事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

法の支配の対義語の人の支配を安倍総理は回答できず⇒ブーメランでした

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法の支配の対義語は人の支配であり、安倍総理は回答できなかった」

平成31年3月6日の参議院予算委員会の質疑に関しこのようなデマが流れています。

詳細は以下で既に論じてますが、質疑の流れに焦点を当てていきます。

小西洋之議員の質疑の流れ

小西議員は、最初は厚労省の統計関係についての質疑をしていました。

次に、安倍総理の平成31年1月28日の施政方針演説についての話題になりました。

小西議員はわざわざ「統計の皆さんには後で聞くかもしれませんが、退席していただいて結構です」と言っています。統計についての話題から別の話題に切り替わっているのです。

その後、安倍総理が施政方針演説で明治天皇が詠んだ詩を引用したことが戦争賛美であるなどという認識のもとで質問をしました。

途中で国会の監督権の話になりましたが(内閣法制局長官が越権行為をして発言を撤回したのもこの場面)、その後に安倍総理の戦後70年談話について引用して読み上げました。

その中で「法の支配」について触れていたために取り上げたという流れがありました。

安倍総理の戦後70年談話:力の行使ではなく法の支配を尊重

戦後70年談話(平成27年8月14日内閣総理大臣談話)

先の大戦への深い悔悟の念と共に、我が国は、そう誓いました。自由で民主的な国を創り上げ、法の支配を重んじ、ひたすら不戦の誓いを堅持してまいりました。七十年間に及ぶ平和国家としての歩みに、私たちは、静かな誇りを抱きながら、この不動の方針を、これからも貫いてまいります。

ー中略ー

私たちは、自らの行き詰まりを力によって打開しようとした過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、いかなる紛争も、法の支配を尊重し、力の行使ではなく、平和的・外交的に解決すべきである。この原則を、これからも堅く守り、世界の国々にも働きかけてまいります。唯一の戦争被爆国として、核兵器の不拡散と究極の廃絶を目指し、国際社会でその責任を果たしてまいります。

安倍総理が戦後70年談話で「法の支配」に触れた文脈は、日本国が主体である国際関係における事柄についてです。(小西議員が読み上げた法の支配関連の個所は最初の方の一部です)

そこにおいては「力の行使」が対置されています。

小西洋之議員は「総理は法の支配と言いますが~」と総理の発言を前提にしています。

安倍総理が法の支配という言葉を持ち出すのは国際関係の場面においてです。

国際関係における「法の支配」と 「力の支配」

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国際社会における「法」観念の多元性*一一地球大の「法の支配」の基盤をめぐる一試論一一粛藤民徒

国際社会における「法」観念の多元性*一一地球大の「法の支配」の基盤をめぐる一試論一一粛藤民徒ではしばしば法の支配は「力の支配」と対置されるとあります。

これは当然です。

国家vs国家の場面では、「為政者が誰か」という話にはならないからです。

国連は【国際法の諸原則に合致する法規範に依拠した統治の原則】を「法の支配」としています。国家の行為が問題になる以上、主体は国家であって、決して「人」ではありません。

したがって、国際関係の場面で『法の支配の対義語は人の支配なんだ!』と言うのは明確に間違いです。

安倍総理は力による現状変更と答えていた

実際安倍総理は、こう答えています。

アジア太平洋の海を繁栄の海としていく、インド太平洋を繁栄の海としていく上においては、法の支配、国際法の支配の中においてルールを守るということが大切であると。いわば力による現状変更ということは認めないということでございまして

安倍総理はちゃんと「力による現状変更」と答えています。

それに気づかず小西議員は質疑を続けていたということです。

さらに、後日ツイート等で安倍総理をバカにする発言をしていますが、どう見ても恥の上塗りです。

 

ブーメラン王だった「クイズ王」小西洋之

たしかに芦部憲法などで法の支配と対概念であるものが「専断的な国家権力の支配」であり、それが人の支配であると説明されていることはあります。

しかし、それは一国内における法の支配の説明の仕方の一つに過ぎません。

国際関係における場面では成り立ちません。

維新以外の野党議員はブーメラン使いで名を馳せていると思ってましたが

甘かったです。

ブーメランが刺さっていたことにも気づかずグイグイ自分の傷口に押し込んでいるとは。

 

しかもこの件は憲法学の教授や弁護士などが芋づる式にひっかかっており、有能な発見器の役割を発揮してしまっています。

ここで紹介して差し上げるのもいいですが、その必要もないでしょう。

法の支配と周辺概念の違いについてより詳しく(といっても概説ですが)は以下でまとめてあります。

以上