事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。リンク切れに備えて魚拓を活用しています。

「ネットカフェ難民の数は増えている」は嘘なのか

ネカフェ難民が増えている

「ネットカフェ難民の数は増えている」

このように断定している所がほとんどですが、根拠としているデータをまともに読んでいるならばまず出てこない態度です。

「ネットカフェ難民の数は増えている」の根拠・ソース:住居喪失不安定就労者等の実態調査

「ネットカフェ難民の数は増えている」と言われている根拠は、厚生労働省が2007年に調査した結果と2018年に東京都が調査した結果のうち、東京都におけるネットカフェ難民=ネットカフェ等を利用している住居喪失者の数を比較しています。

住居喪失不安定就労者等の実態に関する調査報告書 平成19年8月 厚生労働省職業安定局

住居喪失不安定就労者等の実態に関する調査報告書平成30年1月 東京都福祉保健局生活福祉部生活支援課

よく言われるのが「2007年は2000人、2018年は4000人」であり、「経済状況の悪化によって増えた」「街中に居ることができなくなったホームレスがネカフェに流れてきた」と言われることがあります。

数字自体はその通りです。
厳密に比べるなら1800人⇒4000人だが

しかし、これって本当でしょうか?

 

東京都のネカフェ難民調査結果「厚労省調査との比較は行っていない」

東京都のネカフェ難民調査

平成30年1月 東京都福祉保健局生活福祉部生活支援課

東京都の調査報告書は「実施時期や規模、対象店舗等の与条件が異なる」とあります。

結論から言うと、厚労省調査と東京都調査には以下のような違いがあります。

  1. 厚労省調査結果における東京都の「ネカフェ難民」の数は23区内のみ
  2. 調査期間が厚労省は夏、東京都は冬
  3. 「オールナイト利用者」の推計の仕方が異なる

この時点で、まともな感覚なら単純比較することはあり得ません。

厚労省調査は全国の店舗を対象にしていますが、東京都だけは23区内しか数字が出ていないことから、23区内しか調査していないことがわかります。この点は東京都の担当も指摘していました。

調査期間が厚労省は夏、東京都は冬

厚労省調査は「6月下旬から7月中旬」とあり、東京都調査は「12月~1月」です。

東京都に認識を伺ったところ「一般に夏の方が外で過ごすことが多く、冬は寒さをしのぐために屋内に居ることが多いと言える」と話していました。その通りだと思います。

その結果、厚労省調査では数が少なく、東京都調査では数が多くなったという可能性があります。

「ネットカフェ難民」の調査・推計方法

ネットカフェ難民」の数を把握するために、ネットカフェ等を利用している者であって、オールナイトで利用している者の数を算出し、さらに住居喪失者の率を探り、推計するという手法が取られています。

つまり、調査上「オールナイト利用者」が計算のベースになっているのです。

オールナイト利用者」とは、【平日(月~木曜日)1日において最低5時間以上利用し、各店舗のオールナイト料金の対象となるような者の数であり、単に深夜に利用して数時間滞在してすぐに出て行く者を除く、年間を通じた平均的な数】を指すと調査資料に書かれています。

オールナイト利用者であるからといって、それだけでは経済状況等の悪化に起因した行動であるということにはなりません。経済状況等とは別個に、単純に利用客が増加した可能性もある数値です。

「オールナイト利用者」は、2007年が8,500人、2018年が15,300人

東京都の「オールナイト利用者」の数は2007年が8,500人、2018年が15,300人でした。

「住居喪失不安定就労者等」の数値は、ここから算出されているものであり、前提となるオールナイト利用者の数が少なければ少なく出るのは当たり前です。

 なぜこのような差が生まれたのでしょうか?

「インターネットカフェ・漫画喫茶等」の対象

東京都のネカフェ難民の統計

平成30年1月 東京都福祉保健局生活福祉部生活支援課

上記は東京都の調査結果です。

「インターネットカフェ・漫画喫茶」のほかに「ネットルーム」「ビデオルーム」「カプセルホテル・サウナ」が別項目になっているのが分かります。

厚生労働省のネットカフェ難民統計

平成19年8月 厚生労働省職業安定局

対して上記は厚労省の調査結果。

カプセルホテル・サウナなどが含まれているのかが分かりません。

この点について東京都・厚労省の該当部署に確認をしたのですが、いずれも

厚労省のデータにおいてカプセルホテル等を含めた値になっているのかどうかは分からない

と言われました。

カプセルホテル・ビデオルーム・ネットルームが含まれてない?

厚労省調査ではカプセルホテル・ビデオルーム・ネットルームが含まれてない可能性。

なぜこの点が重要なのか。

そもそも集計対象から漏れていた場合、オールナイト利用者数が少なくなるのは当然。

含むとしても「回答平均値」が大幅に異なるものを一緒に計算していたことに。

それが東京都調査と厚労省調査で数が大幅に違う原因の一つと考えられるからです。

※回答平均値:調査は「全店舗」対象だが、回答した店舗が全店舗ではないため、推計により全店舗でのオールナイト利用者を算出する必要があり、1店舗あたりのオールナイト利用者の平均値を、立地条件を加味して算出し、それを全国推計に利用している。

2007年厚労省調査はインターネットカフェ・漫画喫茶のみか?

インターネットカフェ・漫画喫茶のオールナイト利用者

平成19年8月 厚生労働省職業安定局

ヒントは「大規模駅周辺店舗」。

これは「1日の乗降客が30万人以上」の駅から1km圏内に立地する店舗です。

立地により客数が相当変わると考えられるため厚労省調査でのみ導入された概念です。

JR東日本:各駅の乗車人員(2007年度)では、これに該当する駅は東京・池袋・渋谷・品川・新宿・横浜の6つのみです(2006年も同様)。

すると、乗車人員数で割合を計算すると、厚労省調査の大規模周辺店舗346店のうち、横浜を除外した298店舗が東京都の店舗と推計できます。

東京都調査ではそういった絞り込みの無いインターネットカフェ・漫画喫茶が315(しかも23区以外も含む)であり、ビデオルーム・ネットルーム・カプセルホテル・サウナの合計は187店舗です。

そのため、もしも厚労省調査の店舗数にカプセルホテル・サウナ等が含まれていたなら、店舗数が全体で多少増えていたと仮定しても、2007年時点の大規模駅周辺店舗の数は400を超えていたハズではないか?ということが考えられます。

したがって、厚労省調査では「カプセルホテル・サウナ」「ネットルーム」「ビデオルーム」が含まれていない可能性が高いと言えるでしょう。

2007年厚労省調査では都会の店舗であるほど実態より推計値が低くなる?

さらに、「その他駅周辺」と「郊外」の回答平均値の計算方法も問題です。

上記のJRの数値では、関東の駅が上位のほとんどを占めます

すると、厚労省は全国調査をした回答平均値を出しているのですから、乗降客数が多い駅の近くの店舗では利用客が多いという前提に立つと、関東の、特に東京都の店舗の数値は実際よりも低く出ることが考えられます。

現に2007年のインターネットカフェ・漫画喫茶の回答平均値は25.4人、2018年は26.8人であり、これが約300店舗とすると420人もの差が出てくることになります。

もちろん、「田舎の店舗は敷地が広いので1店舗で多くの客が来る、東京都は敷地が狭いので1店舗のキャパが少ないため客数は抑えられる」という実態、単純に全体の利用者が増えたことが要因の可能性もあります。

オールナイト利用者全体に占める「住居喪失者」割合は増えている可能性

もっとも、オールナイト利用者に占める住居喪失者は、2007年厚労省調査の大規模駅周辺店舗で10.3%、2018年東京都調査で25.8%となっており、住居喪失者がネットカフェ等を利用している数が増えている可能性を仄めかす結果です。

しかし、これも季節の影響なのか、全体の数として増えているのかの切り分けは不可能なので、現時点では参考程度にしかなりません。

まとめ:ネカフェ難民の東京都調査の数が多いのは調査・推計方法に起因する可能性

まとめると次のように言えます。

  1. 「ネットカフェ難民」は「ネットカフェ等利用者」且つ「オールナイト利用者」且つ「住居喪失者」で計算
  2. オールナイト利用者の数は2007年が8,500人、2018年が15,300人
  3. 2007年の調査ではオールナイト利用者算出にあたってカプセルホテル・ビデオルーム・ネットルームが含まれてない可能性が高い
  4. その他、2007年の調査結果は23区外を含まず、計算上都会の店舗での数が低く出る性質・夏の調査だったため2018年と比較して店舗利用者が少なかった可能性などがある

あくまでも現時点の話ですが、厚労省調査よりも東京都調査の数が多くなったのは調査・推計方法の違いに起因する可能性が示唆されるということです。

よって、実態としてネカフェ難民が増えているかは不明としか言いようがありません。

ただし、「ホームレス統計」に現れない住居喪失者の実態把握を試みる観点として「ネットカフェ難民が増えているのでは」や「「昼間に働いている者はカウントされない」という問題意識そのものは大切なので、継続的な調査が望まれるところです。

以上