司法を知らない人を騙す情報工作
経産省トランスジェンダートイレ制限の継続
経産省トランスジェンダートイレ訴訟で国側が最高裁で敗訴した後も当該男性に対して女性トイレの使用の制限が継続していたという話。*1
9月24日の齋藤経済産業大臣閣議後記者会見で、その一端が明らかにされました。
齋藤経済産業大臣の閣議後記者会見の概要 (METI/経済産業省)2024年9月24日(火曜日)
トランスジェンダーの職員へのトイレ利用制限
Q:経済産業省がトランスジェンダーの女性の職員に対して、勤務階から2階以上離れた女性トイレを使わせたのは違法であるというふうに判断した昨年7月の最高裁判決から1年以上が過ぎました。現在もこのトイレ制限を続けているのかどうか、是正措置を取るお考えがあるのか、また、その理由について教えてください。A:まず、昨年7月の最高裁判決は、性同一性障害である職員の女性トイレ利用の要請について、職場女性職員の労務環境の観点から問題ないとした人事院の判定が妥当性を欠くという判決でございました。
現在、人事院がその判定の見直しについて検討を進めておりまして、その状況を踏まえつつ、人事院とも連携をして対応していかねばならない課題だと思っています。
加えまして、最高裁判決の補足意見の中には、職員に対する性的マイノリティに関する経済産業省の理解醸成活動が不十分であると、そういう指摘もいただいております。
この点を踏まえまして、経済産業省では、LGBTに関する幹部職員ですとか管理職への研修の実施や全職員へのオンライン研修、これも実施をするなど、LGBTに関する理解醸成活動を進めているところであります。
こうした理解醸成についての取組を継続しつつ、先ほど申し上げた人事院との関係を踏まえて、適切な対応をしていきたいと考えています。Q:追加で1点伺います。今、人事院が検討を進めているのでというお話があったんですけれども、経産省としては、人事院の再判定を待つことなく処遇を改善するおつもりはあるのかどうか、人事院の判定を受けた後で処遇を改善するおつもりはあるのかどうか、そこはいかがでしょうか。
A:これは、まず、本件では、トランスジェンダーについての各職員の理解を深めて、当該職員との共生を図っていくということが、本人にとっても周りの職員にとっても重要でありまして、こういう取組はもうやっているところであります。最高裁の判決でも、理解醸成のための努力への期待は述べられているということであります。
このような趣旨から、先ほど申し上げたように、昨年来、LGBTに関する研修などを継続して実施してきていますし、また、かねてより庁舎内のユニバーサルトイレの設置も進めておりまして、昨年には、全フロアでの設置を完了したところであります。
今後も、LGBTの理解増進に関する様々な取組を実施していきます。職員の理解を進めていく上で。ただ、現在、政府内において人事院が判定の見直しについて検討を進めているということでありますので、その検討状況を踏まえながら、人事院と連携をしながら対応していくということも大事かなと思っています。
本件について「司法の軽視」だとか即断している方々が多いですが、判断を留保すべき一般的事情があるということを指摘します。
取消訴訟の反復禁止効に抵触せず?女性職員反対やユニバーサルトイレ
経産省トランスジェンダートイレ訴訟は、国家公務員法86条の行政措置要求の判定を不服とした取消訴訟でした。*2
取消訴訟には反復禁止効があり(行政事件訴訟法33条)、同一事情・同一理由・同一手続による同一内容の処分の繰り返しは許されません。
しかし、取消判決の拘束力は、同一事情であっても、裁判所が判決理由中で認定判断したものとは別の理由や別の手続によれば、同一内容の処分をすることは妨げられていません。
「当該人物に職場近辺の女性トイレの使用を認めろ」という義務付け訴訟ではなかったわけで、この点がなぜか忘れ去られています。
最高裁は、反対の意思の表明が伺えなかった事情を考慮して判定を違法としました。
最高裁判所第三小法廷判決 令和5年7月11日 令和3(行ヒ)285
…本件説明会においては、上告人が本件執務階の女性トイレを使用することについて、担当職員から数名の女性職員が違和感を抱いているように見えたにとどまり、明確に異を唱える職員がいたことはうかがわれない。さらに、本件説明会から本件判定に至るまでの約4年10か月の間に、上告人による本件庁舎内の女性トイレの使用につき、特段の配慮をすべき他の職員が存在するか否かについての調査が改めて行われ、本件処遇の見直しが検討されたこともうかがわれない。
以上によれば、遅くとも本件判定時においては、上告人が本件庁舎内の女性トイレを自由に使用することについて、トラブルが生ずることは想定し難く、特段の配慮をすべき他の職員の存在が確認されてもいなかったのであり、上告人に対し、本件処遇による上記のような不利益を甘受させるだけの具体的な事情は見当たらなかったというべきである。
これらの事情が、判決後に存在したら?
経産省では「同一事情」ではなくなっている可能性が示唆されています。
それが齊藤経産大臣会見で出てきた「庁舎内のユニバーサルトイレの設置も進めておりまして、昨年には、全フロアでの設置を完了した」という事情です。もしも当該トランスジェンダー女性(性同一性障害の診断が出ているが健康上の理由から性別適合手術を受けていない戸籍上男性)の勤務する階の近くにこれが出来たということであれば、敢えて女性トイレの利用を要求する理由も無くなったと言える可能性が出てくる。
そして、仮に判決後に女性職員らから(当該)男性が女性トイレを利用することに対する反対の意思が表示された、という事情があったらどうでしょうか?
特に、女性職員が行政措置要求していたら?
そういう事情は報道には決して出てきませんが、事情の変化があったのか?について考慮するのが普通のことでしょう。
いずれにしても、トランスジェンダーによるトイレ利用に関しての理解増進は必要なので、経産省はそれを同時並行で行っているといった感じでしょうか。
朝日新聞等マスメディアや特定の法学者・活動家による議論誘導に注意
朝日新聞が経産大臣の会見前も含めて累次の記事*3*4を出し、日本学術会議任命拒否られ衆の岡田正則教授を行政法学者として登場させてますけど、上掲の取消訴訟の性質に触れずにモノを言ってるならば、「そういう目的」でしかないです。
司法判断の性質・効果を知らない人を騙す目的で、嘘ではない範囲で認識を誘導しようとするマスメディアの工作は枚挙にいとまがありませんが、本件もそのようなものとして注意すべき事案でしょう。SNS上の憲法学者などはテキトーな事を言ってるでしょうが、まともな行政法学者が何も言っていないのは、そういうことです。
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*1:訴訟前から既に管理権者たる経産省が、2階離れた女性トイレの利用を当該男性について認めていたが、職場近辺の同一階の女性トイレの利用を認めろ、という要望が出されていた。
*2:判決主文の1 は以下でした。
>人事院が平成27年5月29日付けでした国家公務員法(昭和22年法律第120号)第86条の規定に基づく原告による勤務条件に関する行政措置の各10 要求に対する平成25年第9号事案に係る判定のうち原告が女性トイレを使用するためには性同一性障害者である旨を女性職員に告知して理解を求める必要があるとの経済産業省当局による条件を撤廃し,原告に職場の女性トイレを自由に使用させることとの要求を認めないとした部分を取り消す。