「内閣による検察人事介入は三権分立の破壊」論の行き着く先は袋小路だった。
国家公務員法改正に伴う検察庁法改正
国家公務員法改正に伴う検察庁法改正を三権分立の観点から論難する話が話題ですが、これは今年の3月13日に【国家公務員法等の一部を改正する法律案】として国会提出された定年規定の改定等を定めた、複数の法律案に対するものです。
勘違いしてる人が居ますが、この動きは先般の黒川検事長の勤務延長の解釈変更の話とは別に、10年ほど前から議論されていた国家公務員の定年の変更に関する議論の帰結ですからね。施行日も令和4年4月1日ですから、黒川検事長の定年は変わりません。
⑥なお65歳への定年引き上げは2008年に検討が始まり、肯定的な意見が2011年には人事院から出ています。大がかりな変更になるので関係官庁の議論がまとまったのが2018年で、法案が国会に出たのが2020年3月。特定の問題とは無関係に進んでいた話だということは確認しておく必要があるでしょう。
— Takehiro OHYA (@takehiroohya) 2020年5月10日
検察官は行政権(司法権は裁判所のみ)
第六章 司法
第七十六条 すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
憲法上、司法権の所在は裁判所にのみ属すると明記されています。
他方、検察庁は行政権に属する行政機関です。
よって、まずは「検察人事に官邸が介入できるようになる今般の検察庁法改正は、司法権への不当な介入を許してしまうため、三権分立の破壊である」論に対しては「検察官は内閣と同じ行政権に属するので、三権分立はまったく無関係だ」と言う者が出ています。
※「検察庁は行政権」について。憲法65条で「行政権は、内閣に属する」とあり、国家行政組織法は1条で「内閣の統轄の下における行政機関で内閣府以外のものの組織の基準を定め」、3条2項で「行政組織のため置かれる国の行政機関は、省…」とし、法務省設置法4条 7号で所掌事務を「検察に関すること」と規定し、同法14条で「別に法律で定めるところにより法務省に置かれる特別の機関で本省に置かれるものは、検察庁とする。」「検察庁については、検察庁法(これに基づく命令を含む。)の定めるところによる」とあることから検察組織は行政権に属することになります。
※その上で検察庁法15条「検事総長、次長検事及び各検事長は一級とし、その任免は、内閣が行い、天皇が、これを認証する。」とあり、それ以外の普通の検察官は16条で「検事長、検事及び副検事の職は、法務大臣が、これを補する。」とあります。
検察は準司法機関
ところが、検察は行政権に属してはいるものの、その性格は準司法機関と言われます。
そのため、三権分立の話にもっていこうとする者が出てくるというのはある程度理解できます。それは、検察が刑事司法制度に組み込まれており、特に公訴については、国家訴追主義、起訴独占主義、そして起訴便宜主義が採用されていることから、司法機関に準じた独立性が求められているからです。
ですから、「検察は行政権だから三権分立はまったく無関係だ」などという論も、間違いだと言うつもりは無いですが、しかし一面的に過ぎるだろうと私は思います。
他方、憲法77条2項では「検察官は、最高裁判所の定める規則に従はなければならない。」とありますが、検察庁の組織や検察官の身分がなにか最高裁判所規則で基礎づけられているということではなく、検察官は最高裁判所の定める各種の訴訟規則(刑事訴訟規則や民事訴訟規則など)に従うべきであるという意味でしかありません。
(民事・家事事件においてもたとえば後見人制度や不在者の財産管理、婚姻・離婚や親子関係の争いにおける行為主体として検察官が組み込まれている)
参考:最高裁判所規則及び最高裁判所規程の一覧(平成31年3月現在).pdf
なお、「検察が起訴したら99%以上が有罪」という実態から三権分立論に言うところの司法側であると構成する見方が一部であるようです。
#検察庁法改正案に抗議します
— 郷原信郎【「深層」カルロス・ゴーンとの対話 起訴されれば99%超が有罪となる国で】 (@nobuogohara) 2020年5月9日
①安倍内閣が、違法な検事長定年延長を撤回せず、検察庁法改正まで行って検察を支配することと「三権分立」との関係について説明します。検察も行政機関であり、内閣と検察の関係は、形式上は「三権分立」の問題ではありません。しかし、日本では、検察は、公訴権を独占。
刑事事件を起訴する権限を有するのは検察だけ(検審強制起訴は例外)。検察は、犯罪を認めても不起訴(起訴猶予)にできるし、検察が起訴したら99%超が有罪。つまり、検察は行政機関ですが、事実上司法判断を支配しています。安倍政権は、検察を支配することで、刑事司法を支配できるのです https://t.co/sULfLeht47
— 郷原信郎【「深層」カルロス・ゴーンとの対話 起訴されれば99%超が有罪となる国で】 (@nobuogohara) 2020年5月9日
検察人事介入は三権分立の破壊なのか?
さて、私としては「検察人事への介入が三権分立の破壊」論については、イマイチピンときません。
まず、上手く「政権による検察官人事は司法権への干渉だ」などと言えたとして、司法権に干渉することがすべて悪いことなのか?という三権分立の核心に迫る問題があるからです。
上記の図は一般的な三権分立の説明をする図として衆議院HPから持ってきたものです。
三権分立の根幹は「権力を分散してお互いを監視することで暴走を防ぐ」です。
行政と司法の間に「(内閣による)最高裁判所長官の指名」とありますが、これは内閣が司法権の人事権を一部握っていることで【行政権による司法権への牽制】という、三権分立が目指した機能の一翼を担っている事の説明として叙述されるものです。
で、「検察が司法権」だと言うのならば、内閣による検察官人事はこのような「行政権による司法権への牽制」であると言わないのだろうか?
これは憲法第6条2項の「天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する」に基づいてるので、動かせない憲法上の要請なんだが。
— Nathan(ねーさん) (@Nathankirinoha) 2020年5月10日
あれれー?おっかしぃーゾー?
「憲法改正」になるから黙ってるのかな?
「検察庁法改正は三権分立の破壊」論者は憲法第6条2項を「三権分立の破壊」と言わないのはなぜなんでしょうか(笑)
ということで、「検察官人事介入は三権分立の破壊」論者は、ここで「詰み」なわけです。まさか憲法改正を言い出すのではあるまいな?
公正性や独立性の話として論じれば良いのでは?
私は基本的に、これまでの冤罪事件やら検察官僚のあの態度やら見てて、「検察は絶対的な正義だ」なんてこれっぽっちも信用してないから。だから政権の干渉を一切寄せ付けず、検察庁内部で人事のすべてを決める、なんてほうが危険に思える。陸山会事件なんかで旧民主党の人らも実感したと思うけどね。
— 藤様は告られたい (@fuj_sato) 2020年5月10日
国家公務員法改正に伴う検察庁法改正を三権分立の観点から論難しようとしても、現行の検察庁法で内閣に1級検事の任命権を認めてることはそのまま放置されてるので、論じる意味があるのかと思うと、イマイチピンと来ません。
ざっくりと「公正性」や「独立性」の話=政権が捜査・起訴権限を持つ機関の人事への介入の度合いが強まる制度にすることの問題、として論じてくれた方が、ノイズが少なくて済むんじゃないだろうか?と思うのです。
ま、それでも一筋縄ではいきませんが。
繰り返しますが、先般の安倍政権による黒川検事長の勤務延長に関する検察庁法の解釈変更のドタバタについて論難するのは結構ですが、今般の定年制度の変更とは無関係です。
※追記:安倍内閣が混同されるような経緯で動いていた責任はあるし、以下で指摘されているように、改正検察庁法が「特例」について内閣に白紙委任していることなどはダイレクトに問題視されてしかるべきだと思います。
いったい検察庁法改正案の何に抗議しているのか|徐東輝(とんふぃ)|note
以上