事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

米国司法省発表の500ドットコム潘正明の連邦大陪審起訴状での【5人】と高橋洋一「日本の賄賂議員に岩屋外務大臣」について

無理がある認識

米国司法省発表の500ドットコムCEOだった潘正明の連邦大陪審告訴状

米国司法省の藩正明の告訴状

District of New Jersey | Former CEO of 500.Com (now Bit Mining Ltd.) Indicted for Role in Bribing Japanese Officials and Bit Mining Ltd. Resolves Foreign Bribery Investigation | United States Department of Justice

Office of Public Affairs | Former CEO Indicted for Role in Bribing Japanese Officials and BIT Mining Ltd. Resolves Foreign Bribery Investigation | United States Department of Justice

Criminal Division | U.S. v. Zhengming Pan | United States Department of Justice

https://www.justice.gov/opa/media/1377336/dl

2024年11月18日、米国司法省が500ドットコム(現ビットマイニング)CEOだった潘正明(Pan Zhengming)につき日本のIR計画で賄賂目的でコンサルタントに約190万ドルを仲介させたとする連邦大陪審による起訴状を公開していました。
(「米国司法省の告訴状」と書いているものがネット上では散見されるが、起訴権限は連邦大陪審にあり、起訴状と書くのが厳密。原文も"indictment")

これに関して岩屋毅外務大臣の名前が挙げられて不確かな言説が広がっています。

高橋洋一「起訴状で賄賂を受け取った日本の国会議員に岩屋外務大臣」

朝日放送テレビ『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』2024年11月30日

発端は、朝日放送テレビ『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』2024年11月30日の放送で高橋洋一氏が「起訴状で賄賂を受け取った日本の国会議員の一人に岩屋外務大臣」という趣旨の発言をしたことです。

高橋洋一 司法省がHPに全部出てますから。それをそのまま見れば、複数なんですけど英語だから複数表記になってるわけ。もし日本の話そのままだったら単数表記なんですよ。秋元さんだけでしょ。それで中を見ると日本の捜査当局から全部資料もらいましたって書いてあるんです。そうなるとその5人ですはっきり言えば。5人は既に分かってますから。ただ立件だけは秋元司さん一人だっただけです。その5人のうちの一人が今の外務大臣ですからね。

アメリカ行ったら事情聴取されるかもしれないし、さらに言えばね、ちょっとこっから先は私の相当推測も入るけれども、国際手配になったらどこの国にも行けなくなりますよ。

この話は本当なんでしょうか?

米国司法省の起訴状の【5人】は、コンサルタントと秋元司とその側近

https://www.justice.gov/criminal/media/1377541/dl?inline

起訴状に明示的に出てくる【5人】について

まず、この5人の中に、岩屋氏に該当する人物は居ません。内訳は以下です。

◆500ドットコムのコンサルタントが3人
◆日本政府関係者が2人

コンサルタントは日本政府の者ではありません。

日本政府関係者は"Japanese official 1"と"Japanese official 2"が書かれています。

"Japanese official 1"は、国会議員で「インフラや運輸・観光をまとめる政府機関の行政官」とあるので、国土交通副大臣だった秋元司と確定。この被疑事件は現在最高裁で争われています。

残る"Japanese official 2"は、"Japanese official 1"と「非常に近い関係」(側近?)だと書かれ、旅行に一緒に付いて行く関係なので、岩屋氏ではありません。

"other members of National Diet"=他の国会議員の人数は書かれていない

https://www.justice.gov/opa/media/1377336/dl

本起訴状では"Japanese Official1,2"とは別に"and other members of National Diet"=他の国会議員という複数形が賄賂の贈り先として出てきています。
米国司法省とビットマイニングとの起訴猶予合意書=訴追延期合意でも"various Japanese officials"と書かれている。)

が、起訴状ではこの議員の人数は書いてありません

高橋洋一氏は「複数形で出てきてる」と番組で言っているので、この事を指していると言えますが、これと彼が番組で発言した「5人は既に分かってます」「ただ立件だけは秋元司さん一人だった」「その5人のうちの一人が今の外務大臣」の関係は、どう理解すればいいでしょうか?

日本で報道された議員は6人:秋元司・岩屋毅・中村裕之・宮崎政久・船橋利実・下地幹郎

2020年に日本で500ドットコム事件が盛んに取り上げられたされた際に、日本の報道で名前が出ていた議員らは全部で6人です。

自民党の衆院議員では、元国土交通副大臣の秋元司、元防衛相の岩屋毅中村裕之宮崎政久船橋利実らが、そして日本維新の会の衆議院議員であった下地幹郎の名前が各所の記事に登場しています。

6人】です。

日本維新の会の議員は高橋氏の頭から抜けていたとしても、起訴状では「賄賂を受け取った日本の国会議員ら」という複数形が5人とは書いておらず、それとは別に"Japanese official 1"=秋元司と理解される者について記述されているのですから、やはり言及対象にはズレが生じています。

まとめ:起訴状から岩屋大臣が賄賂を受け取った議員に含まれていると読み取るのは困難

本起訴状に、岩屋大臣が賄賂を受け取った議員に含まれると書かれているか?というと、「書かれていない」となります。「書いてある」というのは、違います。

藩正明の供述が潘正明の起訴状に書かれているというのも、事実と異なります。
米国司法省とビットマイニングとの起訴猶予合意書には「潘正明の供述」はあるが、そこにも賄賂を贈った先として岩屋議員が明示され或いは判別できるものと理解できる記述は無い)

他方で、「そう読み取れる・そう理解できるか?」という解釈問題がありますが、それは【分からない】【読み取るのは困難】が穏当な理解です。

既に判明している、日本で疑問視された金銭のルートでは、上掲の読売新聞にあるように、観光会社⇒中村裕之議員⇒岩屋議員となっていること(後述のように講演会の謝礼として処理されている)、また、岩屋氏は対象期間に防衛大臣だった期間があることから、そういう人物を他の議員と同じ扱いにしているのは奇妙です。

元々、日本の報道で岩屋氏の名前が挙がっていたのは、藩正明の供述で賄賂を贈った議員として言及されていたから、と報道されています。

しかし、「米国政府機関や連邦大陪審が、賄賂を受け取った日本の議員に岩屋氏が含まれていると認識している」という、起訴状の記述外の、さらには藩正明の供述外の話となると、誤っていると断定することも危ういでしょう。

整理すると『誰が賄賂を受け取った議員か』については、以下の3つで異なります。

  1. 米国政府機関や連邦大陪審の告訴状の記述から読み取れる内容
  2. 藩正明の供述における認識
  3. 米国政府機関や連邦大陪審の認識

日本の報道では、藩正明の供述には岩屋氏が含まれているということになりますが、1⃣からはそのように言うことができず、3⃣は不明、ということになります。

さらに言えば、岩屋氏が米国から容疑をかけられているということは、藩正明の起訴状や米国司法省とビットマイニングとの起訴猶予合意書にも書かれていません。それは流石に高橋洋一氏も言っていません。

岩屋毅議員記者会見:100万円は「中村氏が開いたセミナーで講演した謝礼」

中村裕之議員から岩屋議員に寄付された100万円は、「中村氏が開いたセミナーで講演した謝礼」であり、政治資金収支報告書にも記載していると、上掲の令和2年1月4日の記者会見で語っています。同様の認識を令和6年11月29日の外務大臣会見でも語っています。

岩屋外務大臣会見記録|外務省(令和6年11月29日(金曜日)13時27分

【岩屋外務大臣】まず、はっきり申し上げておきたいと思いますが、これは既に終わった話だと思います。私(岩屋大臣)は、令和2年の1月4日に記者会見を行って、申し上げたとおりでございまして、私(岩屋大臣)が、中国企業から金銭を受け取った事実は断じてありません。まして、工作を受けたこともありません。私(岩屋大臣)自身、報道されている中国企業とは、全くお付き合いはありません。政治資金規正法上も、外国企業から寄付を受けることなどはあり得ません。

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