事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

岸田総理、露のウクライナ侵略を受け「戦略3文書改定・日米同盟強化・国連安保理改革」自民党大会で

岸田総理

国連安保理改革とは?

岸田総理「戦略3文書改定・日米同盟強化・国連安保理改革」

2022年3月13日、岸田総理が自民党大会で演説をしました。

安全保障に関する発言中、ロシアのウクライナ侵略により「新たな国際秩序の枠組みの必要性」が生じたとし、「戦略3文書改定・日米同盟強化・国連安保理改革」について述べていたので関連資料を整理していきます。

報道では以下のようなものがありますが、この中身についても指摘していきます。

岸田首相「暴挙を強く非難」 ウクライナ侵攻受け「3文書」改定など訴え - SankeiBiz(サンケイビズ):自分を磨く経済情報サイト

首相は「ロシアの暴挙」への対応として、外交・安全保障政策の根幹となる国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画の戦略3文書改定や日米同盟強化など防衛力を強化する考えを示した。ロシアが国連の常任理事国で拒否権を持つため、ウクライナに全面侵攻したロシアに対する非難決議の採択が困難である点を踏まえ、国連や安全保障理事会の改革実現にも意欲を示した。

戦略3文書:国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画

戦略3文書については以下にリンクを貼ります。

その他情報 国家安全保障戦略について | 内閣官房ホームページ

防衛省・自衛隊:「平成31年度以降に係る防衛計画の大綱について」、「中期防衛力整備計画(平成31年度~平成35年度)について」及び「新たなミサイル防衛システムの整備等及びスタンド・オフ防衛能力の強化について」

平成 31 年度以降に係る防衛計画の大綱について

中期防衛力整備計画(平成 31 年度~平成 35 年度)について 

日本政府・日本維新の会の提言における「安保理改革」とは何か:既存の常任理事国の拒否権の制限は?

実は産経bizの記事中、ロシアが常任理事国で拒否権行使をするために非難決議の採択が困難な点を踏まえ…としている所は、実際には発言していません

同様の認識は3月2日の立憲民主党の青木愛議員の質疑に対する答弁において示され、安保理改革は従来も訴えてきており、改めて必要であることが強調されたにすぎません。

では、「安保理改革」とは何なのか?

岸田総理の発言からは具体的なものは何一つ出て来ていませんが(※答弁では「日本の常任理事国入りを含む安保理改革」という表現。)、日本政府の従来の主張は以下で確認できます。

国連改革・安保理改革|外務省

安保理改革 | 国連の主要課題と日本の取り組み | 国際連合(国連) 日本政府代表部

ただ、内容は新たな常任理事国・非常任理事国の選出に関するものであり、「既存の常任理事国の拒否権」の扱いについて触れている所はありません。

確かに安保理の課題・改革として既存の常任理事国の拒否権の扱いについて変更を求める主張は国連において度々主張されてきましたが、少なくとも上掲のページでは確認できず、また、具体的な動きとはなっていません。

国連安全保障理事会の拒否権―安保理改革問題に関連して―国立国会図書館 ISSUE BRIEF NUMBER 463 (Feb.7.2005) 

拒否権の制限については2001年に常任理事国のフランスから大量虐殺の場合には制限されるべきとする主張が出ている他…

https://jp.ambafrance.org/article13619

現国連事務総長のグテーレス氏が示唆的な発言をしたと報じられている程度。

国連事務総長「安保理の構成、投票権を改革すべき」 5大国を批判 - 産経ニュース

なお、安保理改革については日本維新の会の3月3日の提言においても示されていました(ここでも具体的な内容は書いてないが、従来の政府の主張内容を押し進めよ、という趣旨と思われる)

https://o-ishin.jp/news/2022/images/e7d0f52e2b3d7070d0977e20866d231a9b05ba09.pdf

産経bizの記述の仕方では、既存の常任理事国の拒否権の扱いについて変更を加えることが安保理改革の内容であるという印象を受けますが、実際の発言には無い要素が加わっており、また、従来の日本政府が主張する安保理改革の中にそういった要素があるのか不鮮明であり、実態と異なった認識になりかねないと言えます。

現実としては常任理事国の反発がすさまじいため、まず安保理改革として日本を含めた数カ国が常任理事国入りをした後に、常任理事国の拒否権が制限される場合を議論していくという道筋があるのではないかと思われます。

現在の国連憲章上は、拒否権行使の棄権が強制される場合は非常に限られており、この範囲を広げるという主張になるのではないでしょうか。

国際連合憲章

第27条

3.その他のすべての事項に関する安全保障理事会の決定は、常任理事国の同意投票を含む9理事国の賛成投票によって行われる。但し、第6章及び第52条3に基く決定については、紛争当事国は、投票を棄権しなければならない。

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