事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

岸防衛大臣「AERAと毎日新聞の不正の手段でのワクチン接種予約は極めて悪質」と抗議

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神奈川県警なら逮捕。

岸防衛大臣「AERAと毎日新聞の不正の手段でのワクチン接種予約は極めて悪質」

岸防衛大臣は、AERAと毎日新聞が不正の手段でワクチン接種予約をした件について、「極めて悪質」と指摘、抗議しました。

AERAと毎日新聞の行為とは、架空の番号でワクチン接種予約ができてしまうシステムであることを確認したものです。その上で、両媒体は記事を書いて発信していました。

AERA記事魚拓 毎日新聞記事魚拓

※アエラ⇒「(編集部で取った予約は現時点でキャンセルしている)」。毎日新聞⇒「記者が試した予約はすでにキャンセルした。」とあるが、即時にキャンセルしたのか気になります。

接種予約システムの不備は「真摯に受け止め」

岸防衛大臣は、今回の接種予約システムの不備は真摯に受け止めるとしています。 

では、今回の行為は何か犯罪になるのでしょうか?

不正アクセス禁止法と刑法

さて、AERAと毎日新聞の行為は不正アクセス禁止法と刑法に違反するのでしょうか?

不正アクセス行為の禁止等に関する法律

4 この法律において「不正アクセス行為」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。
一 アクセス制御機能を有する特定電子計算機に電気通信回線を通じて当該アクセス制御機能に係る他人の識別符号を入力して当該特定電子計算機を作動させ、当該アクセス制御機能により制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為(当該アクセス制御機能を付加したアクセス管理者がするもの及び当該アクセス管理者又は当該識別符号に係る利用権者の承諾を得てするものを除く。)
二 アクセス制御機能を有する特定電子計算機に電気通信回線を通じて当該アクセス制御機能による特定利用の制限を免れることができる情報(識別符号であるものを除く。)又は指令を入力して当該特定電子計算機を作動させ、その制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為(当該アクセス制御機能を付加したアクセス管理者がするもの及び当該アクセス管理者の承諾を得てするものを除く。次号において同じ。)
三 電気通信回線を介して接続された他の特定電子計算機が有するアクセス制御機能によりその特定利用を制限されている特定電子計算機に電気通信回線を通じてその制限を免れることができる情報又は指令を入力して当該特定電子計算機を作動させ、その制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為
(不正アクセス行為の禁止)
第三条 何人も、不正アクセス行為をしてはならない。

不正アクセス禁止法における「制限を免れることができる情報」を入力して「制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為」をしたという文言には該当しているように見えます。

※しかし、どの番号でも予約できる仕組みだったことからはそもそも「制限」など無かったと評価される可能性があるのでは?という疑問も。

刑法

(電磁的記録不正作出及び供用)
第百六十一条の二 人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪が公務所又は公務員により作られるべき電磁的記録に係るときは、十年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
3 不正に作られた権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を、第一項の目的で、人の事務処理の用に供した者は、その電磁的記録を不正に作った者と同一の刑に処する。

第二百三十三条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

(電子計算機損壊等業務妨害)
第二百三十四条の二 人の業務に使用する電子計算機若しくはその用に供する電磁的記録を損壊し、若しくは人の業務に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え、又はその他の方法により、電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせて、人の業務を妨害した者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

刑法161条の2の電磁的記録不正作出及び供用の罪は、「権利義務又は事実証明に関する」電磁的記録に関するものです。ワクチン予約がこれに当たることは無いので不成立。

刑法234条の2の電子計算機に虚偽情報を与えたことになるか。これは233条の業務妨害罪の特別規定として設けられたものですが、ワクチン予約をしてキャンセルした行為が233条の「業務を妨害」になるかも含めて良く分かりません。もしかしたら、その後の「記事の公表」行為も含めて判断されるかもしれません。

なお、偽計による公務の妨害について、「強制力を行使する権力的公務」ではないから234条に言う「業務」であるとする最高裁判例があるところ、そうではない公的機関の事務に対する偽計は成立するのかという論点には立ち入らない。

捜査機関と裁判所次第

結局のところ、どう判断されるかは捜査機関と裁判所次第だなぁと思います。

なお、架空の番号でのアクセスは多数行われているところ、他の媒体でも同様の行為をしていることが予想されるが、岸防衛大臣が記事を書いたアエラと毎日新聞だけを名指ししているので、もしかしたら記事配信行為をもって問題視している可能性があります。

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