仄めかし記事の印象が独り歩きした
- 「カタールW杯準備のため6500人の移民労働者が死亡」言説
- 元記事のガーディアンは見出しとリード文を変更するもなお誘導的
- アムネスティ・インターナショナルによる15000人死亡論も拡散される
- Deutsche Welle (DW)がファクトチェック済みで「誤解を招く」と判定
- まとめ:時間的範囲・空間的範囲・人的範囲・因果関係の整理、「会場建設現場で」はフェイク
「カタールW杯準備のため6500人の移民労働者が死亡」言説
1/ One of the most pervasive and re-occurring pieces of #disinformation about the Qatar has been the figure that 6500 migrant works have died in connection with the World Cup. I wanted to do a thread on how this piece of news has been transmitted on Twitter over the past year pic.twitter.com/1xLfrEzu7F
— Marc Owen Jones (@marcowenjones) 2022年10月15日
カタールのハマド・ビン・カリファ大学(Hamad Bin Khalifa University)准教授であるマーク・オーウェン・ジョーンズ(Marc Owen Jones)氏が「カタールW杯に関連して6500人の移民労働者が死亡」というディスインフォメーションの出所とその拡散の仕方についてスレッドで紹介しています。
この話題が何度も拡散されてきたこと、その情報の拡散のされ方は、元記事すら言っていない内容が付加されていたことなどが書かれています。
10月15日という日付に注目すべきでしょう。
今現在の情報はどうなってますか?
元記事のガーディアンは見出しとリード文を変更するもなお誘導的
「6500人死亡論」の出所であるガーディアンの2021年2月23日の記事。
見出しを「ワールドカップの準備のために」から「ワールドカップ開催決定から」に変更し、リード文も「2022年大会に向けた準備が進む中」から「過去10年間で」に変更していました。
しかし、本文はなお誘導的であり「ワールドカップとの関連」を仄めかす内容でした。
- 6500人の出稼ぎ労働者の死亡のすべてがワールドカップの競技場の建設現場などという限定がかかった記述はない
- 「原因の中で最も一般的なのは、いわゆる「自然死」であり、多くの場合、急性心不全または呼吸不全が原因」と書かれている
が、ワールドカップに関連した大規模なプロジェクトが広範囲にわたっていることから、その影響は無視できないのでは?というニュアンスで書かれています。
その上でガーディアン紙は、カタールの猛暑と労働環境があいまってこのような死亡結果が発生したのではないか、ということを述べています。
アムネスティ・インターナショナルによる15000人死亡論も拡散される
また、アムネスティ・インターナショナルによる15,000人死亡論も、外部においてカタールワールドカップに紐づけて利用されることがあり、拡散される例もあります。
Deutsche Welle (DW)がファクトチェック済みで「誤解を招く」と判定
Fact check: How many people died for the Qatar World Cup? – DW – 11/16/2022
Although these figures have been used to back up this claim multiple times since these reports were published, neither Amnesty International nor The Guardian ever claimed that all these people died on stadium construction sites, or indeed even in the explicit context of the 2022 World Cup. Both figures refer merely to non-Qataris of various nationalities and in various occupations who have died in Qatar in the past decade.
アムネスティ・インターナショナルもガーディアンも 、これらの人々がすべてスタジアムの建設現場で、或いは2022年のワールドカップという明確な文脈の中で主張したことはありません。
Deutsche Welle (DW)というドイツの国際放送局が今年の11月16日に詳細なファクトチェックをしています。
以下は記事の内容そのままではなく、その理解を整理したものです。
6500や15000のいずれの数字もカタール当局は否定していませんが、出稼ぎ労働者や移民・建設作業員に限定していません。
ワールドカップ関連のプロジェクトに雇用されているかどうかに関係なく、無資格の建設労働者、警備員、庭師だけでなく、外国人教師、医師、エンジニア、その他のビジネスパーソンも含まれている、と指摘しています。
アムネスティの15000人死亡論の中には、中所得国または高所得国から来た人もいること、カタールの統計ではこれ以上の詳細な内訳をみることができないことが、更にはガーディアン紙の数字はバングラデシュ、インド、ネパール、パキスタン、スリランカの各政府からの公式統計に基づいて、特に無資格の労働者について書かれているとしています。
DWはさらに、カタール政府広報室がガーディアンの当該記事に応えた返答の中で主張されている「これらのコミュニティの死亡率は、人口の規模と人口統計から予想される範囲内です。」「ワールドカップ スタジアムの建設現場での仕事関連の死亡者は 3 人だけです」という点についても「誤解を招く」とし、「カタールの公式データには矛盾や欠点があり、具体的な結論を出すことは不可能である。」「なぜカタール当局が信頼できる情報を提供できないのか、その理由についての疑問が生じる」と断じています。
まとめ:時間的範囲・空間的範囲・人的範囲・因果関係の整理、「会場建設現場で」はフェイク
- 時間的範囲:10年間
- 空間的範囲:限定なし
- 人的範囲:アムネスティインターナショナルは出稼ぎ労働者という以外に限定なし・ガーディアンは特定国からの移民という限定
- 因果関係:現段階で不明
カタールの猛暑と労働環境に起因したものという見方が示されているが確定的な根拠無し
ただ、カタール政府の統計や主張をそのまま信頼してよいのか疑問が呈されている
まとめるとこういう現状です。
ガーディアン紙の仄めかしによる論調をそのまま論じているコピー記事のようなものが出回っていますが、少なくとも「W杯の会場建設現場で6500人が…」などという限定がついているモノは完全なるフェイクです。
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