事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

放医研に確認:朝日新聞「11歳100ミリシーベルト甲状腺被曝」の実態

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朝日新聞の「11歳、100ミリシーベルト被曝疑い 甲状腺の周囲 福島第一事故」という記事内容について。魚拓はこちら

放射線医学研究所(放医研)に電話取材した結果をまとめます。

朝日新聞の記事は概ね事実を書いてますが、詳細が省かれています。
東京新聞魚拓)が初出のようですが朝日新聞の記事はこれをさらに薄めています。

最初に徳島大学のチームがCPMを計測した

まず、朝日新聞の記事では「5万~7万cpmの値が応援に来ていた徳島大のチームに伝えられた」旨の記述がありますが、違うとのことです。

放医研の広報課長マツハシ氏からは「事実は徳島大学のチームが5万~7万cpmの値を計測し、それが郡山の文部科学省緊急災害対策センター(EOC)に伝えられ、放医研はEOCから情報共有をした」というものであると説明されました。

この5万~7万cpmという値を出したのは放医研ではありません。

その後、この数字をベースに試算がなされますが、後述するようにこの数字自体が科学的な信憑性に乏しいものであると判断されています。

人体用ではない機器で測定した数値

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https://www.env.go.jp/chemi/rhm/kisoshiryo/attach/201510mat1s-01-4.pdf

上記の5万~7万cpmという数値を測定したのは「GM型のサーベイメーカー」を用いて行ったものであるということでした。

これは科学的に正確に人体内部の被曝量を検出するためのものではありません。

空間の線量や物体の表面の線量を検出するために用いられるものです。参考例。 

人体内部の被曝量を科学的に測定するためには、本来は「NaI型」というものを使うのが一般的です。体内にとりこまれたものだけを正確に検出する必要がある際にはこちらを使います。

GM型でもまったく無意味ではありませんが「科学的には無意味」 になります。

放医研の広報課長はこのような機器での検出となった理由について、徳島大学で用意している機器に限りがある中で非常に多い人数の測定をする必要があった結果、サーベイメーカーが不足していたのではないか?と推測されていました。

CPMからBqへの試算、そして等価線量への再試算

このような経緯のある5万~7万cpmという数字について、人体への影響を考えるために当時徳島大学のチームに居た放射線の専門家である佐瀬氏を中心にBq(ベクレル)という数字に試算しました。

それが「十数キロベクレルの可能性がある」という試算結果となりました。

これも試算であり、直接検出したものではありません。

そこからさらに情報がEOC⇒放医研へと渡って、放医研の対策本部会議で情報共有されました。

放医研は放射線医療を専門にしているため、「5万~7万cpm」や「十数キロベクレル」という数字では実態を掴みづらく、放射線医療のための把握に資さないことから「等価線量(※実効線量ではない)になおしてみよう」というレベルの話だったのです。

CPMから直接等価線量(mSv)を計算で出すということは出来ないので、ベクレルから等価線量を試算で出してみたということです。

当然ながらこのような計算は通常は行いません。正確な実態を反映しないからです。

「100ミリシーベルト」は極大値の見積もり

更に100ミリシーベルトという数値は最大限に見積もった数値であるとのことです。

当時の放医研の内部でも「実際上はここまでの数値にはならないだろう」「過大評価だろう」と扱われていただろうとのことでした。

本来は計算しないものを無理やり計算してみたものであり、放射線被害の規模を計算上枠づけるためには最大でどれくらいか?ということは示す必要があったものと思われます。

「政府等の機関が隠蔽していた」との印象は事実と異なる

さて、この数字は計測後に情報共有されましたが、上述の通り科学的根拠のない単なる参考値に過ぎません。

EOCから放医研に「数字を出せ」という依頼があったのではありませんから、放医研としても公表を前提として算出した数値ではありません。

仮に放医研が国から「CPMから等価線量を算出してよ」などという正式な依頼を受けたとしたら、「科学的な根拠のある数値ではないと報告するだろう」ということでした。

こうしたことから、この数値が今出てきたことについて「隠蔽されていた!」と騒ぐのは無理やり過ぎて話にならないということが分かるでしょう。

そして「100ミリシーベルト」という数字自体もネット上では勘違いされています。

100ミリシーベルトは【甲状腺等価線量】

ここでの「100mSv」は【甲状腺等価線量】であり【実効線量】ではありません。

実効線量」は私たちがよく報道等で目にすることのある数字です。

1時間あたり空間被曝線量が〇〇μSv年間の被曝線量が〇〇mSvでよく表現されます。

実効線量は人体全身で受けた被ばく量を表します。

対して「等価線量」は一部位への影響を考慮するために適用される数値です。

ICRP 2007 での甲状腺の組織加重係数は 0.04です。

したがって、100mSvを 0.04 倍した 4 mSv が実効線量ということになります。

もちろん、甲状腺等価線量のスクリーニングレベルはmSv換算で100mSvなので、実際にこの数値が検出されていたということであれば一応は問題です。

しかし、それでも【たった一例に過ぎない】ので、 科学的に意味のある情報かというと疑問符がつきそうです。

まとめ:「11歳100ミリシーベルト被曝」に踊らされるな

  1. 5万~7万cpmという数値が徳島大学のチームによって検出
  2. しかし、検出機器は本来使用されるべきものではないGM型だったため不正確
  3. その数値をベクレルに試算
  4. ベクレルに試算された数値をさらにミリシーベルトに試算
  5. 「100ミリシーベルト」は最大に見積もった極大値で科学的根拠は無い
  6. 「100ミリシーベルト」は等価線量であり実効線量ではない
  7. 「政府機関等が隠蔽」という評価は成り立たない。

朝日新聞の記事はこれらの事情のうち、5番目と6番目については読者が把握できるようになってません。また、東京新聞は6番について確認できますが、実効線量との関係は書かれていません。

現在、数字だけでなく数字の性質までもが独り歩きしかねない状況ですが、正確な理解が広まってほしいと思います。

なお、放医研としては今回の報道によって何かコメントを出すということは、今のところは考えておらず、事態の推移によっては何らかの判断をする可能性があるとのことでした。

以上