事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

【令和5年度】北九州市議会で豚肉・ポークエキス除去給食に『代替品にはアレルギー物質、子供の命にかかわる』

令和7年9月20日にXで北九州市の令和5年の話題でバズろうとしてるのが居たので認識を整理します。

この時の行政答弁が具体的で学ぶべきものが多く、この手の話題に際して論理的な武器を提供してくれています。

まとめ

  1. 令和5年にムスリム住民から豚肉・ポークエキス除去給食を求める陳情が出された。
  2. 「原案可決」はされたが単に議会で付議事件として扱われる決定にすぎない。
  3. 陳情に基づく議案は「継続審査」で処理された。つまり棚ざらし。
  4. その後、同様の陳情も議案も出ていない。
  5. 『ポークエキスは他の食品と異なり最終段階で取り分け不能』であること、『現在の代替品には乳製品などアレルギー物質があるため、これらのアレルギーを持つ子供の命に関わる』として答弁されていた。

実際のアレルギー対応も全種類できているわけではないこと、他のアレルギー対応と豚肉・ポークエキス除去食の提供には性質上大きな違いがある、という事実関係とロジックが重要なので、北九州市行政が提示したこの知見を共有するのがいいでしょう。

【令和5年】北九州市議会で豚肉・ポークエキス除去給食の陳情153号

令和5年 教育文化委員会 - 北九州市議会にて、陳情第153号*1が付議されていたことがいまさらSNSで話題になっていました。

星 ヶ 丘 小 学 校 に お け る 、 ム ス リ ム ( イ ス ラ ム 教 徒 ) 児童 ・ 生 徒 へ の 禁 忌 食 材 除 去 食 提 供 の 実 施 に つ い て魚拓

この陳情に基づいた議案は「継続審査」となっているだけで、その後、同様の陳情も議案も提出されていません。⇒教育委員会会議次第 令和5年7月27日(木)魚拓

ということで、2年前の話に対して騒いでバズりたい人らがいいかげんな事を言っていることに振り回されるべきではない性質のものです。

なお、これは厳密には「ハラール給食」の話ではありません。*2

さて、実はこの際の行政側の説明が非常に具体的で合理的なので、学んでいきましょう。そのためにこの記事を書いています。

『最終段階で取り分け不能・代替品にアレルギー物質、子供の命に関わる』

令和5年8月3日の北九州市議会教育文化委員会で、行政側から実質的に現時点では対応できない旨の説明がありました。

◎学校保健課長 ~省略~

 この食材の除去についてなんですが、北九州市の学校給食では、まず食物アレルギーを有する児童生徒に対しまして、安全性を最優先し、アレルギー症状の種類、程度、献立内容に応じまして、米飯、麦飯、そしてパン、牛乳、副食のそれぞれについて該当する給食をあらかじめ提供しないという単品の一部取り除き、次に、副食を通常どおり御提供し、児童生徒が該当食材を取り除く副食の一部取り除き、そして、アレルギー食材そのものを調理段階で除去する除去食、このいずれかの対応で実施しております。

 このうち、除去食の場合は、調理の最終段階で除去が可能な卵、乳製品等に限定しておりまして、したがいまして、全てのアレルギー物質について除去食が御提供できているわけではございません。

 今回のイスラム教の教義上で食べられないとされる豚肉やポークエキスを含みます調味料につきましては、いずれも調理の比較的早い段階で使用するため、最終段階で取り分けることができない食材でございます。

 そこで、豚由来の調味料が入っていない代替品について調査いたしましたところ、現在流通しております代替品には乳成分や小麦などが含まれているため、豚肉を食べることができない児童には給食の御提供が可能になる一方で、乳成分などに対して、いわゆる命に関わるアレルギーを有する子供さんには御提供することができなくなるということが分かっております。

 また、通常のいわゆる大量調理とは別に、衛生管理基準を満たした上で個別調理いたしますには、調理機器の増設あるいは施設の改修、調理員の増員等も必要となってまいります。

 このように、現時点ではアレルギー対応や調理工程におきまして課題がございまして、アレルギーあるいは宗教上の理由など、あらゆるニーズに対応することは困難な場合がございますため、今後どのような取組ができるか、教育委員会としても研究してまいりたいと考えております。以上で御説明を終わります。

◎学校保健課長 ~省略~

今前提といたしまして学校給食では、大量一括調理ということを想定いたしました設備、器具などを取りそろえております。したがいまして、個別調理いわゆる少人数の調理工程を新たに行うといたしますと、例えば調理器具などを新たに備え付ける必要がございます。別途様々な調理器具等をそろえますと、人件費なども含めまして1校当たり年間約158万円、約160万円の経費がかかってまいりますので、これを例えばアレルギー対応も含めて全校で行うということになりますと、約2億円の費用がかかってくるということになります。

全てのアレルギー物質について除去食が提供できているわけではないため、イスラム教徒に関する豚肉・ポークエキス除去食もアレルギーと同様に対応すればいいだろう、という事にはならない、という理解が導かれます。

北九州市ではアレルギー対応をしているのは調理の最終段階で除去が可能な卵・乳製品等に限定しているところ、豚肉やポークエキスを含む調味料は、調理の比較的早い段階で使用するため、最終段階での除去が不可能とされています。

提供の難易度次第ですが、2億円の費用が掛かるだろうという試算があります。

それ以前に、仮に現在流通している代替品の調味料を使った場合、そこには乳成分や小麦などが含まれているため、逆に、これらのアレルギーを持つ子供にとって命の危険が生じるということになります。

ムスリムの教義に付き合った結果、他の人間の命の危険が生じるというのは許されないので、これは提供不可能でしょう。

仮に、将来的に代替品の調味料にアレルギー物質を含まないものが出来たとして、その提供のためのコストの問題は残存するので、「過剰な負担」とならないかどうかによって、提供の可否(つまり法的な要請も)が決まるでしょう。

憲法違反のハラール給食と政教分離原則・教育基本法に反しない適法な代替措置

『憲法違反のハラール給食』と政教分離原則に反しない適法な代替措置 - 事実を整える

「ハラール給食」にまつわるネット上の言説は、年に1、2回程度の「お試し提供」の事案を恒常的な献立と勘違いして怒りを撒き散らすだけのものが多いですが、他方でマスメディの言説も日本国民や行政に安易に負担を強いるものになっており、原則的には憲法違反・教育基本法違反なのだという出発点が視えなくなっています。

教育基本法15条には、「宗教に関する寛容の態度、宗教に関する一般的な教養及び宗教の社会生活における地位は、教育上尊重されなければならない。」とあるように、「お試し提供」は、イスラム教に関する「一般的な」教養を育む性質のものであって、法的にも政策的にも何ら問題が無い。

が、それを超える過剰な要求をしてくる勢力にどう対峙するべきか。

北九州市の答弁が重要な事実とロジックを提供してくれている、と気づいたらシェアをお願いします。

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*1:陳情第153号『八幡西区星ヶ丘小学校において、ムスリム(イスラム教徒)児童・生徒に対し、豚肉又はポークエキスと言ったイスラム教の教義上の禁忌食材を除去した給食(禁忌食材除去食)の提供を実施する件について

*2:陳情自体に「陳情人が求めるのは 、豚肉、ポークエキスが除去された食品の提供であり、ハラル食品(イスラム法の手順に沿って処理をされた食品)の提供までも求めるものではない」と明記されている。