事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

WHOが健康な人へ新型コロナ予防のマスク着用を勧める場合と布マスクの推奨について

WHOがマスクを推奨する場合

「WHOは布マスク着用を推奨している」

という人が居ますが、情報の混乱が予想されるので整理します。

WHOが健康な人へ新型コロナ予防のためのマスク着用を勧める場合

WHOが健康な人に新型コロナ予防のためのマスクの着用を勧める場合があります。

それは冒頭の画像のように、新型コロナウイルスに感染している或いは感染のおそれのある者の身の回りの世話をする場合です。

逆に言えば、それ以外の場合には健康的な人がマスク着用をする意味は無いと言っています。

When and how to use masks

「身の回りの世話をする場合」とは、COVID-19に感染している者が居る部屋に入る際を想定しているようです。

健康な人が日常的にマスクを着用することは、まったく推奨していません。

そして手洗いをしっかり行っている場合に限りマスクは効果があるとも言っています。

参考:Q&A on infection prevention and control for health care workers caring for patients with suspected or confirmed 2019-nCoV魚拓

WHOは布マスクは如何なる状況においても推奨しない?⇒医療従事者向けの情報

WHO don't recommend wearing mask for medical

https://www.who.int/docs/default-source/documents/advice-on-the-use-of-masks-2019-ncov.pdf 3月18日版も同様

こちらの最後の方には以下の記述があります。

Cloth (e.g. cotton or gauze) masks are not recommended under any circumstance.

布(たとえば綿やガーゼ)マスクは如何なる状況においても推奨しません。

この記述は"in health-care settings"=医療現場におけるものに限らず、"home care"の場合も推奨しない、という趣旨でしょう。

しかし、この文章は公衆衛生および感染予防および制御(IPC)の専門家、医療管理者、医療従事者、および地域医療従事者を対象としていますから、一般向けのものとは異なるものです。

この辺りの情報はマスメディアすら混同して報じているので要注意です。

WHOは布マスク推奨している?

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https://www.who.int/docs/default-source/searo/thailand/2020-03-26-tha-sitrep-33-covid19-final.pdf

WHOのHPの中で体調が悪い者に対しては布マスク(紙マスクも)でも推奨している記述があります。

しかし、これは3月26日の"Thailand Situation Report" におけるものです。

タイにおける事情から不織布マスクなどを利用できない場面を想定している可能性も考えられるため、これを「WHOの方針」と捉えるには慎重になるべきだと思います。

再掲:When and how to use masks こちらのページを見ると分かるように、不織布マスクなどを念頭に置いていることが分かります。

まとめ

  1. WHOは健康者には新型コロナ患者或いは疑いの者の世話をする際のみ着用を推奨し、特に同じ部屋に入る場合には必ず着用するよう求めている
  2. そのマスクの種類は不明だがサージカルマスク~不織布マスクを念頭においている模様
  3. マスクの着用は、手洗いの徹底をして初めて意味がある
  4. 「WHOが布や紙マスクでも可と言っている」というのはタイの報告書であり、汎用的なものであると扱うには慎重になるべき
  5. WHOは一般人の健康な人が感染予防のためにマスクをすることは非推奨
  6. 体調が悪い人が他人にうつすのを防ぐためにマスクを着用することは推奨されている

一般人相手のアドバイスか・医療現場を対象とした助言か。

健康者か感染者か。

その記述は何を対象にしているのか?という観点を持って情報を整理するべきです。

追記:WHOが布マスクの有用性を示唆しました

以上

志村けんの24時間以内の火葬は違法ではない:新型コロナウイルスの感染症法と墓地埋葬法

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05villageさんによる写真ACからの写真

SNSでは新型コロナウイルスに関連して「24時間以内に火葬することは違法」などと言ってる人が居ますが、これは明確に誤りです。

墓地埋葬法は24時間以内の埋葬・火葬を禁止

昭和二十三年法律第四十八号
墓地、埋葬等に関する法律

第二章 埋葬、火葬及び改葬
第三条 埋葬又は火葬は、他の法令に別段の定があるものを除く外死亡又は死産後二十四時間を経過した後でなければ、これを行つてはならない。但し、妊娠七箇月に満たない死産のときは、この限りでない。

墓地埋葬法=墓地、埋葬等に関する法律では、「死亡又は死産後二十四時間を経過した後でなければ、これを行つてはならない」と書いてあります。

これは本当は死んでいないのに、或いは蘇生したのに人為によって死亡させることが無いように万全の配慮を行うべきことから、医師が死亡診断書又は死体検案書に記載した時刻から24時間以内に埋葬・火葬をすることを禁止する規定です。

「志村けんの24時間以内の火葬は違法」と言ってる人はこれを根拠にしています。

しかし、他の法令に別段の定があるものを除く外という規定文言を無視しています。

志村けんの御遺体に感染症法が適用:24時間以内の埋葬・火葬

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 (平成十年法律第百十四号)

(死体の移動制限等)
第三十条 都道府県知事は、一類感染症、二類感染症、三類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の発生を予防し、又はそのまん延を防止するため必要があると認めるときは、当該感染症の病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある死体の移動を制限し、又は禁止することができる。
2 一類感染症、二類感染症、三類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある死体は、火葬しなければならない。ただし、十分な消毒を行い、都道府県知事の許可を受けたときは、埋葬することができる。
3 一類感染症、二類感染症、三類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある死体は、二十四時間以内に火葬し、又は埋葬することができる

感染症法では、感染症のまん延を防止する観点からは不都合な点があるために24時間以内の火葬・埋葬が認められています。

この法律は対象が「一類感染症、二類感染症、三類感染症又は新型インフルエンザ等感染症」となっていますが、新型コロナウイルス感染症は1月28日に政令に指定感染症に指定され、政令によって30条の規定が準用されるようになったので、30条3項が適用されるということになります。

なお、同様の趣旨として船員法15条に水葬の規定があります。

新型インフルエンザ等としての新型コロナウイルス患者の御遺体に対する厚生労働省の見解

新型コロナウイルスに関するQ&A(関連業種の方向け)|厚生労働省4月2日時点魚拓

3 遺体等を取り扱う方へ
問1 新型コロナウイルスにより亡くなられた方の遺体は、24時間以内に火葬しなければならないのですか。
新型コロナウイルスにより亡くなられた方の遺体は、24時間以内に火葬することができるとされており、必須ではありません(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第30条第3項、新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令第3条)。感染拡大防止対策上の支障等がない場合には、通常の葬儀の実施など、できる限り遺族の意向等を尊重した取扱をする必要があります。

「新型インフルエンザ等(新型コロナウイルスもこれに含まれるようになった)」の対策としての御遺体の扱いも規定されているようです。

「24時間以内の火葬は必須ではない」とありますが、これは法律上の話であることは記述の通りです。

参考:新型インフルエンザ等対策ガイドライン平成25年6月26日(平成30年6月21日一部改定) Ⅹ 埋火葬の円滑な実施に関するガイドライン

火葬に先立ち、遺族等が遺体に直接触れることを希望する場合には、遺族等は手袋等を着用させる。

「遺族等が御遺体に直接触れることを希望する場合には、手袋等を着用させる」

この規定ぶりだと、原則として対面できるような規定となっています。

この規定が新型コロナウイルス対策のページに記載されているということは、こちらの運用の方が適用されると考えられますから、地方公共団体や保健所等の関係機関はこちらのガイドラインを見ていただきたいと思います。

ただ、都道府県ごとにも対策が策定されているので、そちらとの関係で現場の運用は多少の差異が出てくる所があろうと思われます。

厚生労働省の一類感染症で死亡した患者の御遺体の火葬の取扱いに関する通知

○一類感染症により死亡した患者の御遺体の火葬の取扱いについて(通知)〔墓地、埋葬等に関する法律〕(平成27年9月24日)(/健感発0924第1号/健衛発0924第1号/)

第2 感染症指定医療機関において一類感染症患者が死亡した場合の対応

1 対応の原則

(1) 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号。以下「感染症法」という。)第30条第2項の規定に基づき、一類感染症により死亡した患者の御遺体は、火葬しなければならないものとする。また、同条第3項の規定に基づき、御遺体は24時間以内に火葬するものとする。

実は厚労省の通知にはもう一つ、一類感染症患者の御遺体に関するものがあります。

こちらについては24時間以内に火葬することが義務化される運用になっています。

これは法律ではないのですが、24時間以内に火葬することができると法律で書いてある枠内での運用ですのでそれ自体に違法性はありません(これに違憲訴訟をする人は出てこないであろう)。

そして、ご遺族への対応も以下のようになっています。

3 御遺族への対応

保健所は、御遺体からの感染を防ぐため、御遺族に次の事項を説明して理解を求めるものとする。

(1) 感染症法第30条第1項の規定に基づき、御遺体の火葬場以外の場所への移動を制限すること。

(2) 御遺体に触れることのないようにすること。

(3) 御遺体の搬送や火葬場における火葬に際しては、非透過性納体袋に収容・密封し、棺に納めるとともに、そのままの状態で火葬しなければならないこと。

なお、御遺族が非透過性納体袋に収容・密封されていない状態の御遺体に直接対面することを要望され、これを認める場合には、感染症指定医療機関の病室内において対面させること。この場合においても、御遺族が御遺体に触れることのないように注意すること。

このような書きぶりだとそれは例外的な扱いであることが読み取れます。

ただ、新型コロナウイルスの場合には新型インフルエンザ等の対策の方が適用されるため、この記述は関係ないということになります。参考程度に掲載しています。

まとめ:志村けんの24時間以内の火葬自体は違法ではない

志村けんの24時間以内の火葬自体は違法ではないです。

ただ、御遺体との対面については様々な場合がありえ、葬儀業者も対面をしない方が良いと説得する場合がありますし、志村けん氏の場合において現場でどういうやり取りが行われたのかを知る由もないため、ここで何かを言うことはありません。

参考:東日本大震災「葬送の記」鎮魂と追悼の誠を御霊に捧ぐ【電子書籍】[ 菅原裕典 ]

どうしても対面を希望、という場合には上記の新型インフルエンザ等の厚労省ガイドラインを根拠にすれば良いと思いますが、それでもどのような場合に認められるかはわかりません。対面が認められなかった具体的な場合に被った精神的苦痛が法的に認容されるのかは別問題です。

より詳しい現場の実態はこの動画が参考になります。

以上

安倍総理の「布マスク2枚配布」がなぜ問題視?首相官邸HP「経済対策に盛り込む」

布マスク2枚

4月1日に新型コロナウイルス感染症対策本部会議において、安倍総理が「布マスクを1世帯に2枚配布する」ことを決定しました。

これについて問題視する人と擁護する人が居るのですが、いずれにおいても勘違いしている人がほとんどだと思います。

安倍総理の「布マスク2枚配布」

安倍総理の「布マスク2枚配布」の発言に関係する部分を抜き出します。

令和2年4月1日 新型コロナウイルス感染症対策本部(第25回) | 令和2年 | 総理の一日 | ニュース | 首相官邸ホームページ

マスクについては、政府として生産設備への投資を支援するなど取組を進めてきた結果、電機メーカーのシャープがマスク生産を開始するなど、先月は通常の需要を上回る月6億枚を超える供給を行ったところです。更なる増産を支援し、月7億枚を超える供給を確保する見込みです。
 他方、新型コロナウイルス感染症に伴う急激な需要の増加によって、依然として店頭では品薄の状態が続いており、国民の皆様には大変御不便をお掛けしております。全国の医療機関に対しては、先月中に1,500万枚のサージカルマスクを配布いたしました。さらに、来週には追加で1,500万枚を配布する予定です。加えて、高齢者施設、障害者施設、全国の小学校・中学校向けには布マスクを確保し、順次必要な枚数を配布してまいります。
 本日は私も着けておりますが、この布マスクは使い捨てではなく、洗剤を使って洗うことで再利用可能であることから、急激に拡大しているマスク需要に対応する上で極めて有効であると考えております。
 そして来月にかけて、更に1億枚を確保するめどが立ったことから、来週決定する緊急経済対策に、この布マスクの買上げを盛り込むこととし、全国で5,000万余りの世帯全てを対象に、日本郵政の全住所配布のシステムを活用し、一住所あたり2枚ずつ配布することといたします。
 補正予算成立前にあっても、予備費の活用などにより、再来週以降、感染者数が多い都道府県から、順次、配布を開始する予定です。

「全国の医療機関に1,500万枚のサージカルマスクを配布した」「高齢者施設、障害者施設、全国の小学校・中学校向けには布マスクを確保して、順次配布するとしている」「布マスクは使い捨てではない」

ということで、以下のツイートは確認せずに騒いでる例だと言えます。

「だからマスク2枚だけを配布するように伝えるのは印象操作だ!」

というような擁護者がいるのですが、そこじゃない

小切手送付の否定とマスク郵送の矛盾

 実は今回の「マスク2枚送付」が騒がれているのには前段があります。

経済対策として「現金給付」「小切手送付」が要望されていたものの、断られていたからです。小切手送付の否定の理由とマスク郵送ができることの矛盾です。

「郵送する分の費用は数百億円なので、その分経済対策できるだろう」という声がでるのは当然です。

「小切手送付は法定受託事務ではない」という官僚の言い訳

経済対策としての「現金給付」「小切手送付」について、官僚からは「法定受託事務ではないから無理」と言われていたようです。(小切手については金融機関窓口に殺到するため3密の観点からは問題だと思うが)

しかし、そうであるなら立法府として法改正或いは解釈変更すれば良いのであって、何を言ってるんだろう?という感じです。

新型コロナを指定感染症に指定して1類感染症相当の扱いにしてるのも政令による読み替ですから、新型インフル等特措法の緊急事態宣言も政令要件を変えれば発動できるのにそれをやらない。

というように、立法府や内閣がやらない・できない理由として述べてることの多くは自分らで変更可能な事柄ばかりなのです(もちろん簡単に変更できてしまうのも問題なので、変更の実質的必要性を議論するべきなのですが)。

しかも、麻生政権時に給付金はやってるじゃないか。

だからこそ今回の「マスク2枚送付」にがっかり・驚愕している人が多いのです。

ただ、もう一つ勘違いされている点があります。

「緊急経済対策に盛り込む」という部分が勘違いされて問題視されている

令和2年4月1日 新型コロナウイルス感染症対策本部(第25回) | 令和2年 | 総理の一日 | ニュース | 首相官邸ホームページ

そして来月にかけて、更に1億枚を確保するめどが立ったことから、来週決定する緊急経済対策に、この布マスクの買上げを盛り込むこととし、全国で5,000万余りの世帯全てを対象に、日本郵政の全住所配布のシステムを活用し、一住所あたり2枚ずつ配布することといたします。

「来週決定する緊急経済対策に、この布マスクの買上げを盛り込む

おそらく、これが「経済対策として布マスク配布する」と理解している人も相当する居るようです。

当然、違うでしょう。

しかし、上述のような前提がある現状では、非常にミスリーディングな発信でしょう。

仮に「郵送する分の費用」を抑えるために別途の経済対策と同時に布マスクを郵送するということであればよいのですが、これは現時点では希望的観測です。

既に経済対策対策できている?

 「貸し付けは救済では無い

これに尽きます。

だからこそ経済対策が切望されているんです。

経済対策に関しては早期に実施することが切望されているなか、「経済対策に盛り込む」という「経済対策として」と受け取られるような言葉遣いをしていることそれ自体が安倍政権の問題だと思います。

追記:新型コロナウイルス対策本部会議で、「生活不安に対応するための緊急措置」が決定されており、個人向け緊急小口資金等の特例の拡大、公共料金の支払の猶予等、国税・社会保険料の納付の猶予等、地方税の徴収の猶予等が、緊急対応策として保護者の休暇取得⽀援等の対策が打たれていますが、見ると分かるように特定の範囲しか対象になっていませんので、明らかに不十分です。これらを持って「対策は既に実施してる」というのは何を言ってるの?という感じです。救済ではなく「GDPに寄与する景気対策」も必要なんです。

感染症対策として意味が無い?

布マスク配布に感染症対策の効果があるのか? という視点からの批判があります。

「ウイルス予防にはマスクは効果が無い」というのは、マスクを着けている人が吸い込む空気中にウイルスがどれくらい入り込むかというフィルター実験(マスク自体のフィルター効果に加え、不織布マスクであってもマスクと顔の間の隙間があることでの実質的な効果)の結果から言われています。

これに対して「マスクしてれば飛沫が直接かかるのを防げるではないか」と反論できますが、さらに「使い方が悪ければマスク利用によってウイルスや菌が手についてしまう」という指摘があります。

もっとも、上記は「ウイルスに感染していない人」目線であって、「ウイルスに感染している人」は布マスクであっても飛沫を抑えることができるので、他人にうつすリスクを低下させることができます。

新型コロナの専門家会議は無症状者であっても感染力が普通にあり得るという前提に変わってきているのです。これまでの医療従事者によるマスクの感染予防効果についての言説の前提が変わっていると思います。

まとめ

  1. 経済対策として現金や小切手給付ができないと言われている中で、布マスク2枚を郵送という流れがあり、それが本質的な問題
  2. マスク配布は「経済対策に盛り込む」とは言っているが、「経済対策として」ではない
  3. 感染症予防対策としての効果は「無いよりはマシ」程度と思われており、その是非は専門家の中でも意見が分かれている

とりあえずこの件に関しては自民党信者の安倍政権擁護は恥ずかしいのでやめてもらいたいですね。

以上

専門家会議の西浦博教授は「全体像把握に抗体検査は不要」とは言っていない

西浦教授と抗体検査と爆発的感染拡大の蓋然性

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の西浦博教授が3月30日の東京都の記者会見において「全体像把握に抗体検査は不必要」と言ったという言説が一部で広まっていますが、そのような事は言っていません。

あの上昌広医師と久住英二医師がそのような言説を拡散していますが、実態を整理します。

上昌広・久住英二「専門家会議の先生が全体像を把握するのに必要な検査は抗体検査ではありませんと言った」

魚拓

魚拓

上昌広医師と久住英二医師が「専門家会議の先生が全体像を把握するのに必要な検査は抗体検査ではありませんと言った」というツイートをしています。

しかし、これは事実と異なります。

時系列的に上教授は蔭山洋介氏のツイートを見た可能性がありますが(そこに西浦教授の言葉として「全体像把握に抗体検査は不要」という旨が書かれていた)、蔭山洋介氏は当該ツイートは削除し、その後は西浦教授の発言の書き起こしをしています。

西浦博教授「全体把握のために抗体検査は必要ではないとは言っていない」

西浦博教授は「全体把握のために抗体検査は必要ではないとは言っていない」 という趣旨のツイートをしました。

むしろ、『抗体検査は実施中・計画中のものがあり、感染者の全体像を把握するために必須』とまで言っています。

これだけだとちょっとわかりにくいので、動画の書き起こしを以下に紹介します。

ポイントは『全体像把握のため』ではなく『オーバーシュート=爆発的感染の兆候を把握するため』という目的においての発言だということです。

西浦教授「爆発的感染の蓋然性の判断のためには抗体検査ではない」

西浦教授の核心部分は動画の42分49秒からです。

以下、それ以前の記者の質問も重要(間の西浦教授の回答はあまり重要ではない)なので、書き起こしました。

記者 本日の資料の中に「更なる未来のデータを分析することにより、今後、感染者数が急増する蓋然性について調査することが必要」というふうに書かれています。これは具体的に感染爆発の兆候を早めに掴むことを目的とした調査だと思うんですけど、具体的にどういった調査をした方がいいのか具体例を教えていただけないでしょうか

西浦 省略

記者 新しい大規模な抗体検査ではなくPCR検査を行うのでしょうか

西浦 PCRの患者数っていうのは、確定された患者数であって、全感染者数の氷山の一角でしかないです。で、それに対して、今どういう調査をするかということなんですけど、他の調査を実施しながら、いわゆる私たちがオーバーシュートと呼んでいるような爆発的な患者数の増加がない蓋然性が高いことを僕たちで確認させていただいています。それをするためにやるべきことというのは抗体調査ではありません。抗体調査というのは、人口の何%が感染しているのかというのを、リアルタイムを含めてですけども人口レベルで感染してきた人の割合をある程度で理解するために実施するもので、今警戒すべきというのは、倍々で2、3日ごとに感染者が増え始めていないということをしっかりと確認すること。もし増えているのであれば、速やかに対策を実施するということなんですけども、それをするためには、例えばわかりやすいものであると、帰国者接触者相談センターを通じて、受診した外来患者数というのを見ると、発熱した上で、電話相談をして、受診した人の数が診断される前の段階で見れますので、それが増加傾向にあるかどうかが見られます。他にもSNSを利用した発熱者が集積しているかどうかが東京にないかどうか、多角的なデータを使って、クラスター対策班で、いま増加傾向にあるのは事実なんですけれども、爆発的な増加を警戒すべきものがないことを確認しつつ、報告をさせていただいている。

「PCR検査で陽性になった患者数」を念頭に爆発的感染の兆候を調べると言ってます。

西浦教授は感染者数の把握のための抗体検査を否定していない

厚労省新型コロナウイルス感染症対策本部クラスター対策班

全体像を把握する」というと、「日本国内(東京都内)にどれくらいの数の新型コロナウイルスの感染者が居るのかを把握する」というように聞こえてしまいますが、そのための抗体検査については、西浦教授は一言も否定していません(そもそも質問内では言及していないし、ツイートではそのためには抗体検査が「必須」とまで言っている)。

あくまでも「今やろうとしている調査」についての質問に対する返答であり、それは「爆発的感染の兆候を確かめる目的である」から、その手段としては「抗体検査は使わない」と言っているのです。

東京都の資料は小池知事「知事の部屋」/記者会見(令和2年3月30日)|東京都を参照

抗体検査とは

ここまで抗体検査について説明無しで来ましたが、抗体検査はPCR検査と比べて感染者数の全体像を把握する=疫学的な調査のためには向いているとは言えます。

ただ、万能ではありません。

抗体検査の特徴については、臨床検査医学講座講師の越智小枝氏の寄稿が誠実に書かれており、これを読むと正確に理解できると思いますが、一部を引用すると以下の指摘があります。

  • 抗体が陰性でも、感染していないとは言えない。
  • IgM抗体が陽性でも感染症状が出るとは限らない。
  • IgG抗体が陽性になっていても抵抗力が十分である保証はない。
  • IgG抗体が陽性でも人にうつさない保証はない。

まとめ

  1. 「全体像を把握する」というと、「日本国内(東京都内)にどれくらいの数の新型コロナウイルスの感染者が居るのかを把握する」というように聞こえる(実際に上医師はそういう意味で言っている)
  2. 西浦教授は「全体像を把握するため」とは言っていない
  3. 西浦教授は「爆発的感染の兆候を確かめる目的」において、記者が抗体検査をするのかと質問をしてきたからそれを否定したに過ぎない
  4. それは「PCR検査で陽性になった患者数」を念頭に置いている
  5. 西浦教授はツイートではむしろ「感染者の全体像の把握のためには抗体検査は必須」とまで言っている。
  6. よって、西浦博教授は「全体像把握に抗体検査は不必要」などとは言っていないし、そう思ってもいない。

以上

3月の日本国内における新型コロナウイルス感染者の外国人割合の推移

厚生労働省公表の新型コロナウイルス感染者数

※本エントリは当初「日本における外国人感染者数は数十パーセント」という内容の記述でしたが、そのような実態は存在していないと判断したので内容を差し替えています。アクセスが予想以上にあるので、訂正された情報を伝えるために一旦撤回した記事を再掲しました。

詳細は以下で説明してますが、ここでも改めて説明します。

厚生労働省公表の新型コロナウイルス感染者数

新型コロナウイルス感染症に関する報道発表資料(発生状況、国内の患者発生、海外の状況、その他)|厚生労働省

厚生労働省公表の新型コロナウイルス感染者数は上記リンクにある「新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について」といった表現(表記にはブレがある)のページに基づいています。

日本国内事例には空港検疫と2月に武漢からチャーター便で帰国した日本人らの数字が含まれていますが、クルーズ船のダイヤモンドプリンセス号の数字は含みません。

「※1」欄に『日本国籍者〇〇〇〇人(これ以外に確認中の者がいる)』という表記がありますが、SNS等で拡散されている「外国籍の感染者数」と言われているものは、全体の感染者数からこの数字を引いた数です。

しかし、「確認中の者」の多くは日本人です。

厚労省では外国人の数は明示していない

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厚生労働副大臣、橋本岳議員Facebook:https://m.facebook.com/gaku.hashimoto.3/posts/3601287046612514

橋本議員によれば3月22日の時点で国籍確認中の者の大半は日本国籍者であるという指摘がありました。この指摘は相当程度信用に値します。

私自身で厚労省HPの新型コロナウイルスに関連した患者等の発生についてという公表文にある各自治体からの報告書を確認しました。

すると、半数は国籍の記載はなく居住地のみですが、国籍が報告されているもののほとんどが日本国籍でした。この傾向は29日だけでなく他の日も同様です。

それを読んだ感じだと、1日の新規感染者数のうち、外国籍者は10人も居ないのではないかと推測できます

報道でも「帰国者・外国人渡航者の感染者数は23日までに134人」としているところがあります。

都道府県からの報告書を実際に見ると大半が日本国籍者

3月29日の自治体からの報告書の中で、国籍を書いているものを実際に貼ります。

北海道 茨城県1 茨城県2 京都府 茅ヶ崎市 札幌市 川口市 愛知県 名古屋市 大分県

当日の報告書のうち国籍が書いてあるものは全体の半分程度ですが、この日はすべて日本国籍でした。この傾向は他の日も同様です。

国籍を報告していないところの中には人口比として外国人が多い自治体があるものの(東京都、大阪府、川崎市など)、愛知県や名古屋市、北海道や札幌市、茨城県(つくば市は外国籍の住民が突出して多い)の報告において日本国籍者のみなので、無視できると思います。

そのため、国籍が書いていない所も同じ傾向であると考えると、「外国籍者の感染者の割合が数十パーセント」という実態はありえません。

「海外移入が疑われる事例」が外国籍者数?

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3月23日からは「※2」欄に「海外移入が疑われる事例」という表記が付くようになりました。

しかし、これはその表記の第一義的には『日本国籍者か外国籍者か分からないが海外からの「持ち込み」をした』という意味の表現なので、結局のところ意味を成していません。

日本国内事例の全体の感染者数の推移

 

f:id:Nathannate:20200330154439j:plain

日本国内事例の全体の感染者数の推移はこのようになっています。

3月末は指数関数的な増加が見られますが、欧米のような爆発的感染拡大には至っていないというのは専門家会議の言及通りです。

なお、月曜日の新規報告数は日曜日の検査外来数が少ないため低く出る傾向にあり、火曜日は多い傾向にあります(あくまで傾向ですが)

外国人の人口比を考えると感染者は多い

「海外移入が疑われる事例」に外国籍者がどれだけ含まれているかはわかりませんが、3月31日の段階で275例とあります。

また、再掲ですが報道では「外国人の感染者数は23日までに134人」とあります。

これらの数字を前提とすると、人口比を考えた場合、外国人の感染者数は日本人と比べて多い気がします。(「気がします」という表現なのは、上記の数字が本当に外国人の感染者数を表しているのか確認する術が無いから)

31日時点で国内事例は1953例ありますが、在留外国人+特別永住者=270万人+旅行等の短期滞在者の合計を500万人と仮定すると、日本人の総人口は約1億2700万人なので、外国籍の感染者は約74人となるからです。

(1億3200万:500万=1953:X)

外国人とは関係なくともいわゆる「3密」=密閉・密集・密接(特に対面での会話がある場合)の要素がある場所・機会を避けるようにするべきであり、そちらの方がリスクが高いと思われます。

ただ、どうも数字だけを見ていると外国人「クラスター」交流するような場合にはリスクが上がると言わざるを得ません。単に外国人が「3密」の場所の利用頻度が高いだけなのかもしれませんが。
(クラスター対策の文脈では感染者と濃厚接触者の意味だが、同じ属性を持つ者の集まりの意味)

30日に仙台市で新たに2名の感染者が出ましたが、両者は会食を共にしており、片方は外国籍で、秋田県の外国籍の外国語指導助手(ALT)と会食をしていたことが分かっています。

そのため、3密の中でも外国人が行きそうな場所(バーやカフェなどが考えられる)は特に避けるべきであると考えるのはそれなりに合理的だと思います。

以上

厚労省は日本の新型コロナウイルスの外国人感染者を誤魔化している

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厚労省は日本の新型コロナウイルスの外国人感染者を隠蔽しているという事実

※本エントリは「日本の新型コロナウイルス感染者の多くが外国人という事実:東京都の半数以上か」というタイトルで同じURLで公開していましたが、当初エントリは実態と異なる内容を記載していると判断しました。ここにお詫びして訂正し、内容を変更しています。

※追記:公開したようです。

厚労省の日本国籍・外国籍者の感染者数のデータ

新型コロナウイルス感染症に関する報道発表資料(発生状況、国内の患者発生、海外の状況、その他)|厚生労働省

厚生労働省では日本国内の新型コロナウイルスの陽性者=感染者数を公表しています。

国内事例+空港検疫+チャーター便帰国者事例(これらの合計が国内の数値)の他、ダイヤモンドプリンセス号の検疫事例を別個に掲載しています。

「国籍確認中」の多くは日本国籍者

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厚生労働副大臣、橋本岳議員Facebook:https://m.facebook.com/gaku.hashimoto.3/posts/3601287046612514

当初エントリでは、厚生労働省HP上の『日本国籍の者〇〇〇〇人(これ以外に国籍確認中の者がいる)』という記述から、国籍確認中の者は少数であり、それ以外のほとんどは外国籍者であるという理解でした。

過去の公表ではそのような記述は無かったので、一部を明確化した趣旨と理解してました。しかし、橋本議員によれば3月22日の時点で国籍確認中の者の大半は日本国籍者であるという指摘がありました。

それが当初エントリを撤回して書き直している理由です。

外国籍の本当の感染者数はわからない

橋本議員のこの指摘はある程度信用できそうです。

というのも、新型コロナウイルスに関連した患者等の発生について(3月29日公表分)という公表文を確認したところ、各都道府県からの報告書が添付されており、その中身を見ると半数は国籍の記載はなく居住地のみだけれども、国籍が報告されているもののほとんどが日本国籍だからです。

それを読んだ感じだと、1日の新規感染者数のうち、外国籍者は10人も居ないのではないかと推測できます

報道でも「帰国者や訪日外国人の感染者数は23日までに134人」としているところがあります。

よって、当初エントリは実態と異なる内容を記載していると判断しました。改めてお詫びして訂正いたします。

厚労省は日本の新型コロナウイルスの外国人感染者を隠蔽しているという事実

東京都の新型コロナウイルスの感染者には外国人が多い

 

橋本議員の指摘はその通りだとしても、やはり厚労省の記述はおかしいでしょう。

3月22日に指摘しているのは私とは別の方の記事ですが、『日本国籍の者〇〇〇〇人(これ以外に国籍確認中の者がいる)』という記述は、それを受けて「改善」した後のものです。

3月21日以前の過去分の記述にも変更がありません。

それまでは全体の数の他は「日本国籍の者〇〇〇人」という表記のみでした。

  1. 確認できた日本国籍者数
  2. 確認できた外国籍者数
  3. 国籍確認中の者

結局、厚労省はこれらの数字を簡単に出せるのに、それをしていないのです。

これでは厚労省は日本の新型コロナウイルスの外国人感染者を誤魔化していると言わざるを得ません。

「海外移入が疑われる事例」が外国籍者数?

3月23日からは「海外移入が疑われる事例」という表記が付くようになりました。

しかし、これはその表記の第一義的には『日本国籍者か外国籍者か分からないが海外からの「持ち込み」をした』という意味の表現なので、結局のところ意味を成していません。

なので、ここではこの数字をベースに論評することは控えます。

さて、日本国内に外国人感染者が入り込んでいるのではないかという疑問も出ているので、日本のこれまでの新型コロナ対策をざっと振り返りましょう。

査証取消し、入国拒否、空港制限、検疫、要請

  1. 査証=ビザの制限等(外務省)
  2. 入国拒否対象地域の拡大(法務省)
  3. 航空機の到着空港の限定等(国土交通省)
  4. 検疫の強化(厚生労働省)

日本は新型コロナ対策としてこのような施策をとっていました。

このうちもっとも強力なのが「発給済みビザの効力停止」であり、これにより実質的に中国・韓国から日本に入国することができなくなりましたが、なお例外事例はあります。※3月26日には対象国を拡大

その上でさらに入国拒否対象地域として中華人民共和国湖北省及び浙江省並びに大韓民国大邱広域市及び慶尚北道清道郡を指定し、そこに大韓民国慶尚北道慶山市,安東市,永川市,漆谷郡,義城郡,星州郡及び軍威郡並びにイラン・イスラム共和国コム州,テヘラン州及びギーラーン州を加えた地域に14日以内に滞在歴がある外国人の入国を禁止しました。※3月26日には、欧州 21 か国及びイランの全域を指定

裏返せば、これらの地域以外からは(中韓除く)外国人が入国が出来ていたことになります。

関連記事

「赤紙」配布地域の者だけに検疫でのPCR検査

https://www.mhlw.go.jp/content/000611181.pdf

 

では、検疫はどうなっていたかというと、「流行地域」の設定をしており、その対象が順次広がってきています(上記は3月18日時点、26日には東南アジア7か国又はイスラエル、カタール、コンゴ民主共和国若しくはバーレーンの全域も指定)

直近では26日のある時点からアメリカ全土を「流行地域」に指定しました。

過去14日以内に流行地域に滞在歴がある者においては「赤い紙」を配り、無症状であってもPCR検査をすることが通達で義務付けられていました。

ただ、これは機内アンケートでの自己申告ベースであって、すり抜けがあることが予想されます。これを防ぐためにはさらに多くの国と地域を入国拒否の対象にするしかありません。

29日にはアメリカ、欧州、中国、韓国のほぼ全土からの入国拒否の方針と報道

米中韓からの外国人を入国拒否へ 政府、欧州ほぼ全域も(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、日本政府は米国、中国、韓国の全土と、英国など欧州のほぼ全域からの外国人の入国を拒否するなど、水際対策を大幅に強化する方針を固めた。これに先立ち外務省は30日にも、これらの地域の感染症危険情報を2番目に強い「レベル3」とし、日本からの渡航中止を勧告する。

29日にはアメリカ、中国、韓国の全土と欧州のほぼ全域からの入国拒否の方針と報道されました。

さらには東京都からも「在外邦人の帰国によって感染が広がる」ことが懸念されており、国に対して水際対策の強化を要請していました。

(第14回)東京都新型コロナウイルス感染症対策本部会議資料|東京都防災ホームページ

https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/536/2020032711.pdf

こうした対策が国内・特に中韓からの到着空港を擁する東京都や大坂府にとって奏功するかは今後注目するべきでしょう。

まとめ

水際対策が悪かったから感染者が増えたのか、それとも国内で徐々に感染速度が増しているのか、厚労省が意味不明な公表の仕方をしているせいでわかりません。

とはいえ、人口比を考えた場合、外国人の感染者数は日本人と比べて多い気がします。
在留外国人+特別永住者=270万人+旅行等の短期滞在者の合計を500万人と仮定しても29日時点で約65人しか感染者は居ないハズということになる。)

そのため、【外国人コミュニティに安易に近づかない】という思考となるのが合理的であると言うことは可能でしょう。
仙台の感染事例も外国籍のALTがクラスターになった可能性がある。

こんなことは行政やメディアは言えないでしょうから、ここで指摘しておきます。

 

以上