事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

経済産業省が韓国側の記者説明に対する反論文掲載:法的根拠が不明確

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7月19日、経済産業省が韓国産業通商資源部による記者説明に対して反論しました。

その中で1点、分かりにくい所があるので、その意味を解説します。

経済産業省「本日の韓国産業通商資源部による記者説明について」

本日の韓国産業通商資源部による記者説明について (METI/経済産業省)

 3.韓国の輸出管理制度について
韓国側が通常兵器キャッチオール制度を導入していると主張していることについては承知していますが、韓国側のキャッチオール制度の根拠条文である対外貿易法19条と戦略物資輸出入告示50条は大量破壊兵器関連物品等を対象とすることが明記されており、法的根拠が不明確であると認識しています。

大量破壊兵器関連物品等を対象とすることが明記されており、法的根拠が不明確

この部分の意味を理解するには、日本の安全保障貿易管理制度と比較すると分かりやすいです。

日本の安全保障貿易管理について

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安全保障貿易管理について 令和元年5月 経済産業省 貿易管理部

  1. 国際輸出管理レジームは「大量破壊兵器関連」と「通常兵器関連」に大別される
  2. キャッチオール規制もそれに対応した分類
  3. 通常兵器関連はワッセナーアレンジメントの枠組み

ワッセナーアレンジメントの理解が、経産省のコメントを理解する上で重要です。

通常兵器・軍事転用可能な物品・技術を規制するワッセナー・アレンジメント

通常兵器及び関連汎用品・技術の輸出管理に関するワッセナー・アレンジメント | 外務省

The Wassenaar Arrangement on Export Controls for Conventional Arms and Dual-Use Goods and Technologies

"Conventional Arms" とは、「通常兵器」を意味します。

日本の輸出管理に関する法令では「大量破壊兵器等」や「通常兵器」という表現は出てきませんが、それらに包含される対象が規定されています。

規制対象となるものには大別して「貨物」と「技術」がありますが、今回問題になっているのは貨物の方なので、そちらは外為法輸出貿易管理令に規定があります。

外為法と輸出貿易管理令の規定

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外国為替及び外国貿易法

(輸出の許可等)
第四十八条 国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。

政令で定める」とは「輸出貿易管理令」の別表第一に規定されているものです。

輸出貿易管理令

内閣は、外国為替及び外国貿易管理法(昭和二十四年法律第二百二十八号)第二十六条、第四十八条、第四十九条、第六十七条、第六十九条及び附則第四項の規定に基き、並びに同法の規定を実施するため、この政令を制定する。
(輸出の許可)
第一条 外国為替及び外国貿易法(昭和二十四年法律第二百二十八号。以下「法」という。)第四十八条第一項に規定する政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出は、別表第一中欄に掲げる貨物の同表下欄に掲げる地域を仕向地とする輸出とする。
2 法第四十八条第一項の規定による許可を受けようとする者は、経済産業省令で定める手続に従い、当該許可の申請をしなければならない。

別表第一といっても、膨大な数がありますのでここで載せることはしません。

別表第一の十六項には「関税定率法の別表に定める貨物」とありますが、これが「16項貨物」としてキャッチオール規制の対象とされています。

さて、日本の規定を通覧した上で、その特徴を以下に述べます。

日本の規定は文言が包括的

日本のキャッチオール規制(貨物対象)の「規制根拠」は、外為法48条と輸出貿易管理令1条という事になります。

外為法の規定をもう一度振り返ると「国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるもの」を規制しています。

この表現ではいったい何を指しているのかまったく分かりません。

しかし、輸出貿易管理令や関税定率法の別表に具体的な品目が書かれており、これらが規制対象になるのだということがわかります。

つまり、日本の外為法の規定は「大量破壊兵器等」や「通常兵器等」という文言が書いているわけではないけれども、規制根拠法令の文言が包括的であり、そこに「大量破壊兵器等」も「通常兵器等」も含むことができるようになっており、それを省令や他の法律で具体化していると言えます。

包括的だからこそ「キャッチオール規制」の根拠条文であるということがすんなり理解できます。

これに対して韓国側はどうでしょうか?

韓国側の規定は文言が明確だが、対象が文言上限定的

対外貿易法 自動翻訳

第19条(戦略物資の通知および輸出許可等)

①産業通商資源部長官は、関係行政機関の長と協議して、大統領令で定める国際輸出管理体制(以下「国際輸出管理システム」という。)の原則に基づいて国際平和と安全の維持と国家安全保障のために輸出許可等の制限が必要な物品等(大統領令で定める技術を含む。以下この項において同じ。)を指定して告示しなければならない。 

②第1項の規定により指定及び告示された物品等(以下「戦略物資」という。)を輸出(第1項の規定による技術が次の各号のいずれかに該当する場合であって大統領令で定める場合を含む。以下第19条第3項から第5項まで、第20条、第23条、第24条、第24条の2、第24条の3、第25条、第28条、第29条、第31条、第47条から第49条まで、第53条第1項及び第53条第2項第2号から第4号までにおいて同じ。)しようとする者は、大統領令で定めるところにより、産業通商資源部長官や関係行政機関の長の許可(以下「輸出許可」という。)を受けなければならない。ただし、「防衛事業法」 第57条第2項に基づいて許可を受けた防衛産業の材料および国防科学技術が戦略物資に該当する場合には、この限りでない。
省略
③戦略物資に該当しないか、大量破壊兵器とその運搬手段であるミサイル(以下「大量破壊兵器等」という。)の製造・開発・使用または保管などの用途に転用される可能性が高い物品などを輸出しようとする者は、その物品等の輸入者やエンドユーザーがその物品等を大量破壊兵器などの製造・開発・使用または保管などの用途に転用する意図があることを知っていたか、その輸出が次の各号のいずれかに該当し、そのような意図があると疑われる場合は、大統領令で定めるところにより、産業通商資源部長官や関係行政機関の長の許可(以下「状況許可」という。)を受けなければならない。

大統領令というのが戦略物資輸出入告示です。 

韓国政府の法令データベースは法令の文言上にリンクが貼ってあって、関連の規定にすぐに飛べるようになっていて便利です。

戦略物資輸出入告示 自動翻訳

第50条(状況許可の対象) ①戦略物資に該当しないか、大量破壊兵器等の製造・開発・使用又は保管等の用途に転用される可能性が高い物品等(以下「大量破壊兵器関連物品等」という。)を別表6の"や"地域に輸出しようとする者は、当該物品等の購入者は、最終荷受人またはエンドユーザーがその物品等を大量破壊兵器等の製造・開発・使用又は保管等の用途に転用する意図があることを知っていたか、そのような意図が疑われる、次の各号のいずれかに該当する場合には、許可機関の長に状況許可を申請しなければならない。

別表6の「や地域」というのは、要するに日本で言うホワイト国相当の国ではない国と地域ということです。

戦略物資に該当しないが、大量破壊兵器等の製造等につながる物については一定の場合には許可が必要ですよ、と書いてることがわかります。

はい。「通常兵器等」はどこ行った?という話になるのです。

韓国側がキャッチオール規制の根拠規定とする規定は通常兵器等がどうなっているのか不明

つまり、「韓国側がキャッチオール制度の根拠条文としている規定は、大量破壊兵器等だけを対象にしているようだけど、通常兵器等はどうなってるんだ?これでは全然「オール」じゃないではないか」というのが経済産業省の指摘であるということです。

もちろん、実際上は韓国がキャッチオール規制を行っているのは確かだけれども「根拠条文が本当にこれでいいの?」という状況では、改正等があったときに不安ですよねと。

※追記:韓国側が「通常兵器の」キャッチオール制度を行っているのかに疑義がある

輸出企業としても、韓国の法令をチェックする際にどこを見ればいいの?と。

たしかにこれでは法的根拠が不明確ですね。

まとめ:韓国側の記者説明に対する英語反論文も

この件は英語による発信も段々と強化されてきているようです。

日本のメディアが日本に不利な認識を世界中に振り撒いているので、せめて政府だけでも発信を頑張ってもらいたいと思います。

以上