破産者マップが名誉毀損やプライバシー侵害、個人情報保護法違反ではないかと騒がれ、弁護団による閉鎖に向けたクラウドファンディングも行われ、昨日、破産者マップは閉鎖されました。
法的な整理は専門家が行っているので、ここでは破産者マップの管理者である者のツイッターアカウントがいろいろ言っているので発言の正統性を考えていきます。
- 破産者マップは誰が被害者なのか?
- 官報に載ったから問題ない?
- 破産者マップは文字情報を地図情報にしただけ?
- 「個人を特定できない形にした上で」?
- まとめ:破産者マップは管理社会の第一歩なので閉鎖すべき
- 追記:monster map=モンスターマップ、自己破産データベースなど
破産者マップは誰が被害者なのか?
- 過去に破産申請等をした者
- 無関係の者で現在その住所地に移り住んでいる者
観念的には、この方々が被害を被ります。
破産申請者等として掲載された方の中には、現在は再生している方もいます。
住所が変わって別人が移り住んでいれば、まったく無関係の人が謂れも無い被害をこうむることになりかねません。
破産という選択肢を取ることを事実上躊躇わせる一要素となることで今後債務に苦しむ人の救済を妨げるだけでなく、破産をすることによって一定の救済が得られた人のプライバシー等を過度に侵害するものであり、しかもその目的が不明(予想はつきますが)である以上早期に対応する必要があると思う。
— ノースライム・ピウス (@noooooooorth) March 18, 2019
官報に載ったから問題ない?
官報に一度掲載され公表されたといっても、それを再拡散し、なおかつ、一般人が容易にアクセスできるようにすることは、別個の評価が加えられるべきでしょう。
破産者マップのリーガルファンディングでも『本件サイトは、インターネット上に公表することによって、既に公表された情報を人の目に触れやすくしています。既に公表された情報であっても、これを人の目に触れやすくすることは違法行為となりえます』と指摘しています。
さらに、今回はグーグルマップと連動させて住所地を視覚的に表示したという違いもあります。
それに、「官報は誰でも自由にみられる」と言われますが、違います。
インターネット官報では直近30日のものは見れますが、「法律・政令等と3年以内の政府調達情報以外」は有料サービスでしか見れません。紙も同じで購読料が基本的にはかかります。
また、図書館や大学はそこが契約しているから市民が利用できます。
それぞれにおいて官報検索サービスの扱いは異なり、場所によっては自由に検索できたり、検索は職員が行うというところもあります。紙媒体は自由に見れる(ハズ)ので、破産者マップ管理人は「紙から写した」と主張していますが。
民間で破産者チェックプログラムを販売している事業者も居ますが、これは個人情報保護法のオプトアウト規定に則って事前に個人情報保護委員会に届出をしていると思われます。今回の破産者マップは、届出をしていないと思われます。
したがって、「官報に載ったから問題ない」と直ちにいうことはできません。
どうも、「図書館で貸出をしている一般書籍の内容を全公開しました」というのと変わらないような気がします。
破産者マップは文字情報を地図情報にしただけ?
僕の気づきを共有させてください。官報は公開情報で、誰もが図書館や大学等で自由に見ることができます。破産者の住所や名前を誰もが自由に知ることができます。官報の破産者情報は「文字列」として書かれていますが、今回のプロジェクトでは官報の文字列を地図上の「点の集合」に置き換えました。
— 破産者マップ (@WMGjqEkelvEtglX) March 18, 2019
「破産者マップは文字列を点の集合に置き換えただけ」
これは質的に異なります。
官報は「発表された当時の情報」を記載してるに過ぎません。
破産者マップは、過去の情報も「現在の状態を表している」ものとして表示、或いはそのように誤認させるような表示をしています。
単に文字を地図情報にしたという性質にとどまりません。
この画像は地図上のピンをクリックすると見れるようになっていましたが(名前等は伏せました)、この画面にたどり着く前に「視覚的な住所地」が分かってしまうため、過去の情報ではなく現在の情報であると誤認するようなつくりになっています。
視覚情報にすることでプライバシー侵害の程度が強い、ということ以上に、質的な差異があるということは違法を認定する方向に働くでしょう。
また、文字情報の場合には必要とする者がピンポイントで対象者の信用をチェックする用途として用いられますが、地図情報の場合にはそれ以外の用途で利用する者(冷やかし・悪戯等)が出てきやすく、必要性の無い仕組みです。
仮に、官報情報検索サービスで同様に地図化したら、おそらくそれ自体が違憲ないし違法な行為でしょう。官報の破産申告者等の情報は、破産者と取引等をしようとする者が把握することを通じて新たな紛争を発生させないようにするためのものであって、広く一般が破産者の全情報にアクセスするためのものではないでしょう。
したがって、名誉毀損の話においても、「官報に載ってた情報だから公共性・公益性はある」という主張は通用しないのではないでしょうか。
※追記:破産法の官報公告の趣旨(条解破産法・弘文堂2010年)は、破産手続の関係者に対する裁判の告知や書面の送付を速やかにかつ経済的に実施するためのものであるとされています。
よって、広く一般に周知する目的ではないと言えるでしょう。
破産法の官報公告の趣旨(条解破産法・弘文堂2010年)。破産手続の関係者に対する裁判の告知や書面の送付を速やかにかつ経済的に実施するためのものであって、破産者の破産の事実を世間に周知させるためのものではない。 pic.twitter.com/AwQZseM8Fc
— くまえもん (@kumaemon9) March 18, 2019
「個人を特定できない形にした上で」?
1.日本に眠っているまだ活用されていない国や自治体がもつデータを、個人を特定できない形にした上で、研究者に加え、この国に住む誰もが自由にアクセスできる国になってほしい。
— 破産者マップ (@WMGjqEkelvEtglX) March 18, 2019
いや、がっつり個人を特定できるようにしてるじゃないですか。
それに、最初は氏名検索もできるようになっていました。
いまさらいろいろ発言して正当化しようとして、ボロが出てますね。
まとめ:破産者マップは管理社会の第一歩なので閉鎖すべき
破産マップの誕生はブラック企業Mapの他中国アプリの影響受けた可能性もあり
— 創@CEO&CTO/検索エンジニア/管理人/Webマーケ/AWSアーキテクト&スクラムマスタ- (@hikarine3) March 17, 2019
中国アプリの場合
滞納債務者
をスマホ位置で表示
載ってる人は飛行機/高速鉄道切符買えない
破産者Map情報をFBと結びつけたら面白いと書いてる人もいたが(中国の場合WeChat)
個人情報断片も集まれば相当な威力発揮 pic.twitter.com/ifRYdIOL2k
こんな管理社会のツールと同様のことをしていたと思うと、ますます我が国においては許容されるべきではないと思います。
以上
追記:monster map=モンスターマップ、自己破産データベースなど
破産者マップは閉鎖されましたが、その後「monster map=モンスターマップ」「自己破産データベース」等、多くの類似サイトが設立しては運営中止、類似サイトへのデータ移管を繰り返しています。
本稿で指摘した「地図情報化」以外の方法を取っているところもありますが、それでも違法であることは変わり在りません。
以上