事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

サイモンヴィーゼンタールセンターのクーパー「原爆投下は戦争犯罪ではない・靖国参拝は倫理に反する・日本は南京大虐殺を直視せよ」

サイモンヴィーゼンタール

サイモンヴィーゼンタールセンターのクーパー氏の日本関係の発言について。

サイモンヴィーゼンタールセンターSWCの「師」アブラハム・クーパー

Rabbi Abraham Cooper

URL:https://www.wiesenthal.com/about/about-the-simon-wiesenthal-center/rabbi-abraham-cooper.html

Rabbi Abraham Cooper is the Associate Dean, Director, Global Social Action of the Simon Wiesenthal Center,

「師アブラハム・クーパー氏はサイモンヴィーゼンタールセンターのディレクター・グローバルソーシャルアクション・副所長である」、とされています。

小林賢太郎氏の件については非難声明の中に「障害者いじめをした」という事実誤認も織り交ぜていました。

※追記:「障害者いじめをした」についてはサイレント修正されました。

なお、中山泰秀議員がなぜか早期に連絡を取ったのがこのクーパー氏でした。

とはいえ、「中山氏が連絡を取ったからSWCが小林氏非難声明を出した」という因果関係があるかというと、よくわからないというのが実態でしょう。

日本政府の防衛副大臣という立場の人間が軽薄な行動を取ったという点についてはあらゆる方面から問題点を指摘されていますが、本稿はその点については触れません。

アブラハム・クーパー「原爆投下は戦争犯罪ではない」

アブラハム・クーパー氏については新潮45の2000年12月号にインタビュー記事が掲載されています。当時も肩書に副所長職がありました。

「マルコポーロ事件」による「ユダヤ人は怖い」というまことしやかな噂・想念が言論空間に湧き上がっていたことを背景にしたものです。
※「マルコポーロ事件」:文藝春秋発行の「マルコポーロ」において、ナチスドイツによるユダヤ人ホロコーストについて否定する論文が掲載されたことを受けて、SWCをはじめとする各所から非難を受け、雑誌を自主廃刊・当時の社長や編集長が辞任・解任された事態

このインタビューの中に「原爆投下は戦争犯罪ではない」という発言があります。

ーー原爆による無差別爆撃の事実は明らかで、これは戦争犯罪ですから、アメリカの戦犯追及を考えるべきです。

クーパー 率直にお話しますが、個人的に言うと、私は原爆投下は戦争犯罪だと思っていません。

ーーそれは納得できません。非戦闘員の殺害は明らかに戦争犯罪じゃないですか。

クーパー ノー。戦争というのは非常に悲惨な出来事なわけですけれども、二つの原爆を落としたことで、戦争が終わったという事実はあるわけです。もしトルーマンが原爆を落とさなければ、さらに多くの死傷者が出たでしょう。

ーーそれは原爆投下を正当化する話ではありません。

クーパー 広島の記念館に行って私自身も祈ったわけですが、結論的に言えば、もし原爆投下を戦争犯罪というならば、もっと証拠が必要でしょう

なお、その後731部隊=石井部隊に関しても触れる記述がありますが、ここでは触れないものの、前提として以下の記事を置いておきます。

731部隊「丸太=マルタ」の初出はハバロフスク裁判公判記録:森村誠一悪魔の飽食ではない - 事実を整える

クーパー副所長「安倍総理の靖国神社への参拝は倫理に反する」

靖国参拝「倫理に反する」 ユダヤ系団体も非難 2013.12.27 11:17

ユダヤ系団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」(本部・米ロサンゼルス)のエーブラハム・クーパー副所長は26日、安倍晋三首相の靖国神社参拝を「倫理に反している」と非難する声明を発表した。
 副所長は「戦没者を含め、亡くなった人を悼む権利は万人のものだが、戦争犯罪や人道に対する罪を実行するよう命じたり、行ったりした人々を一緒にしてはならない」と指摘した。
 さらに副所長は、北朝鮮をめぐる情勢が緊迫した中で安倍首相が参拝したことに懸念を表明。「安倍首相が目指してきた日米関係の強化や、アジア諸国と連携して地域を安定化させようという構想に打撃を与える」と批判した。
 同センターはホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の記録保存や反ユダヤ主義の監視を行い、国際的影響力を持つ。(共同)

URL:http://sankei.jp.msn.com/world/news/131227/amr13122711180006-n1.htm

※注:MSN産経ニュースのページだが、元の文は共同通信

平成25年(2013年)12月26日の安倍晋三総理大臣(当時)の靖国神社参拝についても、SWCは「倫理に反する」とまで言っていました。

Simon Wiesenthal Center: PM Abe’s Visit to Yasukuni Shrine Morally Wrong魚拓

URL:https://www.wiesenthal.com/about/news/simon-wiesenthal-center-pm.html

The Simon Wiesenthal Center, a leading Jewish human rights organization dedicated to learning the lessons from the Nazi Holocaust and WII criticized Japanese PM Abe's visit to the Yasukuni Shrine as "morally wrong".

米国全体においても2013年当時は靖国神社への参拝については否定的な意見がありましたが、現在ではそうした風潮は無くなっています。

「靖国神社参拝問題」が起こったのは国内での「公式参拝」報道のせいであり、天皇の参拝に対する内閣法制局の憲法解釈が原因であるという見方が妥当であると考えられますが、なぜか「富田メモ」によって「A級戦犯合祀に天皇が怒ったから」という認識がメディアでは支配的ですが、この理解に至る手続的な不誠実さについては以下等で散々論じてきました。

日本人としての主体性無き靖国参拝論に与しないこと|Nathan(ねーさん)|note

靖国参拝をメディアが報じなければ解決するのに|Nathan(ねーさん)|note

クーパー副所長「日本は南京大虐殺を直視せよ」

原爆投下に関しては、クーパー氏は「個人的には」と前置きしたうえで、彼自身がアメリカ市民であるということを考えれば百歩譲って仕方のない主張なのかもしれません。

しかし、いわゆる「南京大虐殺」に対する彼の態度は、典型的なチャイナシンパの米国人という感じで、ジャーナリズムとしても科学的な態度としても疑問符が付くものがあります。

前掲新潮45の記事では以下述べています

クーパー ~省略~ 南京の場合を論じますと、三七年の事件当時、世界がこの問題について発言をしなかったのは不幸なことで、それが今も影響してるわけです。けれども、歴史的にみて、まだ全ての文書が明らかにされていないし、まだ依然として動機についての議論が色々あります。これは日本の友人として言いたいことなんですけれども、我々が信じているのは、三〇年、四〇年代の全てのドキュメント、文章、映画といった資料は公開され、正当に歴史化の目にさらさなくてはいけないということです。国際委員会を設立し、歴史学者を呼んで事実を究明していき、最終的には白書を出す。それが将来にとって色々と効果があると思います。

ーーどんな効果でしょうか。

クーパー 一つは、日本の歴史を知らない若い世代が、この白書で事実を知ることができます。二つ目は、日本の外務省の人にも言ったのですけれども、センターとしては、アメリカ国内での関係資料の公開と、中国政府に対して全ての関係ファイルを公開するように要請する準備も進めています。日本にとって国益に一番沿うのは、そのような委員会を設立して、真実を明らかにすることです。もし歴史がはっきりすれば、中国政府がこの事件をテコに使って、日本にいろいろ要求するのを封じることもできるわけです。

ーー歴史を明らかにすることは非常に賛成です。ただ、SEWは『ザ・レイプ・オブ・南京』を書いたアイリス・チャンをサポートしていると報じられています。けれど、彼女の本には多くの間違いがあることが指摘されています。

クーパー アイリス・チャンだけではなく、本多勝一氏を招いてフォーラムを開きました。多くのアジア系アメリカ人の活動家がこのフォーラムに参加してくれました。

ーーアイリス・チャンと本多勝一という人選はあまりに偏っています。否定派は招かないのですか。

クーパー センターとしては色々オープンな形で受け入れるけれども、「犠牲者はわずかに三、四万人」というようなことを口にする人を講師として招くことは、絶対にしません。アイリス・チャンについて言えば、彼女は彼女の先祖の人に何が起こったかということで怒っているわけです。で、彼女はこの問題に対する日本における沈黙の一つの掟を破ったという役割は演じているわけです。日本政府やその関係者はこれについて怒りを表明しているわけですけれども、現実を直視するのが日本政府の責任だろうと思います。

まず前半部分、「証拠が揃ってないから明らかにすべきだ」 という総論部分は、正しいことを言っています。

ところが具体的な場面になってくる後半部分では、講演会において「犠牲者はわずかに三、四万人」というようなことを口にする人を講師として招くことは、絶対にしません」などと言っているように、既に一定の事実関係の存在を念頭に、予断を持って判断していることが分かります。

新潮45の本稿は「マルコポーロ事件」の顛末がベースとなり、その点に関する話題が半分を占めているわけですが、そこにおいてクーパー氏は「ジャーナリズムの基本」「ジャーナリズムとしての公正さ」を持ち出してホロコースト否定論を退けています。

ジャーナリズムの観点を持ち出すならば、予断を持った判断は避けるべきです。

ホロコーストのように確定事実であるものは格別、そうではない事項については一定の事実関係の存在をベースに事実検証や情報発信をするべきではないということになるはずが、なぜかクーパー氏は南京事件(いわゆる南京大虐殺とチャイナ側が呼称しているもの)については別扱いをしているのは、その態度に不誠実さを感じます。

国際的な歴史研究については、そうした委員会が立ち上がったという事実を寡聞にして知りませんが、日中の二国間であれば、共同研究という形で報告書が出ています。

もっとも、これは日本政府の公式見解ではないことに注意です。

サイモンヴィーゼンタールセンターとアブラハム・クーパー氏の評判まとめ

サイモンヴィーゼンタールセンターとアブラハム・クーパー氏の評判をまとめると、日本においては政治的思想の左右を問わず、「敵」を攻撃するために通報するために重宝され、同時に恐れられている存在、とでも言えるでしょうか。

小林賢太郎氏の場合はいわゆる「右派」のネットユーザーから中山防衛副大臣に相談があった、という経緯があるので(記述だがSWCの声明との因果関係は不明。実話BUNKAタブーが他誌先行掲載の動画をツイートしたことが拡散の発端)、だいたいこんなところだろうと思います。

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