事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

経産省が当該性同一性障害男性職員=トランスジェンダー女性に省内の全女性トイレ使用認めた報道の整理とまとめ

いったい何を見てきたんだろうか?

経産省が当該性同一性障害の男性職員に省内の全女性トイレ使用認める

経産省 トランスジェンダーの職員に全女性用トイレ使用認める | NHK | ジェンダー

人事院がトイレの使用制限に関する再判定を行ったことを踏まえ、経済産業省は、これまでに職員に対し省内にあるすべての女性用トイレの使用を認めると伝えていたことがわかりました。

令和6年11月、経産省が【人事院の再判定を受けて】【当該】【性同一性障害の】男性職員に【省内の】全女性トイレの使用を認めると伝えていたとする報道がありました。

この事案の理解にまつわる世の中の言説や、この報道自体に様々なミスリーディングな部分があるので、逐一指摘していきます。

単なる「トランスジェンダー女性」ではなく、性同一性障害の診断あり

  • 当該人物は生物学的男性で、性同一性障害の診断を受けていた
  • ホルモン治療を受けるも健康上の理由で未手術、よって戸籍上も男性(判決時)
  • 性自認が女性であり(トランス女性)外見は女性に見える者として扱われていた

当該人物は報道では単に「トランスジェンダー女性」などと書かれていますが、まったく不十分な情報です。厳密には性同一性障害者であり、さらに外見は女性に見える者として職場で扱われていました
(人事院判定が行われた平成27年5月29日の時点で女性の服装で勤務開始してから4年10か月以上経過

そのような個別事案だというのは、LGBT活動家と本件の結論に拒否反応を示す人たちの双方が無視し、別々の思惑によって一般的に敷衍しようとして来ました。

「トランスジェンダー」という語の意味は活動家らによって曖昧なまま悪用されてきており、国連HP上の定義も今年変遷したばかりです。

「当該男性」の「経産省内」の女子トイレの利用を認めたに過ぎない

また、本件は「当該男性」の「経産省内」の女子トイレの利用を認めたに過ぎません。

経産省において、「当該男性」以外の職員に対して女子トイレの利用を一般的に認めたわけではありません。先述の通り、当該男性は性同一性障害者で、外見は女性に見える者として(現時点までに10年以上)職場で扱われていたという特殊事情がありますから、職場に相談も無く突如として女装して女子トイレを使わせろと言ってきても応じる義務はありません。

ましてや、不特定多数の人々の使用が想定されている公共施設・民間施設の使用の在り方について触れるものではありません。これは昨年の最高裁判決の際も誤解が生じていたところです。

経産省の措置は当該男性からの行政措置要求に対する人事院の再判定によるもの

また、令和6年=2024年の10月11月に経産省が当該男性の女子トイレ利用を認めたのは、男性による行政措置要求に対する人事院の再判定(最高裁では人事院の前の判定が問題となった)が行われたことによって生じたことです。

この話では、裁判所・司法制度の話ではありません。

「経産省が使用制限を継続していたのは司法の軽視」という行政法への無理解

また、今年の9月の時点では「未だに当該男性への女子トイレの使用制限が行われている」という報道が朝日新聞から為されており、それを受けた一部の人らが「司法の軽視!」というヒステリックな反応を見せていたことが観測されました。

しかし、前項で指摘した通り、俗に「経産省トランスジェンダー訴訟」と呼ばれる裁判は、当該男性による人事院に対する国家公務員法86条に基づく行政措置要求の判定を扱ったものでした。これは取消訴訟でした。

取消判決の拘束力は、同一事情であっても、裁判所が判決理由中で認定判断したものとは別の理由や別の手続によれば、同一内容の処分をすることは妨げられていません。

「当該人物に職場近辺の女性トイレの使用を認めろ」という義務付け訴訟ではなかったわけで、この点がなぜか忘れ去られています。

最高裁の判決主文は以下です。

原判決中、人事院がした判定のうちトイレの使用に係る部分の取消請求に関する部分を破棄し、同部分につき被上告人の控訴を棄却する。

違法とされた人事院の判定とは、当該男性が「職場の女性トイレを自由に使用させることを含め、原則として女性職員と同等の処遇を行うこと等を内容とする行政措置の要求」をしたところ、人事院は、平成27年5月29日付けで、いずれの要求も認められない旨の判定をしたのですが、このうち、トイレの使用に係る部分ということです。

まとめ:残された疑問⇒当該男性が女子トイレ使用をする必要性、女性職員らの拒絶意思の明示は?

残された疑問があります。

それは、当該男性が女子トイレ使用をする必要性は、どのように認定されたのか?という点。これは訴訟の判決文でも訴訟や今回の使用認容に関する報道でも、まったく明らかになっていませんでした。

次に、【女性に見える男性職員が男子トイレを使用することについての理解増進の研修】は行っていたのでしょうか?それではダメだったのだろうか?

また、経産省は昨年度の時点で全フロアにユニバーサルトイレを設置したとしていますが、今回の人事院ではこうした事情は考慮されなかったのか?

そして、女性職員らの拒絶意思は明示されていたんでしょうか?この点が不存在だったということが最高裁判決を決定づけているので、再判定に際しても考慮されたハズですが…

経産省トイレ訴訟の最高裁判決の論理展開にも疑問が残るものはありますが、その前にこうした事実問題が横たわっている事案だということは意識されるべきだと思います。

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