事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

丸山ほだか議員の「戦争発言」は憲法尊重擁護義務違反なのか

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丸山ほだか議員の「戦争発言」は憲法尊重擁護義務に反すると主張する者が居ます。

それはおかしいですよね、という話。 

憲法99条の憲法尊重擁護義務の意味とは

主に共産党系の人間が99条についていいかげんなことを口走っているので、正しく理解していきましょう。

憲法尊重擁護義務の法的性質

憲法尊重擁護義務は法的義務ではなく、道徳的倫理的な義務と解されています。*1

この義務違反の効果は政治の場でその責任が追及されるにとどまり、それだけで何らかの裁判が行われることにはなりません。

地裁判決ですが99条の法的性質についての先例とされるものは以下判示しています。

東京地裁昭和33年7月31日 昭和31年(行)第73号 

日本国憲法第九十九条は公務員に対して憲法を尊重し擁護する義務を負うと規定し、又地方自治法第百三十八条の二は地方公共団体の執行機関は自らの判断と責任においてその事務を誠実に管理し及び執行する義務を負う旨規定しているが、前者は公務員が公務に従事する際における心構を宣言したものにすぎず後者もまた右憲法の規定と同じく普通地方公共団体の執行機関が事務を処理するには自主的にこれを為すべきで、他の執行機関や政治勢力に動かされることのないよう注意すべきことを宣言したものであつて、これらにいう義務とは何れも法律的義務というよりはむしろ道徳的要請を規定したものと解すべきである

憲法尊重擁護義務の内容

クーデター等、憲法の非合法的変革を企てることはこの義務に反すると言われます。

ただし、国務大臣等が憲法改正を主張することはこの義務に原則として反しません。

参考:安倍晋三の改憲議論が憲法違反という主張に対する完全撃退マニュアル

「原則」というのは憲法改正に限界があるか無限界かという憲法学の解釈が絡みます。

憲法改正限界説と無限界説

無限界説はその名の通り、どういう内容の改正でも良いという意味です。

対して限界説は、憲法の定める基本原理は改正することは許されないという立場です。

ここでいうところの基本原理が何なのかは論者によってばらつきがありますが、国民主権・基本的人権の尊重・平和主義がそうであると言われることが通説です。また、それぞれの中身についてもバリエーションがあり得ます。

私も、たとえば「この憲法を改正することは許されない」という条文が改正によって作られようとしているのなら、それは改正の限界を超えるものとして無効であると主張したいです。よって、少なくとも無限界説ではないと言えるでしょう。さらに、天皇の規定を削除することも現時点では改正限界であるという立場を私は採ります。超限定限界説とでも言っておきます。

憲法尊重擁護義務の趣旨「たたかう民主政の放棄」と権限濫用の抑制

憲法99条に「国民」が書いていないのは、国民が憲法を守ることは当たり前だからということ以上に、「自由の敵には自由を与えるべきではない」という「たたかう民主政」の考え方を否定したものであると解されています。*2

ドイツ・イタリアなどは、自由な民主的基本秩序に反する政党や結社を違憲として禁圧することを認めています。これは国民の活動を国家の側が判断することになり、国家の行為を縛るのが主要要素である近代立憲主義の要素を薄めるものです。

しかし、日本国憲法はそうではなかった。「自由の敵にも自由を認める」ことで国民の権利が不当に侵害される可能性を無くそうという思想の現れであると解釈されています。

また、99条に公務員等が規定されているのは、実質的判断権限を認められている者が、その権限を行使することで国民の権利利益や現行法秩序を侵害しないことを求めている、という側面があると言えます。
(先述の東京地裁判決も「公務に従事する際における」と言っている)

その観点からは、「権限内」の物事については単なる発言等であっても99条違反になるといえますが、「権限外」の場合には単なる発言だけでは国民の権利利益や現行法秩序の侵害の可能性は無いのですから、それは立法論と捉えることになり、99条違反と言うためにはより重要な意味合いや具体的な行為を要するではないでしょうか?

丸山穂高議員の「戦争発言」は憲法尊重擁護義務違反なのか

それでは、丸山議員の行為はどういう立場においてなされたのか。

丸山ほだか議員の「戦争発言」と自民党の譴責決議案

議員丸山穂高君譴責(けんせき)決議(案)

 去る五月十一日の国後島訪問中の議員丸山穂高君の平和主義に反する発言は、我が国の国益を大きく損ない、本院の権威と品位を失墜させるもので、到底看過できないものである。

 よって本院は、ここに丸山君を譴責し、猛省を促すものである。

 右決議する。

<理由>

 衆議院議員丸山穂高君は、四島在住ロシア人と日本国民との相互理解の増進を図り、もって領土問題の解決を含む平和条約締結問題の解決に寄与することを目的とする「令和元年度第一回北方四島交流訪問事業」、いわゆるビザなし交流事業に参加し、国後島を訪問した際、五月十一日夜に、ホームビジット先のロシア人島民宅及び宿舎である「友好の家」において飲酒した結果泥酔し、宿舎内で大声を出し他団員と口論をする等の迷惑行為を行い、同行記者団と懇談中の元島民の訪問団長に対し、「戦争でこの島を取り返すのは賛成ですか、反対ですか」「戦争しないとどうしようもなくないですか」などの信じ難い暴言を吐いたと報道され、本人も事実関係を認めている。かかる常軌を逸した言動は、元島民の方々のお気持ちを傷つけただけでなく、特に、憲法の平和主義をおよそ理解していない戦争発言は、国民の悲願である北方領土返還に向けた交渉に多大な影響を及ぼし、我が国の国益を大きく損なうものと言わざるを得ない。

 本件事業は、内閣府交付金に基づく補助金を受けた北方四島交流北海道推進委員会の費用負担により実施されているものであり、本院から公式に派遣したものではないにせよ、丸山君は、沖縄及び北方問題特別委員会の委員であるが故に、優先的に参加することができたものであり、他の団員からは、本院を代表して参加したものと受け止められており、また、その後の報道により、我が国憲法の基本的原則である平和主義の認識を欠く議員の存在を国内外に知らしめ、衝撃を与えた事実は否めず、本院の権威と品位を著しく貶(おとし)める結果となったと断じざるを得ない。

 丸山君の発言は、極めて不穏当なものであり、擁護する余地は全くないものであるが、他方で、議員の身分に関わることは慎重に取り扱う必要があり、憲法上、本院が議員の身分を失わせることができるのは、懲罰による除名及び資格争訟裁判の場合に限られ、いずれも出席議員の三分の二以上の賛成を必要としているのに対し、議員辞職勧告決議は出席議員の過半数の賛成により議決されるもので、理論上は多数会派の意思で議決できるものであり、その観点からも慎重に取り扱われてきた経緯があり、これまで、明白かつ重大な違法行為に当たる場合にのみ議員辞職勧告決議を行ってきており、問題発言を理由に議員辞職勧告決議を行ったことはない。また、除名を含む懲罰は、憲法上、院内の秩序をみだした場合に限られており、本院からの公式派遣でもない本件は直ちには懲罰事案には該当しない。そうであるからと言って、議員の発言が自由に保障されている訳ではなく、仮に、院内での発言であれば、院外で責任を問われないという免責特権が与えられている代わりに、不穏当発言の場合は議院において懲罰を課すことはあり得るものであり、実際に、不穏当発言で懲罰を課せられた事例もある。もとより、丸山君の発言は、明らかに一線を越えたものであり、懲罰の対象とならないからと言って、決して許されるものではない。

 議員の出処進退は自ら決すべきことが基本であり、議員辞職するか否かは、最終的には自ら判断することではあるが、丸山君には、有権者の負託を受け、全国民の代表として議員となっている重みを十分に自覚し、常に、言動をよくわきまえ、適切な判断を下すよう、猛省を促したい。

 以上が、本決議案を提出する理由である。

 議員丸山穂高君の議員辞職勧告に関する決議案(第一九八回国会、決議第二号)

本院は、議員丸山穂高君の議員辞職を勧告する。
  右決議する。

     理 由
 衆議院議員丸山穂高君は、四島在住ロシア人と日本国民の相互理解の増進を目的とした、「平成三十一年度北方四島交流訪問事業」、いわゆるビザなし交流に参加した途上で、元島民の方に対し、「戦争でこの島を取り返すことに賛成か」、「戦争しないとどうしようもなくないか」などと信じ難い暴言を吐いた。元島民の方々のお気持ちを傷つけただけでなく、国民の悲願である北方領土返還に向けた交渉の阻害要因ともなる、言語道断の言動であると断ぜざるを得ない。我が国の国是である平和主義に反し、更には、事態は国際問題にも発展しかねない可能性もあり、我が国の国益を大きく損ねる暴言であることも指摘せざるを得ない。
 また、今回の件は一議員の言動としても決して許されないだけでなく、丸山君が、沖縄及び北方問題に関する特別委員会委員として、衆議院、参議院から推薦されるメンバーとして、いわば国会議員を代表する形で、公費で北方四島交流訪問事業に参加した中でなされた言動である。この論外の言動が、国会全体の権威と品位を著しく汚したという事実は拭い難い。
 丸山君は、その所属政党からも一刻も早い議員辞職を求められたにもかかわらず、未だにその職に留まる意思を示しており、事の重大さを全く理解していないと言わざるを得ない。丸山君はこの事態を重く受け止め、直ちに議員の職を辞するべきであると勧告する。
 以上が、本決議案を提出する理由である。

本院から公式に派遣したものではない」という所が重要かと思います。

衆議院規則に「委員の派遣は議長の承認や議院の議決を要する」旨があるので、それによらない方法だったのか、我が国国民の北方領土への訪問の手続き等に関する件(平成10年4月30日 総務庁・外務省告示第1号 ) に基づく派遣だから、ということなのかもしれません。

丸山ほだか議員は国会や議院の代表ではない

丸山議員の発言は国会や衆議院の意思を代表しているわけではありません。

先述のように、外形的には代表しているかのように見えても、代表としての権限を有していたわけではありません。

よって、丸山議員の発言は、一国会議員としてのものでしかありません。

野党の一国会議員である彼の権限内に「戦争を積極的に遂行する」というものは有りえませんから、単なる言動が憲法尊重擁護義務違反であるとは言えないでしょう。

「戦争をする」ではなく「戦争をするのはどうか?」という問いかけ?

また、丸山議員は「戦争をするべきだ」という意思を表明したのではなく、「戦争をするという手段についてどう思うか?」という問いかけをしただけであるという見方も可能です。

そして「戦争をするべきだ」と言っていたとしても、それは立法論として理解すればいいでしょう。なにも現行憲法下においていきなり戦争をしかけると言っているとは到底思えませんからね。

「憲法尊重擁護義務に配慮すべき」は間違いではない

「言論に対する責任があって初めて自由が行使できる。」丸山議員発言に原口国対委員長が苦言 - 国民民主党

原口一博国対委員長らは16日、定例記者会見を国会内で開いた。原口国対委員長は、丸山穂高衆院議員が北方領土返還に関連して戦争に言及した問題について、「国際問題になっている。できるだけ早く決着をつけなければならない。院として選んで派遣した人である。院としてのけじめが求められる」との見解を示した。また、同議員が「言論の自由を奪うものだ」などと発言している点については、「言論に対する責任があって初めて自由が行使できる。特に私たち国会議員は、憲法の尊重擁護義務が課されているので、それについてもはき違えないで」と猛省を求めた。 

これらは慎重にも「憲法尊重擁護義務に反している」 とは明言していません

憲法尊重擁護義務に配慮すべき」 「言論の自由を主張する前に憲法尊重擁護義務に思いを致せ」のような趣旨の発言です。

このようなニュアンスであれば、間違いではないでしょう。

私も、丸山議員が言論の自由を持ち出して被害者面するのは筋違いだと思います。

その他参考:丸山穂高の失言を考える。 - ずいこんの政治・ニュースブログ

志位和夫「国連憲章に違反し」???

魚拓:http://archive.is/1ZXQi

珍説が出ていました。

丸山議員の発言が国連憲章のいかなる条文に違反していると言うのでしょうか?

国連憲章は以下規定します。

国連憲章テキスト | 国連広報センター

第2条 -省略ー

3 すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決しなければならない。
4 すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。

第39条 安全保障理事会は、平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在を決定し、並びに、国際の平和及び安全を維持し又は回復するために、勧告をし、又は第41条及び第42条に従っていかなる措置をとるかを決定する。

国連憲章は戦争行為を禁止していません。慎めと言ってるだけです。

ただ、それは望ましくない事態なので、戦争が起こった場合にはそれを止めるための国連決議、非軍事的措置、国連指揮下での軍事的措置という手段を講じることが予定されているというだけの話です。

国連憲章が、戦争を行ったことそれ自体に対してペナルティを課す根拠になっているという理解は、完全に誤りです。国連憲章ができてから何回戦争が起こったと思ってるんでしょうか?

そもそも国連憲章の名宛人は国家(加盟国)なので、丸山議員の発言に対して持ち出していいものではありません。

「いや、国連憲章の精神に反しているのがダメなんだ」とか言ってきそうですが、国連憲章そのものとその精神ではまったく違うものなので最初から言いなさい、というのと、「国会議員個人が国連憲章の精神に反し得る内容を発言したとしても何か問題でも?」と思います。そんなもの国益の観点から妥当性を評価すればよろしい。

まとめ:丸山ほだか議員は憲法尊重擁護義務に反しないが

憲法99条にまつわる現実は、「改憲してはいけない」と言う者が金科玉条のように持ち出して、何か大層な根拠があるかのように見せかける道具にしかなっていません

そういう者に利用される事が無いよう、国会議員等は憲法尊重擁護義務を念頭に発言に注意してほしいと思います。

以上

*1:注釈日本国憲法下巻

*2:注釈日本国憲法下巻