事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

佐川宣寿氏証人喚問:丸川珠代の質問は誘導尋問?というフェイクニュース

参議院予算委員会佐川氏証人喚問2018年3月27日

3月27日の参議院予算委員会での佐川氏の証人喚問が行われました。

その際に自民党の丸川珠代議員が行った質問が誘導尋問ではないか?という指摘があるので整理します。

丸川氏の質疑のテキストはこちら

誘導尋問とは?定義はなにか?

質問者が希望し、又は期待している答えを暗示する質問

多くの書物でこのような「定義」がなされています。ただ、具体的にどういうものが誘導尋問にあたるか?という「基準」についてはなかなか明示されていないのが現状です。

平たく言うと「イエス・ノーで答えられる質問」「~~ですよね?という念押しの形」などと説明されることが多いですが、これらは「典型例」であって、これらに当たるからと言って必ずしも誘導尋問と理解されているわけではありません。

ツイッターなどでは多くの法曹関係者がいるが、「誘導尋問ではない」と明言している人がほとんどいないのは、そもそも誘導尋問にあたるかの基準が曖昧(尋問前後の文脈で決まる面がある)であるという事情があると思います。

国会の場では誘導尋問が禁止されているのか?

刑事法上は、刑事訴訟法295条を受けた刑事訴訟規則199条の3第3項が規定しています。民事法上も民事訴訟規則第115条第2項2号が誘導尋問の原則禁止を規定しています。

しかし、国会での証人喚問において同様のルールがあるかは確認できていません。訴訟の場と同じルールであるなら、意見を求める質問も許されないことになるが、意見を求める質問(事実ではなく、主観的な認識を尋ねる質問)は現に行われており、何ら制限されていません。
(もしあるというのなら教えて頂きたいが、野党の質問、前川氏や籠池氏の証人喚問を見ていても制限されているというようには決して見えない)

したがって、訴訟の話を国会の話に置き換えるという事自体がナンセンスであり、この議論そのものがミスリーディングであるという指摘は可能だと思います。

ただ、ここでは訴訟の場での誘導尋問を前提にしたとしてもどうか?という思考実験として整理していきます。

誘導尋問が禁止されている趣旨

証人は主尋問者と友好関係にあることが多いから、迎合した答えをしがちであること。

これが訴訟において誘導尋問が禁止されている趣旨です。「主尋問者」とは、証人尋問請求をした当事者が行う尋問。これと別に尋問請求をしていない側が行う相手方当事者による尋問を「反対尋問」と呼びます。反対尋問の場合には基本的に誘導尋問が許されるなど、ルールが若干異なります(刑事訴訟規則199条の4第3項)。また、裁判所(裁判官)が必要に応じて行う尋問を「補充尋問」と言います。

今回の例に当てはめれば、証人喚問請求をした野党側が主尋問者であることは明らかですが、与党側である丸川氏が主尋問者であるかはかなり疑問です。かと言って、丸川氏は財務省の「弁護人側」の立場ではないので、「反対尋問者」ではないのも明らかです。裁判所の補充尋問かというとこれもあてはまらず、訴訟の場合に引き直して理解するのは有益ではないでしょう。

ここで、誘導尋問が禁止されている趣旨に立ち返って考えてみます。「丸川氏は財務省と友好関係にあるか?」というと、そうではないでしょう。そして、それは野党も一緒であることは明らかです。

したがって、「国会質疑の場で誘導尋問が基本的に許されないのか?」という点については、極端な場合を除いて(答弁に表れていない事実を前提に質問する誤導尋問など)許されると言えると思います。また、それは現実にも許されている運用がなされています。

とはいえ、誘導尋問にあたるか?ということは以下で検討していきます。

丸川氏と佐川氏の質疑、答弁は誘導尋問?

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具体的に見ていきましょう。上記の記事にも当該質疑を記述してます。

質疑・答弁の内容

途中から記載します。言葉づかいは正確に記述してません。


◆丸川 理財局の内部で行われた。これは太田理財局長も認めているが、そうであるか?

◎佐川 太田理財局長の答弁は財務省の調査に基づいて答弁されているのだろうと思われるが、こういう個別案件は国会対応をしている理財局が行うというのは通例なので、そこで行われたと考えている。

◆丸川 考えているとお答えいただきました。安倍総理からの指示はなかったか?

◎佐川 指示はなかった。

◆丸川 総理夫人からの指示もなかったか?

◎佐川 なかった。

◆丸川 官邸の官房長官、官房副長官、総理秘書官からの指示は?

◎佐川 ない

◆丸川 安倍総理の秘書官からの指示は?

◎佐川 ない

◆丸川 ここまでの答弁は、官邸からの指示はないということでよいか?
※ここが「ということですね?」という部分と思われる。

◎佐川 間違いなく官邸からの指示は無い。

質疑、答弁の理解

上記を見れば分かるように、佐川氏は「理財局の内部で行われた」と既に言っています。その上で、丸川氏が「官邸からの指示はないということですね?」という質問をするまでに、官邸の官房長官、官房副長官、総理秘書官からの指示は無いということを佐川氏が既に答弁しています。「官邸」というと、上記の属性の人物の事務所という意味ですから、佐川氏は既に「官邸からの指示はない」と言っているに等しいということになります。

したがって、丸川氏は「既に佐川氏が答弁していた内容を確認しただけ」という事になります。他の個所でも誘導尋問ではないか?と指摘されている質問がありますが、同じことです。

誘導尋問ではない具体例

◆1「あなたは今朝、何を食べましたか?」

◎1「果物だけを食べました」

◆2「あなたが食べた果物は何ですか?」

◎2「りんご5個です」

◆3「では、あなたが食べたのは肉じゃがではないということですね?」

◎3「そうです」

 

◆3が誘導尋問ではないということは明らかでしょう。既に前の質問に対する答えによって明らかなんですから。

フェイクニュースに騙されないために

この者は弁護士ですが、この説明は単に「典型例」を言っているだけです。「~ですよね?」で終わる質問が全て誘導尋問であるとは言えないということは既に説明しました。

そして、「訴訟の場合」「主尋問では」という限定を付けている事に注意です。

こういう風に、専門知識を利用して訴訟を知らない者をたぶらかすのはどうかと思います。

百歩譲って、丸川氏の質問が誘導尋問の定義に含まれるとして、それは国会の場では基本的に許されているでしょう。更に、訴訟の場で「異議あり」と言っても裁判官が異議を認めるかはかなり疑問です。裁判官が「官邸」が何を指すのかの理解が不足していた、というような場合でなければ、異議を出しても認められないでしょう。

野党の質問は許されないのでは?

野党が行った質問には、「証人が未だ証言していない事実や証言した事実と異なる事実、客観的事実と異なる事実を前提とした質問」、つまり反対尋問でも許されない「誤導尋問」が行われている疑念があります。

また、威嚇的又は侮辱的な質問(刑事訴訟規則199条の13第2項1号)、直接経験しなかった事項についての質問(刑事訴訟規則199条の13第2項4号)をしている疑念があります。

これを無視して丸川氏の質問を誘導尋問というのは理解不能ですね。

結論

  1. 丸川珠代議員の質問は誘導尋問ではない
  2. 仮に誘導尋問であるとしても国会では基本的に許されている
  3. 野党の質問は刑事法で禁止されている質問をしている疑念がある

以上