事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。リンク切れに備えて魚拓を活用しています。

エアロゾル感染は空気感染=飛沫核感染と別:飛沫感染と何が違うのか

バカボン君さんによる写真ACからの写真

結論から言うとエアロゾル感染と空気感染は別です。

ただ、医学界の中でも用語法の混乱があるようです。

※追記:新たに「マイクロ飛沫」というワードも出てきたので本エントリをブラッシュアップした記事を作りました。

中国公式保健部「新型コロナウイルスはエアロゾル感染も」

中国 新型コロナウイルスはエアロゾル感染

http://www.nhc.gov.cn/xcs/zhengcwj/202002/d4b895337e19445f8d728fcaf1e3e13a/files/ab6bec7f93e64e7f998d802991203cd6.pdf

 

 

BBCの中国語版によると、「中国の公式保健部は2月8日に、新型コロナウイルスがエアロゾル感染経路には「エアロゾル感染」も含まれることを確認した」としています。

武汉肺炎:中国确认新冠病毒经空气通过气溶胶传染 - BBC News 中文魚拓

原文は以下にある上記画像部分です。

关于印发新型冠状病毒肺炎诊疗方案(试行第五版 修正版)的通知_其他_中国政府网

新型冠状病毒肺炎诊疗方案(试行第五版 修正版)

※追記:上記画像の「尚待明确」は「未だ明確ではない」と読めないでしょうか?「エアロゾル感染」について説明してるのはあくまでもBBCの記事であって、国民健康衛生委員会総局の文書はエアロゾル=气溶胶については上記画像部分しか言及してません。

その前の文は「呼吸器からの飛沫と接触伝播が主な伝播経路」とあります。

※追記2:やはり未定義か

气溶胶传播,国家卫健委最新解释是“尚待明确” - 国内 - 新京报网

对于新冠肺炎的主要传播途径,今日,国家卫健委官方微信公号“健康中国”发布的文章中表示:“气溶胶和粪—口等传播途径尚待进一步明确。

新型コロナウイルス肺炎の主な伝播経路については、国民健康福祉委員会の公式WeChatアカウント「健康中国」が発表した記事において本日、「エアロゾルと糞口の伝播経路についてはさらに明確にする必要がある」と述べた。

9日上午,国家卫健委新公布了《关于印发新型冠状病毒肺炎诊疗方案(试行第五版 修正版)》。其中显示,经呼吸道飞沫和接触传播是主要的传播途径。气溶胶和消化道等传播途径“尚待明确”。

9日の午前、国立保健医療委員会は、「新型コロナウイルス肺炎の診断と治療(第5改訂版)」を新たに発表しました。呼吸の飛沫と接触伝播が主な伝播経路であることが示されています。エアロゾルと消化管の経路は「まだ定義されていません」。

エアロゾル感染と空気感染(飛沫核感染)の違いは水分を含むか

エアロゾル感染と空気感染(飛沫核感染)の違いは水分を含むかです。

飛沫核感染=空気感染の定義

飛沫核とエアロゾル感染

http://www.showa-u.ac.jp/sch/pharm/frdi8b0000001sb0-att/a1437547184715.pdf

飛沫と飛沫核の違いは水分があるか無いか、直径5μm(ミクロン)未満の粒径か否かであると説明されます。

飛沫の周囲が蒸発することで飛沫核となります。

この飛沫核を吸い込むことで感染するのが飛沫核感染、通称「空気感染」と言われています。医学書などでは飛沫核感染の方が用いられている気がします。

エアロゾルの定義

エアロゾル感染と空気感染

https://pub.nikkan.co.jp/uploads/book/pdf_file572fd6b8727a4.pdf

これに対してエアロゾル(aerosol)とは「分散相は個体または液体の粒子からなり、分散媒は気体からなるコロイド系」などと定義されます。

簡単に言えば空気中に安定して分散および浮遊している小さな液体又は固体粒子です。

飛沫核は水分が無いとの説明であるのに対してエアロゾルは水分を含んでいるということ、飛沫は5μm以上だがエアロゾルは5μm未満であるということが、(感染症学においては)前提のようです。

これ以上は界面化学に踏み込むので細かい説明は省きますが、気になる人は上記画像のリンク先を読むといいんじゃないでしょうか。

典型例は「加湿器の細かい霧」です。

レジオネラ症はレジオネラ属菌に汚染されたエアロゾルを吸入することによって感染(エアロゾル感染)することもあり、注意喚起されています。
参考:レジオネラ症 厚生労働省

小括:水分を含むか、5ミクロン未満か

  • 飛沫:水分で覆われている5μm以上の粒子
  • 飛沫核:水分を含まない5μm未満の粒子
  • エアロゾル:水分を含むが5μm未満の粒子

おそらくこれは確定的な定義ではないでしょうが、概ねこのように理解されています。

そのため、我々一般人としては飛沫とほぼ同じと捉えて良いでしょう。

国立感染症研究所のウイルス学,免疫学の研究者である峰宗太郎氏も以下指摘してます。

追記5:なお、微生物学者からは患者から発生する飛沫・飛沫核と、それ以外のものも含むエアロゾルを単純に区分けしないように注意喚起されています。

飛沫感染が主な感染経路でありエアロゾル感染は特殊な状況でのみ発生

エアロゾル感染と空気感染、飛沫核感染

https://square.umin.ac.jp/fittest/pdf/ft_text.pdf

感染症予防必携 第3版では、「医療現場で飛沫核感染を生じる可能性があり、注意すべきは、加湿器のようなエアロゾール(エアロゾル)発生装置の水の中で病原体が増殖した場合であろう。」などと説明されている通り、エアロゾル感染はかなり限定的な環境でなければ発生しないとみて良いでしょう。

この場合には空気感染用の対策をするように指示が書かれている所もあります。

そのため、クルーズ船などで発生している新型コロナウイルスの集団感染を考えるに際しては、接触・飛沫感染が主な感染経路であり、エアロゾル感染があるとしても稀であると考えられます。

ところで、上記説明文や画像には飛沫核感染(空気感染)の文脈でエアロゾル感染が記述されているのが分かります。

はい。実はエアロゾル感染が飛沫感染か飛沫核感染かは政府・医療機関の説明でも分かれているのです。それが(本質的ではない)混乱を呼んでると思います。

空気感染(飛沫核感染)=エアロゾル感染という分類をしてる記述

エアロゾル感染と空気感染の違い

厚生労働省

 

医療施設等における感染対策ガイドライン 厚生労働省

感染対策について 国立国際医療研究センター

インフルエンザの不顕性感染者が感染源となる頻度|Web医事新報|日本医事新報社

感染対策手技③ ノロとエアロゾル感染 誠愛リハビリテーション病院

感染対策としての呼吸用防護具 フィットテストインストラクター養成講座テキスト,フィットテスト研究会

飛沫核感染の A 型インフルエンザウイルス伝播様式に於ける重要度

学校において予防すべき感染症の解説 公益財団法人 日本学校保健会

感染症について 福山市

これらのページではエアロゾルによる感染を空気感染の一部として記述されています。

これらの中には「エアロゾル=飛沫核」という記述も見られますが、それは既存の分類方法が飛沫か飛沫核かしか存在せず、その振り分けの基準として「全体が5ミクロン未満の大きさか」という点を重視したものと思われます。

※追記:上記予想は当たってました。 

Respiratory Protection for Healthcare Workers: A Controversy

In spite of the distinction made between droplet and airborne transmission, current knowledge of aerosols indicates that there is no clear line differentiating droplet and airborne transmission, as currently defined, on the basis of particle size.

液滴と空中伝播の区別にもかかわらず、エアロゾルの現在の知識は、粒子サイズに基づいて現在定義されているように、液滴と空中伝播を区別する明確な線がないことを示しています。

これが公的な用語法の定義として扱われているため、どうしてもエアロゾル≒飛沫核と書かざるを得ないのだろうと思います。 

そして後述しますが、"transmission"=「伝播」と"infection"=「感染」の用語法にも混乱が見られるようです。

飛沫感染=エアロゾル感染という分類をしている記述

エアロゾル感染は空気感染と同じ?

日本救急医学会

感染経路 日本救急医学会・医学用語解説集

文京区 感染経路について

IASR 28-6 インフルエンザ,感染制御

これらのページではエアロゾル感染=飛沫感染と分類した記述になっています。

これは「水分を含むか含まないか」という点を重視したか、エアロゾル感染し得るとしても主な感染経路は飛沫感染であるという理解なのかもしれません。

「エアロゾル感染」を独立した感染経路と扱っている記述は見ることはありません。

エアロゾル感染はインフルエンザでも注意喚起されている

インフルエンザの不顕性感染者が感染源となる頻度|Web医事新報|日本医事新報社

エアロゾル感染は新型コロナウイルスに特徴的なものではなく、インフルエンザ等の他のウイルスでも起こり得るものだということです。

ところで、記事冒頭に紹介したBBCチャイナではエアロゾル感染についての項目で、集団伝染病の予防のためにかなり注意するよう書かれています。

武汉肺炎:中国确认新冠病毒经空气通过气溶胶传染 - BBC News 中文

气溶胶传染与飞沫传染途径的不同之处在于传播距离。飞沫和接触传染,都是在近距离范围内发生,而气溶胶的传播距离远,增加了无接触感染的风险。

エアロゾルと液滴の伝送の違いは、伝送距離です。飛沫と接触感染は近距離で発生しますが、エアロゾルは長距離を移動するため、非接触感染のリスクが高まります。

避免空气和接触传播:家庭成员要避免接触可疑症状者身体分泌物,不要共用个人生活用品

空気や接触による感染を避ける:家族は、疑わしい症状のある人の体からの分泌物の接触を避け、個人の日用品を共有しないでください。

どうも中国と日本とで、エアロゾル感染に対する危機感というか捉え方に温度差があるのが気になります。

もしかしたら、そもそも中国側の発信がおかしいのかもしれません。

追記3:冒頭に追記したように、BBCの中国語版の誤訳の可能性。上記「エアロゾル感染」の説明文は、中国国民健康衛生委員会総局の文書にはありません。

追加4:誤訳ではなく、BBCは上海市の記者会見ベースで書いており共産党中央の発表と齟齬があるという可能性があります。 

日本語でのtransmissionとinfectionの用語法の問題か

エアロゾル伝播と感染

国立国際医療研究センター

"transmission"や"infection"を日本語で用いるときに体系的な整理をしてこなかった。

どうも、そういう事情が伺えました。

なので、用語法が医学界においても混迷しているという事が言えます。 

まとめ:エアロゾル感染と空気感染は別と捉えて良い

  1. エアロゾル感染と空気感染は別
  2. しかし、おそらくエアロゾル感染(エアロゾル伝播)は日本における医学的扱いが定まった用語ではない
  3. そのため各所で説明にブレが生じている

エアロゾル感染が空気感染(飛沫核感染)か飛沫感染のどちらに分類されるのか?という点はあまり本質的ではなく、エアロゾル感染がどのような場合に生じるものなのか、我々が気を付ける点は何か?の方が重要ですし、思考経済としても合理的です。

エアロゾル化するのはどのような場合なのかを考えれば、エアロゾル感染があり得るとしても、これまでと行動は変える必要は無さそう、ということになりそうです。

ただ、この考え方も更新されないとも限らないので、一般人としては情報を注視していくことが必要でしょう。

以上