現実を先に進める時。
- 皇位継承に関する国会全体会議4月17日議事録
- 養子による皇籍復帰の対象は11宮家に限定するのか?
- 法制度は特例法?時限立法?恒久化?世代数限定?
- 旧皇室典範増補・皇族身位令・皇族ノ降下ニ関スル施行準則
- 皇族の養子となる時期は一定の年齢以上or以下の者に限定?
- その他の確認項目:養親は誰になるのか?皇室会議の議を経るべきか?
皇位継承に関する国会全体会議4月17日議事録
皇位継承に関する国会全体会議の4月17日議事録が公開されました。
ここでの議論はこれまでの議事から一歩進んで各者が踏み込んだ意見を述べるようになっており、そのために今後、議論されるであろう論点が明確になったと言えます。その最重要な概念認識については上掲記事で整理した通りです。
本稿では今後の制度化にあたって検討が必要な事項のすべてを網羅することはできませんが、養子による皇籍復帰に関して、この日の議論において顕在化した論点を整理します。
概ね、以下の3つの点について決めるべきところまで来ています。
- 養子による皇籍復帰の対象は、「皇統に属する男系男子」の中で、さらに旧11宮家に制限するのか否か
- 皇室典範本則の改正なのか、特例法なのか。時限立法or恒久化なのか世代限定なのか
- 養子となる時期、つまりは一定の年齢以上の者に限定するのか
養子による皇籍復帰の対象は11宮家に限定するのか?
養子による皇籍復帰の対象は、「皇統に属する男系男子」の中で、さらに旧11宮家に制限するのか否か。
この問題意識は「明治以降に華族に降下した皇胤(男系男子)」*1や、「皇別摂家」*2をも含めて考えるのか?という従前の議論があり、さらに「養子制度は、法律で養子の範囲を適切に定める限り、憲法14条との関係において問題は生じない」とする令和5年の内閣法制局の立場の存在から来るものです。
この点に関して、制度上は「皇統に属する男系男子」、つまりは天皇の男系の血筋にある男子であるというだけで養子となった際の皇籍復帰を認めることとするべきだが、実際上は旧皇族から認めることとなるのが望ましく、そのような建付けにすべき、という意見もありました。
他方で、血縁関係を詐称・捏造してまで「我こそは●●の落胤である」と名乗り出る者が出現し、媒体にしゃしゃり出て混乱を生む危険をどうするのか。既に、皇室の血筋を名乗った者による詐欺事件が大々的に行われていたことを我々は見てきた。*3*4
ただし、後述するように、その時の皇室の構成に応じて柔軟に対応できるようにするべき、という観点は歴史上も議論されたことであり、必要なように思われます。
ではどのように規定すべきか?という点は悩ましいですが、旧11宮家に限定する場合であっても、それは「旧11宮家以外は形式・実質において一切認められない」という趣旨ではなく、「現状では旧11宮家を対象とすることが現行憲法下でも皇族であった者とその子孫であることからして法解釈上の懸念も一切生じないため安全であり、菊栄親睦会の皇室との関係など国民の理解も得られやすい」という趣旨で規定すべきではないでしょうか。
法制度は特例法?時限立法?恒久化?世代数限定?
旧皇室典範以来、現行の皇室典範の9条でも天皇及び皇族の養子を禁止しているところ、養子制度はこの9条を改正して行うのか?それとも特例法により9条の特則を設けるのか?という技術的問題があります。
旧皇室典範で養子を禁止した趣旨は「宗系紊乱の門を塞ぐ」*5でしたが、現在の皇室の状況は、この趣旨に反するどころか真逆の事態です。
他方で、この規定がされたのは世襲親王家を廃止し、永世皇族制を設けたこととの関係は無視できないため、現在も永世皇族制を敷いている以上は、原則的なルールとしては残しておくのが好ましいという考え方は十分にあり得るでしょう。
そのため、特例法によって天皇及び皇族の養子の禁止を解除するという方向性は検討に値すると言えます。
では、その際に「恒久化」はするべきでしょうか?
例えば、【天皇の退位等に関する皇室典範特例法 平成二十九年法律第六十三号】では、現在の上皇陛下に限ったものであるということが明確に為されています。恒久化ではなく、そのように限定するべきか?という問いです。これにより、現在お生まれになっていない者も養子の対象となることとなります。
この議論の元々の経緯を鑑みれば、皇族数の減少と皇位継承者数の減少に対応するために設けられる制度が目指されていたという出発点があります。
皇位継承者数の減少状態が解消されたとみることができるまでには相当程度の年数が経過しないと判別不能な状況であることから、恒久化をしておき、副作用が生じるのであれば、その時に対応するという方向が望ましいと言えます。
世代数の限定の是非に関しても、歴史的には皇統に属する男系男子であれば皇籍復帰する資格があるところ、そこには男系での親等の隔たりは無視できるから、世代を限定する意義が薄い。
※「五世孫の原則」との関係についてはこちらを参照。
なお、女性皇族との婚姻による皇族の身分付与につき、旧皇族に限れば認めるという立場を取る場合には、養子縁組による皇籍復帰の場合に世代の限定は取り除かないと整合性がとれない。
仮に世代限定をするとなると、何を基準に考えるのか?現在御存命の方を基準にした世系で計算するのか、生まれの年で区切るのか?、その範囲は?など、将来予測も含めた不透明な事項に渡って決め打ちせざるを得なくなる。
ただし、もしも歴史上の世襲親王家のように永続性を持つと、事実上の問題が生じることはあり得るでしょう。皇室典範で天皇及び皇族の養子縁組が禁止されている理由とされる「宗系紊乱のおそれ」が、時が流れるにつれて再認識されることが予想されるが、その場合には改めて「皇籍復帰の資格のある家系」を法制度上維持するのか?を検討するべきです。
その時には現在のような皇族数の減少による諸問題や皇位継承権者の先細りという問題が解消している可能性が高い。逆に言えば、現在の皇室の状況が改善しないのに旧皇族からの皇籍復帰を一定の世代以下は認めないということを先に決めてしまうと、近い将来また同様の問題に直面した場合に選択肢が無くなることになります。
少なくとも現在の時点で拙速に決めるべき必然性のある事柄ではない。
実は、この懸念に基づいて対処が為された歴史上の先例があります。
旧皇室典範増補・皇族身位令・皇族ノ降下ニ関スル施行準則
明治22年の旧皇室典範で永世皇族制を認めた際には政府内でも異論がありました。
旧典範制定の議論時に三条実美は、「例えば百世というときは皇統から遠くなり、皇族の人数も甚だ増加し、帝室よりの支給も行き届かなくなり、却って皇族の体面を汚すことも起こらないとは限らない」という趣旨の発言をしています。
結局その後、明治40年には皇室典範増補により賜姓降下制度の創設が為され、明治43年には皇族身位令にてその基準や細則が規定されました。永世皇族制の例外として、皇族の数が多過ぎにならないよう調整できるようになったということです。
さらに、皇室典範増補制定後、十数年経過しても勅旨により皇族を臣籍降下させた例はなく、臣籍降下を実施するためには運用準則が必要と考えられたため、内規である「皇族ノ降下ニ関スル施行準則」が大正9年に成立しました。
こうした規定の仕方とその成立過程を眺めると、「原則論は皇族数を広く確保できるようにしておき、多過ぎることによる弊害が生じるような場合には調整できるように特例を設ける」、といった規律が選択されていったと言えます。
特に当時は明治天皇唯一の皇子である嘉仁親王(大正天皇)が病弱であったことや、明治維新の混乱の残滓、その後の列強による植民地支配の世界を相手にした戦争、世界大戦の危機があり、皇族も戦地に赴く例があり(明治から昭和期にかけて戦地での殉職者2名)、井上毅をはじめとする臣下たる政府要人の中には皇位継承権者の身に何かあった際の懸念が強く意識されていた可能性があるのではないかと考えられます。
そうしてみると、今般の天皇及び皇族の養子制度に関して時限立法や世代数の限定をすることは、不確実な未来に対して選択肢を狭めてしまうこととなるため、避けるべきなんじゃないでしょうか。
令和7年現在の世界情勢もまた、明治の当時に近づいてきていると言え、たった5年前の状況からも打って変わって緊迫したものとなっているわけですから。
皇族の養子となる時期は一定の年齢以上or以下の者に限定?
皇族の養子となる時期、つまりは一定の年齢以上or以下の者に限定するのかについて。
じゅうぶんに幼い時期であれば一般国民としての生育環境からの変化にも適応できることが期待される一方、本人の意思はある程度勘案されるもののその親の意向が大きくかかわってくるため、メディア世論も含めて実際上の難点が生じやすい。
他方で一定の年齢以上の者(少なくとも特別養子縁組が可能な15歳未満ではない年齢)*6となると、一般国民としての教育を受け成長してきた者であるため、少なくともその者には皇位継承権は与えず、次世代から付与するということに。
この場合には養子側の事情としては本人の意思があれば良いため、幼い子の場合の実際上の難点が生じない。
この点、自民党の衛藤晟一議員からは「15歳以上」「恒久法」という意見が出されていました。
※追記:なお、「特別養子縁組を参考とする仕組」の場合、つまりは養子が15歳未満など幼い場合については、政府の有識者会議*7において、「国民個人として生きるか否かの自己決定を年少時に否定する点が別の憲法問題を招く」という指摘がありましたが、15歳以上であればこの指摘は無視できるのと、「別の憲法問題」の意味するところが不明であることも相まって、この点は現在までに議論の俎上には上がっていません。
【旧皇族の皇籍復帰の憲法問題まとめ】宍戸常寿の養子縁組に関する「違憲の懸念」への反応と反論 - 事実を整える
その他の確認項目:養親は誰になるのか?皇室会議の議を経るべきか?
全体会議では一部の議員から「養親となる具体的な者は誰とすべきかを先に決めるべきでは?」ということが主張されました。
しかし、養子を取るのか否か?ということは、相手方の選択自体は自由意思なのだから制度で決めることではありません。
他方で、養親となる資格について何らかの制限を設けるべきでは?という主張が一部政党から為されています。例えば、「天皇・上皇・皇嗣の立場の者は養子を取ることは不可とすべき」、というものがあります。
天皇・上皇は別の理屈の話になるとしても、皇嗣まで養子を取るべきではないとする理屈はいったい何なのか?その理路は鮮明とは言い難いです。*8
それが心配なら、「現在の皇位継承順位は変更されない」とするだけで問題は生じないのでは?歴史上は、天皇や上皇の養子(猶子)にした例はいくらでも見つかりますから。
他、「養子の最終決定前に皇室会議の議を要することとするべきか?」という手続論があります。養子の対象を皇族方が見定めた後に、正式に決定する場合の手続です。
現行皇室典範では、皇室会議の議を経ることとなっているものとして、例えば皇族男子の婚姻の場合が規定されています。これは婚姻相手との間に生まれた男子には皇位継承権が付与されることから、その適格性について慎重に判断する必要から求められているものと思われます。
それとの平仄を考えると、養子縁組により皇籍復帰する旧皇族の男系男子も、少なくともその子たる男子には皇位継承権が付与されることとなるため(現在の議論状況では、そうなることが予定されている)、皇室会議の議を経ることとするのが適切となると思われます。
これに関して4月17日の国会全体会議で発言をしたのは自民党の衛藤晟一議員のみでしたが、この際には皇室会議の議を経ることとすべきという見解でした。
なお、女性皇族と婚姻する者について、「その者と子の身分を法制度上どのように扱うべきかをその都度皇室会議で決定する案」というのが立憲民主党の野田党首から出た、という報道がありましたが、これとは別の話です。
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*2:一般的に「五摂家」のうち、江戸時代に皇族が養子に入って相続した後の近衛家・一条家・鷹司家およびその男系子孫を指す。皇族ではなく民間人であり、旧皇族でもない。
*5:父系同族集団の同祖子孫秩序が乱れること
*6:16~17歳だと「民法第七百九十八条 未成年者を養子とするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。」があるところ、特別法でこの規定が適用されないとしても、この制度趣旨との整合性を採る必要が出てくる。仮にこの民法規定が適用されるならば皇室の事柄に家庭裁判所が介入することとなり、非常に不適切。
*7:「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議
*8:公明党は「皇位継承の流れを不安定化させないという観点」から、天皇・上皇・皇嗣が養親となることはできないとするのが適切と主張している