなければならないと思うのです。

さて、ここに挙げた「表現」は弁護士としての行為として尊重されなければならないでしょうか?私は決してそうは思いません。

以上

NHK受信料:イラネッチケーの購入と設置の際の3つの注意点

「イラネッチケーという商品をテレビに取り付ければそれだけでNHK受信料は払わなくてよい」

このように思う方もいらっしゃいますが、この理解は危険です。

イラネッチケーについては、正確な理解をして処置を施さないとNHKに請求される可能性があります。

また、どうしても弊害の影響が出る可能性があるため、それを認識した上で購入するべきであるという点もここで整理していきます。

NHKから死後の請求が来た場合の対処法は以下を参照

受信契約をしていない人がNHKから訴訟提起された場合の理解は以下を参照。

イラネッチケーの購入方法

2018年6月現在タイガ商事がAmazonネット通販でのみ販売しています。

製品名称:iranehk 関東広域圏向け地上波カットフィルタ― (UHF26,27ch用) IRANEHK-AK27AB26N

製品ページの商品の説明欄に注意書きが書いてあるので、確認するといいでしょう。

また、iranehk 生駒山送信所向け地上波カットフィルタ―(大阪UHF13,24ch用) IRANEHK-BK24BB13NNも販売しています。

1:イラネッチケーが有効な地域

製品名に「関東広域圏向け」 「関西地域」とあることから、一部の地域でしか使えないということがわかります。

これは関東であれば東京スカイツリーのテレビ電波が届く地域、関西は生駒山の電波が届く地域でのみ有効ということであり、関東・関西であっても使えない地域はあります。

2:イラネッチケーで他の放送が見れなくなる可能性

製品の注意書きにもありますが、他の放送電波の受信に影響を与える場合があるようです。この場合の対処方法も増幅器を使うものなどいくらかあるようですが、具体的な対処方法についてはタイガ商事が個別に相談を受け付けています。

返品も受け付けていますが、製品の初期不良を原因とする場合のみ、商品到着から3日以内に連絡するようにと書いてあります

3:イラネッチケー設置で「受信機廃止等」になる?

NHK解約の条件は「受信機の廃止をすること等」です。

結論から言えば、イラネッチケーを完全強固に固定すれば「受信機の廃止をすること等」にあたるという見解が正当だと言える状況になっています。

しかし、100%言い切ることはできません。その点について確認していきます。

事実の問題

放送受信規約では「受信機の設置」をしている場合に契約しなければなりません。

解約は「受信機を廃止すること等」に行えます。イラネッチケーを取り付けてもたとえばイラネッチケー機器の不良でNHKが見れてしまう場合には事実として受信機の廃止「等」にならないと言えます。

この場合は理論上、受信料を払わなければならないでしょう。

法的な評価の問題:立花孝志氏の裁判での東京地裁の判断

法的に受信機廃止「等」と認定されない可能性もあります。

『イラネッチケーを取り付けて現実に視聴できなくても、受信機=テレビが存在するのは確かなのだから、「受信設備の設置」は未だ継続していることになる』

このような判断をしたのが東京地方裁判所 平成27年(ワ)第26582号 受信料等請求反訴事件 平成28年7 月20日です。

 放送法及び本件規約が受信設備の「設置」という外形的事実を基準として,これに当てはまる者に放送受信契約の締結を義務付け,その者が原告の放送を実際に視聴するか否かにかかわらず,等しく受信料の支払義務を負担させるものとしていることに照らすと,本件規約9条が定める同契約の解約の要件に当たるか否かについても,同様の外形的事実を基準として判断すべきものと解するのが相当である。

 被告は,本件工事を行ったことにより,本件受信機で原告の放送を受信することはできない状態にあると主張するが,被告の主張によっても,被告の自宅に原告の行う地上系によるテレビジョン放送を受信する機能を有するデジタル放送対応テレビが設置されているという外形的事実に変わりはなく,被告が本件工事の施工を依頼した者に復元工事を依頼するなどして本件フィルターを取り外せば,本件受信機で原告の放送を視聴することができるのであるから,本件フィルターが取り付けられたことにより原告の放送のデジタル信号が遮断されて現に原告の放送を視聴することができない状態にあるとしても,これをもって,被告が「受信機を廃止すること等により,放送受信契約を要しないこととなった」ということはできない。
 したがって,本件解約届の提出によって本件契約が解約されることはなく,被告は平成28年3月分の受信料の支払義務を免れない。

これはあの「NHKから国民を守る党」の立花孝志さんが債務不存在確認訴訟を起こした事例です。東京地裁は「受信機の設置」の有無という外形的事実を基準に契約義務の発生或いは解約の成立を判断するとしています。

本件ではイラネッチケーを付けていても受信機の設置という外形的事実は変わらず、立花さんが取り付けたイラネッチケー(本件フィルター)は取り外し可能だから放送を視聴できる可能性も変わりがないとして、立花さんに受信料の支払い義務があるとしました。

イラネッチケー設置方法:取り外し容易でなければ「視聴可能性無し」?

この判決を受けて、立花さんは次のように考えました

だったら取り外せなくすればいいんじゃね?

そして、平成28年8月29日に再度、債務不存在確認訴訟を東京簡易裁判所に提起しました。訴状の中で次のように処置を施したと書いています。

原告が、平成28年8月27日に原告現住所に設置した「テレビ2」は、被告の放送だけを遮断する機能を有したカットフィルタ(以下「イラネッチケー」と言う。)が、アンナナ入力端子から取り外し出来ないように、強力な接着剤と、一度締め付けたら緩めることが出来ないボルトで取り付けられています。この取り付け方法は、もしイラネッチケーをアンテナ入力端子から取り外そうとした場合、「テレビ2」の入力端子がつぶれてしまい、「テレビ2」は、被告の放送も民放の放送も受信出来なくなる(部品取り替え修理をしないとすべての放送の受信が出来ない程度の故障になる)ように取り付けられています。

魚拓:http://archive.is/dd3yA

「取り外しが容易か否か」 という基準は、いろんな法律の解釈の場面で登場します。

結局この訴訟は平成29年1月19日に債務は不存在であるという判決になったのですが、判示は以下のようになっています。

NHKは裁判で債務が存在しないことを争わないと主張していることをもって、原告(立花)の法律上の地位の危険や不安が終局的に除去され、裁判所が容認判決をせずに訴訟を終了させても、将来に禍根を残すことがないとまでは言えない。よって、原告(立花)の本件訴えは適法である。

どういうことか。

まず、この裁判の中でNHKは立花氏に債務は存在しないことは認めていました。しかし、そもそも裁判をするようなことではないため、訴えは訴訟要件を充たさず却下(門前払い)されるべきだ、と主張していたのです。

上記の判示も、立花氏の訴訟が訴訟要件を充たしているかどうかについての判断をしているだけであり、取り外そうとすると受信機が壊れるようにイラネッチケーを取り付けたことが「受信機の廃止をすること等」にあたるかどうかは判断していません

したがって、この判決を理由として「イラネッチケーを固定すれば大丈夫」と断言することは避けたいと思いますが、これはNHKの戦略だったのだろうと思います。

NHKとしては「そこを争点にすれば受信機の廃止をすること等にあたると認定されてしまう」という認識だったのでしょうから、このNHKの訴訟を通した態度をもって、「イラネッチケーを固定すれば大丈夫」と予測するのは十分あり得るものだと思います。

裁判の経過をまとめているブログがあるのでそちらで概要を知るといいでしょう。 

東京高裁の訴訟事例における受信契約の解釈

イラネッチケー裁判とNHK受信料

では、なぜNHKはイラネッチケーを完全強固に固定されれば「受信機の廃止をすること等」にあたると考えたのか?ヒントは過去の東京高裁の別の事案の判示にあると思います。「被上告人」がNHKです。

東京高等裁判所 平成23年(ツ)第221号 放送受信料請求上告事件 平成24年2月29日

(2) 被上告人はー中略ー放送受信契約が受信機設置の時から成立し、受信料債権も受信機設置の時から発生するから、受信料債権は受信機設置の事実に起因するものであり、基本権である定期金債権が存在せずー中略ー主張するが、いずれも理由がない。すなわち、ー中略ー受信料とは文字どおり受信(視聴可能性)の対価であり、受信と受信料に対価性があることは明白である。

東京高裁は受信料は「視聴可能性の対価」と言っています。

「電波を受信したこと」 でもなく「現実の視聴」でもなく「視聴可能性」です。

つまり、テレビを持っていてもなんらかの装置が壊れてNHKの映像が見れない(音声も聞けない)という場合には「電波は受信していると言い得るけれども視聴可能性が無い」のと同様に、イラネッチケーを完全強固に固定してしまえば仮に電波は受信していると言えても視聴可能性が無いと言ってしまっていいと思われます。

まとめ

  1. イラネッチケーが有効な地域で
  2. イラネッチケーが適切に機能しているとして
  3. イラネッチケーが完全強固に固定されている場合には
  4. NHKの放送の視聴可能性がないと判断される可能性が極めて高い

「イラネッチケーを完全強固に固定すれば受信料を支払わなくていいと裁判で判決が出た」というのは事実として違いますが、「NHKの態度からはイラネッチケーを完全強固に固定すれば受信料を支払わなくていいと推測される」というのは正当な認識です。

イラネッチケーは生産量を抑えているようなので、一時的に品切れになる場合があると思いますし、大量発注ができるかはタイガ商事に相談すれば良いと思います。

NHKの放送を受信しないテレビの販売可能性

魚拓:http://archive.is/LA6yD

ソニーの株主総会で株主からNHKだけが映らないテレビ、NHKだけが録画できないブルーレイ、NHKだけが接続できないプロバイダも検討して欲しいという要望が出されました。

現状は多くのテレビ製品がBCASカード付属のものがあり、テレビ購入=受信機設置=NHKとの契約義務発生根拠となっています。

この状況が改善されればイラネッチケーは不要になるかもしれませんが、業界が簡単に動くとは思えませんし、NHKもテレビの生産に関与しているので一筋縄ではいかないでしょう。

※追記:2020年6月26日、ここで予想したことが現実となり、NHK敗訴となりました。

以上

NHKが死者の分も受信料請求:死亡後に相続人は解約手続をするべきか

魚拓:http://archive.is/Oo5Yd

なんと、NHKから既に亡くなった方の分の受信料の請求がきているとのことです。

この場合に支払い義務はあるのでしょうか?また、相続人はどのように振る舞えばいいでしょうか。

ネット上にはこの点に関してとんでもないデマがあるので、原理原則と法律の規定を確認しながら記述していきます。面倒だという人は具体的にどうすればいいのかの部分だけ見ればいいでしょう。

ここでは、典型的な家族関係の場合について記述していきます。イレギュラーな世帯環境の場合には完全には当てはまらない可能性があることを予め付記しておきます。

追取材した結果は以下

きちんと解約の手続を取りましょう

結論から言うと、まず第一に、被相続人が死亡したら、相続人はNHKに被相続人の死亡通知を送付しましょう。 「放置するのがいい」というのは、後に示しますが良いことはないので気を付けましょう。

第二に、被相続人が死亡してから解約を忘れていて年月が経っていた場合でも、相続人はまずは死亡通知を送りましょう。その上で、死亡時から通知の時点までの受信料の支払いを争うかどうかを決めるべきです。
※追記:この記事で違法なことを書くつもりはありません。相続人がNHKから請求されたときに嘘をつくよう扇動することには加担しません。NHKは相続人が誰か、通常は把握できないし答える義務もないのですが、バレる危険を冒してまで嘘をつくことはこのブログでは推奨しません。だいたい、NHKが相続人と思われる者に請求してくる時点でバレてるのではないでしょうか?

相続人ではないなら、相続人と間違われるような行動はしないようにしましょう。

解約の際の水際作戦でNHK側が嘘をついたりブラフをかましてきたりするかもしれませんが、そういった負担はまた別の話です。

なお、イラネッチケーについては以下を参照。

1:NHKの受信料債権の相続について

この問題は、故人の受信料債権を相続するのか?という話と、故人の受信契約者の地位を相続するのか?という問題は別個に論じられなければならないと言えます。

受信料債権の問題とは、故人が受信料の支払いを滞納していた場合です。

最初に受信料債権の相続について見ていきましょう。

原則:相続は「一切の権利義務を承継」

民法

第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

「一切の権利義務を承継する」とあります。但書きで「一身専属権」は違うとありますが、NHK受信料は関係ありません。

したがって、受信料債権(受信料を支払う義務)も被相続人の死亡によって相続人が承継することになります。これが原則です。

相続放棄の場合

(単純承認の効力)
第九百二十条 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。

(限定承認)
第九百二十二条 相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。

(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

相続には大きく分けて3つの方法があります。単純承認、限定承認、相続放棄です。

このうち、被相続人(死亡者)のNHK受信料債権が問題となるのは単純承認と限定承認の場合です。どういう場合にそうなるのか、方法は何か?については弁護士事務所のHP等を探すといいでしょう。相続放棄をするつもりだったのに、ある行動をしてしまったことで相続したとみなされることがあるので注意しなければなりません。

相続放棄は文字通り相続しないということですから、当然故人のNHK受信料債権も相続しません。したがって、この場合には基本的には問題はないということになります。

ただし、典型的な世帯環境ではない特殊な場合には注意が必要だと思います。ケースバイケースなので、よくわからなかったら事情を全て弁護士等に相談してください。

受信料債権が消滅時効にかかっている場合

最高裁判所第2小法廷 平成25年(受)第2024号 放送受信料請求事件 平成26年9月5日

受信料債権は,年又はこれより短い時期によって定めた金銭の給付を目的とする債権に当たり,その消滅時効期間は,民法169条により5年と解すべきである。

このように、NHKの受信料債権は現行民法169条の「定期給付金債権」であると解されています。そのため、5年の消滅時効にかかるとされています。

相続した場合でも故人の滞納分が5年の時効にかかるようになれば、支払義務はないということになります。

相続人がとるべき手段

これまで見てきたように、故人が滞納してきた受信料債権を承継した場合、時効にかかっていない分については相続人が支払うべきということになります。

相続の時点からNHKに全く連絡を取らず、更に期間が経過して残りの債権を時効消滅させることも法的にはできますが、「あまりよろしくないと思われるので支払いましょう。」NHKから請求される額は未払い分の受信料額そのままではなく、延滞利息も含むものになるので結構バカにできません。

また、全く連絡を取らないと、受信機が設置されている場合には被相続人の死後も受信料を支払う義務が発生する余地があります。これが次の問題です。

小括1:被相続人死亡時までの受信料債権は相続人に支払い義務あり

被相続人死亡後のNHK受信料債権

NHK受信料債権についての相続の可能性

これまで図の左側について話をしてきました。
しかし、問題なのは図の右側です。NHKの見解は「被相続人死亡後も自動で解約にはならず、解約通知がされるまでは受信料債権が発生し、相続人はこの分についても支払い義務がある」です。

したがって、死亡によって当然に解約されたと言えるかが問題になります。

2:日本放送協会の受信契約は承継されるのか?

NHKの受信契約は民法上に規定されている典型契約ではなく、放送受信契約という基本契約によります。なので、放送法やNHKの受信規約を見ていき、「死亡により効力を失う」などの文言がないかを確認します。

放送法64条

放送法

第六十四条 協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。

旧放送法32条も同様の規定となっています。

受信契約は「受信設備の設置」と紐づいていることがわかります。

放送法には契約者の死亡による扱いについては規定されてません。

日本放送協会放送受信規約と解約規定

日本放送協会放送受信規約

(放送受信契約の成立)
第4条 放送受信契約は、受信機の設置の日に成立するものとする。

魚拓:https://web.archive.org/web/20180625010629/https://pid.nhk.or.jp/jushinryo/kiyaku/nhk_jushinkiyaku_290530.pdf

こちらでも受信機設置の日が契約と結びついています。

そして、解約についても規定があります。

第9条 放送受信契約者が受信機を廃止することにより、放送受信契約を要しないこととなったときは、直ちに、次の事項を放送局に届け出なければならない。
(1) 放送受信契約者の氏名および住所
(2) 放送受信契約を要しないこととなる受信機の数
(3) 受信機を住所以外の場所に設置していた場合はその場所
(4) 放送受信契約を要しないこととなった事由
NHKにおいて前項各号に掲げる事項に該当する事実を確認できたときは、放送受信契約は、前項の届け出があった日に解約されたものとする

  1. 受信機を廃止すること「等」により受信契約を要しないこととなったことを
  2. NHKが確認できたとき
  3. 届出があった日に解約されたものとする

さて、どう考えればいいでしょうか。

『放送受信規約9条の「等」に死亡が含まれると解されるから、被相続人が死亡したことによって受信契約は終了/解約して相続人に承継されず、死亡の事実があれば当然にそれ以降の受信料は支払う必要は無い』と言えるでしょうか?

世帯が同じ場合

 

f:id:Nathannate:20180625165205j:plain

NHKに伺うと、この場合は被相続人の死亡通知の他に名義人変更の手続が必要です。

この場合に相続人が受信料契約は被相続人死亡によって解約/終了したと言うことは困難だろうと思います。滞納していた受信料債権がある場合の扱いは既に述べた通りです。

もちろんこれは受信設備を設置している場合の話です。同世帯の者の死去をきっかけに受信設備を廃止したということであれば、廃止の通知をすれば契約は解約されます。

世帯が別の場合

被相続人死亡後のNHKの受信契約世帯別

被相続人死亡後の受信契約の扱い

NHKに世帯別の死亡者の契約について伺ったところ、「既存の被相続人の契約は解約しないと残存しており、死亡後であっても解約までの間の受信料は相続人において支払うこととなる」という返答でした。

これは被相続人の受信契約が相続人に承継されるという話のように聞こえますが、確立した裁判例があるわけではなさそうです。

弁護士ドットコムを見ると、受信契約が承継されるかどうかは争う余地があると書かれています。

小括2:受信契約が相続(継承)されるかはグレーゾーン

相続人が一人の場合、一切の権利義務を全て自己が承継するのですから、被相続人の家財道具も自己の財産になります。TV等=受信設備が設置された状態で相続すれば、受信設備設置の状態は継続しているので、受信契約は相続人が承継するという事になりそうな気がします。

仮に、「相続人が死亡通知をNHKに出さずに、被相続人の世帯住居に被相続人の死後住んでおり、相続人がNHKを視聴できる状態にあった」という場合を考えると、受信料の支払いを免れることとなるため、「死亡時」ではなく「死亡の通知時」としたこともやむを得ないということになりそうです。

例えば、あなたが自宅と別荘にテレビを置いていたとして、両方で受信料を支払うことになりますが、これと同様に扱うとNHKは考えているのではないでしょうか(この場合は一方の受信料は半額にできる手続がありますが)。

ただ、後述するようにNHK受信料や受信契約の性質は一般の性質と異なり、裁判所はNHK受信料は「特殊な負担金の性質を有する」とも言っており、受信契約は相続されないという判断がなされる可能性もないわけではないと思います。

この件について再度取材した結果、コールセンターと営業所で言っていることが矛盾していました。NHKふれあいセンターでは嘘をつくよう教育しているようです。

VHFアンテナしかない世帯の場合

死亡後のNHK受信料VHFアンテナの場合

再掲

魚拓:http://archive.is/Oo5Yd

この方の事案の特徴として「VHFアンテナしかない」ということがあります。VHFアンテナとは地上アナログ放送を受信するための設備で、地上デジタル放送は受信できないものです。2012年3月末に地上アナログ放送は停止されたので、それ以降は受信契約は発生しないものと思われました。

しかし、NHKに確認したところ「具体的事情を伺ってからでないと判断できない」と言われました。

素朴に考えればNHKの放送を受信できない状態になったのだから、支払い義務はないと考えるのが自然です。しかし、放送受信規約の以下の規定を見ると、問題がありそうです。

(アナログ放送の終了に関する措置)
2 第9条の規定にかかわらず、放送受信契約者がNHKのテレビジョン放送のうちアナログ方式の放送(以下「アナログ放送」という。)の終了に伴い、NHKのテレビジョン放送を受信することができなくなり、第1条第2項に定める受信機の設置がないこととなったときは、アナログ放送の終了日(以下「アナログ放送終了日」という。)から1年以内に、次の事項を放送局に届け出なければならない。
(1) 放送受信契約者の氏名および住所
(2) 設置がないこととなった受信機の数
(3) 受信機を住所以外の場所に設置していた場合はその場所
(4) NHKのテレビジョン放送のうちデジタル方式の放送を受信することができない事情
3 NHKにおいて前項各号に掲げる事項に該当する事実を確認できたときは、放送受信契約は、アナログ放送終了日に終了したものとする

「アナログ放送の終了日から1年以内に…届け出なければならない」

1年以内に届け出たなら通知の時点ではなくアナログ放送終了日に契約が終了するものとされますが、現在は既に1年を過ぎています。この場合にどう扱われるのか、この規定からはわかりません。

法的な判断は闇の中ですが、放送を受信できないのに受信料を払わなければならないのはおかしいので、うまく調整できないものかと思います。

受信料は民法552条の定期贈与というデマ

ネット上ではにわかに「NHK受信料は民法552条の定期贈与であり、規定上、死亡で解約されるとなっている」「よって、何もしなくても契約は解約される」というとんでもないデマが飛び交っています。

NHK受信料が被相続人の死亡で当然解約されるかどうかは争う余地がある事は示しましたが、その根拠が「定期贈与」というのは明確に誤りです。

なぜ「定期贈与」を根拠とするのが誤りなのかを示します。

贈与契約の意味

民法

第五百四十九条 贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。

そもそも、世の中の契約形態の全てが民法に記述されているわけではありません。民法契約編の各節に規定されている契約形態は「典型契約」と言われており、これに当たらない契約も世の中にはたくさんあります。

贈与契約の場合、「当事者の一方が」「無償で」という文言から、贈与契約には「対価性」がありません=無償契約。定期贈与も同じです。

そして、定期贈与が死亡で当然に効力を失うとされているのは、定期贈与契約は当事者同士の信頼関係を基礎として成り立っているのだから、死亡によって効力が残るのはおかしいという理由からです。これが民法552条の趣旨です。

対して、NHKの受信料契約の性質はどのようなものでしょうか?

NHK受信料契約の性質

東京高等裁判所 平成23年(ツ)第221号 放送受信料請求上告事件 平成24年2月29日

受信料債権は、現行法上、私人間の契約に基づく債権と構成されておりー中略ー受信料とは文字どおり受信(視聴可能性)の対価であり、受信と受信料に対価性があることは明白である。

NHKが送信している放送「に対して」契約者が受信料を支払っている。

これは「対価性」がある=有償契約ということになります。

さらに、受信料の性質については「特殊な負担金の性質を有する」ともあります。

東京地方裁判所平成29年3月29日

放送法は,原告を公共放送事業者と位置付けて,国や他者からの独立性及び中立性を確保するため,原告に対して,営利目的の業務及び広告の放送を禁止する一方,その財政的基盤を確保するために,放送受信設備を設置した者に対し,放送受信契約の締結を強制しており,放送受信契約に基づいて支払義務が発生する放送受信料は,公共放送事業者である原告に対して納めるべき特殊な負担金としての性質を有するものというべきである。

したがって、NHK受信料が民法上の典型契約である定期贈与契約であるとする見解は、全く性質の異なる話をしていることになります。明確にデマです。NHKの受信料は「放送受信契約」によって発生しています。

田中宏弁護士の指摘:522条デマ

参考:https://twitter.com/tanakah/status/1011887444868792322

おそらく、既に示した「NHK受信料債権は定期給付金債権(民法169条)である」とする最高裁の判例を勘違いしている(させている)のでしょう。契約の性質の話と、債権の性質の話は別個の話です。 

既に示した弁護士ドットコムの回答を見ても、受信契約が死亡によって当然に解約されるという見解は「あり得るかもしれない」程度の言及であり、ましてや民法552条を根拠にしているわけではありません。

デマを信じて「死亡しても何もしない」とすると、相続人は最大5年分の受信料債権と延滞利息を支払うことになります。これはNHKを利する結果となっています。

それから郵便法42条云々の件も、相続人であれば本来全く問題になり得ません。デマサイトの記述は、相続人なのに相続人ではないと振る舞ってズルをしようとする者が書いた記事のように思います。

冒頭で書いたように「被相続人が死亡したらNHKに死亡通知をして解約手続を取る」これがNHKから身を守るための最善の行動です。

民法改正後は受信料債権の法的性質はどうなるか?

こちらでも言及していますが、改正民法では定期給付金債権の規定も債権の短期消滅時効の規定もなくなることになっています。

そのため、消滅時効の期間は10年になるのではないか?と予想しています。

まとめ

  1. 被相続人への受信料督促がきたら、相続人は死亡通知を送付して解約すべき
  2. 受信料債権は相続される
  3. 受信契約が当然相続されるかは争う余地がありそう
  4. よって、被相続人死亡後、現在までの受信料債権の扱いも断定できない
  5. 現行法上は受信料債権の消滅時効は5年だが、改正後は不明
  6. VHFアンテナの場合でも、個別事情による
  7. 「死亡で当然解約でありその根拠は民法552条」はデマ

NHKから身を守るには「テレビを買わない」「解約する」というのが最善です。

「イラネッチケーを取り付ける」という方法もありますが、注意点があるので以下を参照してください。

以上

【余命大量不当懲戒請求】その他の問題点と疑問点

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余命大量不当懲戒請求事案で問題視されている、或いは疑問とされているその他の論点について整理していきます。

1:佐々木・北弁護士の主張内容の矛盾と弁護士倫理

訴訟を提起していない現時点までにみられる佐々木・北弁護士の主張は「大量の懲戒請求で膨大な負荷がかかった」というものですが、どうも訴訟については共同不法行為の構成をとらずに一人ひとりに対して請求するかのように聞こえます。実際にも、一人ひとりに対しての請求額をベースに和解金額も要求しています。

「大量の」懲戒請求による被害を訴えるのであれば、そのような主張は相手方一人に対しては成立しないことは明らかです。

つまり、佐々木・北弁護士は、一方では懲戒請求者を総体として捉え、他方では個別に捉えて損害額を算定して請求している。これは「法的構成の一貫性がないにもかかわらず、より請求額・和解額が高く見える構成を主張し、高額な和解金を受領することを目的としていると見るほかなく、弁護士の品位を失う非行である」と言えるか?

もちろん、懲戒請求者に対する不法行為訴訟の過去の裁判例で認容された請求額からすれば最低域に近いものであるので、このような訴訟提起・和解提案が違法でないことも明らかです。

私はこの程度で懲戒事由になるとは思えないが、佐々木・北弁護士は個人の利益を最大化するための行動を行っているところ、弁護士であれば主張と法的構成に矛盾が生じないように振る舞ってほしいと思います。

訴訟提起は6月末を予定しているため、実際には矛盾のない構成で請求すると思われますし、そもそも矛盾がある状態で訴訟に臨んだのなら、訴状審査で修正せざるを得ないか、釈明を求められると思われ、結果的に問題ないということになりそうですが。

2:異議申立期間中の提訴は妥当なのか?

懲戒事由があるかどうかを第三者機関ではなく弁護士自治によって弁護士会自身が調査する制度が設けられている以上、その手続が終了するまでは、懲戒請求者に訴訟提起するということは弁護士自治を否定するもので「手続的な瑕疵」があり弁護士の品位を失う非行にあたらないのか?あたらないとしても不当なのではないか?というような問題提起が可能だと思います。 

懲戒委員会の懲戒しない旨の決定に対する異議申立中の事案

裁判例をみると、東京地方裁判所平成27年(ワ)第33348号 損害賠償請求事件平成28年10月4日では、綱紀委員会で懲戒相当の判断が為され、懲戒委員会で懲戒不相当の判断が行われ、これに対して異議申立が行われたことによる異議の審議中に、弁護士から懲戒請求者へ懲戒請求と異議申出が違法だとする不法行為訴訟が行われた事案があります。

この判決では実体判断を行った上で弁護士の請求を棄却しています。実体判断=弁護士に非行があるという主張がそれなりにあり得るものだったか、懲戒請求が全くの事実的法律的根拠を欠き…というものと認められて違法であるかどうかを見ているのですから、「異議申立期間中だから訴訟は受け付けない」とは東京地裁は考えていないことになります。

なお、この裁判例では弁護士が名誉毀損による不法行為も成立していると主張していると解する余地があるとして裁判所がその点についても判断しています。

しかしながら,個別の弁護士懲戒事案における懲戒の請求の理由等に関する情報は,少なくともその事案の進行中は,弁護士会又は日本弁護士連合会の綱紀委員会又は懲戒委員会の委員その他限られた範囲の役職員の間に管理されるものである。それにもかかわらず,本件の懲戒請求事案に関する情報が広く伝播し,原告の社会的評価を低下させているというべき事情は主張も立証もされていない。
そうであれば,上記のように解される原告の主張も,採用することができない。

懲戒請求がなされた⇒懲戒請求の事実が広く世間に伝播した⇒弁護士の社会的信用が低下した、とはただちには言えないということです。

小倉弁護士の事案:綱紀委員会の判断が未了の場合

小倉弁護士の場合は懲戒不相当の判断が出ていない段階で訴訟提起してます。

小倉弁護士の主観的には朝鮮学校の補助金支給要請声明には関与していないので明らかに事実上法律上の根拠を欠く懲戒請求なのですが、一応懲戒請求制度というものの手続を走らせているので、先走っている感は否めません。

ただ、これを「手続的な瑕疵」と評価するにしても、むしろ懲戒請求の手続が進行して異議申立が何度もなされるのであれば弁護士の負担は一向に増えることになるので、懲戒手続の進行を放置するよりも訴訟をもって解決した方がよいということになります。また、懲戒請求者にとっても、取消訴訟まで争った場合には損害額が高く認められることになるでしょうから、可能性の無い懲戒請求を早期に終結させることになるため(結果的に)利益であるという見方もできます。したがって、この程度の「手続上の瑕疵」は弁護士自治を否定するとまでは言えず、弁護士の品位を失う非行にはならないと思われます。

別の観点から、今回は明らかに弁護士会が懲戒請求制度を走らせるべきではなかった事案なので懲戒不相当の判断が出る前であろうとも弁護士自治を損なうことにはならないとも考えられます。

参照記事

3:懲戒請求取下げの申出が意味をなさないこと

余命大量懲戒事案の弁護士会の運用の話として、懲戒請求を取り下げる旨の申出をしても綱紀委員会の調査は走っているので、それが止まることはないとされています。

これが懲戒請求者が多数なので1人の取下げ意思だけでは他の懲戒請求に影響しないからなのか、それとももともと懲戒請求の取下げという手続が想定されていないために取下げを受け付けていないだけなのかはわかりません。

仮に前者だとしても、懲戒請求権や異議申立権は個人の権利利益を保護するためのものではなく、弁護士自治による弁護士の品位等の保持のために認められたものであるから、取下げの申出が機能しないのは妥当であるという意見があります。

最高裁判所第2小法廷 昭和49年(行ツ)第52号 日本弁護士連合
会懲戒委員会の棄却決定及び同決定に対する異議申立に対する却下決定
に対する取消請求事件 昭和49年11月8日

弁護士の懲戒制度は、弁護士会又は日本弁護士連合会(以下日弁連とい
う。)の自主的な判断に基づいて、弁護士の網紀、信用、品位等の保持
をはかることを目的とするものであるが、弁護士法五八条所定の懲戒請
求権及び同法六一条所定の異議申立権は、懲戒制度の右目的の適正な達
成という公益的見地から特に認められたものであり、懲戒請求者個人の
利益保護のためのものではない。

この判決の見解を採用し、より詳細な理由づけを行った裁判例があります

東京地方裁判所 平成19年(ワ)第3622号 損害賠償請求事件 平成19年12月28日

したがって、懲戒請求者は、弁護士会による適正な懲戒権の行使がされるための端緒を提供し、その実現のために法の定める限度(法六四条、六四条の三、六七条三項、七〇条の七等)で懲戒手続に関与する地位を有するにとどまるのであって、手続当事者として、弁護士会に対し適切な懲戒権の行使を求めるなどの具体的権利を有するものではない

この東京地裁の事例は、懲戒請求者が弁護士会に対し、懲戒請求制度の濫用をしたことで懲戒請求者に損害が生じたと主張した事案なので正当だと思いますが、懲戒請求の取下げの場合についてはどうでしょうか。

懲戒請求の取下げをした者にとっては、勝手に弁護士会が動いた結果生じた損害を支払わされるということになります。訴訟の場合には、請求が理由のないものとされてもそれだけでは違法にはなりません。

訴えの提起が違法になる場合について判示した判例では次のように述べます。

最高裁判所第3小法廷 昭和60年(オ)第122号 損害賠償請求事件 昭和63年1月26日

民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。

民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において

この間、相手方は訴訟行為をする負担を負うことになりますが、判決を受ける前はそれが不法行為による損害であるとはされないということです。

訴えの取下げの場合、相手方が準備書面提出や弁論準備手続の申述をし、又は口頭弁論をした後は相手方の承諾が必要ですが、それら以前の場合には不要です(書面による必要はありますが)。懲戒請求事案においてパラレルに考えられるとするならば、懲戒請求の取下げができないというのはおかしいということになると思います。

ただ、懲戒請求の場合普通の訴訟と違うのは、「懲戒請求を受けた」という事実が広まることだけで弁護士にとっては社会的評価の低下のおそれが生じるなどの精神的苦痛を受けるという点など、いくつかあります。

「だったら最初から無理な懲戒請求をするな」という意見がそれなりの妥当性があるとは思いますが、これも懲戒請求制度の設計の問題だと思います。明らかに無理筋な怪文書は弾くということにすれば、このような問題は起きないのですから。

4:小倉弁護士の和解契約書の記載

和解契約書懲戒請求小倉弁護士

ツイート魚拓:http://archive.is/MsT2v

リンク先魚拓:http://archive.is/98Tj6

和解文書URLと魚拓URL:http://www.ben.li/wakaichokai.pdf

http://megalodon.jp/ref/2018-0622-1751-58/www.ben.li/wakaichokai.pdf

和解条項第5項

乙は、自己が関与した事件についての自己または相手方代理人としての行為または言動に問題があったことを理由とする場合を除き、弁護士に対する懲戒申立をしないことを約束する

訴訟の当事者でないと懲戒請求するな、という事を言ってますが、裁判例では全く無関係の者からの懲戒請求も扱っていますし、私的領域の行為についての懲戒請求も認められています。そのような実体からは、訴訟当事者でないと懲戒請求しないことを求める文言は公序良俗に反するのではないだろうか?という問題提起ができそうです。

何人にも懲戒請求する権利は認められているのであり、自己とは関係の無い他の事案においても懲戒請求しないことを要求するのはいささか不自然です。

あと、6項で「民事訴訟を提起しない事を約束する」とありますが、刑事訴訟はどうなのかが気になります。 

5:自己の訴訟のためにカンパを募ることは良いのか?

東京弁護士会の佐々木・北・嶋崎弁護士は、大量懲戒事案での不法行為訴訟において訴訟費用のためのカンパを募っています。これは弁護士の品位を失うべき非行にあたらないのか?と問題視されることもあります。

橋下氏のみならず、同じく大量懲戒請求を受けている神原弁護士のツイートでも、カンパを募ることについて抑制的です。やはり、何らかの問題があるのではないかと感じているようです。

訴訟費用をクラウドファンディングで集めるのは一般人が行う分には良いが、弁護士が行うのは良くないのではないか?という感覚がありますが、なぜそう思うのかについて明確にしておかなければなりません。単にルサンチマンで非難するべきではありません。

橋下氏が言うように、訴訟費用が実質的に0で訴訟提起可能となると、何でもかんでも訴訟提起するという行為に繋がりかねません。濫訴防止が一般的な法として常に要請されているとするならば、社会正義を職務とする弁護士の身分で自己の権利利益の保護のために提起する訴訟でカンパを募る行為を行うのは不適切ではないかという方向になりそうですが、より論理を詰めていかないといけないでしょう。

6:弁護士会から懲戒請求者への不法行為訴訟は在り得るのか?

まず、川村弁護士の言う主張自体失当や私の言う「その事由の説明を添えて」の要件をみたさないような場合、つまり本来門前払いをするべき場合(現在は異なり全部手続に流してますが)に弁護士「会」から懲戒請求者への不法行為訴訟は在り得るのか?

結論から言うと、これは無理だと思います。

なぜなら、弁護士会に発生する「損害」に慰謝料は観念できず、せいぜい処理に時間が割かれたという程度の実損しかないだろうからです。実損は作業負担ですが、懲戒請求書をコピーして対象弁護士に送付するだけなのでほぼゼロ。共同不法行為の構成で「大量だから」ということならまだしも、「殺到型」=1人1人が独立して懲戒請求した場合であれば「大量だから」という理由づけは不可能であり、1人分の請求によって損害が生じたと言うようなものはないと思われます。

ただし、これは思考上の事案ですが、「過去に懲戒不相当の判断が出たものと実質的に同種の懲戒事由で懲戒請求をかけてきた」というような場合であり、それが執拗な場合には、弁護士会から懲戒請求者への訴訟は可能なように思われます(現実に起こる可能性は低いし、弁護士会のデメリットが多いのでやらないと思いますが)。

7:弁護士から弁護士会への不法行為訴訟は勝てるのか?

こちらで検討したように、濫用的懲戒請求防止の機能を果たすべき弁護士会がその役割を果たさず、怪文書に過ぎないような「懲戒請求書と題する書面」を懲戒請求として受付け、対象弁護士に反論等の負担を負わせたことが、弁護士会による対象弁護士に対する不法行為であるとして請求することもあり得ると思います。

流石に同様の事案は過去にはないのですが、懲戒請求の手続が違法だとして弁護士が弁護士会に不法行為訴訟を提起した事例はありますので見ていきます。

綱紀委員会の懲戒に付する決定に対して(懲戒委員会の審査中の段階)

東京地方裁判所 平成27年(ワ)第27595号 独禁法3条後段違反に基づく懲戒処分差止請求等事件 平成28年4月14の原告弁護士による第一東京弁護士会への損害賠償請求を確認します。「本件一弁決定」とは、懲戒審査に付する決定のことです。

綱紀委員会による議決及び本件一弁決定は,前記1(2)において説示したとおり,懲戒委員会の判断を何ら拘束するものでなく,弁護士会内部の中間的な決定にすぎないものであって,原告X1の弁護士としての活動にも特段制限を加えない(なお,登録換え及び登録取消しの請求の制限は,綱紀委員会の議決により生ずる効果ではない(前記1(2))。※注:懲戒手続の付随的効果にすぎない)。

また,前記(1)ア(イ)における説示のとおり,弁護士法は,弁護士会の会員である弁護士に対し,一定の不利益の受任を求めているところ,本件において原告X1に生じているとされる不利益は,原告らの主張する事情を踏まえても,弁護士会の会員として,懲戒委員会に審査を求める旨の決定がされることにより通常生ずると認められる程度の不利益の限度を超えるものとは認めることは困難である。そうすると,上記議決及び本件一弁決定に関与した綱紀委員等の行為により,その対象弁護士である原告X1の法律上保護される利益が侵害されたものとは認められない。

原告X1が主張する事情は以下のようなものです(独禁法違反の主張は除く)。

イ)本件一弁決定に係る不法行為の成否
(原告らの主張)
 本件一弁決定は,原告X1に懲戒事由がなかったにもかかわらず出されたものであり,事実誤認や弁護士職務規程の解釈の誤りが認められる。このような誤った本件一弁決定がされたのは,弁護士会の綱紀委員会制度に透明性の欠如,手続保障の不備等の欠陥があり,また,綱紀委員に調査義務の懈怠,告知聴聞権の侵害等があったためである。

なお、「当該請求は公の権能の行使に当たる公務員である綱紀委員等の職務に係る行為の違法を問題とするものであるから(弁護士法70条の3第4項参照),国家賠償法によるべきものと解される」とされています。 

懲戒委員会委員長に対する不法行為訴訟 

東京高等裁判所 平成19年(ネ)第4042号 損害賠償請求控訴事件 平成19年11月29日

弁護士が懲戒請求を受け、懲戒委員会の審査期日において,懲戒委員会委員長が弁護士に対して十分な陳述の機会を与えなかったことが違法であるとして,懲戒委員会委員長に対し不法行為に基づき慰謝料200万円等の支払を請求した事案です。

控訴人が違法行為と主張する行為は,被控訴人が第二東京弁護士会の懲戒委員会委員長として行った行為であり,国家賠償法の適用の有無に関する限り,公共団体の公権力の行使にあたる公務員としての行為であると解するのが相当であり,被控訴人の行為が国家賠償法上,故意又は過失によって違法に控訴人に損害を加えたと評価されるとしても,第二東京弁護士会が同法1条1項により損害賠償義務を負うこととは別に,被控訴人が個人として不法行為の責任を負うものではない(最高裁判所昭和30年4月19日民集9巻5号534頁,同昭和53年10月20日民集32巻7号1367頁等)。

懲戒請求の手続が違法だとして弁護士会に対する損害賠償請求が認容される可能性はあるが、「中の人」個人に対しての請求は成立する余地はないということです。なお、別の裁判例では懲戒委員会委員長ではなく単なる委員も公共団体の公権力の行使にあたる公務員としての行為であるとされています。

余命大量不法行為事案ではどうなるか

平成28年東京地裁の裁判例では「弁護士会の会員として,懲戒委員会に審査を求める旨の決定がされることにより通常生ずると認められる程度の不利益の限度を超える」ものではないとされて請求棄却となりました。

しかし、今回の事案での弁護士の不利益は「通常生ずると認められる程度の不利益」かどうかは一考の余地があるのではないでしょうか。弁護士会に対する請求ですから、960通という大量の懲戒請求書と題する怪文書を弾かずに漫然と弁護士に反論を求めたのが不法であるという主張になります。1件1件の負担ではなく、960通全ての処理にかかる負担が損害になり得ます。

札幌弁護士会の猪野弁護士の見立てでは今回の場合は何ら反論をしなくとも綱紀委員会が弾くとされていますが、懲戒請求の通常の手続を考えると反論することが予定されています。反論のために要した労力も、猪野弁護士の札幌弁護士会は1本化してるのでほとんど無いですが、東京弁護士会など他の単位会がどうなのかはわかりません。

反論をするについても、意味不明な文面から問題とされる行為を弁護士が(自主的に)特定し、主張を組み立てる手間がかかると予想されます。しかも今回の場合は主張している内容が曖昧なため、有効な反論とみなされない危険を避けるために問題視されていると思われる行為や理由を出来る限り全て取り上げて反論しなければならないと不安に思う弁護士もいたのではないでしょうか。

現に、懲戒請求者への不法行為訴訟が懲戒事由にあたるとする懲戒請求に対する弁明書の作成においては、それなりの時間がかかっています。

この負担は(損害賠償を考えると)そこまで重くないですが、懲戒請求制度が予定している負担と言えるかは議論があると思われます。ただ、これも弁護士が弁護士会に訴訟提起するのは金銭面においても、立場上においてもデメリットが大きいので訴訟提起はしないと思いますが。

8:懲戒請求者から弁護士会の懲戒不相当判断に対する不法行為訴訟

懲戒請求者が単位弁護士会と日弁連に対して懲戒請求の判断が不法だとする訴訟を提起した事案があります。「3:懲戒請求取下げの申出が意味をなさないこと」の項で既に一部取り上げている東京地方裁判所 平成26年(ワ)第33428号 損害賠償請求事件 平成27年7月22日の事案です。

懲戒請求者の主張は、弁護士会が懲戒請求手続において、形式的な答弁書を提出させただけで実質的な調査を行わなかったこと、相当期間内に懲戒手続きを終えなかったことなどを理由に不法行為であるというものです。

判決の内容を簡潔に示すと

  1. 懲戒請求権は懲戒請求者の個人的利益の保護のためではなく、懲戒制度の適正な運用を確保するという公益的見地から特に認められたもの
  2. そのため、懲戒請求者は弁護士会による適正な懲戒権の行使がされるための端緒を提供し、その実現のために法の定める限度で懲戒手続に関与する地位を有するにとどまる
  3. よって、懲戒請求者は手続当事者として弁護士会に対し適切な懲戒権の行使を求めるなどの具体的権利を有するものではない

したがって、このような請求は無理であることになっています。他の裁判所も同様の判断をするでしょう。

ただし、今回は弁護士会に所属する弁護士全員の懲戒請求については手続を走らせない措置を各弁護士会がとっており、その対応について不法行為訴訟を提起する可能性も考えられます。

しかし、このブログで何度も指摘しているように、そのような対応を取るのが本来正当なのであって、この点を理由に懲戒請求者が弁護士会を訴えても門前払いされるべきであると考えます。

9:ブログ筆頭運営者の余命氏に責任追及できるのか?

現時点で分かっていることは、余命三年時事日記(余命ブログ)において特定の弁護士の名前を上げて懲戒請求をするよう呼びかける記述がなされていたということです。ブログのサーバー管理者や連絡先が、ブログ筆頭運営者の「余命氏」のものであるかはわかっていません。したがって、余命氏への追及は難しいのではないでしょうか。

仮に「余命氏が呼びかけを行った」と特定できたとしても、更に問題はあります。

今回の余命ブログ上の行為は、橋下徹弁護士がTV番組で特定事件の弁護団に対する懲戒請求の方途があることを呼び掛けた行為に似ています。橋下氏の事案では、橋下氏の不法行為責任は最高裁によって否定されました。

ただし、余命ブログと橋下氏の事案とが異なるのは以下の点です(佐々木・北弁護士の提訴予告記者会見参照)

  1. 懲戒請求書のテンプレートを用意していた
  2. 余命ブログの名を冠した書籍にもテンプレートを附属させていた
  3. テンプレートは特定の弁護士の懲戒請求の目的と読める記述があった
  4. 大量の懲戒請求書は一度、余命氏の所在に送られた上でまとめて弁護士会に送付された

こうした事情からは、余命氏の教唆、扇動、共同不法行為が認められる可能性はないとは言えないのではないかと思います。

まとめ

大量不当懲戒請求事案は弁護士による懲戒請求者への訴訟がどう進行するのかが注目されています。その中で、これまでに示した論点や疑問点が明らかになっていくと思われますが、訴訟手続きが進行する前の段階での論点整理をしてみました。

この問題は弁護士の間でも相当に意見が分かれている話であり、弁護士会の懲戒請求制度を振り返るきっかけになったと思います。弁護士自治が確立した歴史的経緯からは、懲戒請求制度は国民から負託されたものであるので、私たちと無関係なものではありません。

橋下氏が言及したように「弁護士の品位を失うべき非行」という曖昧な要件が濫訴を誘発しているのではないかという指摘もあります。制度の不備を放置していては、これを悪用する者が必ず出てきます。将来、自分の訴訟代理人弁護士が「攻撃」されて困ることになるかもしれません。そうした事態を未然に防ぐのが弁護士会の役割のはずです。

弁護士会に期待できないなら、弁護士法改正など立法レベルの話になります。国会議員への陳情・政府への請願など、一般国民が取れる方法はあるでしょう。

これまで提示してきた情報がそういった議論の役に立つかはわかりませんが、議論の肥やしになればいいと思います。

以上 

臨時休業(休校)の基準:地震・大雨・台風・インフルエンザなどの感染症等の場合

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地震、大雨、暴風、感染症流行等の場合に学校が休みになる基準は何でしょうか?

子供が公立の学校に通っているなどの場合、この点が気になりますよね。

臨時休業=休校の基準について整理していきます。

なお、休校の判断権者についてはこの記事で言及しています。

地震、大雨、台風の場合の臨時休業の基準

震災時の休校判断については学校教育法施行規則に定めがあります。

学校教育法施行規則

第六十三条 非常変災その他急迫の事情があるときは、校長は、臨時に
授業を行わないことができる。この場合において、公立小学校について
はこの旨を当該学校を設置する地方公共団体の教育委員会(公立大学法
人の設置する小学校にあつては、当該公立大学法人の理事長)に報告し
なければならない。 

非常変災とは自然災害をはじめとする緊急事態全般を指す用語です。ただし、感染症の場合の休校は学校保健安全法が根拠規定となります。

非常変災時の臨時休業=休校の基準

この場合は臨時休業を決める基準を定めている法令はありませんよって、各自治体や教育委員会、学校がマニュアルを作成して対応しているのが現状です。これは地域によってマニュアル作成主体が違いますし、基準もその地域や学校によって様々在り得ます。

なので、その地域にお住まいの方が教育委員会に確認するか、学校等で休校の基準が書かれた文書が配布されるはずなので、それに依るべきことになります。教育委員会が公にしているものよりも、学校の基準が優先して適用されると考えるべきです。

大阪の震度6弱の地震に関連して各自治体について調べてみました。

自治体別の臨時休業の基準

例えば和泉市の非常変災時の措置については、震度5弱以上の地震が当日の0時以降、登校前に発生した場合、臨時休業と定められています。東大阪市の非常変災時の措置については、登校前に震度5弱以上の地震が発生した場合は臨時休業となっています。

大阪市の非常変災時の措置について定めたものはネット上では公開されていませんが、大阪市教育委員会に臨時休業の要件を伺ったので以下にまとめます。

  • 朝7時の時点で大阪市に暴風警報・暴風雪警報・特別警報が発令している
  • 朝7時の時点でJR大阪環状線と市営地下鉄の両方が運行停止している
  • 地震に係る警戒宣言が発令(内閣総理大臣が発令)している
  • 警報等がなくても気象状況や通学路の状況等を鑑みて学校長が判断する 

学校独自に基準を定めている場合もあります。例えば大阪市の小学校の一例がこちらです。魚拓:http://archive.is/7tCXK 微妙に休校の基準が違うのがわかります。

これらを見ると、地震の場合、大阪市では気象庁発表の震度という類型的基準は採用せず、実際の交通事情などの具体的事情に照らして判断される構造であるということです。

蛇足ですが、和泉市や東大阪市は「登校前」に事象が発生すれば一律臨時休業としているのに対し、大阪市は7時以降に各種警報や地震が発生しても、ひとまずは休校にはならないという運用を採っています。この考え方は賛否があるかもしれませんが、都市部は建物が密集していることから、比較的耐震力が高い学校に来た方が安全である確率が高いことと、途中で引き返すことによる交通の混乱を防止するためにも、大阪市の考え方はやむを得ないのではないかなと思います。

このように、肯定的な意見もあるということは一応示しておきます。

インフルエンザ等感染症の場合の出席停止・臨時休業基準

この場合は学校保健安全法に根拠があり、出席停止の権限者は校長、臨時休業(俗にいう学級閉鎖・学年閉鎖・学校閉鎖)の権限者は「学校の設置者」が規定されています。

これを受けて、学校保健安全法施行規則の21条では校長は感染症による出席停止が可能とされ、18条に感染症の種類の列挙がなされています。

「学校の設置者」とは国や地方自治体、学校法人など様々ですが、地方自治体周りで言えば大学は首長、それ以外は教育委員会が管理を行うこととなっています。教育委員会から学校長に判断が委任されている例がほとんどです。

とはいえ、校長や教育委員会のみならず、都道府県の保健部局等の外部から休校等の要請が来ることもあります。それを受けて校長等が休校を判断しても、越権行為などとはなりません。

気象庁の「特別警報」と地震の関係

気象庁の特別警報と地震の震度

参照元:https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/tokubetsu-keiho/kizyun.html

自治体や学校が公表している臨時休業の基準に「特別警報が発令している場合」というものがあります。注意すべきは、多くの場合はここでいう「特別警報」には大地震は含まれていない可能性が高いということです。

気象庁の大地震の扱い

気象庁に伺ったところ、震度6弱以上の地震は法体系上の位置づけとしては特別警報となっているが、発表する際の名称としては「緊急地震速報」であり、警報解除は観念できないものとなっているとのことでした。おそらく地震の大きさによって類型的に危険を測ることが困難なためだと思いますが、その不都合を回避するために気象庁では震度6弱以上の場合には特別警報に「位置づける」と記述しています。

つまり、震度6弱以上の大地震が発生していても、発表上の扱いは「特別警報」ではないということです。現に、自治体の多くは「特別警報」の発令と地震の発生については分けて記述しているところが多いです。

これは混乱しました。臨時休業の基準を特別警報が出ているかどうかで定めている自治体や学校の場合、「じゃあ地震の場合はどうなんだ?」となることが多々あると予想されます。実際、私も理解するのに時間がかかりました。

たとえば枚方市の非常変災時の措置基準のページを見ると(こちらでも可)、特別警報については記述がありますが、地震の場合については既述がなく、今回の事態に対してどう考えていいのかわかりません。
魚拓:https://web.archive.org/web/20180622024322/https://www.city.hirakata.osaka.jp/cmsfiles/contents/0000011/11927/kinnnyuuzinosotinituite.pdfhttp://archive.is/jZdyd

そのせいで、別途文書等で臨時休業を発表するということになっていました。
魚拓:https://web.archive.org/web/20180622024649/https://www.city.hirakata.osaka.jp/cmsfiles/contents/0000019/19298/hijouhennsaiji.pdf

自治体や学校ごとに臨時休業の基準を公表しているところは、こういったことを理解していないと思われるところもあるのだろうと思います。ここは各自治体で改善すべきことだと思います。

日本気象協会のtenki.jpの表記

f:id:Nathannate:20180622113820j:plain

参照元:tenk.jp:https://web.archive.org/web/20180622023411/https://tenki.jp/bousai/warn/6/30/2710000/

現時点で日本気象協会が運営しているtenki.jpを見ると、特別警報の項目には「地震」がありません。これは地震が継続的な事象ではなく、状態が継続するということが観念できないものだからということと、地震が発生する危険が高いという状況が把握できるほど現在の科学的知見は発達していないからでしょう。
魚拓:https://web.archive.org/web/20180622023411/https://tenki.jp/bousai/warn/6/30/2710000/

よって、「警報が出ていないから地震は無く、臨時休業にはならない」とは言えないのであって、このズレが面倒なことになっていると思います。

この辺りが分かりにくい自治体や学校があれば、改善するよう要求するべきでしょう。

まとめ

  1. 感染症の場合は法令に休校等の基準が定められている
  2. それ以外の地震・大雨・暴風・台風等の場合には休校等の基準は法令にはない
  3. ただし、自治体や学校毎に基準が定められている
  4. 地震・津波・火山は気象庁の発表上は「特別警報」ではないので情報把握に注意
  5. 最も重要なのは学校で配布される休校の基準の資料

災害時の情報発信・情報収集は人の命にかかわる問題であるため、より誤解が生じないように各所で表現を工夫するなどして欲しいと思います。

以上

吉村大阪市長の震災時の「休校ツイート」は違法なのか?:災害対策本部設置時の権限の所在

吉村市長の休校ツイート

大阪の震度6弱の震災では大阪市の吉村市長が迅速な対応をしていることで注目されていますが、吉村市長の「休校ツイート」に対してこのような指摘があります。

魚拓:http://archive.is/nVNZQ

果たして吉村市長の当該ツイートは「違法」なのでしょうか?

原則から順を追ってみていきましょう。

執行機関の多元性

普通地方公共団体には「執行機関の多元性」の体制が敷かれています。

「長」「委員会」「委員」の3種類があります(地方自治法138条の4第一項)

委員会・委員は、長から独立して職務権限を行使する執行機関として位置づけられます。委員会と委員の違いは、デフォルメして言えば人が複数かどうかです。

地方自治法は、選挙によって直接住民に対する責任を負っている長に権限を集中させています。他方で、長への行き過ぎた権限集中を排除するために委員会・委員の制度が設けられているのです。これが執行機関の多元性の機能です。

つまり、基本的には長と委員会は互いの判断に干渉しない制度設計になっているのです。したがって、休校判断は通常、教育委員会の事務であり、それが通常は学校長に委任されていることになります。

学校教育法施行規則の非常変災時の権限

震災時の休校判断については定めがあります。

学校教育法施行規則

第六十三条 非常変災その他急迫の事情があるときは、校長は、臨時に
授業を行わないことができる。この場合において、公立小学校について
はこの旨を当該学校を設置する地方公共団体の教育委員会(公立大学法
人の設置する小学校にあつては、当該公立大学法人の理事長)に報告し
なければならない。 

非常変災とは自然災害をはじめとする緊急事態全般を指す用語です。

ここでは「校長」が臨時休校の権限を持つとされています。

これが平時の通常の扱いです。

大阪市地域防災計画の「原則」

大阪市地域防災計画臨時休業

大阪市地域防災計画 <震災対策編>(平成29年11月)第2部 災害予防・応急対策の6章(143頁以下)でも、非常変災時の臨時休業=休校措置の判断は校園長にあるとしています。臨時休業とは、俗にいう学級閉鎖・学年閉鎖・学校閉鎖を指します。

非常変災時の措置基準」とは、各自治体の教育委員会が定めている基準のことであり、自治体によって異なります。例えば枚方市の措置基準はこちらです。大阪市の措置基準は現時点ではネットで公開していません。ただ、各学校が独自の基準をWEB上に公開しているところもあります。たとえばこちらです。

原則的に、このような判断基準に従って臨時休業=休校措置の決定判断がなされることになっています。しかし、「原則」ということは「例外」があるのであり、それがまさに今回の吉村市長のツイートの件でした。

ツイート時、吉村市長は災害対策本部長の立場

大阪市地域防災計画 <震災対策編>(平成29年11月)第2部 災害予防・応急対策の1章、組織体制について見ていきましょう。

教育委員会は災害対策本部長=大阪市長の指揮監督下

まず、気象庁発表で震度5弱以上で「災害対策本部」が設置されることになっています(34ページ)。市の本部長は市長が担います。市本部長の職務は、市本部の事務を総括し、市本部の職員を指揮監督するということがわかります(35ページ)。市本部の職員は、市本部長の命を受け、市本部の事務に従事するとあります。

市本部長が指揮監督する市本部の職員の中には「教育長」が含まれています。教育長とは、教育委員会の構成員であり、教育委員会の事務執行責任者です。現実にも吉村市長が「休校ツイート」をしたときには災害対策本部が設置されており、既に教育委員会に指示済みでした。

勤務時間外であっても、今回は震度6弱の地震のため、市本部の職員が全員動員されます(53ページ)。

 

市本部の分掌事務として教育部(教育長)が行う事務は以下の図(49ページ)にあります。

大阪市地域防災計画 <震災対策編>

休校措置は明示されていませんが、児童生徒の避難や安全確保のために必要な行為の一つであると考えられることから、この中に入っていないとは考えにくいです。「本部長の特命事項に関すること」として扱うことも可能でしょう。

実は、この大阪市地域防災計画は災害対策基本法に根拠があります。

災害対策基本法の規定

災害対策基本法

第二十三条の二 市町村の地域について災害が発生し、又は災害が発生するおそれがある場合において、防災の推進を図るため必要があると認めるときは、市町村長は、市町村地域防災計画の定めるところにより、市町村災害対策本部を設置することができる

ー中略ー

6 市町村災害対策本部長は、当該市町村の教育委員会に対し、当該市町村の地域に係る災害予防又は災害応急対策を実施するため必要な限度において、必要な指示をすることができる。

23条の2第6項においても、災害対策本部長は教育委員会に対して「必要な指示」をすることができるとあります。 

では、この必要な指示に休校措置は含まれるのでしょうか?

一義的には決まらないと言えますが、休校措置が敢えて除外される合理的な理由はないと考えられるので、災害対策基本法のいう「必要な指示」には休校措置が含まれるとするのが筋でしょう。

※追記:「必要な限度において」を超えるか

最初に執行機関の多元性の話をし、長への行き過ぎた権限集中を排除するために委員会があるということを指摘しました。その観点から、災害対策本部設置時といえども、分掌事務として列挙されている事柄があるということは、委員会が完全に市長の指揮系統下にあるのではなく、分掌事務の範囲内において市長の指揮系統下にあると考えるのが妥当です。基本的に権限の干渉になることは慎むべき、抑制的であるべきという要請が働いていることは確かです。

災害対策基本法の23条の2第6項の「必要な限度において」も、このような関係を反映していると予想します。ただし、これが「必要最低限度」を意味するものかは不明です。法令沿革の審議経過を見てもこの点が問題になったことはなく、判例も災害対策基本法の当該部分について論じているものは見つけられませんでした。

関係するとすればこのあたりでしょうか。

第190回国会 東日本大震災復興特別委員会 第5号 平成二十八年五月二十七日(金曜日)

河野国務大臣 災害対策基本法においては、緊急災害対策本部長また
は非常災害対策本部長は、災害応急対策を的確かつ迅速に実施するため
特に必要があると認めるときは、その必要な限度において、地方公共団
体の長などに対して必要な指示をすることができるとされております。
 これは、国として総合的な災害応急対策を効果的に実施するために必
要な措置であり、例えば地方公共団体相互間での広域応援の実施の指示
や、指定地方行政機関等に対する物資の供給の指示などを想定して設け
られたものでございますので、災害のときに何が適切か、ケース・バイ
・ケースだと思います。

地方自治体レベルではなく国レベルの話なのでこの例が完全に適切であるとはいえないですが、これだけをみると各部局の行為は必要だが単独では為し得ない職務について指示できるということを規定したと読み取ることができます。

ただ、「必要な限度」の話と「必要な指示」の話が混然一体として述べられていることにも注意すべきでしょう。そもそも「必要な限度」と「必要な指示」の関係がどうなのかは解釈問題として手が付けられないものになりますが、素朴に考えれば「必要な限度」は必要な指示を行うにあたっての行為態様について規制したものと考えられないでしょうか?

そうすると、教育委員会と協議した上で指示を出したことが必要な限度を超えたと評価することにはならないと思います。

さらに、当該規定は「必要な」についての本部長の判断に自由裁量が認められていると考えられるので、問題視するにしても違法性ではなく、不当行為性しか争えないのではないでしょうか。このような古典的な理解でなくとも、裁量の範囲を逸脱・濫用していると言えるかはかなり疑問です。

「平時たる非常変災時」と「災害対策本部設置時」の区別

  1. 非常変災時の休校措置の判断は学校長が原則
  2. 災害対策本部設置時には災害対策本部長が休校を教育委員会に指揮できる。

この2つの関係はどうなるでしょうか?吉村市長は、災害対策本部設置時の休校の判断権者は災害対策本部長=市長であると言いますが、それでは大阪市地域防災計画のマニュアルが意味をなさなくなるのではないか?というのが毎日新聞の指摘です。

魚拓:http://archive.is/QGUAx

しかし、「非常変災時」と「災害対策本部が設置される事態」はイコールではないということが重要です。先に、非常変災時としてどのような基準で休校の判断がされるかは各自治体によって異なるということを指摘しました。ここで、休校に関する大阪市教育委員会の非常変災時の措置基準を見ていきます(関係者への聞き取りに基づく)。
※学校毎に基準を公表している場合は学校の方を参照してください

  1. 朝7時の時点で大阪市に暴風警報・暴風雪警報・特別警報が発令している
  2. 朝7時の時点でJR大阪環状線と市営地下鉄の両方が運行停止している
  3. 地震に係る警戒宣言が発令している
  4. 警報等がなくても気象状況や通学路の状況等を鑑みて学校長が判断する 

災害対策本部の設置基準は以下です。

大阪市災害対策本部設置基準


たとえば暴風警報・暴風雪警報であっても直ちに災害対策本部が設置されるとは限りません。このようにして、そもそも規定の対象にズレがあるのであって、災害対策本部設置下において災害対策本部長たる吉村市長が休校の指示を出したからといって、大阪市地域防災計画の内容が無駄になっただとか、越権行為であるなどということにはなりません。

したがって、今回、吉村市長が指示を出すまで大阪市教育委員会が臨時休業=休校措置をしていなかったとしても、それは違法でもなんでもないということになります。逆に学校が休校判断をしていたらどうかはわかりません。

ただ、私は災害対策基本法23条の2第6項で「災害対策本部長は教育委員会に対して「必要な指示」をすることができる」という規定ぶりと、原則として休校判断は学校長にあるということから、災害対策本部設置時においても一次的な判断権者としては校長が存在し、最終的・最上級の判断権者として市長が居るということになるのではないかと疑問に思っています。

※追記:災害対策基本法にいう「指示」の意味

逐条解説 災害対策基本法 第三次改訂版において、28条に関する記述のところで以下のような説明があります。

本法における「指示」は「指揮監督」とは異なる。「指揮監督」が上級の機関から下級の機関に行われ、相手方を法的に拘束するものであるのに対して、ここにいう「指示」は、上下の関係にない機関相互の間の横断的な調整手法である。したがって、「指揮監督のような法的拘束力を有するものではなく、相手方の自発的な遵守を期待するというもの」(平成7年11月10日参議院災害対策特別委員会・政府答弁)である。

しかしながら、災害応急対策の一体性の確保が強く要請される災害対策を実施している時期においては、災害応急対策推進の中心となる非常災害対策本部長の指示については、関係指定地方行政機関の長や地方公共団体の長においても当然に認識しているところであり、各機関一体となった災害応急対策の実施のために本部長の指示が遵守されることが通常の姿であろうと考えられる。

したがって、この「指示」については、災害対策実施の時期においては、事実上の遵守義務を伴うこととなることが想定される(前掲政府答弁参照)。

各機関の権限はそのまま残ってはいるが、市長は指示権によって自己の判断を各機関に実施するよう調整できるということです。

このような意味になっているのは、災害対策実施時という緊急時において総合的な調整を行う強力な権限を市長に持たせる一方、現場判断は尊重されるべきであると考えられているからだと、解説を通覧して感じます。

災害時に「上からの指示」におもねっていては適切な判断はできませんから、たとえ権限を有する各機関が市長の指示に反しても、それはおそらく余ほどのことが無い限り違法にはならないように表現を工夫しているのでしょう。各所にそのような痕跡がみられます。 

なお、他の法律では「指示」に法的拘束力を持たせている例もあります。

現場の混乱はなぜ生じるのか?

これは法体系の複雑さと現場の認識の不備という側面があると思います。

法体系の複雑さ

大阪市立学校管理規則はこちらにあります。

また、学校保健安全法については出席停止の権限者は校長にあり、臨時休業の権限者は「学校の設置者」が規定されています。

これを受けて、学校保健安全法施行規則の21条では校長は感染症による出席停止が可能とされ、18条に感染症の種類の列挙がなされています。

「学校の設置者」とは国や地方自治体、学校法人など様々ですが、地方自治体周りで言えば大学は首長、それ以外は教育委員会が管理を行うこととなっています。教育委員会から学校長に判断が委任されている例がほとんどです。

とはいえ、校長や教育委員会のみならず、都道府県の保健部局等の外部から休校等の要請が来ることもあります。それを受けて校長等が休校を決定判断しても、越権行為などとはなりません。

平時、災害時、疾病、有事。これらの場合について別々の法律が定められており、さらに規則や例規のレベルでも規定されていることから、種々の混乱が起きていると思われます。これはもうちょっと上手くできないものか。

この辺りは足立康史さんが書くのでしょうか?

現場の認識の不備

今回、「ツイートなんて見てられるか」という声が出てきています。後に正式ルートで情報が伝わりますが、保護者の方が学校現場よりも先に内容を認識して電話してくるということがあり、問題視されています。

これは登校途中や登校を迷っている児童生徒やその親にとってはありがたいものだったと思います。しかし、既に投稿している児童生徒の親にとっては送り迎えがある方などは気をもんだと思います。SNSを使った情報発信の功罪があると思うので、今後の肥やしにすればいいと思います。

災害対策本部が設置されているという前提認識があれば、吉村市長がツイートした内容は災害対策本部長としての命令指示なんだろうという推測が強く働きます。その命令指示は教育長に対するものなので、後に教育長から各校園長に伝えられることになります。

今回は震度6弱なので、災害対策本部は必ず設置されることになります。そのため、現場が市長の発信を目にしたなら、それは災害対策本部長としての指示だろうと思えばよい。このような心の準備があれば、教育現場の混乱はあまりないはずです。

なお、家庭レベルでの混乱の要因として「非常変災時の措置基準が分かりにくい」というものがあります。これについては別稿を書きます。

※書きました。「大阪市の判断は遅いのでは?」「大阪市の基準はおかしいのでは?」という疑問についても、一定の考え方を示しています。

まとめ:「吉村市長は違法」は違うのでは

結局のところ、吉村市長の判断は違法ではないどころか災害対策基本法に則った正当な手続きであったということが明らかになりました濃厚でしょう。報道では『市長が「超法規的措置」と言っている』とありますが(この言葉が本当だとしてその意味するところは必ずしも明らかではないが)、それでも休校措置が違法性を帯びていると言うことは厳しいでしょう。

毎日新聞も災害対策本部が設置されたことでの休校判断権限者の変化を無視しており(気づいていないだけ?)、いたづらに批判の矛先を向けているだけになっています。

行動した者を非難し、行動していない者は非難しないという風潮ではいけないと思うのです。

御礼
..izawa ..yuki@kosaizenji 様
木星3@tetsulovebird 様
金桜のイージス@TakahiroGoi1 様
バレット@Barrettm95sp 様

以上