事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

フジテレビの外資規制違反と放送法116条・電波法75条2項

フジテレビの外資規制違反

フジテレビの外資規制違反報道の扱い方について。

※追記:改めて整理しなおしたのが以下の記事

認定放送持株会社と認定基幹放送事業者:フジHDと東北新社の事案の違い|Nathan(ねーさん)|note

フジテレビの過去の外資規制違反

フジテレビなどを傘下にする持ち株会社「フジ・メディア・ホールディングス(FMH)」が2014年9月までの約2年間、放送法の外資規制に違反していた疑いをもとに朝日新聞等が取材し、以下報道。

金光修社長が5日、朝日新聞の取材に、過去の株主名簿上の議決権の取り扱いで誤りがあり、違反の疑いがあったと認めた。「当時公表しておけば良かった。甘かった」と話した。14年9月末からは適法状態になったという。

フジ・メディア・ホールディングスによるディ・コンプレックスの株式

フジ・メディア・ホールディングスも以下発表しています。

当社の過年度における議決権の取り扱いに関する過誤について 2021 年 4 月 5 日

原因としては、2012 年4月に、株式会社ディ・コンプレックスの株式の33.3%を保有する株式会社NEXTEPを従来の持分法適用関連会社から完全子会社にした際、株式会社ディ・コンプレックスは株式会社フジ・メディア・ホールディングスの株式を50株保有しており、本来であれば株式会社ディ・コンプレックスの保有する株式会社フジ・メディア・ホールディングス株式は、相互保有株式として議決権から控除すべきだったが、そうなっていなかったことが2014 年 9 月末に判明した、という経緯が書かれています。

放送事業者の外資規制の株式比率は議決権ベース

以下に書くことは上掲エントリで既にまとめていますが改めて。

放送事業者の外資規制と言われるものは単純に保有株式の比率ではなく、議決権の比率を計算して行われています(議決権制限株式の発行)。

電波法5条4項3号で20%未満とするよう定められています。

ただ、これには「救済」が設けられています。

放送法116条による「名義書き換え拒否」

放送法116条では、計算上は外資規制に抵触することとなるときであっても、その不都合を回避するために、法令に抵触しないように、外国法人又は間接出資に係る日本法人が有する放送事業者の株式の一部は議決権を有しないこととする事ができる旨が規定されています。

具体的には「名義書き換え拒否」という方法によって実現しているようです。

電波法75条2項によるモラトリアム規定

さらには、一時的に議決権比率が違法状態になっても、総務大臣が免許取消しをしないことも可能な規定があります。

電波法

(無線局の免許の取消し等)
第七十五条 総務大臣は、免許人が第五条第一項、第二項及び第四項の規定により免許を受けることができない者となつたとき、又は地上基幹放送の業務を行う認定基幹放送事業者の認定がその効力を失つたときは、当該免許を受けることができない者となつた免許人の免許又は当該地上基幹放送の業務に用いられる無線局の免許を取り消さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、総務大臣は、免許人が第五条第四項(第三号に該当する場合に限る。)の規定により免許を受けることができない者となつた場合において、同項第三号に該当することとなつた状況その他の事情を勘案して必要があると認めるときは、当該免許人の免許の有効期間の残存期間内に限り、期間を定めてその免許を取り消さないことができる。

ここが今回のフジテレビの事案で重要なので全文掲載します。

免許は原則5年間で、問題となる期間は免許更新時期を跨いでいないと思われます。

※追記総務省|平成25年基幹放送局の再免許等の実施を見ると2013年秋に「(株)フジテレビジョン」がありますが、これが影響するかどうか。

報道によればフジテレビは議決権比率超過の事情を公表していないとあり、おそらく総務省にも報告していないのでしょう。フジは以下記述しています。

それ以前の株主名簿確定時における取り扱いについて、開示書類等の訂正を行うかどうか検討いたしましたが、専門家の意見等も踏まえ、総議決権に占める割合が0.002%~0.004%と訂正内容が軽微であり、自発的訂正が必要とされる事由には該当しないと判断いたしました。

となると、当時、総務省がこの事情を把握していたとしても電波法75条2項の適用がなされたかもしれません。

東北新社とフジテレビの違い

「フジテレビに何らの処分もなければ東北新社の扱いとの関係で不公平では?」

という疑問が出てくるのも当然だと思います。

ただ、東北新社は許認可の時点で規制超過だったので(どれほど超過していたかは未確認です)、この際の救済規定が存在していない一方、フジテレビの場合は救済規定があったという点は異なるでしょう。

※2021年4月9日追記:便宜的に「フジテレビ」と表記している部分がありますが、本件は「認定放送持株会社」であるフジMHDの株式についての話であり、本来は「基幹放送事業者」である株式会社フジテレビジョンとは別個に考えます。「認定放送持株会社」の認定取消しの根拠規定は放送法166条・159条2項5号となります。それが株式会社フジテレビジョンの放送免許と関係するか否か、という話になります。

総務省 電波利用ホームページ|その他|認定放送持株会社

総務省によれば、東北新社の場合は放送法93条1項6号ニ(現7号ニ)の認定を取消したとしています。取消しの根拠法は放送法103条1項のようです。

総務省|報道資料|株式会社東北新社メディアサービスの放送法第93条第1項の認定(BS第125号)の取消し

なお、電波法75条のような規定が放送法にもあります。

いずれにしても、許認可の時点での救済規定ではありません。

(認定の取消し等)
第百三条 総務大臣は、認定基幹放送事業者が第九十三条第一項第七号(トを除く。)に掲げる要件に該当しないこととなつたとき、又は認定基幹放送事業者が行う地上基幹放送の業務に用いられる基幹放送局の免許がその効力を失つたときは、その認定を取り消さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、総務大臣は、認定基幹放送事業者が第九十三条第一項第七号ホに該当することとなつた場合において、同号ホに該当することとなつた状況その他の事情を勘案して必要があると認めるときは、当該認定基幹放送事業者の認定の有効期間の残存期間内に限り、期間を定めてその認定を取り消さないことができる。

追記終わり

総務省の対応の問題か法律の問題か

この話を「総務省の対応の問題」とする者が多いですが、堀江貴文 氏が指摘する趣旨のように、そもそも放送法116条で外資規制が実質骨抜き化されていることや電波法のモラトリアム規定を問題視する視点もあり得るはずです。

この場合は立法論、つまりは国会の問題ですし、内閣立法も考えれば政権与党の問題でもあるわけですが、なぜかこの点を突いて政権を責める野党も存在していないのが非常に不思議で仕方がありません。

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