事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

モンスターマップ(偽装破産者マップ)はプライバシー侵害の不法行為

モンスターマップ・破産者マップ

Monster Map(モンスターマップ)というサイトがあります。

これはあの破産者マップを巧妙化したものでありますが、プライバシー侵害の不法行為を免れません。

その根拠を整理します。

「破産者マップ2」Monster MAP(モンスターマップ)の掲載内容

Monster MAP(モンスターマップ)は「破産者マップ2」とでもいう内容です。

掲載内容は会社名・氏名・住所のみですが、丁寧にもGoogle Mapの位置情報とリンクされています。掲載されている情報の日時も2009年7月までのものです。

ただ、「破産者である」ということが書いてあるわけではありません

しかし、インターネット官報の情報と照らし合わせてみれば、明らかに破産手続開始の者の氏名住所等を掲載しているということが分かります。

モンスターマップのデタラメな法的告知

モンスターマップの「法的告知」とある画面では以下のような文言があります。

閲覧者は、このWEBサイトを閲覧した時点で、このWEBサイトの存在やこのWEBサイトの情報を他社や第三者に知らせる、掲示板や不特定多数が閲覧するインターネットサービスに投稿、転載、引用しないことに同意するものとします。

このWEBサイトはフィクションです。

しかし、このような文言があるからといって著作権法上の引用が不可になるということはありませんし、フィクションであるという断りがあるからといって個人情報を載せている事実は変わりません。

偽装破産者マップはプライバシー侵害の不法行為

偽装破産者マップであるモンスターマップは、個人情報保護法違反などの批判を逃れるために巧妙なつくりに変えたようですが、少なくとも住所を公開したことがプライバシー侵害によって民法上の不法行為を構成すると考えられます。

判決文記載の登記簿上の住所のブログ公開が不法行為になった裁判例

【東京地裁 平成22(ワ)47931号 平成23年8月29日判決】

事案の概要 原告X1は全日本海員組合の組合長であり、被告が原告と被告との訴訟の判決文をインターネット上のブログに掲載した際に原告の住所が公開された(3ヶ月後に削除)。原告はこのことをプライバシー侵害として訴えた。被告は、原告の住所は登記簿や電話帳にも記載されていることからプライバシーの利益として保護されないと主張した。しかし、裁判所は以下判断してプライバシー侵害の不法行為を認め被告に6万円余の支払いを命じた。

登記簿や電話帳への自宅住所の記載は、いずれも一定の目的の下に限定された媒体ないし方法で公開されるもので、同目的に照らし限定的に利用され、同目的と関係ない目的のために利用される危険は少ないものと考えられ、公開する者もそのように期待して公開に係る自宅住所情報の伝搬を上記範囲に制限しているというべきであるから、原告X1が自宅住所情報につきプライバシーの利益として保護されることまで放棄していると評価することはできない

インターネット上でも閲覧できる登記簿に掲載されている代表者の住所であり、判決文に記載されているものであったとしても、この事案では公開する利益が公開されない利益を上回ることはないとして、プライバシー侵害として不法行為となったということです。

そして、登記簿上の代表者住所についてもネット閲覧が禁止されました。

インターネットでの登記簿上の住所閲覧が禁止になることが決定

法務省:法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会第19回会議(平成31年1月16日)開催

また、以下の内容の附帯決議がされた。

省略

2 省略

 (2) 電気通信回線による登記情報の提供に関する法律に基づく登記情報の提供においては,株式会社の代表者の住所に関する情報を提供しないものとする。

 

インターネット上で登記情報を見ることができるサービスがあります。

しかし、過去に法人の代表者の個人住所がみだりに利用される事案が発生しました。

そのため、ネット上での閲覧を制限する必要性があるのではないか、実際上も法人の住所だけがあれば良い場合がほとんどではないか、という意見が出たため、ネット上での閲覧のみ規制をかけることが決定されました。

参議院議員森ゆうこが法人の代表者の個人住所を晒して国民民主党が謝罪

関連する事件。

参議院議員の森ゆうこ議員が国会質疑の場で使用する資料の中に登記簿の写しがあり、法人の代表者の個人住所がマスキングされずにオープンになっていた問題がありました(質疑後にネット上で公開もしていた)。

その際も本人からの抗議や日本維新の会による働きかけによって黒塗り対応がなされ、さらには森ゆうこ議員が所属する国民民主党が謝罪しました(森ゆうこ議員の謝罪はない)。

個人の名前と住所がネット上で公開されてしまったことに対して、このように対応するのが社会的な常識となっているということが分かります。

たとえ住所が「公開情報」であったとしても、それを本来の用途以外で拡散する行為≒ネット上で閲覧可能な状態に置き換えることは慎むべきものと考えられており、不法行為となった裁判例もあるということです。

破産法の趣旨に反して再拡散するモンスターマップ

そもそも、破産法の官報公告の趣旨*1破産手続の関係者に対する裁判の告知や書面の送付を速やかにかつ経済的に実施するためのものであるとされています。

そのため、そのようないわば「正当化」するための実態と形式を備えていない再拡散行為は、官報公告と同じように考えることはできず、公開する利益が公開されない利益を上回ることは無いと言えます。

しかもモンスターマップはGoogle Mapの位置情報とリンクさせているところ、Google Mapはアップデートされた地図を用いていますから、「現在の情報」として閲覧者が認識するようになっています。

すると、既に引っ越しで住居人が変わった場合や破産手続が終了した者であっても、今現在も破産者であると誤解させるつくりになっており、そのような方々に対する名誉毀損にもなりうるものです。

これは閉鎖した破産者マップについても当てはまります。

関連:破産者マップが閉鎖:なぜ官報情報を地図化するのはダメなのか

個人情報保護法違反や名誉毀損がなくともプライバシー侵害による不法行為か

モンスターマップは個人情報保護法違反や名誉毀損かは不明です。

しかし、少なくとも個人名と住所という情報はプライバシーとして保護されるものであり、官報記載の破産者情報はその趣旨の限りでの用途で利用されると本人らも期待しているために掲載が許されているものです。

よって、少なくともプライバシー侵害の不法行為にあたるのではないでしょうか。

ただし、被害者の多くは破産者であることで動くための金銭が無く、心理的なハードルもあると考えられますから、今後は【破産者マップ被害対策弁護団】が再度対応していくことになると思われます。

以上

*1:条解破産法・弘文堂2010年