事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

谷口智彦「岸田政権で自由で開かれたインド太平洋が消えた」⇒「完全デマ」とコミュニティーノート

 

場面によって使い分けているだけ。

谷口智彦「岸田政権で自由で開かれたインド太平洋が消えた」

https://archive.is/SdQ3X https://archive.is/kFYfU

産経新聞で安倍元総理のスピーチライターであり元内閣官房参与の谷口智彦が「岸田政権では"自由で開かれたインド太平洋"という概念が外交の辞書から消えた」とする記事が掲載されました。

これはなんと、12月17日日曜日の紙面にもなっています

元内閣参与の谷口智彦

産経新聞令和5年12月17日:日曜コラム 谷口智彦

主張の要旨は、『「インド太平洋」という単語を用いることで地域課題の特殊性が際立つ…特に中国牽制の意味が込められたものであったのに、そうした効果が薄れる「~国際秩序」という岸田流用語に変更され、安倍元総理の意図が蔑ろにされている』というものと言えるでしょう。

産経新聞記事にコミュニティーノート「全くのデマ」

表示されたタイミングによってコミュニティーノートの内容は異なりますが、12月19日現在の表示では「消されたというのは全くのデマ」とまで書かれています。

添付されているリンクは岸田文雄政権下の令和5年4月の外務省リンク。

自由で開かれたインド太平洋|外務省 令和5年4月24日

谷口氏は「岸田首相の(令和5年の)10月の国会演説では「自由で開かれたインド太平洋」は皆無」と言っていますが、国会議事録を検索すれば、岸田総理は令和5年度でも「自由で開かれたインド太平洋」という単語を使用していることが分かります。

「今年の10月以降に、「~インド太平洋」概念をフェードアウトさせているのだ」、という意味であっても、それは明確に虚偽です。

令和5年10月25日衆議院本会議及び令和5年10月26日参議院本会議でも、岸田総理は「自由で開かれたインド太平洋、FOIP」について発言しているということは、国会議事録を検索すれば容易にヒットしますし、映像でもその通りに発言していることが確認できます。

したがって、谷口氏の主張の前提事実が存在しない、ということになります。

※追記:「国会演説」が所信表明演説だとして

岸田総理は令和4年の所信表明演説では「自由で開かれたインド太平洋を推進するため…」と発言しています。

では、【安倍総理の所信表明演説】はどうか?

所信表明演説が行われた第185,187,192,195,197,200回国会の議事録を調べると…

【自由で開かれたインド太平洋】という言及があるのは令和元年10月4日のみでした

他は「自由で開かれた海洋秩序」「自由で公正なルール」「自由で公正な国際経済秩序」「自由で公正な貿易」という発言はあり。

なお、林芳正外務大臣時代・上川陽子外務大臣時代も「自由で開かれたインド太平洋」という発言はあり、11月の答弁でも確認できます。

谷口氏の論は、何から何までデタラメだったということです。

※※追記終わり※※

「自由で開かれた国際秩序」が増えている、という点について

さらに谷口氏は「「自由で開かれた国際秩序」が増えている」「今年1月の林氏の外交演説では「自由で開かれた国際秩序」という表現」としてそれ自体を問題視しています。

しかし、結論から言えば、「自由で開かれたインド太平洋」=FOIPと「自由で開かれた国際秩序」は、場面によって使い分けられているだけです。

具体的には、「自由で開かれた」で岸田文雄総理大臣の国会答弁を検索すると、「~国際秩序」は、令和4年にも多く登場し、ひとつながりの答弁の中に「~国際秩序」と「~インド太平洋」が併存しているものもあるのが分かります。

それを見ていくと、米韓台湾豪インドASEAN諸国など、地理的に「インド太平洋」に面しており、直接の国益に深くかかわる国々に関しては「~インド太平洋」と言及され、これに対して欧州など地理的に遠い場合や、全世界的な話をする場合には「~国際秩序」と言っているのが分かります。

それだけを見ても、「自由で開かれたインド太平洋」=FOIPという概念の有効性を岸田政権がスポイルしているとは、到底言えません。

安倍晋三元総理大臣も「自由で開かれた国際秩序」

自由で開かれた国際秩序と安倍政権

ダメ押し的に指摘しますが、故安倍晋三元総理大臣時代も「自由で開かれた国際秩序」という言葉は使われていました

2017年版開発協力白書の公表|外務省

上掲画像は2017年の開発協力白書のページです。

法の支配や航行の自由等の価値の普及・定着がFOIP=Free and Open Indo-Pacific

前掲資料や各所の解説を見ると、FOIP=Free and Open Indo-Pacific=自由で開かれたインド太平洋構想(当初は「戦略」)の根源には「法の支配」がある、ということが分かります。法の支配は以下で指摘されているFOIPの「三本柱」の一つです。

  • 法の支配、航行の自由等の基本的価値の普及・定着
  • 連結性の向上等による経済的繁栄の追求
  • 海上法執行能力構築支援等の平和と安定のための取組

外務省HPから読み解く「自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIP)」の理念と実践 | 海洋安全保障情報特報 | 笹川平和財団| 海洋情報 FROM THE OCEANS

「自由で開かれた国際秩序」においても、このような中核的要素を含むものである以上、この言い回しが故安倍元総理のFOIP戦略をスポイルさせるものだという認識は、完全に誤ったものだと言えます。

今回の産経新聞記事を受けて、故安倍元総理の戦略やFOIPについて、彼の支持者らにおいても全く理解されていないことが観測されてしまいました。

実は、そうしたことは既に実感していたので以下の記事をまとめたのでした。

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