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Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

【自民党総裁選】青山繁晴参議院議員「今回は衆議院議員は総理になっちゃいけない」総理の解散権と参議院議員の憲法習律

主張がおかしい

青山繁晴参議院議員「今回は衆議院議員は総理になっちゃいけない」

自民党の青山繁晴参議院議員が9月に予定している自民党総裁選に関して「今回は衆議院議員は総理になっちゃいけない」などと動画で発言していました。

自身が総裁選に出る可能性については従前から発言していましたが、そのロジックには極めて疑問です。また、参議院議員が総理大臣になることへの懸念に対して適切な反論乃至は説得的主張が見当たりません。

青山繁晴チャンネル・ぼくらの国会 - YouTube

総理の解散権と参議院議員の憲法習律:独裁体制が生まれる危険の予防

憲法上、総理大臣は「国会議員の中から」選ぶとしているので*1、参議院議員が総理大臣になることは法的には妨げられていません。

しかし、現在までに参議院議員の総理大臣は生まれていませんし、2012年に当時の林芳正参議院議員が自民党総裁選に出馬するまでは、自民党総裁選候補者としても衆議院議員のみが名を連ねていました。しかも、今回の青山繫晴議員は内閣で政務官などの役職すら得たことがありません。

これは、衆議院の解散権を持つ内閣総理大臣が参議院議員であった場合、自身は身分を失わない安全圏に居たまま有権者が選挙で選出した衆議院議員らの身分を喪失させる権能を有することになり、最悪の場合には独裁の危険を生むということが懸念されてきたため、参議院議員を総理大臣にしないことが議員らによる憲法習律として運用されてきたという歴史があるからです。*2

他、内閣不信任案を可決できるのは衆議院のみであり、可決された場合には内閣は衆議院を解散するか総辞職をしなければならないところ(内閣不信任案が可決されたのは過去4度)、参院議員総理にとって衆議院解散を選択した場合はダメージが小さいことになり、衆議院議員らが自らの身分をかけてリスクを負った行動に対するリターンの期待値が低く、不公平な状況が生まれると言えます。

青山繁晴議員の自民党総裁選立候補=総理大臣就任への意欲というのは、この懸念が生まれるということです。

青山議員の自民党総裁選出馬理由⇒利益誘導のない全国比例区選出?

青山議員は、参議院議員選挙では全国比例区があり、その枠組みで選出された議員は選挙区ではなく全国の事を考えられるから、今回については参議院全国比例区選出議員である自身が適任である、と主張しています。

過去の動画や他のチャンネルの動画等で発言していることを総合するに、この意味は衆議院議員は「地元が選挙区」であり*3、地元に利益誘導をしがちであるから財務省に予算を握られている一方、参議院全国比例区選出議員は全国が選挙区であるから「地元」が無いが故に国全体の国益のことを第一に考えることができる立場であるため、その危険が無い、だからそれに該当する自分が出馬することが望ましい、また、このようにすることで、今回求められている「自民党が変わった姿を見せる」という目的が達成できる、ということを言っています。

しかし、そもそも「参院全国比例区だから利益誘導は無い」「常に国益の事だけを考えることができる」というのは真でしょうか?

全国比例選出議員の中には業界代表としての立場の者も居り、それは「地元」への利益誘導というのは無いでしょうが、「業界」への利益誘導はあり得る。衆院議員の選挙区の予算をどうこうできる財務省なる存在を措定するなら*4、業界への補助金を絞るなど造作も無いでしょう。

「青山議員本人に関してはそんなことはない」ということなのでしょうが、講演会と称した実質的な政治資金パーティーでの収入が存分にある立場の者のみが大丈夫である、ということを言っているのであり、国会議員や内閣の議員の全員がそのような地位を築いているべきとは思われません。

個人ではなく、党の総裁として政府として組織で国益を目指すのが総理大臣なのに。

青山繁晴議員は本気で総理大臣になろうとしていない

そして、このような説明ぶりからは、青山繁晴議員は本気で総理大臣になろうとしていないのでは?と思わざるを得ません。

衆院選挙後に行われるのは内閣総理大臣の選出です(憲法76条1項)ですが、参院に対する衆院の優越が定められています(同2項)

つまり、衆院議員の賛同を取り付けなければ参院の総理大臣なんて生まれない訳です。

ところが「今回は衆院議員は総理に不適格」などと意味不明な事を言っており、衆院議員を敵に回してる状況で総理になろうと本気で考えてるとは普通は思いません。

独裁の危険を回避する憲法習律に対してすら「俗論」などと言い放って先人の知恵を簡単に否定して「総理大臣は日本国のことを考えるものだから、参院議員だと独裁になるというのはあなたが公私混同してるだけだ」などと、正面から相手にしない態度では総理の器だと思う人は少ないでしょう。

なので青山氏が合理的な一般通常人と措定するなら本気ではないと考える事に。

では、なぜ出馬するのか?

政治的に意味があるのは【他の誰かの得票を減らすため】です。他、自民党の総裁選で新しい動き、という話題作りのためも考えられます。ただ、後者は有権者を相当バカにしてないと出来ない事です。

他は個人的な思惑、例えば新著の販売の餌にして利益を得るためが考えられます。*5

青山繫晴ブログ:https://shiaoyama.com/essay/detail.php?id=5353

出馬せざるを得ない」と書いてますよね。

ここも本気ではないと受け取るべき証左です。従前から出馬の可能性を語っていた者とは思えません。

果たして外部にそのまま説明できる理由をこしらえる事はできるのでしょうか?それとも別のもっともらしい理由を捻り出すんでしょうか?

既に「引き剝がしされてるぅ~」などと、ぴえん芸をしてる時点で姿勢に疑問ですが。

あとは「特定の政策に関する主張をこの機に広める」が考えられますが、例えば青山議員は「消費税減税」「社保料引き下げ」などの減税政策を従前から主張しているところ、今回の総裁選に関してこれについて語ったり記述したりするところは見つかりません。

普段の発言から推し量ることができるものがあると思います。

参議院議員が総理大臣になる場合の懸念との向き合い方

私は、参議院議員が総理大臣になることについて、無理やり正当化するロジックもあり得るとは思っています。ただし、それには参院議員たる総理の衆議院解散権への懸念と向き合う必要があります。

先述の通り、総理大臣に指名されるには衆議院議員の賛同を取り付けないといけません。なので、合理性の無い解散権の行使は与党内から猛烈な反対論が突き上げてくることになります。その状態で解散をしたところで、衆院選後の国会での総理大臣指名の際にその者は総理大臣には選ばれることは無い、と予想されます。

「いやいや、衆院解散後の党内での候補者公認を差配して傀儡のみを候補者にし、反発したものには公認・推薦をしないとかもできるだろ」という指摘があるかもしれません。

ただ、普通の政党であれば多数のグループ(敢えてこの表現にする)が出来ているのは当たり前で、特定の一つのグループだけが権勢を振るう状態になるというのは稀です。

既に独裁的になっているから参院議員の総理が解散権を無制限に行使してしまうのであり、参院議員の総理という安全圏に居るから独裁的になるのではない。この危険は衆院議員の総理と変わらない。と言えます。

しかし、このように考えると、回りまわって「党内が独裁的になっていても(なったとしても)安全圏からの解散ができないようにするのが参議院議員の総理を予め認めない運用の効能だ」という指摘にやはり正当性が残ります。

そこで、青山議員が総理の立場では衆院解散権を行使しない、或いは独断行使せずしかるべき所に諮る、ということを公約として明言し、各所の議員に根回しをすれば、少なくとも客観的には上記の懸念を一定程度払拭できると言えます。

なぜ、これを言わないのか?

なお、私は、天変地異や戦争・紛争・病気などで内閣総理大臣含めた衆議院議員に事故があり、現在の衆議院議員に適格者が居ないと判断された場合、衆議院議員らの同意の下で(当然だが)、参議院議員の内閣総理大臣が誕生する道は遺されて良いと考えます。国政の間隙を作らないために解散の無い参議院という存在があるのだから、憲法上では参議院議員の内閣総理大臣の選出が妨げられていないと解することは、このような例外的なケースを念頭にすると妥当でしょう。

例えば1923年の関東大震災は総理大臣の加藤友三郎が震災発生8日前の8月24日に急死していたため発災日に総理大臣が不在でしたが(憲法上、内閣総理大臣が欠けたときは内閣は総辞職することとなっているが、次の内閣総理大臣が任命されるまで(厳密には次の総理による組閣まで)は職務執行内閣として閣僚は引き続きその職務を行うこととなっている)、これよりも更に悪い状況における選択肢は用意されていた方がいいでしょう。

青山議員は8月23日の午後5時に総裁選出馬に関する会見を開くようですが、果たして何を語るでしょうか?

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*1:憲法67条1項

*2:日本における「議院内閣制」のデザイン https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_3050303_po_071802.pdf?contentNo=1

*3:衆議院選挙でも拘束名簿式比例代表制があることはなぜか無視されているが、全国11のブロックに分かれているためにそのブロックが「地元」という扱いなのだろう

*4:青山議員の説明では財務省はそういう事を示唆して圧力をかけている、としている。

*5:過去の例⇒総務省に確認:青山繁晴現代アート展でブルーリボンバッジを16万円で販売の違法性について - 事実を整える