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NHK上田良一会長「受信料は負担金。放送の対価ではない」は裁判例に反しているのか

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NHKの上田良一会長は「受信料は負担金。放送の対価ではない」と発言しました。

これは誤解を与える表現であり、不必要なものだと思います。

この点について裁判例でどのように判示されたのかを紹介します。

NHK「受信料は負担金。放送の対価ではない」

「受信料は負担金。放送の対価ではない」上田NHK会長、N国党主張に初見解 - 毎日新聞

NHKの上田良一会長は5日の記者会見で、今年7月の参院選で「NHKから国民を守る党」が議席を獲得したことについて「民意の一つとして受け止める」とした上で、「受信料は、公共放送の事業を維持運営するための負担金であり、放送の対価ではない」と受信料制度に対する理解を求めた。

「受信料は負担金」

「放送の対価ではない」

前者は裁判例でも指摘するものがありますが、後者は裁判例の中で意味合いが異なっているようです。

NHK受信料の法的性質に関する裁判例

 

東京地方裁判所 平成29年3月29日 平成24(ワ)21480

放送法は,放送の二元体制の下,原告について,公共の福祉のために,あまねく日本全国において受信できるように豊かで,かつ,良い放送番組による国内基幹放送を行うとともに,放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い,あわせて国際放送及び協会国際衛星放送を行うことを目的として設立された公共放送事業者であると位置付け,その業務において,国や他者からの独立性及び中立性を確保するため,原告に対して,営利目的の業務及び広告の放送を禁止する一方,それに代わる財政的基盤を確保する手法として,放送受信契約の締結とそれに基づく放送受信料の徴収を定めているものであり,放送受信料の性質は,原告による放送の対価というよりも,むしろ,公共放送事業者である原告に対して納めるべき特殊な負担金であるというべきである。

 

受信料は負担金」であるということは東京地裁の裁判例でも言及されています。

この東京地裁では「放送の対価」を否定していますが、他の高裁レベルではむしろ「放送の対価である」と認定しています。これはどういうことでしょうか?

「放送の対価」「視聴可能性の対価」「受信することの対価」

放送との対価性が無い」というNHKの主張がことごとく裁判所によってはねのけられている例があります。

東京高等裁判所 平成24年2月29日 平成23年(ツ)第221号  

受信料債権は、現行法上、私人間の契約に基づく債権と構成されておりー中略ー受信料とは文字どおり受信(視聴可能性)の対価であり、受信と受信料に対価性があることは明白である。

 

「受信の対価」「視聴可能性の対価」「対価性がある」と指摘しています。

同様の判示は札幌高裁でも存在します。

札幌高裁平成24年(ツ)4

上記所論は,受信料は,契約という法技術を用いているものの,その実質は法律によって上告人に徴収権が付与された対価性のない特殊な負担金であるとするものである。しかしながら,少なくとも上告人との間で放送受信契約が締結された以上,受信料は,実際に受信契約者が提供するテレビ番組の放送を視聴するか否かにかかわらず,放送受信契約に基づいて発生するものであって,テレビ放送を受信することの対価であることは明らかであるしたがって,受信料とテレビ放送を受信することとの間に対価関係があるから,上告人の上記主張は理由がない。

上告人(NHK)は「受信料は対価性が無い」と主張したのに対して、札幌高裁は「テレビ放送を受信することの対価であることは明らかである。」と明言しています。

これは、各裁判中において「対価性」の意味内容が異なっているということでしょう。

使用する言葉についても「放送の対価」「視聴可能性の対価」「受信することの対価」と異なっている点には注意が必要だと思います。
「放送」と「受信」や「視聴」の間には実際上も場面の違いがある

「特殊な負担金」と「対価性」の概念関係

NHKは繰り返し「受信料は特殊な負担金である」だから、「受信料は放送の対価ではない」と主張しています。

その狙いは、受信設備≒テレビを設置しさえすれば実際に視聴していなくとも、受信契約義務が発生する或いは受信料債権が発生する、という主張の根拠とするためです。

そのため、負担金であることと放送の対価であることは矛盾関係として捉えているのです。

もういちと東京地裁の判示を見てみましょう。

東京地方裁判所 平成29年3月29日 平成24(ワ)21480

(3) 受信設備設置者が放送法64条1項に基づいて放送受信契約締結義務を負うかどうかについて

上記の指摘したところによれば,放送法は,放送の二元体制の下,原告について,公共の福祉のために,あまねく日本全国において受信できるように豊かで,かつ,良い放送番組による国内基幹放送を行うとともに,放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い,あわせて国際放送及び協会国際衛星放送を行うことを目的として設立された公共放送事業者であると位置付け,その業務において,国や他者からの独立性及び中立性を確保するため,原告に対して,営利目的の業務及び広告の放送を禁止する一方,それに代わる財政的基盤を確保する手法として,放送受信契約の締結とそれに基づく放送受信料の徴収を定めているものであり,放送受信料の性質は,原告による放送の対価というよりも,むしろ,公共放送事業者である原告に対して納めるべき特殊な負担金であるというべきである。そして,そのような放送法上の原告の位置付けや放送受信料の性質に照らせば,放送受信設備を設置した者から公平かつ安定的に放送受信料を徴収することが強く要請されるものというべきであり,放送法64条1項本文は,原告の放送を受信することのできる受信設備を設置した者に公平に放送受信料の支払義務を発生させるための法技術として,そのような放送受信設備を設置した以上,原告の放送を視聴したか否かにかかわらず,原告との間で放送受信契約を締結しなければならないと規定し,受信設備設置者に対し,放送受信契約の締結を強制したものであると解するのが相当である。

これは【「放送受信設備を設置した者」に受信契約締結義務が発生するかどうか】ということが争点となっている判示でした。

これに対して、先述の東京高裁は【受信設備を設置したと言えるか否か】が争点になっており、札幌高裁は【受信料債権が定期給付金債権であるか否か・短期消滅時効が適用されるか】が争点となった裁判なのです。

それぞれにおいて「対価がある」と表現される内容は、争点と関連して理解されるものなので、上記裁判例同士が相互排他的な関係には立たないと言えるでしょう。

なお、札幌高裁で争点となった点は、最高裁判決 平成26年9月5日 平成25(受)2024において決着がついています(東京高裁の上告審)。

NHKに関係する最高裁の判例はいくつか出ていますが、そこでは「対価性」と「特殊な負担金」は言及されていません。おそらくその点は争われていなかったからでしょう。

NHKは裁判例に反しているとまでは言えないが

「放送の対価」であることを否定しても、東京地裁が判示しているため、間違いとまでは言えません。

しかし、殊更に「放送の対価ではない」と言うことに意味は無いですし、実際上、受信料は「視聴可能性の対価」「受信することの対価」であるという高裁判例があるのですから、素朴な日常用語としては「放送の対価である」という理解をする方が素直だし、混乱が起きないと思います(「対価性が無い」は完全に間違いと言ってよいでしょう)。

NHKの訴訟上の主張に合わせた用語の意味に引き付けられるよりも、一般的な用語の理解に合わせて言葉が使われるべきではないでしょうか。

以上