事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

ワンセグ携帯のNHK受信料:最高裁判所決定はなぜ契約義務を認めたか:判決文全文はありません

ワンセグNHK受信料裁判、最高裁決定

ワンセグ携帯を所持しているだけでNHK受信料が発生する契約義務があるという最高裁決定が3月12日付けでありました。

この裁判は埼玉県朝霞市の大橋議員がさいたま地裁で起こした訴訟と、東京都葛飾区の立花考志議員が東京地裁で起こした訴訟についての判断を併合したものです。

大橋議員のさいたま地裁での判断は「契約義務はない」であり、注目されました。

ただ、東京高裁でその判断が覆され、最高裁も高裁の判断を維持しました。

その違いは何だったのかを整理します。

ワンセグ携帯のNHK受信料裁判は国民側から起こした 

この訴訟は「国民側から訴訟提起をした」事案だということが大切です。

わざわざ「自分はワンセグ携帯を持っています」と申告した者の訴訟でした。

訴訟のハードルがあるという意味で、NHKが私たち一般国民に対して提訴する可能性はかなり低いので、必要以上に騒ぎ立てるのは不毛でしょう。

ワンセグ携帯受信料裁判の争点

放送法 第六節 受信料等
(受信契約及び受信料)
第六十四条 協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。ただし、放送の受信を目的としない受信設備又はラジオ放送(音声その他の音響を送る放送であつて、テレビジョン放送及び多重放送に該当しないものをいう。第百二十六条第一項において同じ。)若しくは多重放送に限り受信することのできる受信設備のみを設置した者については、この限りでない。

ワンセグ携帯電話の受信料裁判の争点は2つです。

  1. 放送法64条1項本文の「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」について、ワンセグ携帯電話を所持していること(「携帯」)が「設置」にあたるか
  2. ワンセグ携帯電話は同項但書きの「放送の受信を目的としない受信設備」にあたるか

さいたま地裁は1を認めず、東京高裁は1を認め、2を認めませんでした。

さいたま地裁判決が契約義務がないとしたロジック

  1. NHK受信料は憲法84条の租税法律主義や財政法3条の趣旨が及ぶ課徴金等ないしこれに準ずるものと解される
  2. そのため、課税要件明確主義の要請が働く
  3. 放送法64条における「設置」は一定の場所に設け置くことに限らず、観念的な意味で用いられているが、放送法2条14号が「設置」と「携帯」を区別していることなどの事情がある
  4. すると、「設置」が「携帯」を含むと解する場合があるとしても、受信契約及び受信料についても同様に解釈すべきであるとは言えない

さいたま地裁の解釈のポイントは、NHK受信料はいわば「税金のようなもの」なので、「課税要件明確主義」が適用されるという前提を置いたことです。

なお、「設置」は観念的な意味でも用いられているというのは、東京高裁の「法律用語が国語的な意味と全く同じになるとはかぎらない」と同じ意味なので、「設置」文言から直ちに「携帯」という意味を排除するという解釈はさいたま地裁も行ってません。

課税要件明確主義を前提としてさいたま地裁の判断

これによって、放送法や関連法規で「設置」という文言が用いられている条文の中には「携帯」を含むと解される場合があったとしても、「課税(に準じた性格のもの)」の規定については解釈の一貫性が要求されるため、「携帯」と解釈してはいけないと判断しました。

さいたま地方裁判所平成28年8月26日判決平成27年(ワ)第1802号

そして,同一の法律において,同一の文言が使用されている場合には,同一の意味に解するのが原則であることはいうまでもないところ,課税要件明確主義の立場からは,一層,同一文言の解釈について一貫性が要求されるというべきである。

一国民としては支持したい結論ではありますが、解釈方法としてはアクロバティックな感じがします。なお、これによって「放送の受信を目的としない受信設備」にあたるかという争点は論じる必要がなくなったため判断してません。

控訴審の東京高裁判決は課税要件明確主義を適用せず

東京高裁は課税要件明確主義について、何も触れていません。

東京高裁「携帯ラジオからも徴収していたじゃん」

高裁はNHK受信料に「税金のような」性格を付与することは避けたのでしょう。

その上で、さいたま地裁が触れてこなかった以下の指摘をしています。

  1. 放送法の前身である無線電信法の委任を受けた放送用私設無線電話規則では無線電話機器を携帯使用する場合を含めて規定している
  2. 同規則の廃止に伴って施行された放送法では、当時既に携帯型ラジオは存在していたにもかかわらず、ラジオ放送を受信できる設備の設置者に対して受信契約を義務付けていた
  3. その後の放送法改正においてもこれが変更されたと解すべき事情が無い

こうして「設置」には「携帯」も含まれると解釈しました。

そして、「受信設備を携行すれば結果的に受信料の支払いを免れる事になるのは不公平だ」として結果の妥当性を説いています。

放送を目的とするかしないかは客観的に判断

次にワンセグ携帯は「放送の受信を目的としない受信設備」であるかを判断しました。

東京高等裁判所平成30年3月26日判決平成28年(ネ)第4426号

同条項が、受信設備設置者に対し受信契約の締結を強制する旨を定めた規定であることからすれば、その解釈は当該受信設備が設置されている目的が客観的に放送の受信を目的としているか否かによって判断すべきであって、実際、同項ただし書の「受信設備」とは、電波監視用の受信設備、電気店の店頭に陳列された受信設備、公的機関の研究開発用の受信設備、受信評価を行うなどの電波監理用の受信設備等を指すと解されていること(乙2)からしても、設置者の主観的な目的によって左右されるものではないと解すべきである。

携帯電話のワンセグ機能を使う人と使わない人が居ますが、それは「設置者の主観的な目的」によって変化するのであって、それを「放送の受信を目的としない受信設備」の判断に際して考慮してはいけないということです。

その上でワンセグ携帯電話は「放送の受信を目的としないもの」ではないとしました。

この判断から同条項の意味を叙述するとすれば「放送の受信を目的としないことが客観的に明らか」でない限り、受信契約の対象となるということでしょう。

まとめ:最高裁決定は実質判断をしてないか

ワンセグ受信料「契約義務ある」 NHKの勝訴が確定 最高裁 - 産経ニュース

報道にあらわれた内容を見ると、東京高裁の判断を是認したにとどまるようです。

何か新しい判断をしたということはなさそうなので、裁判所のHPに決定文がUPされるということは無いのではないでしょうか。

この判決の意味については以下でまとめてあります。

以上