中曽根元総理の合同葬に関し、文科省等が弔意表明依頼を各機関に対して行ったことについて「思想統制・強制」と非難がされていますが、これは事実と異なります。
- 「弔意表明依頼は思想統制・強制」という誤り
- 合同葬の弔意表明依頼の閣議了解と各省への通知
- 天皇と同格にするのか?というミスリード
- 自民党が関わる行事で公務員の政治的中立性が…について
- 教育基本法に抵触しているからという選択肢
- 天皇により叙される大勲位
- 在任期間が短い総理大臣は大勲位の対象外?
「弔意表明依頼は思想統制・強制」という誤り
「思想統制」「国民目線とずれ」 中曽根元首相の合同葬巡り教育現場から批判 - 毎日新聞
中曽根康弘元首相の合同葬に合わせ、政府が全国の国立大など教育現場に弔旗の掲揚や黙とうで弔意の表明を求めていることが明らかになった。日本学術会議問題に続き、新たな「政治介入」とも取れる政府の動きに各地の教育関係者からは批判や疑問の声が相次いだ。
「弔意表明依頼は思想統制・強制」というのは誤りです。
なのでその認識を拡散する行為はやめて頂きたい。
この記事は政府からの弔意表明依頼について何ら説明がありません。
合同葬の弔意表明依頼の閣議了解と各省への通知
こんなん回ってきた。中曽根に黙祷しろって。やばいな。 pic.twitter.com/fXz7RTBAJy
— 縫殿 (@nui_kuma) 2020年10月14日
文書の形式は「通知」であり「通達」ではありません。
その内容も「閣議了解の趣旨に沿ってよろしくお取り計らいください」というものであり、命令はしていません。
「弔旗」の掲揚(或いは半旗)の際の方法と黙祷時刻について知らせているだけであり、「弔旗を掲揚せよ」というものではありません。
関係機関等については「御配慮」とだけあります。
閣議了解は以下
各府省に対しては職務命令の内容ですが、各公署に対しては「協力方を要望」にとどまっています。
その実施については各機関の長の判断になります。
10月15日の加藤官房長官記者会見(午前)でも、その趣旨が説明されています。
なお、文科省だけでなく総務省も同様の通知を都道府県・市区町村に送付しています。
天皇と同格にするのか?というミスリード
また、ネット上では「大喪中の国旗掲揚方ノ件」という大正時代の閣令が適用されていることから「天皇と総理を同格にしようとしてるのか」というミスリードを誘う書き込みがありますが、半旗の掲揚の仕方だけでそうはならんやろ。
自民党が関わる行事で公務員の政治的中立性が…について
中曽根元総理の合同葬は内閣と自民党の合同で執り行われます。
要するに国も半分関わっており、外国要人も来ますから、その準備や警備、実施については公務員が既に動員されています。
したがって、いまさら弔旗・半旗の掲揚に関して「公務員の政治的中立性」を持ち出して批判するのは、的外れだと思います。
(自民党との合同葬という形式それ自体に反対の立場でない限り)
教育基本法に抵触しているからという選択肢
「思想統制」「国民目線とずれ」 中曽根元首相の合同葬巡り教育現場から批判 - 毎日新聞
大阪府教委、府立校に送付せず
都道府県教育委員会にも、加藤勝信官房長官の名前が入った同様の通知が参考として送付された。14日に通知を受けた大阪府教委は内部で対応を協議。特定政党への支持や政治的な活動を禁じている教育基本法14条に抵触する恐れがあると判断し、高校などの府立校には送付しないことを決めた。
内閣・自民党の合同葬という形式は認めつつ、今回の通知に対して違和感を持つ立場からは、教育基本法の視点からの指摘はあり得る選択肢の一つと思います。
教育基本法
(政治教育)
第十四条 省略
2 法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。
大勲位に叙された内閣総理大臣経験者として葬儀を行うことが「特定の政党を支持」することになるかはさておき、この要素がまったく無いとは言えないでしょうから。
なお、過去には総理経験者の内閣・自民党の合同葬に際して生徒に黙祷させるかで議論になったこともあるようですが、私自身はそれは不要だと思っています。
内閣・自民党の合同葬自体については、その存在は認めるべきだと思います。
天皇により叙される大勲位
今回の中曽根元総理も、そして1980年以来の慣例として「内閣・自民党」の合同葬を執り行われた内閣総理大臣経験者も、みな「大勲位相当」の立場であった、という基準があるようです。
(※「相当」と書いたのは、宮澤喜一は大勲位菊花大綬章の受勲を本人の意思で辞退したものの内閣・自民党合同葬とされ、竹下登は地元での慎ましやかな葬儀を希望していたため「自民・遺族合同葬」だったことなどから、必ずしも大勲位を叙された者=合同葬とは限らないということ。なお、三木武夫は「衆議院葬」が本望だろうと遺族が主張したことから「内閣・衆議院」の合同葬となっている)
参考:国庫から中曽根元首相の葬儀費9600万円を支出は妥当? 金額にはやむを得ない面も(坂東太郎) - 個人 - Yahoo!ニュース
私は、日本国の象徴である天皇が叙した最高水準の勲位を与えた者である、という点に内閣・自民党合同葬の根拠があると考えています。国家の功労者に対する儀礼を尽くすことは、成熟した社会であることの証だと思います。
国葬令が廃止された後の一般国民の功労者に対する形式としては、それで良いのではないでしょうか。
もっとも、そうであるならば特定政党ではなく、内閣・国会(あるいは衆議院)の合同葬という形式の方が好ましいという見解は支持します。
在任期間が短い総理大臣は大勲位の対象外?
在任期間69日の故・宇野宗佑や64日の故・羽田孜は大勲位に叙されていません(宮澤のように辞退したという話も聞かない)
総理大臣経験者が大勲位に叙される基準は定かではありませんが、一定程度は在任期間で判断されているはずです。
そこで、仮に「1年」でバッサリ判断するとすれば、細川護熙、麻生太郎、鳩山由紀夫は大勲位に叙されないということになりそうです。
そうすると、今後は福田康夫(在任365日)、村山富市(在任561日※自民党ではなく日本社会党)、菅直人(在任452日だが歴代最悪の総理だろう)が大勲位に叙されるのかが気になります。
また、総理大臣経験者ではない臣民=一般国民が大勲位を叙された場合にはどうなるのかは分かりません。
以上