事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

国連人種差別撤廃委員会が日本に永住許可取消し事由拡張の廃止を求める:諸外国の永住資格・永住権の取消し制度

日本に対する差別では?

国連人種差別撤廃委員会が日本に永住許可取消事由拡張の廃止を求める

永住許可取消し制度について、国連人種差別撤廃委員会(CERD)から日本政府に対して、見直し・廃止を含む緊急措置を求める書簡が出されました!

国連人種差別撤廃委員会は、永住資格の取消し事由の拡張をする入管法改正法に対して、2024年6月25日付で日本政府に対し、委員長のMichal Balcerzak名義でletters(書簡)を送付しました。*1

注意すべきは、永住資格の取消し事由は従前から存在していたということです。

この書簡は取消事由の「拡張」に関するものです。

が、上掲ページなどをはじめとして、メディアでは「永住資格の取消しを可能にする法案」などと紹介されることが多いので、認識を誘導されないように気を付けましょう。

出入国管理及び難民認定法改正法:閣法59号・法律第60号(令六・六・二一)

出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律案:参議院

出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律案 | 出入国在留管理庁

本件に関係する修正・成立した法律案は【閣法59号・法律第60号(令六・六・二一)】であり、同時期に国会提出・成立された「出入国管理及び難民認定法等の一部を改正する法律案=「閣法58号・法律第59号(令六・六・二一)」とは別なので注意。

永住許可取消事由拡張:入管法上の義務懈怠・故意の公租公課未払い・一定の犯罪での拘禁刑

入管法改正と永住資格の取消事由拡張

  1. 入管法上の義務の不順守
  2. 現行の入管法22条2項に「公租公課の支払等」を義務に加え、22条の4に加える形で「故意に公租公課の支払をしないこと」という取消事由が加わる
  3. 一定の罪を犯して拘禁刑に処せられた者も明示的に取り消し事由に

永住許可の取消し事由が拡張された内容として上記のものがあります。

一定の罪を犯すとは、刑法で言えば住居を侵す罪、通貨偽造の罪、文書偽造の罪、有価証券偽造の罪、支払用カード電磁的記録に関する罪、印章偽造の罪、賭博及び富くじに関する罪、殺人の罪、傷害の罪、逮捕及び監禁の罪、略取、誘拐及び人身売買の罪、窃盗及び強盗の罪、詐欺及び恐喝の罪、盗品等に関する罪が対象です。

繰り返しますが、永住許可の取消事由自体は従前から存在しています。

第二十二条の四 法務大臣は、別表第一又は別表第二の上欄の在留資格をもつて本邦に在留する外国人(第六十一条の二第一項に規定する難民の認定又は同条第二項に規定する補完的保護対象者の認定を受けている者を除く。)について、次の各号に掲げる事実のいずれかが判明したときは、法務省令で定める手続により、当該外国人が現に有する在留資格を取り消すことができる

問題視された永住許可取消事由拡張の理由に根拠なし

永住許可取消し制度について、国連人種差別撤廃委員会(CERD)から日本政府に対して、見直し・廃止を含む緊急措置を求める書簡が出されました!

- 現行法では、1年を超える拘禁刑に処せられた場合、永住者の在留資格が取り消される可能性があるが、新法案では、とりわけ以下の場合に取り消し事由が拡大される。
- 在留カードの常時携帯や更新申請の義務を履行しないなどの入管法違反。
- 税金や社会保険料の未納。
- 軽微な法令違反。

国連人種差別撤廃委員会は、改正入管法の内容をこのように表現していますが、法令違反の事実=即座に取消し、ということではないのは法律上「取り消すことができる」とあることから自明です。

「軽微な違反なのに永住資格を取り消すのはおかしい!」と言いいたいのでしょうが、例えば自動車の運転免許を更新せずに車を運転していたら無免許運転ですから、更新申請をしないというのは非常に悪質なものだということが理解できるでしょう。

また、刑法上では「住居等侵入罪」の罪が軽いように見えますが、例えば皇居への侵入が為された場合においては厳罰に処すべきでしょう。現行法では皇居等侵入罪が削除されているので住居等侵入罪の中で重く評価するはずです。

さらに、改正法では、永住資格の取消が行われたことがすなわち退去強制ということではなく、別の在留資格への変更が考えられています。

第四章第二節中第二十二条の五の次に次の一条を加える。
(永住者の在留資格の取消しに伴う職権による在留資格の変更)
第二十二条の六 法務大臣は、永住者の在留資格をもつて在留する外国人について、第
二十二条の四第一項第八号又は第九号に掲げる事実が判明したことにより在留資格の
取消しをしようとする場合には、第二十条の規定にかかわらず、当該外国人が引き続
き本邦に在留することが適当でないと認める場合を除き、職権で、永住者の在留資格
以外の在留資格への変更を許可するものとする

したがって、「日本で生まれ育った者が縁もゆかりもない他国に放り出される」のような事態は基本的に想定されません。国籍決定の出生地主義などは無関係です。

この点、非常にミスリーディングな書き方が各所で見られます。

永住許可取消し制度について、国連人種差別撤廃委員会(CERD)から日本政府に対して、見直し・廃止を含む緊急措置を求める書簡が出されました!

-同法案はまた、永住許可の取り消し後、他の在留資格への変更を認めないことも規定しており、中長期の在留資格が付与されない可能性が広がり、永住者の日本での安定した生活基盤を奪うことになる。

「他の在留資格への変更を認めない場合もある」という話であって、必ずそうなるということではありません。むしろ規定の文言からは原則は他の在留資格への変更になるという内容です。

原文は以下となっており、"may not be"です。原文の方が改正内容に対する叙述が正確です。

The draft bill also stipulates that after the permanent residence permit is revoked, the change to another status of residence may not be permitted

実際に入管庁次長の説明もそういう想定をしています。

永住資格の取消後の他の在留資格への変更

https://x.com/fengyunzaiqi888/status/1808474564269076963

永住者の家族についても同様です。

第213回国会 衆議院 法務委員会 第15号 令和6年4月24日

○丸山政府参考人 お答え申し上げます。
 在留資格の取消し又は職権による変更の対象となった者の家族の在留資格につきましては、当該家族が現に有する在留資格によって対応が異なるものと考えております。
 一般論として申し上げれば、例えば、当該家族が永住者の在留資格である場合は、引き続き永住者の在留資格のまま在留することになると考えております。
 他方で、例えば、取消し又は変更となった者の配偶者が永住者の配偶者等の在留資格である場合は、永住者の配偶者等の身分を有する者でなくなることから、別の在留資格に変更する必要が生じます。その場合、例えば、永住者本人の変更後の在留資格が定住者である場合は、当該家族についても定住者に変更することになるものと考えております。
 いずれにしましても、個別の事案に応じ、永住者本人及びその家族の我が国への定着性に十分配慮して、適切に制度を運用してまいります。

ドイツ・オーストラリア・カナダなど、海外の諸外国でも永住者の取消制度がある

https://migrants.jp/user/news/713/np60tq8glizd_e-emv5a4e7johgz40_k.pdf

加えて、海外の諸外国でも永住資格の取消制度があることは常識です。

永住資格を喪失する場合について各種調査が為されています。

諸外国における外国人受入制度に係る調査・研究 報告書 ~英国・ドイツ・フランス・米国・韓国・台湾・シンガポールの受け入れ制度等について~ 平成29年3月 三菱UFJリサーチ&コンサルティング

諸外国における外国人の受入制度及び受入環境整備に係る調査・研究 報告書 令和4年12月 EY 新日本有限責任監査法人

各国の取消事由には一定の犯罪を犯して懲役刑を受けた場合などが当然にして存在しています。その中で比較的軽微な内容を取り上げてみます。

  • ドイツでは「 公安または公共政策に対する重大な脅威とみなされる」「 6 か月以上連続してドイツ国外に滞在している」「EU 加盟国への長期滞在許可を取得している」場合
  • アメリカでは「登録の不履行および書類の改ざん」「テロ組織との関わり」がある場合
  • オーストラリアでは「経営する事業が、法律や企業倫理に反することに関与している場合」「ビザの主申請者のビザが取り消された場合(主申請者の家族のビザが取り消される)」
  • 台湾では「永住期間中、毎年183日間居住していない」場合
  • シンガポールでは「有効な再入国許可書(REP)を持たずにシンガポールを出国、海外に滞在した」場合
  • 韓国では「出生時に親のどちらかが永住(F-5)在留資格で韓国に滞在している人の中で生活維持能力、態度、基本的素養などの条件を満たす人」「「外国人投資促進法」に基づいて 50 万ドル以上を投資した外国人投資家として 5 人以上の韓国国民を雇用している者」などの取得要件を満たさなくなった場合

日本よりも厳しく広い基準が設けられている国は複数あるというのが分かります。

永住資格の取消基準が確認できない国はフランスくらいのものです。そのフランスの治安がどうなっているか?はお察しの通り。

国連人種差別撤廃委員会はこれらの国に対しては何かお手紙を出しているんでしょうか?そうでなければ公平・平等・比例原則に反しており、日本に対する差別的な動きでしょう。

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