事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。リンク切れに備えて魚拓を活用しています。

防衛省自衛隊が空港に検疫要員を自主派遣:その法的根拠は?

自主派遣

防衛省自衛隊が空港に検疫要員を自主派遣しました。

その法的根拠について整理します。

防衛省自衛隊が空港検疫所に自主派遣

「防衛省自衛隊が空港に自主派遣された」ということですが、その法的根拠について考えてみるとちょっと複雑なようです。

自衛隊法83条2項但書き

(災害派遣)
第八十三条 都道府県知事その他政令で定める者は、天災地変その他の災害に際して、人命又は財産の保護のため必要があると認める場合には、部隊等の派遣を防衛大臣又はその指定する者に要請することができる。
2 防衛大臣又はその指定する者は、前項の要請があり、事態やむを得ないと認める場合には、部隊等を救援のため派遣することができる。ただし、天災地変その他の災害に際し、その事態に照らし特に緊急を要し、前項の要請を待ついとまがないと認められるときは、同項の要請を待たないで、部隊等を派遣することができる。
3 庁舎、営舎その他の防衛省の施設又はこれらの近傍に火災その他の災害が発生した場合においては、部隊等の長は、部隊等を派遣することができる。
4 第一項の要請の手続は、政令で定める

以下略

自衛隊法施行令

(災害派遣の要請手続)
第百六条 法第八十三条第一項の規定により都道府県知事及び前条各号に掲げる者が部隊等の派遣を要請しようとする場合には、次の事項を明らかにするものとする。第百四条第二項及び第三項の規定は、この場合について準用する。
一 災害の情況及び派遣を要請する事由
二 派遣を希望する期間
三 派遣を希望する区域及び活動内容
四 その他参考となるべき事項

自衛隊法83条2項但書きには、天災地変その他の災害に際し、その事態に照らし特に緊急を要し、都道府県知事やその他政令で定める者の要請を待ついとまが無い場合に派遣可能であるという記述があります。

ツイッターを見ていると「緊急を要するのか?」「要請を待ついとまがないのか?」という点をまず疑問に思う人が出てきています。上記の政令上の手続が現在の状況で行えないとは思えませんからね。

更に深堀している人が「そもそも「その他の災害」に感染症は含まれるのか?」という疑問を持っているようです。

ダイヤモンドプリンセス号の際にも自主派遣されていた

しかし、実はダイヤモンドプリンセス号の際にも自主派遣されていました。

このタイミングでは誰も疑問視していませんでした。当時の報道も当然視しています⇒新型肺炎の帰国者の一時滞在先に客船 防衛省が派遣命令:朝日新聞デジタル

まぁ、ダイヤモンドプリンセス号の場合には派遣が当然視されるほど事態の切迫感が伝わってきていたのに対して、今回の自主派遣は特段の事件が起きた雰囲気ではなかったためにみんな「派遣する必要あったの?」と思って調べていたという感じだと思います。

「緊急を要するのか」

検疫要員の派遣が「緊急を要する」のかどうかについて。

もともとの検疫という業務の性質や新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止という日本国の統一ミッションが掲げられている状況からは、諸機関には感染症の侵入を許さない体制が求められていると言えます。

そうであるところ、つい先日、アメリカ便の渡航者らの検疫を時差の計算ミスでスルーしてしまったという事案が発生しています。これは通常の業務を考えれば発生することがあり得ないレベルの重大なミスです。

ここからは、空港の検疫業務の負荷が相当なものとなっており、検疫所の機能が著しく低下していることが伺えます。

ですから、一刻も早く支援部隊=自衛隊を派遣する必要性があると言えるでしょう。

「要請を待ついとまがない」のか?

自衛隊法には「都道府県知事その他政令で定める者」が要請できるとあります。

政令=自衛隊法施行令105条には3号で「空港事務所長」があります。

さて、両者からの要請を待ついとまがないと言えるのでしょうか?

検疫所は厚生労働省保健局が所管

検疫所は厚生労働省保健局が所管しており、都道府県知事や空港事務所長に権限があるということは一見するとよくわかりません、というか無いのではないでしょうか?

空港事務所は国交省の所管で検疫は所掌事務に入っていない

平成十三年国土交通省令第二十五号
 地方航空局組織規則
国土交通省設置法(平成十一年法律第百号)第三十九条第二項及び国土交通省組織令(平成十二年政令第二百五十五号)第二百十八条第四項の規定に基づき、並びに同法及び同令を実施するため、地方航空局組織規則を次のように定める。

省略

(所掌事務)

第三十七条 空港事務所は、地方航空局及び航空交通管制部の所掌事務のうち、次に掲げる事務を分掌する。

以下略

空港事務所は国交省の管轄であり、空港事務所の所掌事務に検疫は入っていません

検疫の場合の災害派遣要請を出す機関が存在しない?

ということで、一見すると都道府県知事や空港事務所には検疫に関する業務の権限が無いように見えるため、「検疫の場合の災害派遣」の要請を出せる機関がどこかよくわかりません(ここは「災害」概念の問題の可能性もある、後述。)

これは行政内部での権限分配の話なので、事前にこういう場合について協議していればいずれかに権限を振り分けていたハズです。

しかし、今その議論をするのはかなり冗長なので、「要請を待ついとまがない」という方向の解釈がありうると思います。

こうした「権限の所在が不明」であることを理由にした解釈以外に、「要請を出せる機関が法律上存在しない」ことを理由として、そのことを持って「要請を待ついとまがない」と解釈することがあり得ると思います(DP号のときはどうなってたんでしょ?)。

「天変地異その他の災害」に感染症は含まれるのか

ここまで感染症対策が「天変地異その他の災害」に含まれるのかについて無視してきましたが、なぜかというとDP号の際にも当然視されたように、ここを問題視する者が皆無だからです。

鳥インフルエンザの際に前例がある

第159回国会 衆議院 安全保障委員会 第6号 平成16年3月30日

○前田委員 省略
 次に、鳥インフルエンザ、この対応に自衛隊が派遣されております。あわせて、自衛隊のNBCテロ対策、つまり、核・生物・化学兵器テロへの対応について伺いたいと思います。
 京都府船井郡の丹波町における鳥インフルエンザ、これに対して、今回は、自衛隊法八十三条に基づく災害派遣と 省略

感染症法上の二類感染症である鳥インフルエンザの際に災害派遣の前例があります。

ですが、やっぱりどう解釈しているのかは気になります。

自衛隊法上の「災害」と災害対策基本法上の「災害」概念

自衛隊法では「災害」の定義がありません。

参考までに「逐条概説自衛隊法」を読んでみましたが、災害対策基本法上の「災害」概念をベースにすると書いてありますが、その他の概念は排除されているのかの記述は見つかりません。

災害対策基本法上では「災害」は2条において「暴風、竜巻、豪雨、豪雪、洪水、崖崩れ、土石流、高潮、地震、津波、噴火、地滑りその他の異常な自然現象又は大規模な火事若しくは爆発その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する政令で定める原因により生ずる被害」と定義されています。

政令=災害対策基本法施行令1条では「放射性物質の大量の放出、多数の者の遭難を伴う船舶の沈没その他の大規模な事故」とされています。

どこにも「感染症」は含まれていません。

ただ、自衛隊法上で「感染症」を排除する解釈をするべき記述が見当たらないのも事実です。むしろ自衛隊法上に記述されている自衛隊の任務からは含まれる方向に解釈されるという理解が正当のような気がします。

防衛省の防災業務計画と感染症対策・検疫

防衛省・自衛隊:各種災害への対応について|防衛省・自衛隊の『ここが知りたい!』

この自主派遣をより実効性のあるものとするため、平成7年には防災業務計画を修正し、部隊等の長が自主派遣をする基準を定めました。

ということで防衛省防災業務計画 防 衛 省 3 0 . 6 . 2 9を見てみましたが、どこにも感染症対策・検疫に関する事柄が記述されていません。

そもそも防災業務計画が災害対策基本法等の法令の根拠があると冒頭に書いてあるのですが、そこに感染症対策関係の法令がありません。

実は自衛隊法上の「災害」概念は当初は感染症は含まれないと解釈されていたんじゃないでしょうか?それが災害派遣要請の権限を有している機関には検疫に関する権限が無い(ように見える)ことに繋がっているような気がします。

とまぁ、ここまで調べて、いったいどういう解釈で自衛隊法上の「災害」に感染症が含まれるとされているのかはわからずじまいでした。

まとめ

  1. 自衛隊が空港に検疫要員で派遣された根拠は自衛隊法83条2項但書と言われている
  2. 「要請を待ついとまがない」要件を満たしているのか問題になるところ、おそらくは要請の権限を有する機関に検疫に関する権限があるか不明であり協議する時間が無いか、或いはもともと権限が無いことから上記要件を満たすと解釈されるのではないか
  3. そもそも自衛隊法上の「災害」に「感染症」が含まれるのかが解釈上は問題になるところ、実務上は含まれているということになっており前例もある

というところなんじゃないかと思います。

自衛隊法83条の災害派遣要請ができる機関に漏れが出ないようにするのができなければ、ここで示したような解釈で対応していくしかないんだろうと思います。

以上