事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

米国ホンダ、ブラジルFPS選手の原爆投下画像投稿でTeam Liquidとのスポンサー契約を解除

海外のインターネット・SNS文化が引き起こしたと言える

米国ホンダ、FPS選手の原爆画像投稿でTeam Liquidのスポンサーを解除

Team Liquid Dias選手によるSNSでの原爆投下GIF画像

ブラジルのFPSプレイヤーであるLucas Dias選手が「Rainbow Six Siege(レインボーシックスシージ)」の大会において日本のチーム「CAG OSAKA」に敗けた後、Xにて「原子爆弾の弾頭を市街地に投下、キノコ雲の爆発の絵を含むGIF画像を投稿した」ことで、Dias選手の所属するTeam Liquid のスポンサーシップを6年間継続していたアメリカホンダ自動車社が契約を終了させました。本田技研工業は当初はスポンサーを継続する予定としていましたが、方針転換がありました。

Team LiquidとLucas Dias選手は謝罪し、チームから当該選手に対して給与 4 か月分相当の罰金処分が科せられて福祉施設に寄付されるほか、Team Liquidが本大会で得た賞金の全額も慈善団体への寄付に充てた上で、今後 6 か月間、すべての競技の Team Liquid 選手とコーチ全員を対象に、本件をケーススタディとして必須の再資格トレーニングを実施するとしています。

各者の発信・声明は以下にまとめておきます。

アメリカホンダ自動車(本田技研工業株式会社の子会社)の声明

アメリカホンダ自動車のTeam Liquidとのパートナーシップ契約終了の声明

Discover Honda | News, Events, Racing & Technology | Honda魚拓

以下、Team Liquid BRの声明

Posicionamento da Team Liquid sobre a recente publicação do jogador DiasLucasBr em suas redes sociais pessoais

Lucas Dias選手の削除後の発信

https://archive.is/mz9Fo

チーム・リキッドのCo-CEOの発信。

一部はBBCによる歴史ドキュメンタリーとして制作された映像から

BBCによる原爆投下再現映像

Dias選手の投稿に添付されたGIF画像は、いくつかの映像を組み合わせたもののようで、冒頭の弾頭が市街地に高高度から落下する映像部分は、BBCがアメリカによる広島への原子爆弾投下について歴史ドキュメンタリーとして制作した映像からのものでした。

GIFのうち、キノコ雲が立ち上る部分はBBCのこの映像には存在しませんが、続きの部分からなのかは不明です。

なお、彼がGIF画像をどのように手に入れたのかは検索環境について検証不能なので、断定することはできません。ネット上では『「Hiroshima」と入力しないと出てこない画像だ』という主張が見つかりますが、それを確定できる材料は見つかりません。

海外でのインターネット・SNSにおける爆発画像の比喩表現文化

Lucas Dias選手の投稿のテキスト部分を読めば分かるように、その内容は競技の結果と今後の展望に関するものであって、何か攻撃的侮蔑的な意味合いがあるようには一見すると見えません。*1

日本人としてはLucas Dias選手がこの文面で「爆発系」の画像を投稿する意味が理解できない人も多いと思われますが、従前から英語圏や韓国語圏など、爆発画像が「物事の力強さ」など、比較的ポジティブ寄りの比喩表現やジョークとしても用いられていた、という背景事情があります。ゲームに限らず音楽のPVや社会的現象に関する評論においての比喩的表現として「大きなキノコ雲を伴う爆発」の画像が使われているのを目にする事はありました。
(ポジティブな意味で用いられているであろう場合も、ネガティブな意味の場合も)

実際、ルーカス・ディアス選手の弁明でも「日本のチームの力が爆発していたことを表現したもの」と説明されていました。

さて、そうした意図はともかくとして、このような用法を許容するインターネット・SNS文化は、果たして正常なのか?というのが、本質的な問題の一つとして認識されなければならないのではないでしょうか?

個人の問題に収めようとするなら、また同じ者は出てくるでしょう。

カジュアルに原子爆弾などのキノコ雲の画像を比喩表現として使い過ぎなんですよ。

「キノコ雲」だけならまだ逃げ道はあったかもしれません。

「ドラゴンボール」の「かめはめ波」といった、漫画やアニメの必殺技の威力によって「爆発によるキノコ雲」が形成されるシーンを使うということも行われているからです。

しかし、今回のルーカス選手は、「弾頭が市街地に投下される過程」も含まれているGIFを投稿していました。このような投稿は、私が見てきた中でも英語圏や韓国語圏でも極めて少ないです。

そこに含まれ得る追加的な意味合いについての想像力を失わせたのは、夥しい数のカジュアルな用法が許容されてきた情報空間の毒のせいでしょう。

爆弾というものの性質への想像力の欠如・原子爆弾投下による被害という歴史的事実の無視

「キノコ雲の下に居た人々」は数十万人で、深刻な後遺症に長年苦しめられた人も多いという事実や、そもそもの「爆弾というもの」の性質の理解が、見過ごされているのではないでしょうか。

「爆弾」というものは、本質的に「卑怯な殺戮兵器」なんですよ。そこに「身命を賭した勝負」などの戦闘は存在しない。しばしば使われる実態は兵士の別も無く無辜の民間人も犠牲になってきた。戦争だけで無く無差別テロで頻繁に利用される卑怯な手段として用いられており、そこに「名誉の戦死」というものは存在しない。

原子爆弾なんて、その最たるものじゃないか。

広島と長崎への原爆投下という歴史的事実。あれは戦闘地域に投下されたのではなく、民間人が普通に生活している都市部に対して、警告無く投下されたもの。日本国民(当時は朝鮮半島出身者の朝鮮人も日本人だった)だけでなく、中国人や他の外国人も(イギリス人、オランダ人、アメリカ人すら)犠牲になった。多くのキリスト教徒も、教会やイエスの像と共に巻き込まれた。

 

そんな代物をジョークとして扱う文化なんて、気が狂ってるとしか思えない。いったいなぜそんな行為が許されるとして扱われているのか、その状態自体が、理解出来ない。

「爆弾による爆発」というのは、範囲の規模が大きいために「引きの絵」で描写されることが多く、そこに被害者が存在しているという認識をしばしば忘却させる。

本件は、そうした意識の希薄化、想像力の欠如を導くような「爆弾投下・爆発の画像/映像」の安易な使用が為されている表現空間の「毒」が、一人の人間の行動に影響を与えてしまい、不適切な文脈が生まれてしまったという構造的なものでしょう。

個人のSNSの使い方以前に、社会において歴史的事実が無視されている問題、爆弾というものの性質が等閑視されている問題なのではないでしょうか?

今回、日本のチームとの試合の後の投稿だったから騒ぎになったように感じますが、本来、どの国のチームとの試合の後であっても、試合結果に関するものでなくとも、投稿の本質的問題とは関係ないハズです。

これは「多様性」だとか、そんなチンケな事柄の話では無い、人類の普遍的な規範に関する話です。

esports選手として、一人の人間としてのSNSでの行動・習慣の注意点

ルーカスディアス選手をはじめとしたesports選手には、競技の価値、競技が行われることによる価値を広める役割があります。特にFPSゲームは、現実では許されることがほとんど無い、銃撃を扱ったものです。それがゲームだからこそ安全が確保され、公平なルールの下に勝負ができる。

そういう立場の者が、兵器を安易に用いた表現をすることの無用のリスクは、強く自覚されなければなりません。

さらに言えば、一人の人間として、「SNSにおいて誰が作成したのかも分からない画像・映像」を何らのチェックも無しに「皆が使っているから」として自己の投稿に含めることは、リスク管理の観点から避けるべきだし、そういう「絵に頼る発信」をし続けていると、個人において適切な意図を表明する表現力、ひいては思考力まで堕落させることになります。

よく居るでしょう?漫画のワンシーンの画像を他人の返信欄に貼り付けて自己の主張の代弁をさせている投稿を頻繁にしている者が。特に「論破」をしたい人に多い。

そういうのが習慣になってしまうと、著作権の問題を抜きにしても、個人の思考力を奪いますよ。それによって、自分の意図しない意味が客観的に認識されるであろうものを無批判に使用してしまうリスクは増えていきます。

「スポンサーやチームを背負ってるから注意しよう」ではなく、その遥か手前での行動の規律によって、防ぐことができる事態だったでしょう。

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*1:ネット上の用法に紛れ込ませて隠れたネガティブな意味を込める者も存在するが