事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

師岡康子弁護士「ヘイトスピーチで日本国籍を取得するとか大きな被害をもたらしている」

師岡康子弁護士、朝鮮の子供たちがヘイトスピーチで日本国籍を取得する被害を受けているだいぶ前の会見での発言ですが、看過できないので取り上げます。

師岡康子弁護士「ヘイトスピーチで日本国籍を取得するとか大きな被害をもたらしている」

2019年10月28日にUPされた動画の5分30秒頃の発言です。

子供たちがインターネットで朝鮮などに関連することを調べると必ず属性に関する差別・ヘイトスピーチが書かれていて、やはり子供たちが自分の属性を隠したりとか、日本国籍を取るとか、そのような大きな被害をもたらしているのがインターネットです。

日本国籍を取得することが「大きな被害」!?

いったいどういう思考回路なのでしょうか?

まったく理解できません。

師岡康子弁護士の言う日本国籍取得は被害たり得るのか?

日本国籍を取得することによる「被害」というのはどういうものでしょうか?

重国籍の場合の国籍選択は期限がある

重国籍の場合ですが、運用上は厳密ではないために勘違いしている人が多いですが、本来は国籍選択は22歳までに済ませているべきとされています。

ただ、それを超過しても法務大臣から国籍選択の催告を受けることはほぼありませんし、それによる日本国籍の喪失というのもあまり聞いたことがありません。蓮舫議員がよい例です。

参考:法務省:国籍の選択について

また、国籍変更は他人に強制されて行える類のものではなく、煩雑な手続を経て行われるのであり、本人の意思に基づいて行われるものです。

よって、国籍取得それ自体が「被害」というのは、成人後に親などから強烈に取得する圧力を受けた、などの事情が無い限り、およそ観念できません。

しかも、その場合の「加害者」は、親など、と言う他は無いでしょう。

師岡康子弁護士はインターネット上のヘイトスピーチの文脈で言っているのですから、このような場合を念頭に置いていたとは到底思えないのですが。

国籍選択後の悪い出来事が被害?

おそらく日本国籍を取得したことによって、その後に生じた「悪い出来事」ということだと仮定してみましょう。法的・事実的なものではなく、比喩的な表現として「被害」を捉えてみる、ということです。

  1. 朝鮮籍あるいは韓国籍のときであれば享受できていた「特権」が無くなった
  2. 日本国籍を取得したことを、「同胞」に「裏切者」などと咎められた
  3. 国籍を取得しても属性による「差別」は変わらなかったので無駄だと思った
  4. 行政上の手続きなど、生活をしていく中での手続きがこれまでと変わり、混乱した
  5. 本当は日本国籍を取得したくなかったのに取得したことが心に重くのしかかってきている

う~ん…

いくら考えても出てきません。

2番以外は自業自得あるいは被害妄想としか言いようがないです。

「属性を攻撃されたから国籍を変えた」の非合理的思考

「属性を攻撃されたから国籍を変えた」

これが論理的におかしいというのは分かりますね?

「属性」は国籍にとどまらず出自・血統などもあるため、国籍を変えたところでそれらが変わることはあり得ません。そんなものは国籍変更前に分かりきっているはずです。

なので、もそもそんな「被害」は存在しているのか?という疑問が当然にして湧いて出てきます。

そもそも「朝鮮籍・韓国籍を日本人に咎められたから…国籍を日本国籍にする」という考え方が、日本で生まれ育った日本人である私にはまったく理解できません。彼らにとって朝鮮籍・韓国籍というのはその程度だった、ということ以外の何物でもないでしょう。

別に、「日本社会で生活するために最も快適で便利な国籍で居ることを選択する」のならそれでいいのですが、それは「被害」ではないわけです。

日本属性者に対する「ヘイト」は無視する日本属性者差別

朝日新聞官邸クラブが正体を現す「日本人に対するヘイトスピーチは日本の法律では違法ではない」

もう一つ、師岡康子弁護士の主張でおかしいのは、保護対象者の要件から「適法居住要件」を撤廃して「あらゆる差別をなくす条例の謳い文句に適う」ものにして欲しいと要望しているのに、「本邦外出身者」要件の撤廃は要求していない点です。

いわゆるヘイト規制法や東京都のヘイト規制条例は、「日本属性者(本邦内属性者)」が被害者となることを対象外にしています。また川崎市のヘイト規制条例は「日本属性者」が被害者となった場合の相手方の罰則がありません。

これではたとえば大坂なおみ選手が「日本属性」を理由に「不当な差別的言動」を受けた場合に捕捉されないことになります。
※川崎市の場合は被害者の「ケア」については日本属性者も対象になるが、相手方の罰則については日本属性者に対する言動が対象外になっているという点に注意。

別のたとえをすれば、在日朝鮮人コミュニティで「チョッ〇リが!」と言われて排斥されるようなものが、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」にあたらないということです。どう考えてもおかしいでしょう。

「日本属性者へのヘイトスピーチ規制は立法事実が無い」というフェイク論

さて、こういう指摘に対して北朝鮮関係の論者が以下主張しています。

「日本においてはマイノリティに対するヘイトスピーチが行われているという特徴がある。したがって、日本でのヘイトスピーチ規制はマイノリティに対するものを対象にするべきであり、そうでなければ立法事実が無い。だから本邦外出身者に対する言動を対象にするのが当然だ」

このような「立法事実が無い」論が展開されていますが、法的にも事実的にも明確にフェイクです。

立法事実の理解を捏造していますし、実際に日本属性者が日本属性を理由に憎悪の対象になった事件はあるし、ヘイトスピーチが日本属性者に向けられることを非難するべき理屈は、他の場合と変わらないからです。

詳しくは以下で論じています。

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