事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

トランプ大統領、中韓の「途上国優遇」見直しをWTOに要求:特恵国関税制度との関係

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トランプ大統領が中韓の「途上国優遇」見直しをWTOに要求しました。

今後、大きな問題になるのでどういう制度なのかを簡単に整理しました。

トランプ大統領、中韓の「途上国優遇」見直しをWTOに要求

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【ワシントン共同】トランプ米大統領は26日、世界貿易機関(WTO)で中国や韓国などが発展途上国として優遇措置を受けるのは不公正だと主張し、WTOが制度を見直すよう米通商代表部(USTR)に取り組みを指示した。90日以内に進展しなければ、米国として独自に途上国扱いをやめる方針。

これは単にトランプ大統領がツイッターで呟いた独断ではなく、既に大統領令が発令されています。

プレジデンシャルメモランダム=大統領令

Memorandum on Reforming Developing-Country Status in the World Trade Organization | The White House 抜粋訳

最も裕福な経済国が発展途上国の地位を主張するとき、それらは他の先進国経済だけでなく、本当に特別なそして異なる扱いを必要とする経済にも害を及ぼす。将来の規則が無視される可能性があるなど、WTO規則の遵守に対するそのような無視は、今後も未解決のままになることはありません。

チャイナはその点を最も劇的に示しています。2001年にWTOに加盟して以来、チャイナは発展途上国であると主張し続けており、したがって、新しいWTO規則の下では柔軟性を利用する権利を有しています。米国は、発展途上国の地位に対するチャイナの主張を受け入れたことは一度もありません。

大統領令の中では、チャイナ以外にも優遇措置を受けるべきではない国と仄めかされているのは、一人当たりGDPの上位10位以内に入っているブルネイ、香港、クウェート、マカオ、カタール、シンガポール、UAEと、G20メンバーであるメキシコ、韓国、トルコが挙げられています。

途上国優遇制度(S&D条項=特別かつ異なる待遇)

WTOにおける途上国優遇制度の見直し論 箭内彰子

通常の国際機関や国際条約は主権平等の原則に基づいており、国の面積や人口、あるいは政治力や経済力といった要素によらず、すべての参加国が平等に扱われる。

WTOも例外ではなく、途上国であるか先進国であるかに拘らずすべての加盟国が条約上の義務として一様にWTO諸協定で決められている貿易ルールを遵守しなければならない。

しかし、WTOルールを発展段階の異なる国家に一律に適用するのは現実問題として難しい。貿易を通じて途上国の経済開発を促進するという観点から、WTOでは途上国に対して特恵(S&D)を供与することが認められている。

トランプが言ってる途上国優遇制度とは、S&D(Special and Differential treatment)条項=特別かつ異なる待遇)のことです。

GATT・WTO諸規定の中で約150程度の条項がこの考え方を採用しているとされていますが、先進国と途上国という二分法を取っており、また、その法的基盤が不明確なために恣意的な解釈運用がなされているという問題が指摘されています。

WTOではチャイナ・韓国が未だに途上国指定されているということです。

S&D条項の代表例が特恵国関税制度(GSP)と言われます(途上国優遇制度とイコールではない

日本の一般特恵国関税制度(GSP)の受益国と中国韓国

一般特恵国関税制度GSP:Generalized System of Preferences)は、開発途上国の輸出所得の増大,工業化と経済発展の促進を図るため,開発途上国から輸入される一定の農水産品,鉱工業産品に対し,一般の関税率よりも低い税率(特恵税率)を適用する制度です。

1504 特恵適用国・地域一覧(カスタムスアンサー) : 税関 Japan Customs

特恵関税制度 | 外務省

現在、特恵受益国及び地域は133ありますが、チャイナは今年対象外になりました。

なお、韓国は平成12年に特恵受益国を「卒業」しています。

トランプが言ってるのは、GSPに限らずその根拠となっているグランドルールの途上国優遇制度そのものを見直せ、ということです。

まとめ

  1. トランプ大統領はWTOでの途上国優遇制度(S&D条項)による指定を問題視
  2. 一般特恵国関税制度(GSP)はS&D条項の代表例だが、トランプが直接言及しているわけではない(アメリカの制度は調べてません)
  3. 日本のGSPでは韓国は既に特恵受益国を卒業、チャイナも今年卒業した

WTOが機能不全になっているというのは、日本の水産物に対する韓国の禁輸措置の上級委員会の判断や、紛争処理上級委員会の委員が任命拒否されて今年中に1人になってしまうという所からも伺えます。

ただ、アメリカは現在も新規でWTOに提訴しているようなので、アメリカとしては完全にWTOを潰そうとしたり離脱することを考えているというよりも、その改革を狙っており、一定の成果が出た段階で新たな上級委員を任命する方針であるように思われます。

以上