事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

石破茂が菅野完のインタビューに答える:政治倫理の問題?

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魚拓:https://web.archive.org/web/20180908055635/https://hbol.jp/174352

自民党総裁選に出馬する石破茂が菅野完氏のインタビューを受け、その内容がハーバービジネスオンラインで公開されています。

しかし、この行為はどう理解すれば良いのでしょうか?

菅野氏の現状と政治倫理について考えていきます。カテゴリは随筆。精密な検証はしていません。

菅野完氏:アメリカにおける傷害罪で起訴逃亡中

菅野完氏はアメリカで傷害罪で起訴され裁判に出廷せず逃亡中です。

魚拓:http://archive.is/cQbp8

魚拓:http://archive.is/yoFMW

魚拓:http://archive.is/ssDuJ

本人も事実は認めています。

これは週刊現代が報じたことで明らかになったものですが、菅野氏がメディアに出るきっかけとなった森友学園問題において菅野氏を重用した大手メディアがこの件を取り上げることはありませんでした。

石破茂がインタビューを受けることは違法ではないが

禁錮以上の刑であれば執行猶予でも公務員は失職しますが、たとえ菅野氏がアメリカテキサス州で傷害罪で起訴され、逃亡中だとしても、菅野氏からのインタビューを受けることは何ら違法ではありません。石破氏本人が何か犯罪をおかしたわけではありませんからね。

ただ、何かダメなような感覚はあるでしょう。

たとえばホリエモンも刑事犯として服役しましたが、刑期を終えた後はふつうに経済活動を行っています。前科があるからといってその者とビジネス関係を持つことが妨げられる法的根拠はありませんし、服役中の者と話をしてはいけないということはありません。

唯一、暴力団とのみ、関係を持っていたら違法になる程度でしょう。

しかし、石破氏がハーバービジネスオンラインで対談している相手は未だ罪を償っていない者であり、ホリエモンなどとは一線を画す必要があると考えられます。

また、在宅起訴されて裁判中である刑事被告人とも異なり、アメリカで罪が確定している者の話しであること、事後的に犯罪者となった者ではないことも、余り例のない現象だと思います。

「犯罪者」と対談することが政治倫理に反するのか?

 「犯罪を犯して逃亡中の身」というと、2018年9月現在はとある事件の指名手配犯を思い出してしまいますが、要するにそのような人物と公的な立場にある者が対談しているということに違和感を持つのは通常の感覚だと思います。

しかし、公務員だからといって「犯罪者と対談してはいけない」という規定はありませんし、通報義務は犯罪をまさに認知した時点の話しですから、菅野氏の件は無関係です。犯罪者のインタビューに対応する事が公務員の職務の公正性を害すると直ちに言えるとは思えません。

また、犯罪を犯して服役中の者は選挙権を停止させられますが(公選法11条)、表現の自由はありますし、誰かに対してインタビューすること自体まで禁止されることはありません。今回の場合も、犯罪者の発言内容を事実として取り上げているのではなく、聞き手に徹している中での発言があるだけです。

違法の話でないなら道徳・倫理の話になりますが、関連規定について調べました。

政治倫理綱領と行為規範

政治倫理綱領

政治倫理の確立は、議会政治の根幹である。われわれは、主権者たる国民から国政に関する権能を信託された代表であることを自覚し、政治家の良心と責任感をもつて政治活動を行い、いやしくも国民の信頼にもとることがないよう努めなければならない。
ここに、国会の権威と名誉を守り、議会制民主主義の健全な発展に資するため、政治倫理綱領を定めるものである。

一、われわれは、国民の信頼に値するより高い倫理的義務に徹し、政治不信を招く公私混淆を断ち、清廉を持し、かりそめにも国民の非難を受けないよう政治腐敗の根絶と政治倫理の向上に努めなければならない。

一、われわれは、主権者である国民に責任を負い、その政治活動においては全力をあげかつ不断に任務を果たす義務を有するとともに、われわれの言動のすべてが常に国民の注視の下にあることを銘記しなければならない。

一、われわれは、全国民の代表として、全体の利益の実現をめざして行動することを本旨とし、特定の利益の実現を求めて公共の利益をそこなうことがないよう努めなければならない。

一、われわれは、政治倫理に反する事実があるとの疑惑をもたれた場合にはみずから真摯な態度をもつて疑惑を解明し、その責任を明らかにするよう努めなければならない。

一、われわれは、議員本来の使命と任務の達成のため積極的に活動するとともに、より明るい明日の生活を願う国民のために、その代表としてふさわしい高い識見を養わなければならない。

政治倫理規範

第一条 議員は、職務に関して廉潔を保持し、いやしくも公正を疑わせるような行為をしてはならない。

第二条 企業又は団体の役職に就いている議員は、当該企業又は団体に関し政治倫理の確立のための国会議員の資産等の公開等に関する法律の規定により関連会社等報告書を提出すべき場合を除き、当該企業又は団体の名称、役職等を議長に届け出なければならない。

第三条 議員は、議長又は副議長の職にある間は、報酬(自己の事業に係るもの及び金額が年間百万円以下のものを除く。次項において同じ。)を得て企業又は団体の役員等を兼ねてはならない。

2 議員は、常任委員長又は特別委員長の職にある間は、報酬を得てその所管に関連する企業又は団体の役員等を兼ねてはならない。

第四条 議員は、全会派の一致をもつて遵守すべき事項を申し合わせた場合は、これに忠実に従わなければならない。

第五条 行為規範の実施に関する細則は、議長が定める。

行為規範の実施細則があるようですが調べられませんでした。 

これらの規範自体が抽象的であり罰則があるわけでもありません。「犯罪者と関係を持ってはいけません」とは書いてません。

こうしてみると、「相手が犯罪者だから」という理由でインタビューに応じたことについて非難を受けるべき政治倫理の逸脱はあったのだろうか?と思ってきます。

なお、閣僚については「大臣規範」がありますが、利害関係人との饗応を避けるべきという規定等はありますが、相手が「犯罪者だから」という理由で何か非難を浴びるような規定ではありません。

「犯罪者」に対する嫌悪感はどこから?政治倫理とは?

今回は「犯罪者に対して便宜を図った」や「犯罪者から支援を受けた」でもなく「犯罪者のインタビューに応じた」のみであり、それが何故悪いこととされるのか、改めて考えるとよくわかりません。

そうであるとはいえ、やはり違和感を持つのが通常の反応でしょう。

それは「政治倫理に反しているから」なのか、「一般的な道徳・倫理観念からして避けるべき事態」だからなのか。後者だとしたら、なぜ犯罪者からインタビューを受けてはいけないのか。

ちょっと立ち止まって見ると、そういう問題を投げかけられた気がする事案です。

※追記

数名の方と意見交換した結果、「許し難い」ものの要素が浮かび上がってきました。

菅野氏に着目した視点では「単に犯罪者である」という事ではなく

  1. 犯罪行為の数、内容
  2. そのうちのアメリカでの犯罪は逃亡という形で償っていない状態

1,2のような背景を有する人物であることが「許し難い」ものの一要素なのだと思います。「本来は娑婆の空気を吸ってはいけない人物であるにもかかわらず、のうのうと表社会で活動していること」が非難されるべき内容の中心にあるような気がします。

石破氏の側に着目すると

  1. インタビューを受けることは「そのような人物」の「利益」になる行為である
  2. 石破氏は国会議員であり、政治家は立法権を有するからより廉潔性を保たなくてはならず、「そのような人物」の「利益」になる行為は許されない

概ね、こうした価値判断が根底にあるようだと思いました。

ただ、「そのような人物」が「利益」を得るようなインタビューを受けることがなぜ廉潔性の観点から悪い評価を受けるのかは未だに言語化できていません。

おそらくですが、石破氏がインタビューを受けることは「本来娑婆の空気を吸ってはいけない人物が表社会で活動することに加担することになるから」であると思われますが、いかがでしょうか?

そこには「表社会でのうのうと生活すること」への寄与が本質的な非難対象のような気がします。それを「利益」と呼んでいるのだと思います。

以上