事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

高市早苗の応援Tweetは公選法違反?投票日当日の選挙運動の定義と判例と判断基準:大阪府議補欠選挙

高市早苗議員の投票日当日の選挙運動の公選法違反ツイート?

なんだか騒がれていますが…

高市早苗議員が大阪府議補欠選投票日当日にツイート

https://archive.is/uftO4

高市早苗議員が大阪府議補欠選投票日当日にツイート

これが公職選挙法違反ではないか?違反では無いとしても姑息な行為だ、というような批判が為されています。

公職選挙法違反の場合の被選挙権の剥奪

公職選挙法

(選挙運動の期間)
第百二十九条 選挙運動は、各選挙につき、それぞれ第八十六条第一項から第三項まで若しくは第八項の規定による候補者の届出、第八十六条の二第一項の規定による衆議院名簿の届出、第八十六条の三第一項の規定による参議院名簿の届出(同条第二項において準用する第八十六条の二第九項の規定による届出に係る候補者については、当該届出)又は第八十六条の四第一項、第二項、第五項、第六項若しくは第八項の規定による公職の候補者の届出のあつた日から当該選挙の期日の前日まででなければ、することができない。

本規定に違反したとして刑に処された場合、確定判決から5年間、選挙権・被選挙権を有しないこととされます。

第二百三十九条 次の各号の一に該当する者は、一年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。
一 第百二十九条、第百三十七条、第百三十七条の二又は第百三十七条の三の規定に違反して選挙運動をした者

(選挙犯罪による処刑者に対する選挙権及び被選挙権の停止)
第二百五十二条 この章に掲げる罪(第二百三十六条の二第二項、第二百四十条、第二百四十二条、第二百四十四条、第二百四十五条、第二百五十二条の二、第二百五十二条の三及び第二百五十三条の罪を除く。)を犯し罰金の刑に処せられた者は、その裁判が確定した日から五年間(刑の執行猶予の言渡しを受けた者については、その裁判が確定した日から刑の執行を受けることがなくなるまでの間)、この法律に規定する選挙権及び被選挙権を有しない。

公職選挙法上の「選挙運動」の定義と判例

大審院 昭和3年1月24日判決

 選挙運動とは、一定の議員選挙に付、一定の議員候補者を当選せしむべく投票を得若しくは得しむるに付、直接又は間接に必要且有利なる周旋勧誘若しくは誘導其の他諸般の行為を為すことを汎称するものにして、直接に投票を得又は得しむる目的を以て周旋勧誘等を為す行為に限局するものにあらず

選挙運動の定義は法令上に存在しません。

大審院時代の判例で示された定義が最高裁でも維持されています。

最高裁判所第3小法廷 昭和38年(あ)第984号 公職選挙法違反被告事件 昭和38年10月22日
最高裁判所第3小法廷 昭和60年(あ)第608号 公職選挙法違反 昭和63年2月23日

 公職選挙法一二九条、一四二条一項にいう「選挙運動」とは、原判決説示のとおり、特定の選挙の施行が予測されあるいは確定的となつた場合、特定の人がその選挙に立候補することが確定しているときはもとより、その立候補が予測されるときにおいても、その選挙につきその人に当選を得しめるため投票を得若しくは得しめる目的をもつて、直接又は間接に必要かつ有利な周旋、勧誘若しくは誘導その他諸般の行為をなすことをいうものと解するのが相当であり

これが公職選挙法上の「選挙運動」の定義です。

総務省のHPでもこの判例の文言が紹介されています。

総務省|現行の選挙運動の規制

総務省|(1) インターネット等を利用する方法による選挙運動の解禁等

選挙運動に当たる場合の考慮要素・判断基準の例

選挙運動の定義と判例と考慮要素

選挙運動に関するル ー ル 和歌山県選挙管理委員会平成 28 年 5 月

選挙運動に当たる場合の考慮要素・判断基準の例として、自治体が示してる例が。

東京都の場合はもっと簡便に

「特定の選挙に、特定の候補者の当選をはかることを目的に投票行為を勧めること。」

と書いています。

和歌山県選管のように「選挙人(有権者)に働きかける行為」という限定と、東京都選管のように「特定候補への投票行為を勧めること」という要素が加味されないと選挙運動には当たらないという考え方があるようです。

高市早苗議員のツイートは選挙運動で違法なのか

高市早苗議員のツイートを再掲

「その人に当選を得しめるため投票を得若しくは得しめる目的をもつて、直接又は間接に必要かつ有利な周旋、勧誘若しくは誘導その他諸般の行為」でしょうか。

候補者名が無いとはいえ、顔が映っていることから、それが「和田まきよ」氏であることは、有権者であれば認識可能であると言えるでしょう。
※追記:顔部分しか映っておらず横顔であることから選挙ポスターの写真とは写り方が異なって見える上にマスクを着用しているために候補者本人と断定するのは有権者の彼女に対する知識量次第、とも言えるかもしれません。実際、私は他のアングルからの演説時の写真から断定しました。ただ、同様の写真で新型コロナ禍ではない場合にはマスクが無くなるわけで、その場合には認識可能という他無いでしょう。

「選挙人(有権者)に働きかける行為」かどうか。

ツイートは全世界に向けて発せられるものであり、その中には選挙区内の有権者が見る可能性があるものであるとして、そのように言えるか。

この点が明確なのが以下のツイート。

野田聖子、投票日当日の選挙運動ツイートを削除、魚拓:公職選挙法違反 - 事実を整える

これはすぐ消されましたが、選挙区を明示して「皆さん」と呼びかけ「特定候補に」「投票を呼び掛けている」のが分かります。

これに対して、高市議員のツイートは、有権者を明示していないので、グレー。

また、「特定候補に投票行為を勧めること」ではないのは明らか。

単に「応援をした事実」を伝えるツイートであり、投票行為を勧めているのではない。

よって、東京都選管の見解によれば高市議員のツイートは選挙運動には当たらず、したがって、投票日当日に行われたとしても公選法違反ではないということになります。

大阪の選管と検察がどう判断するかは不明ですが。

本来的に選挙運動は政治的な表現の自由なのに規制されるようになったのは、その過熱による弊害が余りにも大きいとされたからで、違反認定は慎重にされるという運用実態がある、ということが重要。

まとめ:公選法違反ではないとしても姑息とされるか

高市議員の応援ツイートは、公選法違反ではないとしても、その規制を免れるかのようにされた応援だとして姑息だとされるかもしれず、現にそういった指摘もあります。

姑息という意味では以下の例があります。

宇都宮健児氏が立候補した選挙の当日に「宇都宮餃子」を例に出して連想させる形のツイートをしていた立憲民主党の枝野幸男と支持者ら。

これは明らかに公選法違反とされるのは極めて困難な事例ですが、だからこそ脱法的な行為であるということもまた明らかであった事案です。

対して、高市議員の場合はそのような公選法周りを腐してやろうというような意図は感じられません。

とはいえ、「なんとなく当日に候補者に有利になりそうな行為はダメ」という認識があるのも事実で、選挙運動の過熱を抑えるためにも必要な認識だろうと思われ、高市議員のツイートもそうした次元で批判されるのは仕方が無いのかなと思います。

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