気軽に言っていいものではない
- NHK「統合失調症で主治医に出産を諦めるよう言われた、障害者女性の意思を尊重する社会へ」
- 統合失調症は遺伝率が80%、生涯危険率は片親が患者の場合に9~16%、両親だと40~68%
- 統合失調症など精神疾患の親に育てられた方の体験談:NHKハートネットでの書き込み
- ハートネットTV 特集・障害のある女性(2)子どもを産む・産まないを選びたい を視聴した感想
NHK「統合失調症で主治医に出産を諦めるよう言われた、障害者女性の意思を尊重する社会へ」
「20代で統合失調症と言われ
— NHKハートネット (@nhk_heart) 2023年4月24日
主治医に出産をあきらめるよう言われました」
子どもを産むか産まないか
全ての人の意思が尊重される社会へ
障害のある女性たちの声から考えます
メッセージは👉https://t.co/jSNsuJFs3P#障害のある女性 #ハートネット pic.twitter.com/c4h29mcSVj
NHKハートネット「統合失調症で主治医に出産を諦めるよう言われた、障害者女性の意思を尊重する社会へ」と投稿。
これに対して批判の声が上がっています。
統合失調症の遺伝発症に関する医学的根拠から論じられているものが多いです。
統合失調症は遺伝率が80%、生涯危険率は片親が患者の場合に9~16%、両親だと40~68%
子どもの心の診療に携わる専門的人材の育成に関する研究 | 厚生労働科学研究成果データベース
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2007/073021/200719001B/200719001B0031.pdf
統合失調症は遺伝と環境要因の組み合わせで発症すると言われています。
遺伝率が80%、生涯危険率は片親が患者の場合に9~16%、両親だと40~68%という、多数の研究結果から言及されているものがあります。
※例えば66%としている単発の論文⇒https://psycnet.apa.org/record/1971-10373-001
なお、「遺伝率」は誤解の多い用語なので注意です。
石塚佳奈子先生・夏苅郁子先生・尾崎紀夫先生に「こころの病気と遺伝」を訊く
更新日時:2021年10月6日遺伝率は個人個人の病気になる可能性を予測する数字ではありません。皆さんは「最新の研究で○○病の遺伝率は80%であることが明らかに!」というインターネット情報や記事を見たことがありませんか。われわれ精神科医はこのような記事が出るたびに、「また患者さんたちが遺伝を重く感じて悩むのではないか」「数字が一人歩きしてしまうのではないか」、と頭を抱えます。例えば、一卵性と二卵性のふたごによる複数の研究結果から遺伝率が約80%であり、一般の人の1%がかかるこころの病気の一つに統合失調症があります。片方の親が統合失調症と診断されている場合にお子さんが罹患する頻度は10%程度です。この「遺伝率」という言葉は英語の”Heritability”の訳で、個人ではなく集団に対して、ゲノムの影響が強そうか弱そうか、おおよその推定に用いる概念です。また計算法もふたごによる研究以外に色々な方法があり、その結果も異なります。誤解を避けるために「遺伝率」ではなく「遺伝力」という訳語を使う研究者もいます。繰り返しますが、冒頭の「最新の研究で○○病の遺伝率は80%であることが明らかに!」は、個人が8割の確率で発症することを意味するものではありません。
統合失調症など精神疾患の親に育てられた方の体験談:NHKハートネットでの書き込み
精神疾患の親に育てられた経験のある方の体験談・メッセージ(2017年4月"チエノバ") - カキコミ板 20 | NHKハートネット
NHKハートネットは2017年に精神疾患の親に育てられた方の体験談募集していました。
その中で統合失調症も含まれていました。
【募集中】 障害のある女性の悩み - みんなの声 | NHKハートネット
今回の「特集・障害のある女性」にあたっても同様の声が寄せられていました。
前掲NHKハートネットのツイートにある文言は、この画像にあるものを採用した上で、NHK自身の言葉を付加させたものであることがわかります。
これらのページにある体験談は、壮絶なものです。
気軽に「子供を持ちましょう」と言えるようなものではない。
それは「当人や配偶者の覚悟が求められる」などというものではなく、その者の両親等による支援体制があるのか、ヘルパーを雇って生活する計画が立てられるのか?などといった外部環境を整えることも考える必要があるからです。
この事例の主治医が出産を諦めるよう発言したケースが具体的にどういう例なのかは知りませんが、基本的に仕方がない・あり得る提案でしょう。
他に難病を持っていただとか、親族と疎遠で支援が受けられないだとか、金銭が足りずに公的或いは民間の支援も満足に受けれそうにないだとか、そういうケースなのかもしれません。
ただ、「主治医からそう言われたから」といって、本人は主治医の奴隷ではないはず。それでもなお自分の意思で出産・育児をすると決断するかの自由は残されています。
にもかかわらず、NHKが「障害者女性の意思を尊重する社会へ」などとポエムを吐くのは、あまりにも身勝手が過ぎるでしょう。
※処方されている統合失調症治療薬によっては胎児に悪影響を与えてしまう可能性もあり得る。
ハートネットTV 特集・障害のある女性(2)子どもを産む・産まないを選びたい を視聴した感想
ハートネットTV 4/24(月) 午後8:00-午後8:29に放送された「特集・障害のある女性(2)子どもを産む・産まないを選びたい」を視聴しました。
この中で冒頭「医師に出産できないと言われた」という文字が映し出されることはありましたが、「寄せられた声」としてであり、番組中で取り上げられることはありませんでした。「統合失調症の患者が医師に出産を諦めるよう言われた」という事例が扱われたシーンは、ありませんでした。
番組では障害者が出産する場合の公的サービスや私的団体のサービスの制限・課題があることや、障害者が子を産むことについて母親一人で頑張らなくてはならないという考え方を改める必要性、第三者の支援を選択肢に入れることを指摘する、それを周囲の人間も認識すべきといった、まっとうなものだったと感じます。
つまり、NHKハートネットのツイートが、統合失調症を持つ親の子が生涯の間に罹患する確率やそうした家庭に起きうる困難について無頓着な状態で安易なメッセージを拡散していることが問題であり、それは放送された番組とは関係の無いものと言えます。
このあたりは「特集・障害のある女性(1)言いたくても言えない“性の悩み”」とは異なると言えます。
NHKハートネットが過去に募集して集まった声には統合失調症患者を親に持つ者の子が生い立ち・生活の状況について訴えかけるようなものがありましたが、今回の募集で集まったものは自身が患者である事例ばかりであったため、一般的な統合失調症患者を親に持つ子の家庭が描かれなかったのは無理もないと思います。
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