事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

加計学園の面接0点で不合格の韓国人受験生が日本語弁論大会優勝者だったから何なんだろうか?

常識が欠如してる人らが騒いでいます。

文春:面接0点で不合格の韓国人受験生が弁論大会優勝者

3月18日発売の週刊文春3月26日号では、加計学園の推薦入試A方式の面接試験で0点になり不合格になった韓国人受験生が【日本語で行われた加計学園主催の弁論大会の優勝者】だったことが掲載されています。

岡山理科大学獣医学部(加計学園)の入試方法の説明

加計学園の日本語弁論大会優勝者

一部報道について

  1. A~Eの5段階評価
  2. 面接では日本語能力だけでなく獣医師に関する知識やコミュニケ―ション能力を問う
  3. 面接の複数質問のうち、1つでもE判定がつけば全体がE判定になる
  4. 日本人受験者含む全受験者の約4分の1がE判定
  5. 推薦入試A方式で不合格だった韓国人受験者のうち、一般入試前期で2名が合格している
  6. その他の韓国人でも、一般入試前期で1名、留学生入試で1名が合格している
  7. 合計4名の韓国人が合格している

岡山理科大学獣医学部(加計学園)による入試方法の説明はこのようになっています。

日本人も0点になっているとあります。

つまり、日本語が出来ていようが面接で頓珍漢な返答をしていれば0点になる可能性がある試験なのであって、何もおかしな話ではありません。

一方通行の外国語スキル:弁論大会では双方向コミュニケーションが測れない

また、上記記事でも詳しく書きましたが、外国語スキルというのはリーディング・リスニング・ライティング・スピーキングに大別することができます。

その上で、更に「一方通行のスキル」なのか「双方向のスキル=コミュニケーションスキル」なのかという区分けも可能です。

弁論大会は、予め自分が用意した筋書きに沿って口から内容を吐き出すだけで済む性質のものであって、その場で他人からの質問等を受けて説明するような能力を測ることはできません。

要するに、弁論大会に求められるものは双方向のスキルではないわけです。

したがって、日本語弁論大会で優勝したような人間が面接試験で日本語でのコミュニケーション能力の不足を理由に低評価をつけられるということは当たり前にあり得る話です。

これくらいは外国語を「チョット勉強した人」は分かるでしょう。

加計学園杯 日本語弁論国際大会決勝大会

お知らせ学校法人 加計学園魚拓

お知らせ学校法人 加計学園

加計学園杯日本語弁論国際大会決勝 9カ国11人が五輪テーマに熱弁/モンゴルの大学生アノゥザヤさん優勝/環境改善訴え|学校法人加計学園のニュースリリース

文春の記事でいう「昨年11月に行われた大会」は「加計学園杯 日本語弁論国際大会決勝大会」を指すようです。この大会の優勝者はモンゴルの大学生です。

ただ、文春の記事では同時に「9月に釜山で行われた大会」について書かれています。韓国人の優勝者とは、こちらの優勝者のことなのでしょう。

※決勝大会の動画を見ることができました。

韓国代表の方は、原稿を時たま確認しながら、約6分間演説をやり遂げています。

まぁ高校生年代としては上手な日本語だと思います。イントネーション以外は文法上のミスは無かったと思います。

ただ、決勝大会では登壇者全員が素晴らしかったため、最優秀賞以外に今治市長賞・審査員特別賞・優秀賞がありますが、韓国代表の方は残念ながらそのどれにも選ばれませんでした。

推薦入試A方式は、競合が日本語ネイティブの者であり、面接は15分間、事前に用意したものではない言葉で対応しなければならないため、やはり別能力が要求されると言えます。

まとめ:だから何なんだろうか?

「日本語のコミュニケーションスキルの不足を理由に面接0点だった者が日本語弁論大会優勝者だった」⇒だから何なんでしょうか?

 むしろ面接官のガッカリ度は相当なものだったんだろうなぁ、と不憫に思います。

以上

「新型コロナ空中で数時間生存米研究所が警告」記事の論文ソースはエアロゾルのもの

新型コロナ空中で数時間生存

ロイターなどによって「新型コロナ空中で数時間生存」に関する記事がネットでシェアされてますが、この論文については既に解説しているので改めて紹介します。

「新型コロナ空中で数時間生存」記事の論文ソース

新型コロナ、空中で数時間生存 米研究所が警告 - ロイター

という記事がなぜか今日(3月18日)になってトレンド入りしていますが、元となっている論文は以下で紹介したものです。

新型コロナ「エアロゾル」で3時間生存 米研究グループが発表 | NHKニュース

NHKではより詳細に書かれていて、どうやらmedRxiv(プレプリントサーバー)に掲載されていた論文が、NEJM(ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン)にも掲載されたようです。

3月9日にエアロゾル伝播と間接接触伝播について書いた論文が17日にNEJMに掲載

Aerosol and surface stability of HCoV-19 (SARS-CoV-2) compared to SARS-CoV-1 | medRxiv

Aerosol and Surface Stability of SARS-CoV-2 as Compared with SARS-CoV-1 NEJM 

当該論文は新型コロナウイルス=SARS-Cov-2の親戚であるSARS=SARS-Cov-1との比較をしています。

Our results indicate that aerosol and fomite transmission of HCoV-19 are plausible, as the virus can remain viable and infectious in aerosols for multiple hours and on surfaces up to days.

我々の研究結果は、HCoV-19のエアロゾルおよび媒介物による伝播が確からしいことを示しています。すなわち、ウイルスはエアロゾル中で数時間、表面上で最大数日後まで生存し、感染性を保持できます。

この後に"This echoes the experience with SARS-CoV-1,"、つまり、この現象はSARSと似ていると言っているわけです。新型コロナに特異な現象ではないとしています。

また、「新型コロナウイルスは…銅(製物質)の表面では4時間、段ボール上では24時間、プラスチックやステンレス・スチールの上では2、3日の間、同ウイルスは生存していた」

ということが書いてあります。ロイターの記事で言ってる論文がこの論文であるということはここから分かるわけです。

「エアロゾル伝播」と「空気感染」は別、実験環境は特殊

型コロナ空中で数時間生存米研究所が警告

Supplemental Appendix

論文本文ではなくAppendixの記述ですが、「ジェットコリジョンネブライザーを使い、ゴールドバーグのドラムに入れてエアロゾル化環境を作出した」と書いてあります。

公衆衛生学修士の坂本史衣氏が実験用のドラムの図を提示しつつ以下解説しています。

空中」という単語で「空気感染」を想起する人が多いのですが、メディアもそれを狙って騒がれるタイトルをつけているだけです。

エアロゾルと飛沫・飛沫核の違い、日本における用語法の混迷については以下でまとめています。

論文では「米研究所が警告」してない

ロイターの記事では「米研究所が警告」と煽ってますが、元論文では特に注意すべきということは書いてません。プレーンな実験結果を述べているだけです。

まとめ:古いネタで騒ぐメディア

メディアの常套手段というか、古今東西を問わず、古いネタで騒いでニュース性を偽装するということが行われているんだなということを再確認しただけですね。

NEJMに掲載されたということで、実験の内容としては正当なものとして認められたということになりますが、その評価は坂本医師の指摘している通りだろうと思います。

なお、NEJMには以下のように、当該論文の結論等はCDCオフィシャルとしてではなく研究者らのものであると注意書きがしてあります。

The findings and conclusions in this letter are those of the authors and do not necessarily represent the official position of the Centers for Disease Control and Prevention (CDC). 

以上

テドロス"test test test" PCR検査をしまくれ発言がミスリーディング

テドロス"test test test" PCR検査

WHOのテドロス事務局長が"test test test" とPCR検査を煽る発言をしています。

テドロス"test test test" =PCR検査しまくれ発言「疑わしいケースに対して」

WHO Director-General's opening remarks at the media briefing on COVID-19 - 16 March 2020

But the most effective way to prevent infections and save lives is breaking the chains of transmission. And to do that, you must test and isolate.

You cannot fight a fire blindfolded. And we cannot stop this pandemic if we don’t know who is infected.

We have a simple message for all countries: test, test, test.

Test every suspected case.

WHOのテドロス事務局長が"test test test" =PCR検査しまくれ(PCR検査という指定はしてませんが、現状ではその意味と捉えて差し支えないのでこう書きました)、と連呼したのは2020年3月16日行われたメディアブリーフィングでの開会挨拶においてです。

テドロスはテストをしまくれ、と言っていますが、同時に「疑わしいケースに対して」と言っています。

WHO「接触者に対する検査は症状がある者のみ」

上記発言をした後にテドロスは濃厚接触者についても触れ、発症前2日前までに濃厚接触していた者にも検査をするよう促しています。

ところが、トランスクリプト(文字起こし)では次のように発言の趣旨についての補足説明がつきました。

WHO Director-General's opening remarks at the media briefing on COVID-19 - 16 March 2020

We have a simple message for all countries: test, test, test.

Test every suspected case.

If they test positive, isolate them and find out who they have been in close contact with up to 2 days before they developed symptoms, and test those people too. [NOTE: WHO recommends testing contacts of confirmed cases only if they show symptoms of COVID-19]

WHOは確定症例の接触者(濃厚接触者という意味だろう)に対する検査はCOVID19の症状を呈した者のみに行うことを推奨します。

「症状を呈した者のみ」としています。

これは日本がやっている積極的疫学調査よりも検査の対象が狭くなる考え方です。

テドロスの発信はミスリーディング

WHO Director-General's opening remarks at the media briefing on COVID-19 - 16 March 2020

People infected with COVID-19 can still infect others after they stop feeling sick, so these measures should continue for at least two weeks after symptoms disappear.

Visitors should not be allowed until the end of this period.

There are more details in WHO’s guidance.

===

Once again, our key message is: test, test, test.

WHOの方針はともかく、テドロスの発言からは「疑わしい者」 に対する検査をするべきと言っているようには聞こえません。

何が「ワンスアゲイン」ですか、非常にミスリーディングでしょう。

「症状回復後も感染力を持つ」発言は無視

上記引用文では、感染者は症状回復後も他人に感染させるので少なくとも2週間は寝室やバスルームを分けたり介護者が身辺の物を触ったら手洗いすることを続けなさい、と言っています。

これは多くのメディアが無視していると思います。

だってそうでしょう。

メディアはテドロスの口から発せられる言葉がWHOのオフィシャルの認識とズレがあることをこれまでさんざん経験してきたからです。

「症状回復後も感染力を持つ」ということが、確定されたエビデンスとされているということはありませんので。

追記:感染伝播を抑えるためには必要な助言か

なお、回復後も糞便中にウイルスの排出が続くということはSARS・MERSや他のコロナウイルス・ノロウイルスなどでも知られています。

症状がなくなることが即、感染力も無くなることを意味しないということは常識のようですが、それがどれだけ続くのかということはおそらくハッキリしていないようです。

「回復後2週間は…」という助言は、そういう意味で安全側に立ったものなのだろうと思います。

まとめ:中国の検査キットを売りたいのか?

テドロスの発言は文字で読むと検査対象を絞っているように見えますが、"test test test" などと煽っている(しかも2回も)ことからは、発言に逃げを打っておきつつ検査を煽ることを意図しているとしか思えません。

現に、メディアはこの発言部分を大々的に取り上げています。

中国では新型コロナウイルスの検査キットの開発が進んでいるようですが、これを売るためにミスリーディングしている疑念すら出てきます。

以上

上昌弘医師、受診数と医師らからのPCR検査希望数を捏造する

上昌広のPCR検査数デマツイート

上昌弘医師のデマが止まりません。

上昌弘医師、相談数と医師らからの検査希望数を捏造する

魚拓:http://archive.is/rS52I

「医師などが求めたpcr検査の大部分を相談センターは断っています。3/9は5520件中、251件しか実施しませんでした。」

これは資料の記載内容とも、現実とも齟齬がある悪質なデマでしょう。

帰国者接触者相談外来受診数をPCR検査数と捏造

上昌広のPCR検査数デマ

表を見ると分かるように、この数値は「帰国者接触者相談センターの相談件数」と「帰国者接触者外来の受診者数」を指しています。

帰国者接触者相談センターへの相談は、何も医師を介さなければならないということはありません。

したがって、上昌広氏のツイートは、「帰国者接触者相談センターの相談件数」を『医師らからの検査依頼数』とし、「帰国者接触者外来の受診者数」を 『PCR検査数』であるとする捏造だということになります。

PCR検査実施件数も含めた表は厚生労働省のHPにある

帰国者・接触者相談センター相談件数、外来受診者数

新型コロナウイルス感染症の現在の状況について(3月15日12時時点版)のページ下部には各種の数値表が掲載されています。

上図は帰国者・接触者相談センターの相談件数等(都道府県別)期間:2月1日~3月12日から。相談件数・受診件数・PCR検査実施件数が分けて書かれています。

1日毎のPCR検査数についても国内における新型コロナウイルスに係るPCR検査の実施状況(結果判明日ベース)から確認可能です。

上昌広のPCR検査数デマ

注意書きがあるように、現在までに報告されている暫定値であり、今後変動します。

両者のデータが異なるのは、帰国者・接触者相談センターを経由したPCR検査(行政検査)と、そうではない「積極的疫学調査」や、3月6日から保険適用された民間の医療機関(極一部だが)から検査依頼があって実施されたPCR検査は把握ルートが別だからと思われます。

なお、民間がまとめているデータとしては新型コロナウイルス 国内感染の状況 東洋経済のものがとても見やすいと思います。数値が厚労省のものと異なっていますが、参考にはなるでしょう。

国会審議から1週間経過してから公開した理由は?

「国会審議で配られた資料」とありますが、これは3月10日火曜日に行われた予算委員会の公聴会でしょう。上昌広氏が参考人として呼ばれていました。

しかし、1週間経過してからこの資料を公開した理由は何なんでしょうか?

数値は暫定値であり、既に意味をなさないということを考えれば、「検査依頼数と検査数に乖離がある」ということだけを言いたいと捉える他ありません。

しかし、既に示したようにそれは捏造です

まとめ

元々言ってることがおかしかったのが、ここに来てさらに壊れてきた感があります。 

以上

「イタリアでは医療従事者の20%が感染したという論文がある」は間違いです

「イタリアで医療従事者の20%が新型コロナウイルスに感染」は間違いです。

木村正人の「イタリアでは医療従事者の2割が感染」記事

問題の記事は木村正人氏によってBlogosで2020年03月16日 17:40にUPされた「新型コロナウイルス、イタリアでは医療従事者の2割が感染 医師も人工呼吸器も足りなくなる」というタイトルの記事です。

序文には医学論文誌のLancet=ランセットの論文を引用して以下書かれています。

新型コロナウイルス、イタリアでは医療従事者の2割が感染 医師も人工呼吸器も足りなくなる(記事の魚拓です)

[ロンドン発]新型コロナウイルスの津波にのみ込まれたイタリアでは治療に当たった医療従事者の2割が感染。4月中旬には最大4000人の集中治療室(ICU)収容が必要になる――。

医学雑誌ランセットに13日、イタリアの国民医療サービス(SSN)が新型コロナウイルスの大流行に対応できるかを分析した伊ベルガモ大学教授らの論文が掲載されました。

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)30627-9/fulltext

これは「イタリア全土における医療従事者の(治療に当たった)2割が感染した」と読むほかないのですが、このような理解は明らかに間違いです。

イタリアの人口あたり医師は日本の2倍近い数

イタリアの医師の数、医療従事者の2割が感染というデマ

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000111914.pdf

2015年の数値ですが、イタリアの人口1000人あたり臨床医数は3.9人と、日本の2.3人の1.7倍です。イタリアの人口が約6000万人なので、医師の数はイタリア全土で23万4000人居る計算になります。

そして、「医療従事者」とは何も医師だけを指すのではなく、看護師・薬剤師etc…を指す総称ですので、これに留まりません。

仮に医師の20%だとしても4万6800人ですし、ロンバルディア州(人口1000万人)に限っても7800人もの医師が感染していることになります。これが医療従事者を母数にしたらとんでもない数になります。

ランセットの論文は3月13日にUPされていますが、当時のイタリア全土の感染者数は約1万5000人であり、半数が医師の感染ということになり、ありえません。

13日時点のイタリア全土の感染者数から計算すると、その2割は3000人になりますが、これは8万人以上の感染者を出した中国の医療従事者の感染者数と同程度であり、にわかには信じがたいと言えます。

参考:中国 医療従事者の感染3000人超 院内感染相次ぐ | NHKニュース

問題の記事のタイトルではなく本文では「治療に当たった医療従事者」という限定付きですが、こちらも後述するように、単にこれだけではおかしな話です。

元ソースのLancet論文の記述

では、元ソースのランセット論文ではどう書いていたのか?

COVID-19 and Italy: what next?

Health-care professionals have been working day and night since Feb 20, and in doing so around 20% (n=350) of them have become infected, and some have died.

医療従事者らは2月20日以来、昼夜問わず働いており、それによって約20%(350人)が感染し、何人かが亡くなっています。

ここだけだと「母集団」が何かはわかりません。

「イタリア全土で」とは言っていません。

「治療に当たっている」という限定もありません。

もう少し広く文を拾い、同じパラグラフの文を全部掲載します。

ランセット論文はICU=集中治療室の医療従事者について

COVID-19 and Italy: what next?

In Italy, we have approximately 5200 beds in intensive care units. Of those, as of March 11, 1028 are already devoted to patients with SARS-CoV-2 infection, and in the near future this number will progressively increase to the point that thousands of beds will soon be occupied by patients with COVID-19. Given that the mortality of patients who are critically ill with SARS-CoV-2 pneumonia is high and that the survival time of non-survivors is 1–2 weeks, the number of people infected in Italy will probably impose a major strain on critical care facilities in our hospitals, some of which do not have adequate resources or staff to deal with this emergency. In the Lombardy region, despite extraordinary efforts to restrict the movement of people at the expense of the Italian economy, we are dealing with an even greater fear—that the number of patients who present to the emergency room will become much greater than the system can cope with. The number of intensive care beds necessary to give the maximum number of patients the chance to be treated will reach several thousand, but the exact number is still a matter of discussion among experts. Health-care professionals have been working day and night since Feb 20, and in doing so around 20% (n=350) of them have become infected, and some have died. Lombardy is responding to the lack of beds for patients with COVID-19 by sending patients who need intensive care but are not infected with COVID-19 to hospitals outside of the region to contain the virus.

実はこの一つ前のパラグラフでもICU=Intensive care unit=集中治療室における状況について語っているので、どうやら "20% (n=350)" という部分は【集中治療室に関わる医療従事者で感染した者の数】を表しているようです。
(パラグラフが "In Italy" で始まっているため注意を要するが、ロンバルディア州のベルガモ大学の教授の論文であることや前後の文はロンバルディア州に関することがらなので、ロンバルディア州に関するものである可能性が高い。)

ランセット論文は数字の根拠も母集団の明示もない不親切

これで分かるように、元ソースのランセット論文自体が、そもそも "20% (n=350)" という数字の根拠も示しておらず(出典なし)、母集団が何であるかの明示もない不親切な記述だったということが言えます。

ただ、常識から考えると、それはロンバルディア州におけるICU=Intensive care unit=集中治療室に関するものではないかと推測されます。

"N"と"n"の誤解

細かい事ですが、木村正人氏の記事(修正前)では以下記述してありました。

新型コロナウイルス、イタリアでは医療従事者の2割が感染 医師も人工呼吸器も足りなくなる(記事の魚拓です)

医師や看護師は2月20日以降、昼夜を問わず働いており、350人中70人(20%)が感染し、数人が死亡しました。

なぜか「70人」が付け足されています。

論文を忠実に理解するならば、これは間違いです。

N=350なら正しいですが、n=350なので。

統計などでは "N" は母集団の数、"n" は標本数を指しますから、「20%」という数字の後に"n=350" とあればそれは母集団は1750と理解することになります。

ICUベッド数と医療従事者数の関係から考える

彼の記事では「治療に当たった医療従事者」と限定していますが、イタリアで新型コロナの治療に当たった医療従事者はたった350人しかいないとでも言うのでしょうか?

ランセット論文では"In Italy, we have approximately 5200 beds in intensive care units.  Of those, as of March 11, 1028 are already devoted to patients with SARS-CoV-2 infection,"とあるように、イタリア全土で5200のICUベッドがある中、1028床が新型コロナウイルスのために稼働状態とのことですが、これに対して350人の医療従事者しかいないというのは日本のICUの運用方針からは到底考えられません。

1750人であれば1028床に対する数字としてまだわかりますが、母数350人を前提とするならロンバルディア州(人口で単純計算すると172床だが、感染拡大の中心地であるロンバルディア州はもっと多い利用者のハズ)に関するものと理解しないと辻褄が合いません。

これが正当化できるのは、論文著者に問い合わせたりその他情報から数字の中身を確定したという場合のみですが、だとすると論文の記述が間違いになります。流石にそのようなミスをするとは思えません。

※本エントリ執筆中に木村氏の記事に修正が為されたようで、この部分は現在は「2割が感染し」という表現に変わりました。

まとめ:「イタリアの医療従事者の2割が新型コロナウイルスに感染」は間違い

  1. ランセット論文では"20% (n=350)" という表記
  2. 数字の出典も母集団の明示も無い不親切な記述
  3. イタリアの「医師」の数は20万人以上、「医療従事者」は遥かに多い
  4. 論文がUPされた3月13日当時のイタリアの感染者数は1万5000人
  5. よって、「イタリアの医療従事者の2割が感染」は考えられない
  6. 文脈からして「ICUを担当する医療従事者」が母集団と考えるのが最も穏当
  7. ただ、イタリア全土なのかロンバルディア州のみの話なのかは不明(おそらく後者)
  8. 木村氏の記事本文では「治療に当たった医療従事者」とあり、その意味が「ICUにおける治療」を意味するとすれば間違いとも言い切れない

何をどうまとめても、「イタリアの医療従事者の2割が新型コロナウイルスに感染」という表記から受け取る内容は間違いでしょう。

以上

さいたま市が朝鮮学校幼稚部・初等部にもマスク配布:他に対象外となった施設はなぜなのか?

f:id:Nathannate:20200316100709j:plain

さいたま市が朝鮮学校幼稚部・初等部にもマスク配布する方針を取りました。

他に対象外となった施設もありますが、それはなぜなのでしょうか?

さいたま市の備蓄用マスクの配布先の考え方

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3月6日さいたま市新型コロナウイルス危機対策本部員会議
  1. 低年齢・高齢者・医療関係施設の3つを当初から配布の対象と考えていた
  2. 6日の時点では低年齢・高齢者施設の配布先を決定・公表した
  3. 13日の時点で医療関係施設への配布が決定された
  4. 同時に低年齢者を対象とする施設で配布対象外になっていた場所にも配布決定
  5. これは新たにマスクが確保できたということではなく、元々備蓄していたマスクの振り分け等の整理がついたため

医療関係施設への配布決定については、13日の第8回新型コロナウイルス危機対策本部員会議で確認できます。

6日時点での配布方針については以下の記事でも紹介しましたが、「マスクが不足しているため配布の要望が多かった低年齢層を対象とする施設と、重症化しやすい高齢者を対象とする施設に対して優先的に配布」する方針でした。

新たに配布対象となった施設

さいたま市の各種学校:朝鮮学校にマスク配布決定、そのほかの施設

第8回新型コロナウイルス危機対策本部員会議の資料に加え、危機管理課に確認した事項は以下。

  1. 当初から検討されていた医療機関が加わった
  2. 私立・国立の小学校や県の特別支援学校も配布対象に加わった
  3. 放課後児童クラブの中でも市の委託を受けていないが届出をしている所も対象に
  4. 各種学校で配布対象になったのは朝鮮学校のみ

放課後児童クラブは公設クラブと民設クラブがありますが、民設クラブの中でも市から委託を受けている所と、単に届出をしている所(幼稚園とは所管が異なるので指導監督施設かどうかでは区切っていない)があり、前回(6日)は届出をしている所は対象外だったが、今回(13日)は対象に含めたとしています。

各種学校については、各種学校(小)となっていることから朝鮮学校初等部も対象になっています。

各種学校で配布対象になったのは朝鮮学校のみ

今回、各種学校で配布対象になったのは朝鮮学校のみということも確認しました。

埼玉県の各種学校一覧はこちら

朝鮮学校が対象になった理由としては、感染拡大防止という観点から、他の幼稚園・小学校年代対象施設と実質的に変わりがない場所は配布するべきと判断した、ということでした。

ちなみに、各種学校のうち大宮珠算学校は幼児も対象にしているが、今回の配布対象外なので聞きました。

朝鮮学校は幼稚部として課程が制度的に組み込まれているが大宮珠算学校はそうではない、という説明でした。

これをかみ砕くと、大宮珠算学校はHP上で「幼児からも対象」と謳っているものの、制度的に恒常的に幼児年齢層が利用することが予定されている場所ではないために対象外にされたと考える他ないでしょう。

もっとも、珠算学校は、実態として幼児年齢の子が利用していることも考えられます。

しかし、幼稚園と異なり、相当数の幼児年齢層の集団が毎日利用するような場所ではない(多くは週一回の利用だろうし、人数は不定形で、幼稚園年代の利用者はせいぜい数人程度と思われる)です。

珠算学校は小学校年代が最も利用するでしょうが、週一利用などの形態は同様なため、配布対象外となっても不当ではないと私は考えます。

子育て支援センターは対象外

子育て支援センターという、0~3歳児までを対象とする施設がありますが、こちらは現在もマスクの配布対象外となっています。

保育施設は0歳から受け入れるところがあり、場所によっては1歳児から最長でも3歳児まで、という所もあるが、そこにはマスク配布対象になっています。

これはどう説明がつくのでしょうか?

さいたま市/単独型子育て支援センター

子育て支援センターは、親子同士のふれあいの場として、子育て中の方との出会いの場として、0~3歳未満のお子さんとその保護者の方が利用できる施設です。

保育所に併設されているものは保育所と同じと見れば良いですが、単独型子育て支援センターは、保護者の方がそのお子さんの面倒を見ることが前提です。

職員が不特定多数の子供の面倒を見るという仕組みではないのです。

ですから、この施設の利用にあたってはその家庭が責任を持つことになるので、マスクを配布しないという判断は適切だと思います。

准看護学校は医療機関ではないため年齢層で外れた

各種学校の中に「准看護学校」ありますが、こちらは医療機関ではないため年齢層によって今回の配布対象から外れました。

同様の理由で他の各種学校の施設も対象外です。

「朝鮮幼稚園は配布対象外なのは人種差別」はおかしい

13日の配布対象拡大方針の前の6日の配布対象には、私立・国立の小学校や県の特別支援学校、届出放課後児童クラブも対象外だったということが分かりました。

ここから、「朝鮮幼稚園はマスクの配布対象外になったのは人種差別だ」などという主張はおかしいということが分かります。

朝鮮学校に配布するのに他の場所は非配布なのは逆差別?

また、全体の配布方針や今回の配布対象外となった施設については上述の通りなので、「朝鮮学校に配布しておいて他の場所に配布していないのは逆差別だ」と言えるような事情も見当たりません。少なくとも私はそう理解しています。

まとめ

  1. 指導監督施設か否かで区切ったのは幼児政策課所管の施設
  2. 新たに配布対象となり、現時点では配布対象外となっている施設の考え方は合理的
  3. 朝鮮学校に配布しない判断が「差別」であったり、逆に朝鮮学校に配布することを「逆差別」という主張は不当

資源が限られている中でどうしてもどこかで線引きをしなければならないと考えた場合に、6日時点の判断も、13日の判断も不合理とは言えないと思います。

以上