事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

本多平直元議員『14歳と性交は捏造』の無意味さ:立憲民主党内の問題まとめと文春記事

本多平直議員、14歳と性交は捏造、という無意味さ

立憲民主党内の政争に過ぎない。

『14歳と性交は捏造』文春記事が躍るが

『14歳と性交は捏造』という文言のある2022年5月10日付の文春記事が躍っていますが、これは昨年2021年の夏には既に判明していた事実に関して再構成されたものです。

文春記事の内容は、立憲民主党内での手続がおかしい事を具体的に書いている点で新規性があり有益ですが「本多議員の発言が歪められた」という問題意識は無意味です。

本多議員(当時)の発言そのものに関する事情は昨年7月に既に出揃っているので次項以降に関連資料へのリンクを置き、本件がどういう事案として理解すべきか論じます。

立憲民主党ハラスメント防止対策委員会調査報告書

立憲民主党ハラスメント防止対策委員会調査報告書

この調査報告書も本多議員も、産経新聞の以下の記事が発端だとしています。

<独自>「50歳が14歳と同意性交で捕まるのはおかしい」立民議員が主張 - 産経ニュース

立憲民主党の性犯罪刑法改正に関するワーキングチーム(WT)で、中学生を性被害から守るための法改正を議論した際、出席議員が「50歳近くの自分が14歳の子と性交したら、たとえ同意があっても捕まることになる。それはおかしい」などとして、成人と中学生の性行為を一律に取り締まることに反対したことがわかった。

複数の党関係者によると、発言したのは50代の衆院議員。「年の離れた成人と中学生の子供に真剣な恋愛関係が存在する場合がある」とも語り、厳罰化に慎重な姿勢を示したという。

現在の刑法では、本人の同意があっても性行為自体を罪に問うのは13歳未満に限られている。中学生に対する性行為は、多くの都道府県条例で同意があっても処罰対象としているが、地域によっては結婚を前提とした交際関係などがある場合、対象から外している。

本多議員からは意見書で次項のような反論が為されています。

本多平直元議員意見書「性交ではなく恋愛」の無意味さ⇒性交同意年齢の議論

本多議員は昨年5月10日のWTでの発言に関して、立憲民主党への意見書や支持者らへの声明で以下述べています。

立憲民主党の処分の問題点についても前者において指摘しています。

ここでは「本多議員の発言内容」に関する点に絞って一部抜粋します。

衆議院議員 本多平直 意見書2021年7月21日

第5 今回の騒動の原因となった「14歳と性交」は本件委員会も認定しておらず、「党の名誉に著しい悪影響を及ぼ」したのは寺田座長による事実と異なる情報発信にあること

1 今回、私の発言とされるものが大々的な注目を集めるきっかけになったのは、産経新聞の6月4日付の記事「出席議員が「50歳近くの自分が14歳の子と性交したら、たとえ同意があっても捕まることになる。それはおかしい」などとして、成人と中学生の性行為を一律に取り締まることに反対したことがわかった。」という報道であり、この記事をきっかけに「14歳と性交」という刺激的な表現が報道上独り歩きして大騒ぎになっています。

2 しかしながら、本件報告書における事実認定は、「また、本多議員は、50代の私と14歳の子とが恋愛したうえでの同意があった場合に罰せられるのはおかしいと、強めの発言をした。」というものです。 前述した通り、中間報告案は6月3日のWTにおいて公開される前に党所属の全国会議員に送付されています。こちらの中間報告案を送付したのは寺田座長です。この中間報告案では「例えば50歳近くの自分が14歳の子と性交したら、たとえ同意があっても捕まることになる。それはおかしい。」との表記でしたが、これがメディアに漏れ、「14歳と性交」というセンセーショナルな報道につながっています。この報道の発端は、そもそも、本件委員会すら認定していない「14歳と性交」という事実と異なる発言が、中間報告案に記載されたことです。

ー省略ー

第6 政治家が政党内部の政策を論ずる会合における発言内容を理由に処分される前例を作るべきではないこと

1 WTでは参加者全員が、性犯罪は絶対にあってはならないこと、現行法には運用上の問題があることの認識は、私も含め共有し前提とされていました。その中で私の発言は、現行法制上条例の規定及び裁判所の判断によりそのほとんどが処罰されている年齢差の大きなケースについて、「真摯な恋愛」が存在する場合などについて処罰しないとの最高裁判決にも基づく例外規定の必要性の有無について、改めて講師に確認したものであり、処分の対象となるようなものではないと考えます。法律の議論をするのに仮定をすることがおかしいなら、議論は成立しません。議論の場にいる方へ一定の配慮は必要ですが(配慮が足りなかったことは反省しています)、国民に刑罰を科す立法を議論する際には、被害者の思いに寄り添うことは当然の前提としつつ、情緒や感情のみに流されない慎重な検討が必要だと考えます。

2021年8月吉日 ご支援いただいた皆様へ

 問題となった5月10日の発言は、WTにおいて講師が、「年齢差の大きな場合には恋愛は存在し得ない」との趣旨のご発言をされたのに対し、私は、100%存在し得ないことはないのではないかとの思いで、「例えば(眼の前にいる実在の)50代の私が「14歳との恋愛が存在する」と言っても、存在しないと言えるのかとの趣旨で述べた質問だったと記憶しています。

 6月3日朝突然、党所属全国会議員に対しWT中間報告案が、発言者への事前確認もされないままに一斉送信されました。その中に例の「50代と14歳の性交の発言」が議論経過の一部として掲載されていました。和t櫛が初めてその表現を見たのは、同日11時のWTの場でした。

やたらと「14歳との性交」という表現を問題視しているのが分かります。

性交同意年齢に関する議論なのだから、「性交」があった場合というのは大前提のはずなのに、この点を否定して「発言が捏造」という把握は意味が無いでしょう。

「読者からの印象が悪い」とでも言いたげですが、ならばもっと直截な弁明ができたはずです。それをやっていない時点でおかしいでしょう。

※しかも、5月下旬のWTでも「12歳と20歳代でも真剣な恋愛がある」と言っていたという報道も朝日新聞から為されており、この点について寺田学氏からも問題視されていましたが、本多議員の意見書等ではこの点について何らの弁明もありません。本稿では扱わない。

※その他、SNSでは本当に言ってもいない内容を発言したかのように言われ誹謗中傷が発生していたが、立憲民主党による処分とはまったく関係が無い。

青少年との「真摯な恋愛」について判示した最高裁判例と刑法上の性交同意年齢の議論

大前提として現行刑法では性交同意年齢は13歳からとなっています。立憲民主党のワーキンググループでも、この点を引き上げるべきかどうかが主な議題となっていました。

他方で、13歳以上18歳未満との性交については児童福祉法と自治体の条例において一定の条件下で規制されてきました。

本多議員が言う最高裁判決とは福岡県青少年保護育成条例違反が問われた 最高裁判所大法廷 昭和60年10月23日判決 昭和57(あ)621刑集 第39巻6号413頁  です。

そこでは本条例における「淫行」を「青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為」としています。

児童福祉法上の「淫行」についても平成26年に同様の判決が為されています。

昭和60年の最高裁は「淫行」から除外される例として「婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等」を挙げ、それらは「社会通念上およそ処罰の対象として考え難い」としています。

この「真摯な交際関係」がいわゆる「真摯(真剣)な恋愛」の元になっています。

つまり、13歳以上18歳未満との「単なる同意性交」が児童福祉法や条令で処罰されているのではなく「青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為」が処罰されているということです。

もっとも、「(成人と)14歳との同意性交が処罰されるのはおかしい」という表現をみた場合、その理解は以下に分かれるでしょう。

  1. 13歳以上18歳未満との「単なる同意性交」が処罰対象となるのはおかしい、と言っている?
  2. 13歳以上18歳未満との「真摯な恋愛が無い同意性交」も処罰対象となるのはおかしい、と言っている?

しかし、実際には発端となった産経新聞の記事でも「真剣な恋愛関係の有無」について語っていることが分かる為、『「真摯な恋愛のある同意性交」が処罰対象となるのはおかしい』、と言っていると読めます。児童福祉法や青少年保護育成条例に関する判決内容を知っている者からすれば、ごく当たり前の事を言っていると映ります。

ただ、知識のない一般読者からすると、わざわざ産経新聞が報じていることから、「何か問題となる発言をしたのだろうか」と考えても無理はありません。おそらく産経新聞もこうした反応が出ることを予期して(期待して?)いたでしょう。

本多議員は党への意見書において「私は、長年、性犯罪に関する刑法改正について深く関心を持っており」という旨を言っています。

しかし、本当にこの議論に誠実に取り組んでいたなら、「講師から年の離れた恋愛の有無に関する発言があった」「最高裁判例で真摯な恋愛のような場合を処罰に含めることは不当とする判断があり、そのような場合は実態として無いのかという趣旨で発言した」のように即座に弁明し得たはずです。

それを、「本当にこういう発言をしたのかわからない・音声を聞かないと分からない」という初動対応をし、時間が経って話が整理できるはずの時期でも曖昧な主張をしている時点で、いくら善意解釈しても擁護に値しません。

その程度の理解で「議論」していたってことでしょう?

まとめ:立憲民主党内のガバナンスと寺田学議員、島岡まな教授の姿勢の問題

本件は【立憲民主党のガバナンス・手続の問題】【立憲民主党の寺田学議員の座長としての振る舞いの問題】【島岡まな教授の学者としての姿勢の問題】であり、その延長線上で『本多議員に対する不当な仕打ち』と論ずるのは正当だと思います。その限りで「この程度の発言で処分されるのはおかしい」と思います。

しかし、「恋愛と言っていたのに省かれ性交と書かれたのは捏造だ」のような枝葉末節で無意味な問題把握はおかしい、ということです。

以上:はてなブックマーク・ブログ・note等でご紹介頂けると嬉しいです。