事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

玉城デニー(沖縄県側)は地方自治法と県民投票条例違反だが

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沖縄県の辺野古移設の是非を問う県民投票について5市が事務の執行拒否をしてる件。

私は【沖縄県側は県民投票条例の制定や執行に際して地方自治法や県民投票条例違反の違法があるが、それは市町村側の県民投票事務の執行拒否を法的に正当化するものではないだろう】という見解です。

その点についての理由をまとめます。

市町村側の執行拒否の裁量の有無については以下参照

4つの問題

  1. 県民投票条例の制定に際する県側の違法によって条例が無効となるか?
  2. 県民投票の執行に際する県側の違法が市側の義務免除の効果を生むか?
  3. 市町村側が県民投票事務の執行拒否をすることは違法か?
  4. 市町村側の県民投票事務の執行拒否が憲法違反か?

これらは互いに関係しないことは無いですが、一応は別々の問題だと思います。

まずは1番目の問題ですが、これは地方自治法252条の17の2第二項の「協議」を県側が怠っているという違法事実についてです。

地方自治法252条の17の2第二項の「協議」

既に上記記事で言及してますが、条例制定に先立って要求されている「協議」は「同意は不要」だが「誠実に協議することが必要」と解されています。

玉城デニー知事は「9月5日に協議した」としか言ってませんので、これが41市町村に対して面会や数度の書面のやりとりではないことは明らかです。よって、「誠実に協議」してないことは明白でしょう。

したがって県側には条例制定に際して地方自治法違反があったということになります。

地方自治法違反があっても条例は無効にならない

しかし、私は県民投票条例制定に際して「協議」を欠いていたとしても、それは条例の無効や市町村の事務執行義務の不発生の効果まで導くものではないと思っています。

それは「協議」が必要とされる趣旨から考えています。

新版 逐条地方自治法 第9次改訂版 [ 松本 英昭 ]

1355頁
八 第二項は、事務処理の特例を定める「条例」を制定し又は改廃する場合においては、あらかじめ市町村の長に協議することを都道府県知事に、義務付ける規定であり、ー省略ー
この場合、都道府県知事は事務を処理することとなる市町村の長と誠実に協議をする必要はあるが、「協議」は、市町村長の同意までを必要としない。これは、条例による事務処理の特例の制度が、住民の身近な事務は地域の実情に即し、市町村の規模能力等に応じて、基礎的な地方公共団体である市町村に対して、可能な限り多く配分されることが望ましいとの考え方に立って設けられたものであり、個々の恣意等によりこの制度の実行が決定的に左右されることとなることは必ずしも適切ではないと考えられることによるものである。

簡単に言えば「住民の身近な事務は市町村に権限移譲するのが合理的だが、キャパシティオーバーになったり政局判断で執行拒否されたら結局無意味なんでそうならないように協議しろ」ということを言っているのだと私は理解しています。

権限移譲について例えば机上で考えると以下のような場合があり得ると思います。

  1. そもそも市町村のマターとして不適切
  2. 時期的に忙しくてマンパワーが足りない
  3. 市町村の予算では不可能

このような問題がある県の条例が、わざわざ県議会を通して制定されるというのは何ともバカバカしいでしょう。だから協議しろ、という理屈は、一般的な感覚からも正当だと思います。

では、今回の沖縄県の県民投票条例の場合はどうでしょうか?

予算は県が確保してる

重要なことは、今回の沖縄の県民投票事務の予算は市町村が「捻出」するようなものではなく、県の予算で行われるということです。それを会計上、配分先の市のものとして扱う決定が必要なだけの話です。

したがって、予算的に不可能であるという理由は成り立ちません。

また、予算が出されても時期的にマンパワーが足りなかったり質的に適任者が不在だったりして執行不可能になる場合も観念できますが、今回の市町村側からはそのような主張はなされていません。客観的に見ても投票事務程度の負担で市町村の機能に支障が出るなどという事態にはならないと言えます。

県民投票事務は市町村が行った方が理に適っているので、市町村のマターではないとは言えません。

政局判断での執行拒否は見解が対立している場合にはどうしようもないので、市町村側に裁量があるか否かの話になります。

したがって、『条例制定前に「協議」が求められている趣旨』に反する事態が発生するということは、今回の場合は想定できないのです。

以上より、「協議」がなかったという地方自治法上の違法があったとしても、それは県民投票条例の成立を無効化するまでの重大な違法であるとは、決して言えないと思うのです。

条例執行に際しての違法と市の違法と憲法違反

玉城知事は辺野古移設反対派の元へ行って投票の意義を述べるなど、県民投票条例11条の中立義務に反した行動をしています。

しかし、条例には罰則が設けられていませんし、この違法によって市町村の県民投票事務の執行拒否を正当化する効果が直ちに発生するということは厳しいのではないかと思います。

ただ、市町村側の主張としてはとても理解できるものではあります。

まとめ:知事の中立義務等の違反が争点か

知事・県側の違法事実がこれ以上あるとすれば、かなり状況は変わってくるでしょう。

今のところは、執行拒否を正当化するには「弱い」と思わざるを得ません。

なお、市の執行拒否の違法が住民からの請求で憲法違反に問われることを直ちに導くものであるかはよくわかりません。請求としては別々に考えることもあり得るので、4つの問題があると一応は整理できるのではないでしょうか。

以上