ウーバーイーツユニオンを名乗る集団がウーバージャパン社に対して団体交渉を求めましたが拒否されました。
これは妥当な結果なのでしょうか?
過去の判例と比較してみます。
- Uber Japanがウーバーイーツユニオンの団体交渉を拒否
- 労働組合法に関する最高裁判例
- ウーバーイーツの仕組みの図解
- ウーバーイーツ配達員の証言と「雇用」実態
- 米労働関係委員会:Uberドライバーは「従業員ではない」
- まとめ:配達員の稼働実態は事業者か
Uber Japanがウーバーイーツユニオンの団体交渉を拒否
団交拒否の回答がありました。労組法上の使用者性と労働者性を否定する内容です。しかし、判例に照らしてこのような主張が認められないことは明らかです。労働委員会に団交応諾命令を求める救済の申立を行います。 pic.twitter.com/Vf9X3IHj8b
— ウーバーイーツユニオン (@uberunion2019) October 18, 2019
団体交渉=団交というのは、任意の交渉要求ではなく、法的な根拠のある要求です。
労働組合法上の交渉権限
日本国憲法
〔勤労者の団結権及び団体行動権〕
第二十八条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
労働組合法
第二条 この法律で「労働組合」とは、労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。 以下省略
(交渉権限)
第六条 労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者は、労働組合又は組合員のために使用者又はその団体と労働協約の締結その他の事項に関して交渉する権限を有する。
労働組合に交渉権限があり、使用者には交渉に応じる義務があるというのは、憲法28条を受けて労働組合法で定めがあるからです。
憲法上の「勤労者」とは「労働者」と同義であり、使用者に対する従属的地位のゆえに、労働基本権の保障なしには経済的地位の向上に実質的に関与しえない者*1などと言われることがあります。
これは労働基準法上の労働者の定義よりも広いとされています。
しかし、ウーバーイーツユニオンは現時点では法律上の労働組合ではないようです。
ウーバーイーツユニオンは現時点では労働委員会の認定を受けていない
労働組合法
(労働組合として設立されたものの取扱)
第五条 労働組合は、労働委員会に証拠を提出して第二条及び第二項の規定に適合することを立証しなければ、この法律に規定する手続に参与する資格を有せず、且つ、この法律に規定する救済を与えられない。但し、第七条第一号の規定に基く個々の労働者に対する保護を否定する趣旨に解釈されるべきではない。
労働組合法を見てもわかるように、労働組合として団体交渉を行うためには「労働者」で組織されていなければならず、且つ、労働委員会に認定を受けなければならないのです。
したがって、今回ウーバーイーツユニオンが団交拒否されたのは、(妥当性は措いておくとして)法的には当然、ということになります。
労働委員会は都道府県に設置されるので、この場合は東京都のページを見てみます。
労働委員会による労働組合の資格審査
労働組合の資格審査
労働組合を設立したことを会社や官公署に届け出る必要はありません。
ただし、以下の場合には、その都度、労働委員会において、労働組合法で定めた要件を備えている労働組合であるかどうかについて、審査を受ける必要があります。
・ 不当労働行為の救済を申し立てるとき
・ 法人として登記するために必要な資格証明書の交付を受けるとき
・ 労働者供給事業を行う許可を申請するとき
・ 労働委員会の労働委員候補者を推薦するとき
「不当労働行為」は労働組合法7条で禁止されている行為で、「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと」などが定められています。
ウーバーイーツユニオンは現時点では労働委員会に認定されていませんが、今回の団交拒否が不当労働行為であるとして争う場合に労働委員会に審査を申し出る可能性があります。
さて、ウーバーイーツの配達員らは、「労組法上の労働者」なのでしょうか?
任意の「交渉」=改善要求は妨げられていない
なお、ウーバージャパン社は法律上の根拠のある団体交渉は拒否しましたが、アプリを通じて連絡するように、とは書いてありますが、任意の交渉=改善要求まで妨げられているわけではありません。
労働組合法に関する最高裁判例
労働組合法上の労働者の判断指標を提供している最高裁判例としては、新国立劇場事件、INAXメンテナンス事件、ビクターサービスエンジニアリング事件があります。
これらの判例から導き出される実務上の労働者性判断の指標が厚生労働省の労使関係法研究会報告書で分析されています。
- 事業組織への組み入れ
- 契約内容の一方的・定型的決定
- 報酬の労務対価性
- 業務の依頼に応ずべき関係
- 指揮監督下での労務提供・一定の時間的場所的拘束
- 顕著な事業者性
1~3は基本的判断要素、4,5は補充的判断要素、6は労働者性を否定する特段の事情として扱われています。
では、果たしてウーバーイーツにはこれらが認められるのでしょうか?
ウーバーイーツの仕組みの図解
ウーバーイーツの仕組みを理解しないと始まりません。
マッチングアプリの役割
ウーバーイーツはマッチングアプリの役割です。
- 食事を取り寄せたい注文者
- 食事の配達をしたいレストラン等の店舗
- 配達の仕事で稼ぎたい配達員
この3者のニーズを満たす仕組みを提供していると言えるでしょう。
注文・調理・配達と報酬
ウーバーイーツアプリを介してやりとりが行われます。
- 注文者がメニューから食事を選択して注文
- 注文に該当する商品を作っている登録レストランパートナーが調理
- 登録配達パートナーがピックアップしてお届け
注文者は食事代、配達員には配達報酬が支払われます。
レストランに対しては料理代が支払われますが、ウーバーイーツを介して注文を獲得できたことに対するサービス料がかかります。売り上げに対して一定の割合がかかるようになっています。
ウーバーイーツ配達員の証言と「雇用」実態
ウーバー社と配達員は労組法上の労働者なのか?
時間的拘束が無い出前
Uber出る気にならん。
— のい@横浜 (@noinoihiromu) October 20, 2019
イヤイヤ期が継続中。
今日出たら、竹薮に1億円落ちてるの見付けるとか。
可愛い柴犬の子犬が「飼って~💕」って寄ってくるとか。
1万円のお弁当の廃棄が出るとか。
そういうの無いかな。
出前サービスはその店舗で働いている人が行いますが、ウーバーイーツは、そもそも好きな時に働けるので、仕事を受けたくない日はまったく何もしなくともよいという自由があります。
時間的場所的拘束が無いということです。
応答拒否もキャンセルも可能
こんな感じでアプリに告知されます。下をタップした場合「受けた」ことになるのです。 pic.twitter.com/W2FW9cK6Tn
— 享平🏍️ωber配達員 (@mp0114514) October 20, 2019
そうなんですよね、実際問題アプリにピンが立たずいざ受けてみたら遠方だったということで受けキャンは多少あります。(集荷後のキャンセルは不在時にはありますが)
— 享平🏍️ωber配達員 (@mp0114514) October 19, 2019
にしても、政治的な発端からでも興味を持ってもらえるのは嬉しいですね。
アプリにログインしていても、応答拒否・配達キャンセルが可能です。
応答した後に地図上の場所を見てみたら、集荷場所と配達場所が遠方であるとかその他諸々の事情でキャンセルすることがあるようです。
配達員の主観としても応答しないことがありうるということが明らかですから、判例の言う「業務の依頼に応ずべき関係」があると言うのは難しいでしょう。
なお、コミュニティガイドラインでは、配達員の応答率とキャンセル率は、地域の平均よりも大幅に悪化している場合にはアプリへのログイン停止やアカウント停止のペナルティがあると記載されています。
受けたくない場合には「アプリにログインしない」を選択するべきと書かれています。
米労働関係委員会:Uberドライバーは「従業員ではない」
Uberドライバーは「従業員ではない」と米労働関係委員会が裁定 – TechCrunch Japan
「ドライバーは自分の車、作業スケジュール、および作業場所に関する事実上完全な自由を有し、Uberの競合他社で働く自由があり、大きな起業機会も与えられている」と文書に書かれている。「任意の日の任意の空き時間に、UberXドライバーは自らの経済目標に最適な行動を選ぶことができる。アプリ経由で乗車リクエストに答えることも、競合するライドシェアリングサービスに従事することも、まったく異なる事業に挑戦することもできる。Uberが乗客の要求に答えるために利用しているサージプライシングなどの経済的インセンティブは、Uberの「無干渉」なアプローチを反映しているだけでなく、ドライバーの起業機会をいっそう促進するものである」。
アメリカの労働関係委員会は、その働き方の自由さからUberドライバーを「従業員」ではないと認定しました。
裁判になったらどうなるかは未だ読めないですが、日本における判断を予測する上では重要でしょう。
まとめ:配達員の稼働実態は事業者か
いつの話しています?
— UberGuild☆TOKYO (@UberXAkiHera) October 18, 2019
【Uberドライバーは「従業員ではない」と米労働関係委員会が裁定】
あと【判例】てのは「連邦裁判所の決定」の事を指すのであって、そもそもそんな裁判起きてすらいません。
・・・初台ユニオンの嘘デタラメに騙されないで(笑)https://t.co/fJD7sAVB45
細かい検討は抜きにして判例とウーバーイーツ配達員の稼働実態を見ると、労働組合法上の労働者と認定されるかというと、疑問に思わざるを得ません。
配達員の稼働実態は事業者であり、その事が不都合を生じさせているのであれば配達員からの改善要求は妨げられていませんのでどんどん指摘すればいいと思います。
現状では不当な結果になってしまうのであれば、労組法を改正したり特別法を立法するべきではないかと思います。
以上
*1:労働組合法第3版 西谷敏