事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

京アニ事件:公表後も「実名報道しなかった」メディア

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http://www.kyotoanimation.co.jp/

京都アニメーションの放火事件の被害者の実名報道をしているメディアについての非難がありますが、逆に「実名報道をしなかった」メディアがあるのか、極一部の対象に過ぎませんが調べてみました。

私が確認したメディア

京都府警が実名公表をしたことを報じたメディアを対象にしています。

その中で私が確認してみたメディアはNHK、読売新聞、産経新聞、毎日新聞、東京新聞、朝日新聞、中日新聞、日経新聞、京都新聞、河北新報、J-CASTニュースです。

WEB上の有料コンテンツは対象外にしています。

また、大手新聞はすべて東京版ですので地域によって内容が異なる可能性があります。

テレビメディアは確認していません。

実名報道しなかったメディア:J-CASTニュース

京アニ代理人、25人公表・報道に「大変遺憾」 「一部ご遺族の意向に関わらず...」 : J-CASTニュース

WEBメディアの多くは京都府警が実名公表をしたこと自体を記事にしていないところが多い中、J-CASTニュースはそれを報じた上で、実名報道はしていません

私も何度か事実確認でJ-CASTニュースが追取材した記事を読んだことがありますが、納得感のあるものが多いです。

追記:京都府警に取材したが情報提供を受けられなかったハフポスト

京アニ被害者の「実名報道」。テレビと新聞はどう報じたか | ハフポスト

ハフポスト日本版では、8月2日に10人の身元が公表されたことを受け、京都府警に取材しました。

京都府警に被害者10人の実名や遺族の了承があった(当時)ことなどを確認したうえで、公的に出されている過去の作品や本人が出演したイベントの記録をもとに、10人のこれまでの役職や携わった作品の内容などを伝える記事を公開しました。

8月27日に25人の実名が公表された際にも、京都府警に取材を試みましたが、「記者クラブ外には公表しない」と回答を受けました。実名公表を了承した遺族は5人のみだったことも確認し、なぜ多くの遺族が反対しているのか詳しい事情が分からない状態であったため、取材や掲載は見送りました。

事件・事故の被害者報道のあり方は大きな転換点を迎えています。SNSなどネットが発達した時代のメディアや報道のあり方については、編集部でも様々な意見を出し合い、話し合いを続けています。

後日、記事として掲載する予定です。

ハフポスト日本版編集部

京都府警の記者クラブ以外には情報提供していなかったようです。

だとするとJ-CASTニュースが報道しなかったのは当然だったのかもしれません。

記者クラブにありながら実名報道しなかったメディアはどこなんでしょうか?

被害者の氏名をリストアップしたメディア

被害者の氏名をリストアップしていることが確認できたメディアはNHK、日経新聞、朝日新聞、京都新聞、産経新聞。産経新聞はネットでは報じていませんが、紙面ではリストアップしていました。

宮城の人は河北新報もリストアップしていたことを知ってると思います。

なお、読売新聞、産経新聞、毎日新聞、朝日新聞、日経新聞、河北新報は、紙媒体もチェックしました。

取締役の方のみ報じた読売

読売新聞は現時点では取締役の方の名前だけ報じています。

これをどう評価するべきかはよくわかりません。遺族の方の希望がどうだったのかがよくわからないからです。

友人やファンのために報道すべきという論について

「遺族が反対していたとしても、安否情報は被害者の友人やファンのためにも必要だから公表されるべきではないか」 

このような論がありますが、私は反対です。

親告罪の告訴権者の考え方を援用してみると上記の論は成立しないと考えるからです。

刑事訴訟法

第二百三十条 犯罪により害を被つた者は、告訴をすることができる。
第二百三十一条 被害者の法定代理人は、独立して告訴をすることができる。
○2 被害者が死亡したときは、その配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹は、告訴をすることができる。但し、被害者の明示した意思に反することはできない。
第二百三十二条 被害者の法定代理人が被疑者であるとき、被疑者の配偶者であるとき、又は被疑者の四親等内の血族若しくは三親等内の姻族であるときは、被害者の親族は、独立して告訴をすることができる。
第二百三十三条 死者の名誉を毀損した罪については、死者の親族又は子孫は、告訴をすることができる
○2 名誉を毀損した罪について被害者が告訴をしないで死亡したときも、前項と同様である。但し、被害者の明示した意思に反することはできない。
第二百三十四条 親告罪について告訴をすることができる者がない場合には、検察官は、利害関係人の申立により告訴をすることができる者を指定することができる。

このように、親告罪の告訴権者は死者の親族に限られ、名誉毀損罪に限り「子孫」が告訴権者と規定されています。友人や単なる恋人が告訴権者になることはありません。

司法上、「遺族の意思」が重く扱われているというのが伺えます。

例外はいくらでもあるでしょうが、死者の意思を代弁できるのは遺族が最も適切な存在であるというのが一般的な理解でしょう。

性犯罪の被害者やその家族も、被害者の名誉のために名前の公表を控えてほしいと要請するでしょうし、実際に捜査機関はそれを尊重しているハズです。

昔の話ですが、かつて性犯罪が親告罪だったとき、場合によっては強姦致傷の被害者の方が、性犯罪被害の部分は告訴意思を欠き、傷害罪として起訴した例がありました。

遺族の明確な意思が氏名公表拒否であり、それと友人らの安否を知りたい意思が衝突しているというなら、絶対に遺族の意思を重視するべきでしょう。

本当に親しい友人であれば連絡を取ろうとしても取れないことで察することはできるし、遺族も知っているということであれば教えてくれるでしょうからね。

まとめ

私が調べた範囲は、世の中に存在するメディアの極一部なので、J-CASTニュース以外にも京都府警が実名公表をした事実を報じながら実名報道は控えたメディアはあるのではないでしょうか。

こういう目立たない行いに光が当たってくれれば良いと思います。

追記:J-CASTニュースは以下で紹介するような検証報道もしています。

以上