事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

【2023年版】LGBT理解増進法案と差別禁止法案の正式名称と自民党案の違い:「LGBT法案」とは何か?性自認概念の有無

混同が広がっていてまともな評価が為されない危険がある。

※5月16日追記:2026年の自民党案が明らかになりました。

「LGBT法案」とは何か?

LGBT法案」などとメディアの記事などで記述されているモノがあります。

それには複数の内容のモノが混在しており、また、過去の法案であったり国会に提出されなかったりしたモノもあるため『いったい誰が何を指して喋っているのか?』というレベルで意味不明な状況になっています。

本稿は2023年2月現在までの「LGBT法案」と呼ばれているモノについて、言及対象が何かを読者が振り返って確認できるように整理するためのものです。

LGBT理解増進法案とLGBT差別禁止法案

まず、いわゆる【LGBT理解増進法案】と【LGBT差別禁止法案】は、別物です。

前者は自民党を中心として作られたものであり、後者は主に立憲民主党や日本共産党といった野党が作成したものです。

そして、LGBT理解増進法案も、「自民党原案」と「与野党合意案」(2021年の委員会で合意が成立しなかった与野党合意案)とがあります。

合意案が報道された2021年5月以降、「LGBT理解増進法案」として昨今のメディアに登場するのは、与野党合意案の方であることがほとんどです。

それぞれの法案の文言については、女性スペースを守る会がデータを公開しています。

1:LGBT理解増進法案(自民党原案)の正式名称「性的指向及び性同一性の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案」

LGBT理解増進法案(自民党原案)の正式名称は、「性的指向及び性同一性の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案」です。

この法案は国会提出されず、次項の与野党合意案と変わります。

8,9.10条あたりが重要で、「国は予算措置をして連絡調整会議を設け、理解増進の施策を講じろ」ということが書かれています。

また無駄な公金垂れ流しが為されるんでしょうか。

2:LGBT理解増進法案(与野党合意案)の正式名称「性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案」

LGBT理解増進法案(与野党合意案)の正式名称は、「性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案」です。

自民党原案と比べると「性同一性」が「性自認」に変わっています。

この法案も結局、衆院・参院に受理されることがなく、国会HPでは確認できません。

事業主や学校に対しても努力義務を課していること、調査研究や知識の着実な普及、相談体制の整備など、具体的な内容を求めていました。

自民党原案よりも遥かに公金が垂れ流されるイメージが持てると思います。

なお、基本的な理解ですが、「性的指向」という用語については以下などで。

3:LGBT差別禁止法案の正式名称「性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する法律案」

野党が中心となってまとめているLGBT差別禁止法案(差別解消法案)の正式名称は「性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する法律案」です。

罰則があることから「差別解消法案」というよりも「差別禁止法案」などと呼ばれることが多いです。

これは第190回国会において、平成28年 5月27日に受理された「民進党・無所属クラブ; 日本共産党; 生活の党と山本太郎となかまたち; 社会民主党・市民連合」らが提出した当時から断続的に法案提出されています。

が、結局のところ成立していません。

この法律案の問題は多岐に渡るのですが、後述します。

自民党案と自民党の性的マイノリティ、性自認概念の扱いの変遷

その後、自民党の方針が変わり、2022年6月には【性自認】概念を含んだ「理解増進法」が放棄されたように思われます。

公約・政策パンフレット | 重点政策 | 自由民主党

総合政策集2022 J-ファイル 自由民主党/政務調査会 令和 4 年 6 月 16 日】を2021年の政策と比べると、「性自認」という単語がまったくないのが分かります。

そして、直近の政府の方針は【経済財政運営と改革の基本方針2022 - 内閣府】にて示され、従来「性的指向、性自認に関する正しい理解を促進するとともに、社会全体が多様性を受け入れる環境づくりを進める。」とあった冒頭部分が「性的マイノリティに関する」と変更されました

なお、2021年時点の自民党の方針については以下などで確認できます。

自民党における性的指向・性自認の多様性に関する議論の経緯と法案の内容について: 橋本岳(はしもとがく)ブログ

既述の通り、LGBT理解増進法案の「自民党原案」は、性自認概念がありませんでしたが、「与野党合意案」には性自認概念がありました。

2023年に提出されると見込まれている「LGBT理解増進法」とは?

「差別許されない」に自民は消極姿勢 LGBT理解増進法、議論再開 [岸田政権]:朝日新聞デジタル2023年2月9日 6時50分

LGBT理解増進、担当の首相補佐官を新設へ 秘書官の差別発言受け:朝日新聞デジタル 2023年2月17日 11時44分

『「LGBT理解増進法案」の議論が再開される』と言われていますが、どのような内容の法案が目指されているのか?自民党原案なのか?与野党合意案なのか?はたまた、それらとは異なる内容のものなのか?については、現時点では不明です。

ましてや、野党側が累次に渡って国会提出している「差別解消法」が俎上に上がっているのではありません。

この辺りの情報が混同され、不毛な「政権叩き」が行われています。

LGBT差別禁止法案の危険性:性自認概念の導入・差別の定義が無いなど

今国会(211回常会)提出の野党のLGBT差別禁止法案について。

障害者差別解消法などの法令で使われている文言が多く援用されていると感じます。

①「性自認」概念の導入

恣意的な性自認の採用。

要するに客観的な基準が無くすべてが個人のお気持ちで「差別」かどうかが決まりかねない。それによる社会の混乱は欧米社会のニュースで明らか。

性自認概念が導入された一部の欧米社会では既に異常で危険な事態が発生しています。

スポーツの場面で生物学的男性が女性を自認して大会に出場することで、女性の活躍の場が奪われるという不公平な事態が生まれていますが、イギリスは以下の報告書を出して反対方向に向かっています。

②「性的指向又は性自認を理由とする差別」の定義なし

「差別」というのは憲法14条の解釈で大丈夫なのですが、それとは異なる「性的指向又は性自認を理由とする差別」の定義が無いのは問題。

いわゆるヘイト規制法上の「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」は、きちんと限定的な定義がある。

それと比較すれば一目瞭然で、LGBT差別禁止法案は定義が無いから解釈の基準が無く、認定も曖昧になる。

困難女性支援法そのものには書かれていないが、運用方針案では性自認が女性の生物学的男性も性自認に合わせて配慮しろ、というものがあり、これでは「差別」と糾弾されることをおそれた現場が何をするか、いや、それに付け込んで何がされるかわかりません。

③設備コストの増大と「研修」という名の利権創出

トイレなどの設備コスト増大が見込まれます。

また、「研修」という名の利権が創出される懸念があります。

「施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備に努めなければならない」

これは社会を停滞させる。困難女性支援法関連でも出て来た「研修」です。

さて、これは誰がやるのか?というと

④「性的指向・性自認差別解消等推進審議会」という活動家の箱

内閣総理大臣は,基本方針の案を作成しようとするときは,あらかじめ,性的指向又は性自認を理由とする差別等を受けた者,その者に対する支援を行う団体…その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとともに,性的指向・性自認差別解消等推進審議会の意見を聴かなければ…

ああ、自称「当事者」らの意見を聞けと。

つまり、「性的指向・性自認差別解消等推進審議会」にLGBT活動家が入り込むことに。

困難女性支援法の基本方針の策定のための有識者会議に特定の団体が多数入り込んでいますが、同様の事が発生しますね。

政府の力を背乗りして税金の使途を左右して権力を振りかざすようになります。

⑤労働法分野の実務や法適用がぐちゃぐちゃになる

【「申し出があった場合において」「負担が過重でないとき」は、措置を講ずる義務】という表現、どこかで見たことがありますね。

障害者差別解消法上の「合理的配慮」と同等の義務です。

伊是名夏子事案で話題になりましたが、同じ規定文言です。

しかし、性自認という主観概念がある中でこれは伊是名事案のような不合理な要求が大量に発生することに。

この状況で義務が課されると、労働分野の実務や法適用がぐちゃぐちゃになることに。

労働者の配置について性自認による区別がダメなら、温泉の女性更衣室を男性(性自認女性の者含む)が掃除するとかもアリに。三助さんの復活か。

重たい物を持つ場合に労働法令上、男女で制限が異なるが、この適用関係がメチャクチャになる。

⑥「性的指向・性自認差別解消等支援地域協議会」という困難女性支援法と同じスキーム

啓発⇒情報収集、性的指向・性自認差別解消等支援地域協議会のコスト、天下り、「支援団体」によるネオ同和事業の完成

困難女性支援法と同じスキームでわろた

困難女性支援法の問題点【ネオ同和】事業の懸念:ColaboぱっぷすBOND若草 - 事実を整える

2023年のLGBT理解増進法案の性自認概念の有無・国会提出されるのか?

公明党の山口代表は、記者会見で「すでに超党派の議員連盟で作った法案のたたき台があり、自民党も、できるだけ早く党内合意を作り、今国会に法案を提出して成立を図るべきだ。新年度予算案の成立後、速やかに手続きを整え、できれば『G7広島サミット』の前に、日本としての意思を明確にすべきだ」と述べました。

国民民主党の玉木代表は、記者会見で「総理大臣秘書官の更迭のもとになった発言は、LGBTに対する正確な理解がないということだと思うので、理解の増進は極めて重要だ。今の国会で理解増進法の成立を実現したいし、全面的に協力したい。自民党がまとまればできる状況まできている」と述べました。

2023年のLGBT理解増進法案、性自認概念の有無など、その内容はどうなるのか?

果たして国会提出され、成立するのだろうか?

この際に、過去の法案や自民党・政府方針が参照されて議論が混乱することが目に見えているので、ここで出発点を示しました。

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