確かな良識を発揮された方々がいらっしゃいました。
- 皇室典範特例法附帯決議に基づく政府報告を受けた国会全体会議
- 旧皇族の養子制度を作る前の意向伺いの誤りと身分行為の自由意思
- 養子による皇籍復帰をしても皇位継承資格を与えないことの憲法整合性
- 臣籍降下の経緯の実態と皇籍復帰・取得をした先例の適用の仕方
皇室典範特例法附帯決議に基づく政府報告を受けた国会全体会議
天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議に基づく政府における検討結果の報告を受けた立法府の対応に関する全体会議
こちらの令和7年3月10日の議事録が3月末に公開されたので見ていきます。
ここで示された内閣法制局や衆参議院議員らの見解には、これまでの議論を踏まえた良識が根付いており、その理路を再確認する意義が大きいと思います。
旧皇族の養子制度を作る前の意向伺いの誤りと身分行為の自由意思
「旧皇族の養子制度を作り、それによる皇籍復帰をする前に、旧皇族の方々に対して皇籍復帰の意向があるかどうかを伺うべきだ」、という主張が一部の党からみられました。
が、この日は複数の委員から、そのような手法を採るのが不適切だという説明が具体的に為されました。
詳細は興味のある方は議事録を見れば分かるのでここでは端的にまとめると…
- 皇族の養子縁組は現行法では禁止されている。そのため、養子制度を作る前に養子による皇籍復帰を望むか?と聞くことは、すなわち、『違法行為をするのかどうか?』を聞くという意味になる。これはおかしいし、少なくとも現在存在しない制度について聞くとしても、これには答えようがない。
- 養子というのは親や当事者らの「自由意思の合致」によって成立するので、制度制定後に考えるべき。
- 旧皇族の養子制度は皇室典範を改正することによって認めるため、現在ご存命の方だけが対象ではなく、その子孫の方々も対象になることを予定しているため、なおさら「現時点での意向」を把握する意義が無い。
特に、養子というのは法的な区分では「身分行為」と言われるもので、単独行為・契約・合同行為といった関係者の意思だけでは法的効果が生まれないものです。先に養子制度があり、『そこに向けられた』意思の合致が必要になり、法律効果が法定されています。現在はその意思が最初から封じられている状態なのですから、その段階で意向を伺うというのは意味がないということになります。
憲法14条との関連でも「自由意思の合致」という要素は潜在的に重要になってくる*1
こうした良識をご提示された方々は、ここで名前を書かなくとも、私は把握していますし、本当に興味をもって議事録を読み込んだ方は分かるでしょう。不見識に対して良識を発揮された複数の方々に、感謝いたします。
養子による皇籍復帰をしても皇位継承資格を与えないことの憲法整合性
一部が疑問を呈したものとして、「11宮家のみを養子による皇籍復帰の対象としながら、その者には皇位継承資格を与えないということは整合性があるのか?」というものがありました。
皇族の養子制度の対象範囲を旧皇族11宮家としたことと、いったん養子を認めた後に皇位継承資格を付与するかということは別問題であり、歴史の先例でも皇位継承資格の無い皇族は存在していた、ため、この点は明確に切り分けが為されました。
臣籍降下の経緯の実態と皇籍復帰・取得をした先例の適用の仕方
そのほか、旧皇族が臣籍降下した経緯について、政府は自由意思によって降下したと説明されています。が、一人の委員からは、戦後に宮家を維持する皇室財政上の問題があり、政府からは皇室財産に課税することにより離脱を仄めかしていたのであり、自発的に申し出た形式があっても事実上は政府が促したようなものだということ。そのため、戦後に自由意思で降下したことを復帰するにあたっての障害とするべきではないということを暗に訴える趣旨の発言がありました。
また、今回のような皇籍復帰の先例について、まったく同じ状況のものが無いことを指摘する向きもありましたが、完全に一致する必要は無いこと、直接的に皇籍復帰するという先例と養子による皇籍取得の先例があることから、それらを組み合わせることには問題が無い旨を指摘する委員も居ました。
法解釈の実務では民法94条2項と110条の法意を併用する判例(そしてその判例の「趣旨」から結論を導いた判例も)、民法94条2項と110条を共に類推適用する判例、平成29年改正前民法109条と110条の重畳適用をする判例*2など、片方の条文ではカバーしきれない事態につき、もう一つのルールやその内包されている趣旨の組み合わせによって「法」の要請を導いている例が見られますから、皇位継承に関しても上記のような発想が出てくるのは至極当然のことと言えます。
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*1:【旧皇族の皇籍復帰の憲法問題まとめ】宍戸常寿の養子縁組に関する「違憲の懸念」への反応と反論 - 事実を整える
*2:平成29年改正により、判例の内容が民法109条2項に記述された