事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

困難女性支援法の問題点2:過剰な要求と参入障壁による利益誘導・利権化のおそれ

これはマズいのでは?

困難な問題を抱える女性への支援に関する法律

令和四年法律第五十二号 困難な問題を抱える女性への支援に関する法律

この法律は令和6年4月1日施行ですが、一部が公布の日から施行されています。

附則は⇒困難な問題を抱える女性への支援に関する法律案:参議院の「成立法律

附則

(施行期日)
第一条 この法律は、令和六年四月一日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
一 次条並びに附則第三条、第五条及び第三十八条の規定 公布の日
~省略~

(検討)
第二条 政府は、この法律の公布後三年を目途として、この法律に基づく支援を受ける者の権利を擁護する仕組みの構築及び当該支援の質を公正かつ適切に評価する仕組みの構築について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
2 政府は、前項に定める事項のほか、この法律の施行後三年を目途として、この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
(準備行為)
第三条 厚生労働大臣は、この法律の施行の日(以下「施行日」という。)前においても、第七条第一項から第三項までの規定の例により、基本方針を定めることができる。この場合において、厚生労働大臣は、同条第四項の規定の例により、これを公表することができる。
2 前項の規定により定められ、公表された基本方針は、施行日において、第七条第一項から第三項までの規定により定められ、同条第四項の規定により公表された基本方針とみなす。

(補導処分に付された者に係る措置)
第五条 政府は、前条の規定による改正前の売春防止法(以下「旧売春防止法」という。)第十七条の規定により補導処分に付された者であって、施行日前に婦人補導院(附則第十条の規定による廃止前の婦人補導院法(昭和三十三年法律第十七号。附則第十一条において「旧婦人補導院法」という。)第一条第一項に規定する婦人補導院をいう。以下同じ。)から退院し、又は旧売春防止法第三十条の規定により補導処分の執行を受け終わったものとされた者以外のものが、施行日以後において必要に応じてこの法律に基づく支援を受けることができるよう、その者に対する当該支援に関する情報の提供、関係機関の連携を図るための措置その他の必要な措置を講ずるものとする。

第三十八条 この附則に定めるもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置は、政令で定める。

基本方針と政令については現在は策定されておらず有識者会議にて検討されています。

第3回困難な問題を抱える女性への支援に係る基本方針等に関する有識者会議を傍聴した感想 - 事実を整える

それ以外の本法の実質的な内容は、現在は有効ではありません。

「最適な支援」という異常な要求:前例の無い規定文言

(女性相談支援センター)
第九条 都道府県は、女性相談支援センターを設置しなければならない。
2 地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市(以下「指定都市」という。)は、女性相談支援センターを設置することができる。

~省略~

4 女性相談支援センターは、その業務を行うに当たっては、その支援の対象となる者の抱えている問題及びその背景、心身の状況等を適切に把握した上で、その者の意向を踏まえながら、最適な支援を行うものとする。
~省略~

困難女性支援法9条4項に「最適な支援」を行う「ものとする」という記述。

これは【異例中の異例】の文言と言えます。

それは他の法令中の「最適な」という用語の存在を調べればわかります。

まず、これらの法令は全て「法律」レベルではなく、「省令」レベルだということ。

憲法>法律>政令>省令>告示>通達>…という区分を考えると、その位置づけが分かると思います。

中身を見ていくと、これらの法令において求められている「最適な」の対象は、「環境影響評価の方法」について、或いは科学的な手法が存在している領域と言ってよい。

また、「最適」で検索すると少し様相が変わり、法律レベルも出てきますが、それでも農地利用に関する「最適化の推進」や科学的な内容に対して、或いは「システムの最適化」「経営資源の最適化」といった目標的なものに使われていました。

さらに「最善」で検索すると、遭難時や重大な事故の際に取るべき「最善の措置」という形であったり、警察の拳銃の扱いについて「最善の注意」といった形で、極限状態や重大な危険が介在・予期される場合の用語法、また、「児童の最善の利益」という抽象的な概念として用いられているものがありました。

そして憲法25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とあるように、これらの法令の文言と比べると、困難女性支援法の「最適な支援」というのは過剰な対応を行政や民間に求める契機が生まれ、予算が過大になる危険があります。

なぜ、「適切な支援」「必要な支援」ではないのか?

新規参入障壁と既存NPO等への利益誘導・利権化のおそれ

また、現状では困難女性支援事業にはある種の「参入障壁」が設けられていると言い得る状況であり、利権化するおそれがあります。

困難な問題を抱える女性への支援|厚生労働省に掲げられている事業は現在は困難女性支援法に基づいているわけではありませんが、その立法のベースとなっていると同時に、施行後は法律の裏付けがある事業として実施されることが予想されるものです。

たとえば、このページ中の「各事業実施要綱」の中の【民間団体支援強化・推進事業の実施について子発 0329 第 10 号 令和4年3月 29 日】には以下の記述があります。

都道府県等は「アドバイザーの派遣や、先駆的な取組を実施しているNPO法人等での実地訓練」などのNPO法人等の育成をすることとされ、アドバイザーは[経験者+能力+都道府県が認めた者]という縛りがあります。

それをどう都道府県が判断するのか?といったら、最初に来るのが「モデル事業」の委託を受けていた若草・BOND・ぱっぷす・Colabo・(解散したが)ライトハウスの元理事等でしょう。

研修 – 一般社団法人Colabo(コラボ)

既にColaboが「アドバイザー」として活動実績を出していると思われる情報もありますし、Colaboに実地研修に行っている様子が発信されています。

さて、こうした経緯からは、【アドバイザーによる研修を受けなければ被害女性支援事業の委託を受けたり補助金を交付されない】、といった「実質的な参入障壁」が形成される懸念が感じ取れてしまうのですが、果たして…?

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