事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

VTuberプロジェクトのVASE「法的措置の強化」戸定梨香運営のArt Stone Entertainment

VASE法的措置の強化

フェミ議連の事件、法的措置も視野に入ってきたんじゃないでしょうか?

VTuberプロジェクトのVASE「法的措置の強化」

法的措置の強化について | VASE

平素より、弊社が運営するバーチャルプロダクション「VASE」を応援いただき、誠にありがとうございます。

株式会社 Art Stone Entertainmentは、所属タレントに対する節度を超えた権利侵害・事実に基づかない悪意ある憶測の流布、誹謗中傷、プライバシーの侵害などの行為に対し、弊社代理人弁護士を通じて法的措置の活動の強化を実施して参ります。

VTuberプロジェクトのVASEが「法的措置の強化」を宣言しました。

これは全国フェミニスト議連による戸定梨香に対する攻撃がきっかけでしょう。

戸定梨香を管理のArt Stone Entertainmentが運営

VTuberプロジェクトのVASEは、Art Stone Entertainmentによって運営されており、VTuber「戸定梨香」を管理しているところでもあります。

つまり、VTuber戸定梨香に対する誹謗中傷は、運営会社であるArt Stone Entertainmentに対する名誉毀損・侮辱・偽計業務妨害にすらなり得るということです。

既に同社の代表である板倉節子氏は、本件においてフェミニスト議員連盟に抗議をしています。

VTuberに対する名誉毀損・侮辱・偽計業務妨害

VTuberに対する名誉毀損・侮辱・偽計業務妨害につき上掲記事で論じましたが改めて。

VTuberに対する誹謗中傷等が運営法人に対する名誉毀損・侮辱等であると言えるならば、民事刑事の訴訟を展開することも可能

これが私の見解です。

これは静岡大学学術院情報学領域准教授の原田 伸一朗氏が書いた「バーチャル YouTuber の人格権および著作者人格権」という論稿を参考にしていますが、私はいくつか彼とは異なる見解です。

原田准教授はパーソン型VTuberとキャラクター型VTuberという分類をしています。

前者は『あくまで人間(自然人)が、キャラクター・アバターの表象を衣装のようにまとって、動画配信などの活動をおこなっている』もの。

他方、戸定梨香などはキャラクター型 VTuberで、『「中の人」の存在をうかがわせず、キャラクター自体が VTuber として活動しているかのようにふるまう』ものです。

キャラクターに人格権を与えるべきではない

この場合に原田准教授のように【キャラクター自身が「人格主体」として「人格権」を持つ】と考えるべきかについては、私は否定すべきと考えます。

なぜなら、運営によるそのキャラに対する扱いもまた非難対象になったりすることになるからです。この場合、司法が過剰に介入することになり、表現の自由を著しく阻害する結果になるでしょう。

また、実務的なことを言えば、キャラクター自身が「本人」として訴訟をすることはできませんから、法的保護の主体にはなり得ない。

原田准教授は『キャラクターを「法人」化する』方法も考えられるとしていますが、確かに法人化すれば名誉毀損・侮辱から保護される主体になりますが、この場合に行為するのは法人の代表者・代理人であり、「キャラクターそのもの」ではありません。

「VTuberには人格がある」という主張を否定する気はありませんが、その意味は背後に居る「中の人」という自然人の人格に配慮するべき、というものであるべきです。

実質的に法人または「中の人」に対する人格権侵害の場合は認められる

ただし、直接の誹謗中傷の対象が法人ではなくとも『実質的に法人に対する誹謗中傷』であると考認められれば、名誉毀損や侮辱などの人格権侵害として法的措置の対象になり得ます。

たとえば、京都朝鮮学校公園不法占拠抗議事件に関して、「朝鮮学校」と「朝鮮学校の校長」を指して発言した行為が、当時京都朝鮮学校を運営していた法人に対する侮辱罪が成立するとしました*1*2

たとえばですが、あるメーカーの商品に対して虚偽も交えながら否定的評価を加える場合に法人に対する名誉毀損等になることと同じように考えられるわけです。

次に、「中の人」に対しても、たとえば「声が〇×△」のようなものであれば、中の人である演者に対する人権侵害であるとダイレクトに認定できます。

もっとも、この場合には「中の人」と「VTuberのキャラクター」が同一であるということが一定の範囲において認識されていた事実(同定可能性)が認められなければなりません。

こうなると既に「パーソン型VTuber」と呼ぶべき状況になっていると言えるでしょう。

参考:インターネット上の名称に対する名誉毀損が認められる場合を、裁判例をもとにご説明します。 | 弁護士をお探しなら東京・中央区東日本橋の、あいなかま法律事務所

実害が生じていればVTuber運営法人への偽計業務妨害にもなり得る

実害が生じていればVTuber運営法人への偽計業務妨害にもなり得ます。

「虚偽の風説の流布」(客観的真実に反する事柄を伝播させることと一般に理解)にあたるかが争点と思われますが、本件では戸定梨香のキャラクター造形が存在する事実は客観的に明らかです。

それに対する「性的対象物化」「性犯罪誘発」といった評価に関わる主張が問題視されている点で、どのように判断されるか、といったところでしょう。
参考:東京地判昭和49年4月25日(食品添加物AF-2の有害性について確実な資料・根拠を有しないまま著書で主張したことが「虚偽の風説」に当たるとされた事例)

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*1:京都地方裁判所令和元年11月29日判決 平成30年(わ)327号

*2:1の控訴審である大阪高等裁判所令和2年9月14日判決 令和2年(う)第46号