4月12日のクオモ知事の会見に関する報道で「ニューヨークで新規入院者数がこれまでで最少に」というフェイクニュースがありました。
- 「米・NY 新たな入院者数これまでで最少に」というフェイクニュース
- 新規入院者数ではなく現在の入院者の増加数
- クオモ知事の会見では総入院者数として紹介
- 陽性者数は増えている
- 現在の入院者数の増加数が少なくなった原因
- 退院者数が増えたことが原因か
- ニューヨーク州の死者数や集中治療室入室者数は相変わらずピークアウトしていない
- まとめ:こんな単純な事実すら検証が必要なのか
「米・NY 新たな入院者数これまでで最少に」というフェイクニュース
米・NY 新たな入院者数これまでで最少に(日本テレビ系(NNN)) - Yahoo!ニュース(魚拓)
新型コロナウイルスの感染拡大の中心地となっているアメリカ・ニューヨークで、新たに入院した人の数がこれまでで最も少なくなったことがわかりました。
ニューヨークのクオモ州知事は12日、州内で前の日に亡くなった人は758人で、感染により亡くなった人は9385人に達したと明らかにしました。
(4月11日に)新たに入院した人の数がこれまでで最も少なくなった
これは明確にフェイクニュースです。
本文では「多いときは連日1000人以上増えていた1日の入院患者数について、前の日は53人にとどまった」という表現もあり、この記述自体は問題が無い。
その弊害として以下のような評価をしてる人が出てきています。
クオモ、やりきりよったな。わずか2ヶ月でこれだ。すげぇ。
— 菅野完 (@noiepoie) 2020年4月13日
NYの新規入院数 最少の53人に#Yahooニュースhttps://t.co/SXjUUKfXys
新規入院者数ではなく現在の入院者の増加数
Coronavirus in NY: Cases, maps, charts and resources(4月13日魚拓)
こちらのサイトでニューヨーク州の新型コロナウイルス感染者数、入院者数、死者数などがまとめられています。
53人という数字は確かに存在するのですが、チャートには以下の説明があります。
Net of daily admissions less daily discharges
その日の追加数(入院者数)からその日の減少数(退院者数)を指し引いたもの
53人という数字は「新規入院者数ー退院者数=現在の入院者の増加数」を表すのです。
「新たな入院者数」とは明らかに異なります。
入院者数全体としては未だに増えている、ということになります。
クオモ知事の会見では総入院者数として紹介
ニューヨーク州知事のクオモ氏の12日の会見の動画を見ると、先述のチャートを使用して「total number of hospitalizations = 総入院者数」と言及しています。
非常にミスリーディングな言い回しでしょう。
本来は「現在の入院者の増加数」と言わなければいけません。
陽性者数は増えている
ニューヨーク州保健省のHPを見ると、4月11日の陽性者数は8236人であり、このトレンドは直近のものと比べて特に低いというわけではありません。
よって新規入院者数が本当に減少していると考えることはできません。
現在の入院者数の増加数が少なくなった原因
こうなる原因としては複数が考えられます。
- 新規入院者数の絶対数が少なくなった影響が大きい=感染伝播が収束している
- 新規入院者数の絶対数よりも退院者数(死亡者含む)が多くなった影響が大きい
- 病院の受け入れキャパシティが限界なので新規入院者数が構造的に増えないようになっている
1番なら望ましいことですが、他の数字を見ていると、どうもそうは見えません。
特にニューヨーク州は、当初は軽症者であろうがバンバン検査していたが、それによって陽性の結果が出た者を入院させる容量がなくなる懸念から、軽症者は検査せず自宅待機という方針に変更されたという経緯がありますから、医療機関のキャパシティの問題が内在する2番、3番の可能性も大いにありうるということになります。
New York has now changed how it chooses to test people. "Unless you are hospitalized and a diagnosis will impact your care, you will not be tested," the New York State Department of Health said. https://t.co/vXQQ601SFf
— NBC New York (@NBCNewYork) 2020年3月24日
先だってニューヨーク市の検査基準も変更されています。
NEW: NYC Health Dept. has made a dramatic change in its guidance on testing.
— Mark D. Levine (@MarkLevineNYC) 2020年3月21日
"Outpatient testing must not be encouraged, promoted or advertised."
Yes you read that right. Tests must be *only* for those hospitalized or w/ serious health complications. Period. pic.twitter.com/qvPlDN9bek
参考(ニューヨーク市):Where Are Coronavirus Testing Sites in Tri-State and How Do They Work? – NBC New York
参考(ニューヨーク市):https://web.archive.org/web/20200323152654/https://www1.nyc.gov/site/doh/covid/covid-19-main.page
※現在は医療従事者向けページで検査基準に関する記述を、見ることができる:https://www1.nyc.gov/site/doh/covid/covid-19-providers.page
参考(ニューヨーク州):America, Learn From New York - The Atlantic
3月20日時点のクオモ知事は以下のように「テストを増やし続ける」としていました。
Remember: We know that as more people are tested we will find more cases.
— Andrew Cuomo (@NYGovCuomo) 2020年3月19日
Last night we tested over 7,500 New Yorkers and found 1,769 new positive cases.
We will keep increasing testing to help #StopTheSpread. pic.twitter.com/Ai6NTzVnFZ
退院者数が増えたことが原因か
クオモ知事の会見では、退院者数単独のグラフも表示されました。
彼の説明では退院者数は増加しており、これは高い入院率と1~2週間の入院措置の影響だとしています。
グラフでは4月11日の退院者数は1862人となっています。
ということは新規入院者数は+53で1915人ということになります。
この数値からすると、病院の入院キャパのせいで入院者数が増えないのではなく、新規入院者数の絶対数に比して退院者数(死亡者含む)が多くなった影響であると言えるでしょう。
ニューヨーク州の死者数や集中治療室入室者数は相変わらずピークアウトしていない
4月11日のニューヨーク州の死者数は758人ですが、相変わらずピークアウトしていないことが分かります。
新規感染者数も同様の傾向です。
ICU=集中治療室への入室者数については+189人です。これは前日、前々日よりも増えており、3月23日時点よりも多い数字となっています。
気管挿管者数も+110人であり、多いときに300人台であったものよりは少ないですが、依然として3月の水準を上回っています。
まとめ:こんな単純な事実すら検証が必要なのか
- 4月11日の53人という数字は、新規入院者から退院者数を差し引いた、現在の入院者数の増加数を意味する
- 退院者数が1862人であったことからは、新規入院者数は1915人である
- 他の日でこの数値よりも低いものになっているものは複数ある
- よって、11日の数値について「新規入院者数がこれまでで最少に」というのはフェイクニュース
- 結局、退院者数が多いことによる「全体の増加数」が小さくなったに過ぎない。
- 当日の陽性者数が8000人を超え、ICU入室者数も増えていることからはピークアウトは程遠い状況。
本当の新規入院者数が何人なのかは明示されていませんが、周辺の数字を見ていくと計算可能であり、「ニューヨークで新規入院者数がこれまでで最少に」はフェイクと判断するしかありません。
以上